| 腐敗 putrefaction
微生物(腐敗菌)により、蛋白質やその他化合物が分解され、脂肪族アミン類や硫化水素などの悪臭を放つ物質が生成される。
大腸菌・腸球菌・ブドウ球菌・連鎖球菌などの腸内球菌の場合、死後に血管内血液を通して増殖、自身の発生したガス圧で全身に移動し、腐敗を進行させる。
20-35度で湿度が適度であれば腐敗の進行は早く、高温・低温の場合は遅い。腐敗全体の速度の目安としてはカスパーの法則があり、地上を1とすると水中2倍、土中8倍の速度で腐敗すると言われる。ただし、動物・昆虫・微生物などの存在や、温度・湿度の違いによって、腐敗の進行は大きく左右される。
飢餓・脱水・低体温などの場合、腐敗しづらいためミイラ化することも多い。特に標高の高い雪山などでは確実にミイラ化する。
腐敗は死後1-2日で右下腹部に淡青らん色調の変色が現れる。これは腸内細菌による含硫蛋白の分解で生じた硫化水素がヘモグロビンと結合して、硫化ヘモグロビンや硫化メトヘモグロビンとなり、見えるようになったもの。
これが全身に広がる死後3日位までには、皮静脈に沿った枝状の変色が見られる(樹枝状腐敗網:marbling)。
3-4日すると皮膚内で生産された腐敗産物が水泡を形成する(腐敗水泡:postmortem
blister 写下)。火傷に似ているため鑑別には注意を要する。

5日程度すると、腐敗ガスが全身に発生する。これは硫化水素・二酸化炭素・アンモニア・メタン・インドール・スカトールなどの混合した気体で、強い臭気を持つ。
腐敗ガスは全身、特に腹部を膨張させる(巨人様観)、顔面では眼球や舌を突出させる。水中の死体が浮上するのは、この腐敗ガスのためであり浮力は非常に強い。冷蔵庫に入った死体が冷蔵庫ごと浮上したケースもある。
精子の活動は通常4日程度で停止、睾丸はガスで膨張する。
腐敗ガスが実質性臓器に発生すると大小の気泡ができスポンジ状になる(沫泡臓器:forming
organ)。 |