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はじめに
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はじめに

 「モデル(模型)は,そのもの自身でないならばどこか間違っている。正しいように見えるのは錯覚である。」

Henry A. Bent

 

 我々人間は,五感−視覚,触覚,嗅覚,聴覚および味覚−を通じて情報を受け取っている。それゆえ,超微視的なスケールで起こる出来事を把握しなければならないとき,我々はこの五感の働きに訴える手立てを工夫しなければならない。観測できない世界を表現する最も直接的で親しみやすい方法は,なじみのある形を使い実生活の尺度でモデルを作製することである。

 分子の物理的および化学的な性質と挙動の多くは,その分子的および電子的な構造が三次元(3D)モデルで表現され操作されたとき,初めて予測し理解することができる。今日,コンピュータが多くの研究分野で分子モデルを生成する標準的手段として利用されているのは必然的な成行きと言えよう。

 分子モデリングへ至る概念の発展過程は,歴史的に見たとき,分子の量子化学的記述に端を発している。この量子化学的アプローチは,ab initioのレベルで申し分のない結果を与える。しかし実際には,この方法で処理できる分子系の大きさはかなり限られている。そのため,ルーチン分析の手段としての分子モデリングの導入は,25年程前に始まった分子力学の展開とコンピュータ・グラフィックスにおける新技術の出現を待たなければならなかった。

 本書の目的は,理論計算や三次元的な映像化と操作が,単に分子を眺めその美しい写真を撮るだけではなく,薬物作用のような分子的相互作用に対し新しいアイデアと信頼に足る作業仮説を得るために,実際に活用できることを示すことにあった。

 我々は,文献に報告された成功物語ではなく,我々自身の研究範囲から例を示すことにより,この目標に到達することを目論んだ。なぜならば,落し穴や過剰解釈を避け,段階を追ってうまく手順を説明するには,我々自身の実験ノートからのデータを利用するのが一番であると思われたからである。

 したがって,本書の内容のほとんどは,我々自身のアイデアと個人的な経験を反映したものになっている。しかし,それらは,我々が分子モデリングの独自の概観であると信ずるものを描き出しているはずである。

 最後に,我々はMatthias Worch,Frank AlberおよびOliver Kuonenの技術的な援助に対して謝意を表したい。またHeide Westhusenに対し心からお礼申し上げる。彼女の協力は,秘書としてまた組織人として理想的なものであった。

 

1996年春

Hans-Dieter Hoeltje

Gerd Folker