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ドリーム・スタジアム
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ドリーム・スタジアム
「和製フィールド・オブ・ドリームス」の宣伝文句に偽りなし!



 私本田は映画で卒論書きました。観た本数は中谷彰宏の百万分の一くらいですが絶対奴よりは映画好きの人間でしょう。学生時代は今はなき(らしい)池袋文芸座で「裸のランチ」「ツインピークス」のトホホな二本立てを観たりしていたものです。角川入社の野望を果たすべく「REX」も観ましたし(絶対入社試験に出ると思った、そして本当に出た!)、カルト映画の予感を感じればお子様に混じって「花のあすか組!」「ぼくらの7日間戦争」のオロロン二本立てなんてのも恥を忍んでみましたよ! しかし、歪んだ性格ゆえか、どんな映画を見てもだいたいケープフィアーのマックス・ケイディのように上映中に「ギャハハ」と笑って周囲の客に「殺してやる!」と怒鳴られることになるという・・・とくに「ボディガード」のクライマックス、ついに出てきた真犯人! ヒロインを庇いわが身を捨てるボディガード! というところで「なんでこいつが犯人やねん、アホか!」と腹を抱えて爆笑してしまったときには、いっしょに観に来ていた女子高生に逃げられてしまいましたよ!!
 ことほどさようにどんな映画を観ても歪んだツッコミしか入れられない私ですが、この世にたった一作だけ、そのような病んだ理性の鎧を突き抜けて身も世もなく号泣させられてしまった映画があるのです。
 それは、「フィールド・オブ・ドリームス」です。
 「シューレスジョーなんてただの八百長野郎やで! クロに決まっとるやろ!」とか「声が聞こえるって、頭に電波とんどるんか! やめとけやめとけ、畑を潰したらお前破産やで!」とか「結局ヒッピームーブメントの敗残者がヤッピーになりきれず夢の世界に逃避する、ちゅうダメ人間映画やないかい!」とか「こんなメジャーリーグのプロガバンダ映画作るから長谷川がエンゼルスへ行ってしもたんや!」とか「亡霊がゾロゾロ出てきよって、これじゃ稲川淳司の因縁ビデオか大霊界やないかい!」などなど、この映画を観ている間にいろいろなツッコミが頭の中に沸いてきます。
 だがしかし、そのような病んだ理性の鎧の奥に隠された私の臆病でちっぽけで弱虫な裸の心を、この映画は「バイオレンスジャック」最終話の不動明の如くグワシ!とわしづかみにして離してくれんのですわ!
 むろんそれは言うまでもなく、このフニャけたお涙ドリーム映画が「プロ野球」を扱っているためでして、とくに「セピア色のユニフォーム」が出てきたらもういけません! 小学生の頃に沢村栄治の伝記を読んでトラウマになって以来、「プロ野球=夢なかばにして=無念の死」ラインの話を聴くと無条件に涙腺が緩む自我構造が作られてしまったようなのです。ほとんど「それは秘密です!」を観て泣くババアみたいな状態になってしまうんです。
 全くもってこの映画、もう何度観たか判りませんが、そのたびに野球場に選手の亡霊が集まってくるシーンでドカンと号泣300%です! 伴忠太の如くジャージャーあふれる涙また涙! クライマックスの親父と息子のキャッチボールも、臭すぎてヘドが出てしかるべき筈なのに、もはや嗚咽がとまりません! きっと、洗脳セミナーとかカルト宗教にハマってる人って、こういう感じになるんでしょうね。私はこの映画一本あれば好きなときにいくらでも心洗われますんで、安全かつお安くあがってラッキーです。ありがとう沢村栄治。

 そんな私にとって、「ドリームスタジアム」は、期待半分、「やめてくれ俺の夢を汚さないでくれ」という恐怖が半分という映画でしたが、何故か主人公がホイチョイバブル時代の申し子的軽薄短小野郎の総決算的存在とも言える萩原真人! しかも、野球なんかしたこともない萩原が若くして事故死した南海ホークスの選手の亡霊に取り付かれて大打者になってしまい、王率いるダイエーに入団して大活躍! という話のアウトラインを聞いた瞬間に「ダメだこりゃ」と下唇を突き出してダミ声でうなるしかありませんでした・・・しかも、公開前に小久保らダイエー選手の大脱税&仲介手数料騒動が勃発! 何がドリームスタジアムよ、まさしく汚れた球場よ、ということになった上に萩原自身もいつまでも殴った殴らんで裁判おわらんし・・・この前やっと勝訴したらしいですがトホホ。とまあ、この映画を取り巻く環境はもう真っ黒。というわけで、映画はひとしれずひっそりと公開されていつのまにかレンタルビデオ屋の片隅に追いやられていたという・・・
 しかしもう脱税騒動から一年たったので、私も心にゆとりが出来まして、観てみましたよ「ドリームスタジアム」。監督の大森さんに期待をかけるも、怪獣戦争で金子さんに負けた実績があるだけに「企画モノには弱いのでは」という一抹の不安が。
 で、観てみましたら、まず萩原真人は期待以上のホイチョイぶりでいきなり大阪球場の住宅展示場で熟睡しています! てめえ、南海の聖地で何してやがる! と怒るのが馬鹿臭くなるくらいの80’バブル野郎で、当然不景気な会社では「バブルの時にこんなチャラチャラした奴雇っちまって失敗したなあ」と煙たがられています。
 この萩原が東京ドームに女の尻を追いかけていったときにホームランくらって失神→その間に、非業の死を遂げた南海ホークスの選手の亡霊に憑依されて天才バッターに化けてしまい、そのままダイエー入り→一心不乱にチャラチャラ遊ぶことで亡霊を自力で除霊し、ただのチンピラに逆戻り→その頃牧瀬里穂が、ビデオ画面に映った萩原の顔がワンカットだけ見知らぬ別人の顔になることを発見し、そのビデオに一こま映った亡霊の顔がかつて非業の死を遂げた南海ホークスの選手であることを突き止める!・・・・って、これじゃ「リング」だよトホホ。
 ここまでが前半で、まあまあそれなりに面白いんですが、「フィールド・オブ・ドリームス」のテーマだった「厳格な古きよきアメリカ世代の父とヒッピー世代の子の葛藤と和解」および「ヤッピーになれなかったヒッピー世代の敗残者の救済=アメリカのトラウマの癒し」という二本柱が、この映画では「稲川淳二のこわ〜い話」的お涙因縁話に化けておりまして、新倉イワオ先生絶賛という感じですよこれでは。まあ、日本人は「亡霊」=「お涙因縁話」というふうにしか考えられない民族ですから、仕方が無いといえば仕方が無いんでしょうが、俺が監督だったら太平洋戦争で戦没した選手たちを出すよな!!!! 日本で「フィールド・オブ・ドリームス」やるなら、それしかないやろ!!!!
 と怒っても仕方が無いので後半をスゴスゴと観ましたが、因縁話の謎がとけたとたん桃井かおりが田舎に野球場作って、そこに南海の亡霊選手が出現! この球場でだけ、彼は野球をすることができるのだった! うわー感動、思わず涙涙! って、まんまやないか−っ! ほんまに「日本」で「フィールド・オブ・ドリームス」をそのまま撮ってどないすんねん! 訴えたれハリウッドも! それでも夢の球場に亡霊選手が出てきたら条件反射で泣いてしまう自分のおろかさが腹立たしいです! 人間って奴は・・・
 で、ここからオリジナルの話に一応戻ってくれまして、死人(斎藤洋介)が運転するバスで、かねやんを始めとするなつかしい往年の名プレイヤーたちがグラウンドに勢ぞろいして野球をします。ああ、感動や、かねやんが、いなおが、ひろせが、再びこの世に戻ってきてくれて野球を・・・かねやんばんざい! って、かねやんはまだ生きてるがな! 死人の運転するバスに乗ってくるな、まぎらわしい!!
 この頃になると萩原も観ている私も「もうやってらんねーやー」という状態で投げやりモードですが、なおも話はダラダラと続き、(そこまでパクったんなら、ちゃんとそこでで終われよ)何故か福岡ドームを借りきって「名球会対ダイエーホークス」という老人虐待ショーが開催されてしまいます。しかも観客は、いません! エキストラ代がなかったんでしょうが、こんなバカでかいドームに一人の観客もいないなんて、この殺伐とした画面はあんまりです。
 こんな意味不明の茶番試合の中、萩原は最後までホークスの選手の誰とも口をきかないままにチンタラと三振を重ねるが、最後の最後にかねやんの秘球ハエどまりをガーンと打って奇跡のホームラン! これでやっと浮かばれた南海選手は星になって福岡の夜空へと飛び立っていきました・・・って納得いかーん!!
 棺おけに片足突っ込んでるかねやんの秘球ハエどまりを福岡ドームのスタンド中段に入れるのはプロでも至難の技だと思いますが、「プロ野球映画」とうたっておきながら最後のクライマックスの相手が名球会で観客ゼロというサブイ画面を見せられたひにゃ「北京原人」も重厚な大作に思えてくるからアラ不思議。しかも、この一打で自信をつけた萩原が「オレ、野球を続けるぜ!」と何か勘違いしてダイエーでがんばるぞ! というオチでした。かねやんから打ったくらいで調子に乗りすぎでんがな。
 そういえば確か、小久保あたりにセリフがあったはずのこの映画ですが、やっぱり例の脱税事件やらかしたためにカットされたんでしょうな! 結局しゃべってたプロ野球人は王とかねやんだけという、寒すぎる夢の試合でしたよトホホ。
 それにやっぱり、水島新司の出ないダイエー映画なんて、クリープの入っていないコーヒーみたいなもんですわ!


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