| 「プロファイル」という場合、全く違う二つの手法がある。詳しくは「演繹的プロファイルと帰納プロファイル」で解説する。
「羊達の沈黙」でジョディ・フォスターがしているのは「帰納的プロファイル」で、これは素人が30分本を読めば簡単に作成できる。昼下がりの刑事ドラマや、ミニスカートの金髪プロファイラーが出てくるような映画で使用しているのは、すべて帰納的プロファイルだと言ってよい。
駐車場で白人の女子大生を拷問して殺害する連続殺人犯がいたとして、犯人が白人である確率は統計的に約70-80%だが、犠牲者と犯人の人種が一致しないことも多い。
つまり、帰納的プロファイルは、過去のデータ・統計に基づいた単なる推測に過ぎず、犯罪が各々全く違うということを完全に無視していることが本質的・致命的な欠陥となっている。帰納的プロファイルは、実際に使用されており、有効性が完全に否定されるわけではないが、使い方を間違えると取り返しのつかない重大な過誤に発展する。
典型例が、アトランタオリンピックの爆弾テロ犯人のプロファイルで、これはイギリスの心理学者が作ったものだった。無実の人間を証拠がないまま長々と拘留し、「こいつが犯人だ」というマスコミの集中砲火を浴びせてしまった点で、プロファイルの間違いが如何に重大な結果をもたらすかについて貴重な教訓となった。
なお、誤認逮捕されたのは会場の警備員Richard
Jewellで、現場でパイプ爆弾を発見して英雄になったことが、自作自演と見なされたためだった。アメリカでは、自分で放火して消火活動に参加、子供を救出して英雄になった後に逮捕される放火犯が度々報道される。こうした事情もあって、現場から事件の記念に持ち帰った破片が自宅で押収されたため、運悪く犯人にされてしまった。
彼は、銃器のマニア、30代の白人男性、高卒で、軍隊歴・犯罪歴があり、しかも警備員だった点で、帰納的プロファイルに当てはまりやすい特徴を完璧に備えていた。なお、真犯人とされているEric
Robert Rudolphは現在も逃走中で100万ドルの賞金が懸けられている。
プロファイルは魔術ではなく、映画やドラマで描かれるように完璧な的中率を誇ることは現実にはありえない。シャーロック・ホームズのように事件を優雅にかっこよく解決できる事例はむしろ少ない。ダグラスが指摘するように、「膨大な知識と経験が要求される過酷で地道な作業」であるというのが実態だ。「羊達の沈黙」のように現場の経験が全くないインターンにやらせることなど絶対にありえないだろう。
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