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犯罪者の脳機能障害
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犯罪者の脳機能障害

Criminal Brain



犯罪者の脳機能障害 2

 

 アメリカの神経学者マクリーンは脳を3つの部分に分け、爬虫類の脳、旧哺乳類の脳、新哺乳類の脳と呼んだ。内側から順に;

●爬虫類の脳

先祖の行動をそのまま繰り返す「反復」「常同行動(ステロタイプ)」。飲み、食べ、眠り、交尾するという際限ない繰り返しが機能。強迫神経症患者は爬虫類の脳の部分が他の部分より優位に立つ。

●旧哺乳類の脳  

視床下部、海馬など大脳辺縁系・旧皮質。情動行動・性行動の中枢で、下意識的な衝動や本能を司る。嗅覚、体温、体液成分、食欲、体重調整、記憶、恐怖などの機能に関連する。

●新哺乳類の脳

大脳の新皮質。イルカや霊長類において高度に発達した部分。話す、聞く、計算する、創造する、認知するなどの機能を司る。

かつて狩猟動物だった頃の「爬虫類・旧哺乳類の脳」を、新哺乳類の脳が十分に抑制できるほどに進化するには、「数万年という期間はあまりに短すぎる(福島章上智大教授・殺人と犯罪の深層心理。福島章は人間の暴力性の根源について、大脳新皮質など新哺乳類の脳の機能が、麻薬・酒・精神障害・物理損傷などにより低下した場合に、狩猟動物としての暴力性が現れると指摘した。


人間の場合、食欲・性欲・攻撃欲の中枢が近い場所に集中している。遺伝学者アン・モア(犯罪に向かう脳:原書房)によれば、「いらいらした少年達は、破壊的攻撃行動を起こしやすい。それはアンドロゲン分泌の量とかなり深い関係がある・・・・・脳内のレセプター部位に働きかけることができるアンドロゲンの量が攻撃性の尺度だ」という。

男性がアンドロゲンを女性の20倍持っていることは、犯罪の85%程度を男性が占めるという全世界共通の現象をある程度説明できる。

アンドロゲンは男性ホルモンであり、18歳をピークに次第に減少。ボディビルダーが使うアナボリックステロイドは、アンドロゲンより強力で、攻撃性・強い怒り・自殺衝動などが現れることがある。副作用は、ニキビ・睾丸の萎縮・脱毛、声の低音化などがあり、12%は幻聴・幻想などの精神障害が起きることがある。

  また、「セロトニン(serotonin)」も注目を浴びている。

感情主体で衝動的な大脳辺縁系を抑制するのは皮質の役割だが、セロトニンが減って両者の交流が妨げられると、人間の行動は感情的・衝動的になる。男性が犯罪を犯しやすいのは、健康で正常な人間の場合、男性のセロトニンは平均して女性の52%しかないからだろう。

また、女性が妊娠した場合分泌されるプロゲステロンもセロトニンを増やす。なお、ピルはプロゲステロンとエストロゲンを混合したものであり、衝動抑制の効果がある。

アメリカで刑務所収容の代替策として使われているMPA(メドキシプロゲステロン・アセテート)は合成ステロイドの一種で、正常なセックスはできるが、勃起・オーガズムが抑えられたり、暴力的衝動を抑えるのに大きな効果がある。

一部で使用されている「クロムプラミン」もセロトニンがシナプスから除去されるのを防ぎ、活性セロトニンを増やす。  


また、1960年以降、欧州で男性の性犯罪者に使われている合成プロゲステロンに「デポ・プロベラ」がある。

これはシプロテロンやシプロテロンアセテートに類似、抗アンドロゲン作用があり、性欲の原因ホルモンであるテストステロンの生成を抑える。デポ・プロベラやその他の抗アンドロゲン性のプロゲステロン療法は、血中テストステロンを正常男性の濃度(400-1000mg/1000cc)から正常女性の濃度(40-100mg/1000cc)まで減らすため、勃起や性欲が抑制される。

体毛の減少、乳房肥大、精子減少などの副作用がエストロゲン(女性ホルモン)に比べて少ないが、疲労感・抑鬱感・体重増加・頭痛などがおきることがある。また、長期使用の場合には発ガン性が指摘されている。 

こうした化学物質の投与は「化学的去勢」であり、憲法で禁じられた残酷な刑罰にあたるという批判がある。医師が意に反して投与(注射)した場合、医師会の職業倫理基準にある「インフォームドコンセント取得義務」に違反して医師免許を剥奪される恐れがあるなど、法的問題も残っている。 

体重に応じて週1回300-400mgを注射。著しく改善する場合が多いが、必ず効果があるとは限らない。また、暴力的衝動を抑える効果がないため、性犯罪を社会への憎悪を表す一手段としている場合には意味がない。長期間投与を続けないでいると元の値に戻る。 

なお、アルコール依存症の治療に使われるアンタビュース正式名称はジスルフィラム)にも同じ問題がある。服用後72時間以内に飲酒すると、激しい吐き気、血圧低下、呼吸困難、かすみ目などの症状が出る。服役に代わって選択できる治療プログラムとして実施されている。

 


外科手術で扁桃核amygdaloidal nucleus)を壊すと暴力的で手がつけられない患者も、すぐにおとなしくなるが、患者は愛・怒り・憎しみを感じることができなくなり、生きる意欲を失う。70年代までこうした白質切断外科手術は行われていたが、今は非合法になっている。この手術はlobotomyとよばれ、発明者Dr. Antônio Egas Monizはノーベル賞を受賞したが、今では同賞最大の汚点として指摘されている。この手術は、分裂病の重症患者にほどこされた。頭蓋骨に穴をあけ、前頭葉前部に細長い刀を差し込む。日本でも行われていたが、75年に精神医学会が手術の停止を宣言した。

 


結論としては、危険な遺伝的性質、ホルモン異常、後天的な器質的障害に、外的ストレスや偶然が重なる場合、暴力的犯罪者が出てくるということになるだろう。 

最後に、まとめとして以下の一説を引用することにする。

今の若者は確かに幸せだ。社会は平和で安全、充実した教育があり、飢えに苦しむ必要もなければ、疫病にかかって突然死する恐怖など感じなくていい。ただ、若者が理由なき非行に走るのは恵まれているからなのだ。

先の世代には戦争があって命の危険は目前に迫っていた。飢えに苦しむこともあったし、自転車で遠方まで走っていって職探しをする必要もあった。つまり、若い男性の興奮欲を満たすものに事欠かなかったのだ。

今は大学を出て決まりきったつまらない生活をするだけだ..........だからこそ豊富な時代にくだらない盗みが横行したり、残虐な犯罪が増えるのだ。......つまり、蛮行は思慮の欠如ではなく、興奮を求めてやまない精神の所産なのだ

 アン・モア:犯罪に向かう脳(原書房)

 

 

犯罪者の脳機能障害 2

 

 

http://www.iamas.ac.jp/%7Ekijima/HumanInterface/5/brain/hishitu.html

 

 

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