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第3話「怒りの復讐鬼」
第3話「怒りの復讐鬼」
ノビタは夢をみていた・・・
暗闇に一人きり。
周囲には激しく燃え盛る炎。
炎に照らされるのは自分の姿だけ。
高く伸びる火炎の向こうには暗黒が続いている・・・。
赤と黒。
ゴォゴォとゆう音がこだまする。
ここは・・どこ・・・?
自分を囲む炎の輪の半径がだんだんと縮まって行く・・・。
熱い・・熱いよ・・・。
誰か・・・たす・・けて・・・
止まらない汗、肌を刺す熱気。
いま、まさに悪魔の口のような炎の輪に食われようとしたそのとき・・・。
「・・・ら・・・きろ・・・」
「・・い!・・・・こら・・!!」
「おいこら!!起きろ!!」
ドカッ!!
左頬に激痛が走る。
「痛ぁーーーーーーーーっ!!」
ノビタは目を覚ました。
ぼんやりと霞む風景。
だんだんといつも見なれた部屋が・・・
「いつまで寝てるんだこの野郎!!」
「あっ・・・。」
昨日、部屋にやってきた生き物だ。
ノビタを起こしていたらしい。
ノビタは上体をゆっくりと上げ、頭をかいた。
「夢・・・だったのか・・・。」
「いつまで寝ぼけてるんだ!! 今日はオマエが1歩前進する日だろっ!!」
「あれが・・僕の40年後・・・?」
「おいっ!! 聞いてんのか!?」
今度は右頬に激痛が走る。
ドラえもんの右フックが飛んできたのだ。
ノビタはズシャ、と倒れこんだ。
枕元を見ると抜けかかってた子供の歯が落ちているのを見つけた。
「あっ♪ とれたんだ〜!!」
「ったく・・・このガキャ・・・」
ノビタはフッと時計を見る。
時間は平日なのにもう9時を回っていた。
「わぁ〜〜〜〜!! 遅刻だぁーーっ!!」
あたふたするノビタをドラえもんはむんずとつかまえた。
「まぁ、慌てるな。 そんなもんタイムマシンでどうにでもなる、それより今日はこれからもっと大事なことをするんだ。 気合いれてけよ。」
「え・・? 大事なこと・・・?」
「てめぇ・・・忘れたんか?」
「ん・・・?」
ドラえもんは小指をニュッと出した。
丸い手から生やす様にニュッと。
「小指・・・?」
「かぁーーっ!! ガキだねぇ〜!! 今日はシズカをモノにするんだよ!!」
額を抑えてドラえもんは言う。
「えっ!? しずちゃんを!?」
「そうだ。 これを使う。」
ドラえもんはポケットから袋とカメラを取り出した。
「なに? それ?」
「これはな、『桃太郎印のキビ団子』といってな、本来動物に使うものだが色々と薬を混ぜて女の『メスの本能』に反応するように改良したものだ。 これをおまえがシズカに食わせるんだ。」
「このお団子を?」
「そうだ、そうするとしずかはオマエの言いなりになる、そしてこのカメラでチョチョッとな。」
「チョチョッと・・・?」
「そう、団子の効能が切れた後もその写真をだしにシズカを束縛するわけだ、メス奴隷のイッチョあがりってな。」
「う〜ん・・・よくわからないけど・・・なんとなくわかったよ。」
「よし、いくぞ。」
「うん・・・?」
そしてノビタとドラえもんは7:30に戻り、家を出た。
今日もいい天気だ。
「まぁ、せいぜいドジるんじゃねえぞ。 給食の時にでも食わせとけ。」
「うん・・・わかったよ。」
いつもの風景、いつもの通学路。
しかし、ノビタには何故だか違う感じに思えた。
今日は特別な日なのだ・・・。
シズカちゃんがボクのモノになる・・・?
『モノになる』ってのはよくわからないけどとにかくいまよりもっと仲良くなれるんだ。
お嫁さんにだってなってもらえるのかもしれない。
急な展開になんだか理解が追いつかない部分があるがとりあえず心は弾んでいた。
もうすぐで学校だ。
ノビタは曲がり角を左折した・・・その時。
目の前をヌッと覆う黒い影。
「おい・・・ノビタ・・・?」
聞きなれた声。
この声を聞くだけで背筋が凍る。
身長180cmの小学生・・・剛田タケシ・・・通称『邪威闇』だ・・・。
「あ・・ジャイアン・・・おはよう・・・。」
ジャイアンの目は真っ赤に腫れている。
無理も無い、昨日、たった一人の妹が無残に殺されてしまったのだから・・・。
徹夜で泣きはらしていたのだろう。
ジャイアンはノビタの胸倉を掴み、持ち上げた。
「昨日・・・ジャイ子はオマエの家に行ったっきり帰ってこなかったんだ・・・。 そして路上で無残にも殺されてた・・・。」
涙の溜まった、そして怨念のこもった瞳でノビタをまっすぐと凝視する。
「オマエ・・・何か知ってるだろ・・・?」
「しし・・・知らないよぉ・・・」
ノビタは目をそむけた・・・。
「知らないだとぉっ!? ジャイ子はなぁ! 昨日オマエの家の前から携帯でオレに電話をよこしていたんだよっ!! いまからオメェを遊びにさそうってよ!! すっげぇドキドキした口調でよぉっ!!」
ノビタを掴む手の力が強まる。
「オメェがなにもしらねえわけねぇだろぉっ!! おおっ!?」
「ちょ・・ちょっと・・やめ・・やめて・・・」
蚊の鳴くような声で呟くノビタ。
「ええっ! オメエかぁっ!? オメエがオレの妹を殺ったんかぁっ!?」
「ジャ・・ジャイアン・・・くる・・し・・い・・・・」
ノビタの顔が紫色に染まってゆく。
「オマエが・・・オレの・・・かわいい・・・・・コ・・ロス・・・」
ジャイアンの目から涙がポロポロとこぼれる。
このままではアブナイ・・・。
「こらぁっ!! 何をしているっ!!」
とっさに我にかえるジャイアン。
尻から地面に落ちたノビタはセキが止まらない。
カミナリオヤジがやってきた。
「おまえ! おふざけには見えなかったぞ!? なにがあったんだ! 言ってみろ!?」
ジャイアンは無言でカミナリオヤジを睨みつける。
殺意さえ感じさせる眼で・・・。
「小学生なら小学生らしい遊びで遊べ!! まったく最近の若いものは・・・」
それだけ言うと帰ってゆく。
小学4年生とはいえ、ジャイアンの力にかなう者はたとえ大学のレスリング部などでもそうはいないだろう。
既にヤクザからスカウトすら来ているほどだ。
カミナリオヤジは己のアイデンティティとなる叱責だけを果し、戻って行ったのだ・・・。
ジャイアンは舌を鳴らし、学校のほうへ身を向けた。
そしてまだセキの止まらないノビタを一睨みし、恨みのこもった口調で吐き捨てた。
「ぜってぇ証拠を掴んでやるからな・・・」
そのとき、ジャイアンはノビタの傍らに存在する変な生き物に気づいた・・・。
まっすぐとこちらを見て不気味に笑みを浮かべている・・・。
「・・・・・」
しばらく睨み合ったあと、ジャイアンはそのまま去って行った
疑問が浮かぶ。
「あれは・・・なんだ・・・?」
「けほっ、けほっ。 あぁ〜、死ぬかと思ったよ・・・。」
「まだ安心するのは早いぜ。」
「ええっ!?」
「ヤツは・・・今日は忌引中のハズだ・・・学校へいくと見せかけてオメェを待ち伏せしてるに違いない・・・。」
「ええっ!? そんな・・・」
「くっくっく・・・すっかり怪しまれちまったなぁ・・・読みの鋭いヤツだぜ・・・」
「ドラえもん・・・なんとかしてよ・・・」
「クククッ、まぁ安心しとけ。」
路地に隠れ、身を潜める大男・・・もちろんジャイアンである・・・。
「ジャイ子・・・兄ちゃん、仇・・・とるからな・・・」
涙を流し、今は亡き妹の写真を見つめる。
手にはバットが握られている・・・。
いままで何人もの不良達の血を吸ってきたバット。
「今日はいつもとは違う・・・オレは今日・・・人を・・・殺す・・・。」
復讐の黒い炎を燃やすジャイアン・・・
そして歩みを進めるノビタとドラえもん・・・
その距離は、だんだんと縮まってゆく・・・。
第3話〜完 〜