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ついに民生衛星データ送信のテストベッドが動き出した。
ネットワークもいよいよ次の段階にさしかかる時期が来たようだ。
僕は衛星データ放送というと、このあいだの国際宇宙産業展に出展していたDirecPCのほうが先だと思っていたのに、それをだしぬいてSky PerfecPC!がいちはやく実験を開始したらしい。
さて、そもそも衛星データ放送とはなんなのか?これはその名の通り人工衛星を使ってデータを大々的に放送する新しいメディアである。
といっても、今までのPerfecTV!などは映像データ専用の衛星データ放送だったにすぎず、これをパソコンで受信できるように整備する段階が、Sky Perfec PC!のようだ。
衛星放送というと一方通行的なイメージがつよく、双方向ネットワークには不向きなのではないかと考えがちだが、それは違う。
Sky PerfecPC!などは地上の電話回線と、衛星からのデータ放送を両用して、必要なデータを瞬時に呼び出せる新しい形態のネットワークなのである。
Sky Perfec PC!の下り(衛星から放送されたデータの受信速度)は最大6Mbpsだそうだ。CATV-LANや高級専用線接続などにくらべると登り(パソコンから放送局への通信)の速度が遅いため、メリットが少ないように感じられるかもしれないが、それは違う。
なぜなら、CATV-LANも所詮は双方向接続なので、同時に発信するデータが多ければ多いほどパフォーマンスは下がりつづける。しかし、Sky Perfec PC!では受信機をいくらでも増やせるし、いくら増えても絶対にパフォーマンスは下がらない。これは同じデータを同時に送信する場合に極めて有効だ。たとえ瞬間最大通信速度が10Mbpsであっても、同時に10000人がアクセスしたらスループットは高々1000bpsとなるし、仲介するネットワークの関係で、実質はさらに遅くなる。ネットワークは水道と同じで、いくら源流がスカスカでも、途中が詰まっていたら速度はそれに依存して低下するのである。
ところがSky Perfec PC!はダイレクトかつコンスタントに6Mbpsも出る。これはかつてないできごとだ。
例えばいつも公開されるたびに全世界がダウンロードをかけてサーバーがパンク寸前にまでなるような人気ソフト(Internet ExplorerやNetscape Communicatorなど)を一気に数億台へ送信できる。このような用途にはもっとも活用されるだろう。
また、流行のプッシュ技術もろくでもないクライアントとネットワークの負担なしに受信できる。この際、ネットワークへの接続コストはかぎりなくゼロに近い。ラジオを聞くのに必要なのは電気代だけなのと同じである。
莫大な情報を送信できるので、これならダウンロード中にムービーでCMを見せられても悪い気はしないだろう。むしろ良い退屈凌ぎである。また、気の利いたクライアントを作れば、ダウンロードと同時に(バッファリングしながら)インストールを行うだろう。むろん、ユーザーはインストール中は気の利いた製品紹介を読んでいられるのである。インストールはCD-ROMから行うよりはるかに速く終了する。
特に、ゲームタイトルのデモンストレーションなどは、これで更なる肥大化を実現するだろう。なかには、デモを衛星送信用の巨大バージョンと通信回線用の小規模バージョンの二つ用意するメーカーも現れるかもしれない。
もしくは、莫大なデータをリアルタイムに受信できるようになるため、かつてのCD-ROMタイトルのようなデータ・ストリーミングの活用がさらに進むかもしれない。
たとえば、ある一定の時間だけプレイできる超大容量データストリーミングの(それこそ数ギガクラスの)新しい形態のゲームが登場するかもしれない。
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データ放送について前節で述べたのはごくごく基本的な利用法だ。しかし単なる紹介に止めては(特に技術系のネタは)Prejudiceの名がすたる。というわけで自分なりに活用法を考えてみることにした。
まず、最初におもいついたのは、これはネットワークゲームのかたちを豹変させるだろうということだ。
現在のネットワークゲームが持つ最大の課題は、大量のトラフィックをどう裁くかにかかっている。
そのため、サーバーとネットワークは現在、慢性的な負荷に悩まされている。
現在のネットワークゲームは、基本的に小さなグループのマッチメイクを行い、その中だけでゲームが完結するようになっているものが殆どすべてと言って良い。
そのような中で、例外的なものはWarbidsやAir Warrior、Ultima Onlineのように同時に100人以上のプレイヤーが同一世界を共有するタイプのネットワークゲームである。しかし、混んでくると回線が狭い場合かなりキツい。
このような用途に衛星データ放送は間違いなく最適である。
なぜなら、細い回線の「登り」でクライアントは自分の位置やステータスなどのデータを送信し、極太の「下り」回線(データ放送)で全プレイヤーのデータを受信できるのである。
従来のネットワークゲームはデータの送信よりも受信に時間が掛かっていた(電子的な回り道をしているのだからこことアメリカとで、月との距離を往復するくらいの時間がかかっても仕方がない)。それが、有線ネットワークを利用した絶対的な負荷が激減するため、爆発的に高速化する。
たとえば、従来、もし同時に100人のプレイヤーとデータをやりとりしなくてはならないとしたら、クライアントは一回の送信(自分のステータス送信)と99回の受信(他のプレイヤーのステータス)をしなくてはならなかったのが、後者の99回の受信は全て衛星からのデータに置き換えることができる。
なんとも素晴らしいのは、そういったステータスデータというものは、ゲームをプレイをしているユーザ全てに必要にして不可欠ということである。つまり、普通のWWWサーフィンのようにユーザーが増えるほど帯域が減っていくということが殆どない。
また、サーバー側の負荷も減る。
今までは通信回線速度を改善するため、サーバーは其々のユーザー毎に「可視な」ユーザーを算出し、そのステータスのみを送るようになっていた。それでもこれは莫大な負荷となる。
ところがこれからは簡単な当り判定の他はデータを衛星に垂れ流すだけでコトが済んでしまう。
衛星データ放送は実にネットワークゲーム向きの技術なのだ。
また、少し余分に帯域を使ってしまうが、たとえばユーザー毎にカスタマイズしたテクスチャやボディのマシンを自由に登場させることができる。従来は回線負荷が大きすぎて想像すらできなかったことも実現できるのである。自分でデザインしたエンブレムのマシンでネットワークゲームを体験できるのだ。
無論、単なるゲームというよりも、ここまでくるとハビタットのような擬人型ネットワーク・ユーザーインターフェースとしての活用も考えられるようになってくる。
無論、人数が増えればそれだけ帯域を増やして通信速度を稼ぐがなくてはならなくなるのだが。
そのほかに実用的な例としては、ゲームと同じ原理で、カーナビをよりシステマティクにできるだろう。全ての自動車の位置を同時に把握できる日も遠くない。ただし、全ての車が送信端末を持つのは難しいので、たとえば警察車両や報道車両などの特殊用途の車両から徐々に導入されはじめるのではないか。いずれ、事故が発生したら自動的に通報されるくらい高度な自動車運行管理システムが配備されるかもしれない。
とにかく衛星データ放送。これからの展開は見逃せない。このような形態が定着したとき、ネットワークゲームが新たな局面を迎えだろう。もっとも、ゲームごときに一回線全て与えてペイできるのかという問題も同時に発生してしまうが。
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