Deprecated: The each() function is deprecated. This message will be suppressed on further calls in /home/zhenxiangba/zhenxiangba.com/public_html/phproxy-improved-master/index.php on line 456
[go: Go Back, main page]

Read the "WIRED"
11/27 WIREDを読め!





Technical Journalism

 最近どんな雑誌を読んでいるかと聞かれたら、迷わずに「WIRED」と答えることにしている。

 WIRED、国内では、DDP社から発行されている。もともとは欧米の雑誌である。

 欧米至上主義を唱えるつもりはない。欧米には欧米の、東洋には東洋の、それぞれ良いところがあり、悪いところがあると思っている。

 しかし、こと雑誌に関しては、いまのところWIRED以上に読みたいと思わせるパンチ力のあるものはとんとなくなってしまった。


 これがもっと昔だったならば、WIRED以外にも読むべき雑誌は山ほどあった。
 Oh!PC、ASCII、LOGiN、I/Oなどなど、クリエティブな精神と最新情報の宝庫だったのだ。
 ところが今は、この四誌は名前は変わっていなくても、中身はガラリと変わってしまった。最新ハードやソフトの広告まがいの紹介記事と、広告だけで構成される、巨大なカタログと化してしまった。いまの四誌の内容は、「ソフマップワールド」と内容的に言って大差ない。

 それには当然、コンピュータの普及と、初心者層の爆発的な増大が原因として挙げられる。初心者をターゲットにしなければ儲からなくなったのだ。

 必然的に市販ソフトの使い方や新ハードの紹介記事が多くなるのは道理である。

 今の各紙の違いといえば、せいぜい誌名くらいで、内容はどこも似たりよったりである。


 今から考えると信じられないことだが、Oh!PCにはダンプリストが載っていた。
 TheBASICにはその名の通りBASICコンパイラが掲載されて、ディスクサービスされていた。ASCIIの毎年1月のゲーム特集では、リストページ(そう、あのページはまさに本当のプログラムリストを掲載するためのページだったのだ!)に膨大なダンプリストが掲載された。

 現在はそのようなプログラム関連の記事の需要が消滅したわけではなく、別の雑誌となって蘇っている。Inside WindowsやC Magazine、LOGiN Sofcon、そして今は亡きComputerfanなどである。

 幸いなことに我々はこれらの本によって、プログラムの技術的な興味を満たすことができる。
 しかし、昔のASCIIにあったような面白さは、これらの本からは感じることができない。
 足りないのは「知的好奇心」を満たす記事である。


 


interest

 「遊びのレシピ」というInsideWindowsの連載をまとめた本が馬鹿売れしている。
 売れた理由としては、初心者にもわかりやすい記事構成と具体的なサンプルなどが挙げられるだろうが、たとえば記事に書かれた内容が既に解りきっている我々のような人間であっても、なにか心惹かれるものが、「遊びのレシピ」にはあると思う。

 それは知的好奇心だと、思っている。
 知的な好奇心というのは、たとえ解りきっているものであっても発生するものだ。いや、逆にいえば半端に解っているからこそ、興味をそそるのである。

 たとえば知的好奇心というのは、以下のような式であらわされるかもしれない。

interest *= 1.2

 1.2というのは単なる係数なので、何でもよい。このタイプの式は数学的にはありえないが、コンピュータではおなじみのそれである。
 この式は、知識を得るたびに興味の修正として働くとしよう。すると、興味が全くない(つまりゼロ)の場合、いくら知識を得ても、興味は沸かない。
 しかし少しでも興味があれば、知識を得れば得るほど興味が指数関数的に増大していくのである。

 たとえば、名前も知らないアイドルのプロフィールを渡されても、興味を示す人は少ない。
 しかし、クラスのよく知っている(つもりの)女の子のプロフィールであったら、興味を示す人は多いだろう。そういうことである。たとえばそれが何歳とかどこそこに住んでいるとかわかりきっている情報であっても、読んでみたいのだ。そうすることによって確認したいという意識がどこかで作用するのではないのだろうか。

 WIREDにはそれがある。

 WIREDの記事は、そういう知的好奇心を十二分に満足されてくれる。そして新しい発見を提供してくれるのである。

 たとえばバーチャファイターの開発者として有名な鈴木祐氏による連載。わかりきっていることだけど読んでしまう。そして、驚くべきことに、この連載は面白い。単なる有名人の自慢話の域を超えている。それは彼がプログラマであることに対する共感なのかもしれない。

 特集や単発の記事もかなり面白い。僕はマレーシアが本気で情報都市化に取り組んでいるというのをWIREDで初めて知ったし、DOOMの開発者の長編インタビューも初めて読んだ。その内容は刺激的で、挑発的である。

 WIREDは読者に媚びない。かといって大勢を批判するだけの本でもない。アンチ巨人と自己陶酔の集大成のようなゲーム批評のような雑誌とは明らかに違う。

 たとえばWIREDでも批判はする。しかしそれは事実に基づいた公明正大な批判であり、そして相手の意見を隠蔽するようなことはしない。

 今月のWIREDには週間ファミ通に対する批判と、ファミ通編集部から寄せられた抗議の手紙が両方公開されている(これは面白いのでゲーム業界を目指す人間なら読むべきだ)。

 そして、これは私が業界に居たからいえることだが、この批判報道は正しい。ファミ通の言っていることはウソっぱちではないにしても、かなり都合の良い言い方である。

 ハッキリ言って、ゲーム批評に出ている飯野賢治は大嫌いだが、WIREDに出てきた飯野賢治は善人に見える。なぜか?言ってることが大袈裟でも嘘でもないからだ。

 これはテープ起こしをするライターの器量の差だと思う。

 ゲーム批評は、自ら(信じられないことに)正当なジャーナリズムといいながら、その実態は反抗期の少年のような中傷と偶像崇拝と、そして面白いものならでかく載せるという商売主義に満ち、さながら三流スポーツ新聞のようなものである。それに対しWIREDは真摯な態度で事実を見極めようという姿勢が随所にある(誉めるだけの記事、けなすだけの記事はほとんどない)。自分の価値観に合致しないものを容易にクソゲーと言わない懐の広さがある。

 実はこれこそが新のテクニカル・ジャーナリズムなのではないか。
 一介のライターとしては、そんなWIREDに興味を持たずにおれない。
 コンピュータ業界に就職を考えている、もしくはすでに業界人で、もしまだ読んでないのならば、WIREDは絶対に読むべきだ。実になるなにかが、きっとある。