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演繹的プロファイルと帰納的プロファイル
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あの東方から来た神は、若いときには過酷で復讐心が強かった

そして仕える者たちを楽しませようと地獄を作った

                  ニーチェ ツァラトゥストラ

 

 

 


 

帰納的プロファイルと演繹的プロファイル

 Inductive Profile and Deductive Profile

 


   

「帰納的プロファイル」が、行動様式分類であるのに対し、「演繹的プロファイル」は現場の証拠のみから犯人の動機・性質を推論する。

プロファイルによって解決された事件などひとつもない

V.Geberth 元ニューヨーク市警殺人課課長 

(Practical homicide investigation: Boca Raton,FL:CRC 1993)」

現場の指揮官らしい的確な表現だ。それは「帰納的プロファイル」素人でも2-3冊本を読めばすぐに作成でき、素人でも2-3冊本を読めばすぐに作成でき、一方「演繹的プロファイル」は現場が日常的に行っている推理を理論化・体系化しただけだからだ。

「演繹的プロファイル」は幅広い経験と学識が必要になる。ただ、「演繹的プロファイル」は、ベテランの警官が日常的に行っている推論を別の名称で呼んだだけだとも言える。

両者は、起源・仮説設定方式・方法論・行動様式分析法が根本的に違っている。 

両者の違いを以下に簡単に解説しよう。

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広辞苑の定義によれば;

帰納(inductive) 個々の具体的事実から一般的命題・法則を導く

演繹(deductive) 前提の命題から、経験に頼らず論理規則に従って必然的結論を導く

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帰納的プロファイル   

Inductive Profile


帰納的プロファイルの行動様式類型は「特定の条件のもとで起こりやすい行動や感情の特徴的パターン・行動指標を集めたもの」であるState of Oregon v. Lawson, 94。過去の事例・犯罪統計・人口統計・心理学上の類型が基盤になっているため、以下の根拠を元に犯人を特定しようとする。

1:犯罪の研究、犯罪論

2:捜査官の経験

3:統計

 

事例

駐車場で女子大生を襲う連続殺人犯の80%は20-35歳の白人男性で、母親と同居し、フォルクスワーゲンバグに乗っているという統計があったとする。

もし、今起こった犯罪が女子大生連続殺人で、犠牲者3人がすべて駐車場で襲われたとする。この場合、犯人の帰納的プロファイルは、母親と同居し、フォルクスワーゲンに乗っている20-35歳の白人男性ということになる。

 

帰納的プロファイルが広く使われているのは、単に使うのが簡単で、法医学の知識、高度な犯罪学の教育、現場の経験が必要ないからだ。よって、こうした単純作業はデータベース化・自動化の方向へ向かっている。地理プロファイル参照)

帰納的プロファイルの欠点は、限られた検体・サンプルから一般論を導いてしまうことにある。また、データがすべて過去のものであるという限界もある。さらに、最も危険なのが、無実の人を犯人として特定してしまう危険を本質的に内在していることだ。

96年のアトランタ・オリンピックで、爆破事件の犯人として警備員が誤認逮捕されたが、これはイギリスの心理学博士Colin Staggのプロファイルが間違っていたからだった。

 

帰納的プロファイルの前提は;

1:過去に起こった犯罪の性質は、未知の犯人にも当てはまる

2:未知の犯人は過去に起こった犯罪の犯人と同じ環境条件に影響されている

3:人間の行動には法則性があり、統計から推測できる

4:一人の犯人の行動や動機は変化しない

 

犯罪学・心理学が学問であるために、本質的な意味で「帰納された法則」に依存していることが、帰納的プロファイルにとって、科学としての普遍性を確立する可能性であり、同時に限界でもある。

   


演繹的プロファイル

Deductive Profile


演繹的プロファイルは、犯罪現場の写真・解剖報告書・解剖写真、その犯人が狙った犠牲者の情報から、特定の行動様式・動機などの情報を推論する。他の犯罪者の情報は一切考慮しない。

演繹的プロファイルは、法医学的調査・現場観察を元に、被害者と犯人の特徴を分析した後、注意深く構成する。帰納的プロファイルが「行動様式分析」であるのに対し、演繹的プロファイルは「行動証拠分析」である。

しかし、たった一つの事例、犯人が現場に残した「署名」から結論を推論するために、分析を行ったのが誰かによって結論が大幅に違ってくる。

 

演繹的プロファイルには、法医学・犯人像の構成・傷のパターン分析などに高度な専門教育・訓練が必要になる。通常、犯人は犯行に習熟するに従って手口が巧妙になり、警察から逃れる術を学習する。よって、帰納的プロファイルが「静的」であるのに対し、演繹的プロファイルは「動的」なものにならざるを得ない。

現場に残された「署名」は犯人の性質を特定するのに最も重要な判断材料だ。特に以下の場合、犯人の特定が容易になる。

 

1:ある特定の性的行動を取る

2:縛り方に顕著な特徴がある

3:複数の犠牲者に同じような傷害を与える

4:死体に特徴的ポーズを取らせる

5:切断や拷問が特定の儀式的パターンを取る

 

バーノン・ジェバースV.Geberth:元ニューヨーク市警殺人課課長)は、著書Practical Homicide Investigationの中で、「動機なしに行動する人間はいない」と述べている。この点に関して、演繹的プロファイルは主として被害者の属性・死体の解剖報告・現場状況に立脚するため、犯人の動機や性格が推測しやすい。また、物的証拠と特徴的行動を分析した結果として構成されるため、犯人の手口が変化・巧妙化したとしても対応できる。

    

事例:

●若い女性の全裸死体が山奥の森で発見

●両乳頭間にナイフで切った幾何学模様の痕が4つ

●性器は鋭利な刃物で切除

●目に点状出血

●首や顔に打撲痕、血が凝固して時間がたっている

●現場で血痕はなし

●着衣は現場で発見されず

●手首の周りに、切傷とひもで締められた痕があり、傷は新しくない

20ヤード離れた水溜りにタイヤの痕

 

 こうした事実から演繹的プロファイルを作ると;

犠牲者は犯人に抵抗して手に防御創を負った。これは犯人と面識がなく、圧倒的な体格差がないことを意味する(犯人には軍隊歴もないだろう)。生きている間に、反抗を封じるため手を縛られ拷問を受けた。死因はひもによる絞殺。血が現場にないことから殺害の現場と死体遺棄現場は別。犯人はタイヤ痕に一致する車を所有、車を使って証拠を隠しているため、ある程度の知性がある妄想的サディスト。とすれば、社会的地位が高かったり、定職についてまじめに働いている二重人格者で周囲の人間は犯人の異常性に気づかない。住居は現場から離れている。拷問、性器の切除、胸の傷から考えて性的空想は極度に誇大的・強迫的で、自宅に大量のポルノを隠し持っている。とすれば、一人暮らしで独身、結婚しても長くは続かない。全裸で遺棄したことは警察(=社会)への挑戦を意味し、動機を考えれば再犯の確率は極めて高い。サイコパス、反社会性人格障害、境界例、妄想型の精神分裂病か人格障害、のいずれかひとつ、または複数に当てはまる。

  

反対に演繹的プロファイルの難点は、幅広く複数の学問分野に精通する必要があり、複数の学問を使う故に作業量が膨大になる。また、幅広い知見を持つ人材の育成は簡単にはできない。それに、犯行に顕著な特徴がない場合、個人を特定することができない。

日本の科学捜査研究所が窃盗犯のプロファイルを研究した文献などもあるが(犯罪心理研究1998年36巻特別号p18-19。田村雅幸)、窃盗や暴行といったありふれた犯罪でプロファイルを作成することは、徒労に終わるかもしれない。何故なら、顕著な特徴がない犯罪に演繹的プロファイルを作ることは本質的に不可能であり、帰納的プロファイルを作った場合には、無実の人間を犯人扱いする危険性が非常に高くなるからだ。

 

 

演繹的プロファイルの前提は;

1:犯人には必ず動機がある

2:全ての犯罪は特徴的行動・動機に基づく

3:特徴的行動・動機は、他の類似犯人のものと異なる

4:犯人の行動は、環境や遺伝に従って特徴的に成長・変化する

5:手口は犯行を重ねるごとに変化する

6:一人の犯人が複数の犯行において複数の動機を持ち得るし、その矛盾は一つの犯行で起こり得る

7:統計からの一般化、経験に基づく理論は、役に立つこともあるが捜査を誤らせることがある

8:現場で実際に起きたことにしか手がかりはない

 

 

リチャード・ラミレスの事件では、プロファイルは全く役に立たなかった。金品を奪うことも奪わないこともあり、強姦された犠牲者も9歳から60歳と幅広かったためだ。

犠牲者と犯人の人種が一致するという帰納的プロファイルが役に立たず、演繹的プロファイルも犯行の特徴が錯綜していたため、同一犯と考えられなかったことが、捜査を遅らせ被害を拡大した。

元FBI捜査官ジョン・ダグラスのCrime Classification Manualは、人間の行動・感情を類型化して客観的指標を設定するという意味で、DSMthe Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disordersアメリカ精神科協会(APAAmerican Psychiatric Associationが制定した「精神疾患の診断・統計マニュアル」)と同じコンセプトで書かれ、帰納的プロファイルの基本形であるといえる。

DSMは既に世界中の精神医療現場で実際に使用されている。とすれば、ダグラスの犯罪分類マニュアルも、批判が多いとは言え、精度を上げればある程度実用に耐えうるものになるのではないだろうか。

ジョン・ダグラスが「私は両方とも使う」と言っているように、「帰納か演繹か」という発想ではなく、両者を止揚する柔軟な発想が必要になっていくだろう。

 


出典

Brent E. Turvey, M.S..Deductive Criminal Profiling: Comparing Applied Methodologies Between Inductive and Deductive Criminal Profiling Techniques"

Turvey, B., "Deductive Criminal Profiling: Comparing Applied Methodologies Between Inductive and Deductive Criminal Profiling Techniques," Knowledge Solutions Library, January, 1998, Electronic Publication, URL: http://www.corpus-delicti.com/Profiling_law.html

 Moenssens, A., Starrs, J., Henderson, C., & Inbau, F., Scientific Evidence in Civil and Criminal Cases, 4th Ed., (New York: Foundation Press, 1995)

The American Heritage Dictionary, 2nd Ed., (Boston: Houghton Mifflin, 1982

 Geberth, Vernon "The Signature Aspect in Criminal Investigation," Law and Order, November, 1995

 Burgess, A. G., Burgess, A. W., Douglas, J., Ressler, R. Crime Classification Manual, Reprint Ed., (New York: Lexington Books, 1992) 


 

 

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