| 上記の写真は、南カリフォルニア大学のエイドリアン・レイン教授(Adrian
Raine)が犯罪者の脳をPETスキャンで撮影したものだ。
PETスキャン(陽電子放射断層撮影)は、脳腫瘍など器質的疾患の発見に通常は使用されているが、一部の精神科医も使用することがある。脳内でも糖がエネルギーに変換されることを利用して、放射活性糖溶液を注射して被験者に様々な作業を指示し、放射活性物質が脳細胞のどこに移動するかを調べる。赤と黄色の部分は代謝活動が活発であることを示し、青と黒は不活発であることを示す。
写真中央は「問題家庭出身の殺人犯(murderer
with deprived background)」のもの。「問題家庭」とは、トラウマ、肉体的・精神的虐待、育児放棄などの問題が、人格を形成する重要な時期に存在した生育環境のことだ。脳の特徴としては、左側の運動野の機能が弱く、言語・論理的能力が低いことが見て取れる。(時計の数字で言うと「9」に当たる部分が、赤くなっていない)また、正常人に比べて、大脳新皮質(中央部)の機能が全体的に低い。
写真右はサイコパスの殺人犯のものだが、中央部分の知覚皮質(感覚情報を受けて解釈する大脳皮質の1部分)が機能していない。これはサイコパスが周囲の人々の迷惑を全く考慮せずに振舞うことを説明している。また、頭前方の外周部分(前頭前皮質)の活動が通常人に比べて著しく低いことが一目瞭然だ。これは、睡眠中の通常人の脳にきわめて近い。
(サイコパスについてはここを参照)
もう、2枚の写真を見てみよう。

Brain
Imaging Center, University of California at
Irvine
左の写真は、脳に損傷を受けたために性格が凶暴になった患者のもので、右が正常人のものだ。矢印の先端部、前頭前皮質の機能低下が明らかに見て取れる。
以上5枚の脳の写真からいえる事は、脳の前方が機能していない人は、攻撃的な傾向がありそうなことだ。エイドリアン・レイン教授はこう言っている。
前頭前皮質に機能不全がある場合、衝動性、自己抑制の欠落、幼児性、異常な感情表現、行動の制御不能の原因となり、攻撃的行動が現れやすくなる。
"Damage to this brain region
(prefrontal cortex) can result in impulsivity, loss of self-control,
immaturity, altered emotionality, and the inability to modify
behavior, which can all in turn facilitate aggressive acts." The Psychopathology
of Crime
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PETスキャン(陽電子放射断層撮影)
(Positron Emission Tomography)
半減期の短い放射性物質を体内に注射、それが放出する陽電子(ポジトロン)を検知してコンピュータで画像化する。
炭素11・酸素15・窒素13などが用いられ、血液流・血液量・酸素消費量・脂肪酸やブドウ糖の代謝過程・アミノ酸合成など、脳や心臓をはじめ各臓器の生理状態や新陳代謝を観察できる |
福島章『子どもの脳が危ない』によれば、非行や犯罪など、高い攻撃性を持つ少年の脳を検査してみると、左右非対照であったり、正常人には無い「のう胞」があったりと、さまざまな障害(早幼児期脳障害、微細脳器質性格変化症候群など)が見出されることが圧倒的に多い(健常人の50倍)。
その原因は胎児期か乳幼児時代にある。彼らはその頃に何らかの重大な刺激(外傷や化学物質摂取)を受けている。たとえば、難産で母胎から強引に引き出されて脳が傷ついたり、高齢出産等による流産予防のための黄体ホルモン製剤・甲状腺ホルモン製剤の投与などだ。それらは胎児に微細ながらも脳の形成異常をもたらし、強度の男性化(超男性化)を進める。出産、母乳を経してのダイオキシン(母親は自分のダイオキシンの半分を子に伝達)などの環境ホルモンも影響するとされる。
ただ、犯罪者と正常人の脳を比較すると、顕著な違いがある場合が多いが、全く判別不能の場合もある。どういった脳が犯罪者に特徴的であるかは現在のところ完全には分かっておらず、7-8割の精度で識別できるということでしかない。
つまり、「決定論」に立つのは時期尚早だ。現段階では、「こういう脳を持っているから彼は連続殺人犯になる」と結論付けることは出来ない。とすれば、裁判での証拠能力もある程度、限定せざるを得ないかもしれない。
最後に、レイン教授の言葉を引用して終わることにする。
犯罪の要因は無数にあり、脳の機能はその中のひとつに過ぎない。しかし、脳の機能を理解すれば、暴力行為の原因を解明するために格段に有利な立場に立つことになる
"There are a lot of factors
involved in crime. Brain function is just one of those, But by
understanding the brain function, we will be in a much better position to
understand the complete causes of violent behavior" The Psychopathology
of Crime
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