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アメリカが建国の時から「銃の国」であるという考えが、完全に間違っているという指摘がある。
アメリカで銃によって死亡する人の数は、殺人・自殺・事故を合計すると毎年4-5万人にも上り、殺人事件の7
割に銃が使われている。大都市の会社員などが銃を持っているということはあまりないが、田舎のほうに行くと銃を持つのが当たり前の社会や集団がある。ただ、これは日本でも同じだろう。
通説では「憲法修正2条でアメリカ市民が銃器を持つ権利が保障されており、市民が自らの銃でイギリスと戦って独立を勝ちとったから、アメ
リカの銃文化は建国時から」と言われる。
こうした考え方は、アメリカの保守派のスローガンであるだけでなく、一般的アメリカ人や日本人の認識もこれに似たようなものだ。
憲法修正第2条には、「規律ある民兵(ミリシア)は、自由な国家の安全にとって必要であり、国民が武器を所有し携帯する権利は、損なうことができない」とある。これを理由に、NRA(米国ライフル協会)など銃規制反対派は、市民が銃を持つのは憲法上の権利だと主張している。
アメリカ人でも、その通りだと思っている人が多いが、この条文は、武器を私有する権利を保障していない、というのが法律関係者・学者の常識となっている。過去の判例を見れば、この条文は民兵(ミリシア)の武装に適用されるだけで、個人は適用外、政府は銃を規制できると解釈されている。だから、「銃規制は憲法違反」だというのは、銃肯定派の政治的宣伝に過ぎない。
実際に約20種類の拳銃の製造・販売・輸入が連邦法で禁止されている。各州も独自の銃規制法を自由に実行できる。ただ、猟銃は事実上野放しになっている。
「建国の過程で市民が自らの銃をとって独立戦争を戦った」という通説が間違っているという話がある。
この点について、『武装するアメリカ--銃文化の起源』(Michael
A. Bellesiles 『Arming America - The Origins of a National Gun Culture』)という本の書評がニュー
ヨークタイムズに掲載され、大議論になった。
この本によれば、イギリスからの独立する前のアメリカで市民が銃を持っていたという通説とは逆に、私有の銃はほとんどなかった。当時アメリカで主として流通していた銃は、「マスケット式」であり、高価な上に弾丸の入れ替えが煩雑で実用に耐えるものではなかった。マスケット銃は種子島に1543年に伝来した火縄銃と大して変わらない。
また、精度が悪く、標的にほとんど当たらなかったので、狩猟には使えなかった。当時のアメリカ国民はほとんどが農民で、牛・鶏・豚を飼育している以上、高価で当たらない銃を買ってまで狩猟をする必要がない。
さらには、1763年から1790年までの裁判記録を徹底的に調査し、銃を私有していたのは男性人口の14%で、しかもその半数は使用不能だったという驚くべき事実を著者は推計している。
民兵を武装させた銃は政府が支給していたが、当時のアメリカは銃を製造していなかったため、絶対数が少なかった。1754年にコネチカット州では、民兵の17%弱にしか支給できず、独立戦争の火蓋を切ったレキシントンの戦いで民兵が発砲したのは、わずか数発で、しかも全て外れたという。
コンコードの戦いでは、イギリス軍を待ち伏せて狙い撃ちにしたが、3763人の民兵が戦って、銃で倒すことができたイギリス兵は65人だけだった。恒常的・慢性的に銃が不足していたため、政府は常に誰が銃を持っているかを把握しており、有事の際には強制収用した。
つまり、全ての銃器は、政府が所有していたか、個人の所有であっても政府の管理下にあった。つまり、政府による銃器の規制・管理は建国当時からあった。
こうした指摘が事実だとすれば、「市民が自らの銃で自らの独立と自由を勝ち取った」という通説は、完全に間違いということになる。
「南京大虐殺」について見解が大きく異なるのと同様だが、銃の歴史についても発言者の政治的立場によって、意見の内容・歴史観、果ては事実認定に至るまでが徹底的に異なる。
銃規制反対派は、「著者の見解に従って教科書を書き換えるのは時期尚早」と言っている。http://www.nraila.org/research/20001018-BillofRightsCivilRights-001.shtml
たしかに、ライフル協会のスローガンが言うように、殺人を犯すのは人間であって銃そのものではない。ただ、ナイフで人間を刺す場合には被害者を間近で見なければならず、銃の場合の方がはるかに心理的な抵抗感は少ない。スコープ付きライフルで300m離れていれば、実際の殺人も映画やテレビゲームと大して変わらない。
銃の所持数が急激に増えたのはベトナム戦争の頃からで、それ以前のアメリカは銃の少ない比較的安全な社会だった。
なお、FBIによれば、アメリカに存在する銃は2億5000万、毎年500万が新たに購入されている。
National Sporting Goods Associationの推計によれば、銃を買うのはほとんどが男性(ライフル92%、ショットガン94%)、年齢層は25-34歳、年収は3万5千ドル〜5万ドル(400-600万円)、生活のために動物を撃つ必要がある人は、ほぼ皆無だ。
管理人とまと@プロファイル研究所 (2001/06/22)
Arming
America: The Origins of a National Gun Culture, by Michael A.
Bellesiles, New York: Alfred A. Knopf, 640 pages, $30 |