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大学の法医学の授業で司法解剖を見学したことがある。私が見たのは刺殺された男性と子供だった。
解剖は外傷部分だけではない。頭部に傷はなくても、頭蓋骨をノコギリで切り開いて脳を取り出して観察する。臓器は摘出・検分された後、適当に山積みされていく。「人間」という尊厳は全くない。
一番辛いのは死体・薬品の鼻をつく臭気で、横にいた大柄な男性は涙と鼻水を垂らしながら嘔吐していた。解剖の結末もひどく、山積みの臓器は元に戻らないため、大体の位置に詰め込む。
子供の脳は柔らかく、摘出すると元の位置には戻らないようで、脳は腹部に、頭には別の臓器を詰めていた。縫合すれば外観からは分からない。
監察医の数が足りないためと思われ、数をこなすためには仕方ないのだろう。
監察医は一番多い東京都でも50人、神奈川県には3人しかいない。1人もいない県もある。そのため、一人当たりの数が増え、多い場合に年間600体を解剖する監察医もいる。
法医学とは「医学的解明、助言を必要とする法律上の案件・事項について科学的で公正な医学的判断を下す」もので、死体の解剖から判明した事実がプロファイルを作成する上で、最も重要な判断材料になる。
「変死体(検視規則1条)」は、刑事訴訟法229-1で「検視」の対象とされている。「検視」は「見るだけ」であって解剖はしない。「司法検視」の対象になるのは「変死者」で、老衰・病死などの自然死ではなく、犯罪による死亡が疑われる死体をいう。司法検視は、本来的には検察官の権限だが、実際には「代行検視」といって、検察官の命で警察官が行うことが多い。
検視で犯罪の可能性が疑われた場合に「司法解剖」される。
司法解剖は、通常、遺族の同意をとるが、裁判所が「鑑定処分許可状」を出せば同意がなくても強制的に実施される。実務では、遺族の同意に関係なく、鑑定処分許可状をとるのが普通だ。
検視には「行政検視」もあり、これは、犯罪による死亡ではないことが明らかである不自然死体(行き倒れ・自殺)について、公衆衛生・死体処理・身元確認のために行われるもので、警察官が行う。
解剖にもこの「司法解剖」のほか、「行政解剖」がある。行政解剖は、公衆衛生・伝染病予防などの目的とするもので、死体解剖保存法・食品衛生法・検疫法などが行政解剖を認める規定をおいている。この場合にも、遺族の同意は必要ない。
その他、医学目的から解剖をすることがあるが、これは遺族の同意や本人の生前の同意が必要となる。
死体解剖保存法により、事件性のない遺体の死因確定のための行政解剖について、一部の県が事件捜査の一環で司法解剖として処理している。司法解剖だと費用が国庫負担となり、自治体が負担しなくてよいからだ。中には行政、司法の別なく解剖をすべて警察任せにしている県もあり、「容疑者不詳」として無理やり司法解剖に仕立てている。
司法解剖は犯罪との関係が疑われる遺体について、警察、検察、裁判所からの嘱託・命令で行われ、費用は警察法37条の「犯罪鑑識に要する経費」として国庫負担になる。 |