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タモリをリスペクトせよ!〜面白さの秘密編〜
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タモリをリスペクトせよ!〜面白さの秘密編〜


 プロフィール編に続き、いよいよタモリの面白さの秘密編だ。タモリの面白さを伝える。実はこれほど難しいことはない。正直、タモリのプロフィールに関しては、調べれば誰にでも分かることである。しかし、タモリの面白さを伝えることだけは別だ。とにかく非常に難しい。だが、今回はそれに、あえて挑戦してみたいと思う。

■タモリの面白さを分からない人はつまらない

 始めに、私は大胆な仮説を立ててみたいと思う。それは、「タモリをつまらないという奴はつまらない」というものだ。

 かつて、私は多くに人にタモリの面白さを力説した経験がある。しかし、それは一部の人には、どれだけ説明しても全く理解されなかった。だが、逆に仲間内でも面白いとされる奴ほど、「タモリにはかなわねぇ」というタモリの面白さを認め、さらに白旗を上げる発言をする。この両者の違いは何なのだろうか。ずっと考えていた。そして、出た結論は、「笑いとは、どうすれば生まれるのか?」を知っているか、知らないかの違いだった。つまり、タモリをつまらないという人は、「笑いを生む」という行為ができない人、また理解していない人であると推測され、冒頭の仮説が生まれたのである。

■笑いが生まれる時

 では、笑いを生むとは何か。例を出そうと思う。内容は単純なボケとツッコミから成る漫才だ。これについて松本人志は、「ボケは、ツッコミの問いかけに対して、間違ったことを言う。それに対して、ツッコミが修正する。ここで笑いが生まれる」とあるビデオの中で語っている。まさにその通りである。

 とりあえず、次を読んでみて欲しい。

「先日、うちの近所に猫がいましてね」
「ほうほう」
「鳴き声がうるさいんですよ」
「なるほど」
「たぶん、発情期ですね」
「そういえば、うちもうるさいんですよ」
「ほう、君のとこもか」
「そうなんですよ。ワンワンうるさくて」
「そりゃ、犬だろが!」
この最後の不正解とそれを修正する、この二つのやりとりによって笑いは生まれる。

 例は、あまりにレベルが低いが、漫才の基本は、常にこのスタイルである。ボケが意図的に間違える、ツッコミが客席の代表として、それを修正する。その意図的な間違いをどうするかが、各芸人の腕の見せどころである。

 そして、ここが重要なのだが、この間違えというのが、みんなが間違えだと分からなくてはいけない。つまり、「猫はニャーと鳴き、犬はワンと鳴く」という知識が客に無くては、この笑いは成立しない。ということは、実は笑いというのは、受け手側の知識があって始めて成立するものなのだ。

 例えば、ネタによっては、みんなが知らないマニアックなものが登場することもある。
「バッファローマンの腕のやつはなんだろうね」
「あれはね、中にミート君が入っているんですよ」
「そんなわけねぇだろ」
というネタがあったとしよう。この場合は、マンガ『キン肉マン』を読んでいなければ、全く通じないネタである。

 以上の例からも分かるように、「笑いを生む」とは、みんなが共通して間違いと分かるネタをやらなければいけないのである。そして、同時に見る側は知識量・情報量が多い方が、笑いの許容量(笑えるか否か)が大きいということが分かると思う。

■松本人志の笑いとは?

 さて、少し話を戻すと、以上のことから面白い人というのは、笑いにおける、間違いのさじ加減を知っていて、それをタイミングよく言える人ということになる。

 そして、それよりも面白い人というのは、それを進化させた、松本人志を理解している人ということになる。

 松本人志の笑い、それは、「ツッコミの質問に対しての、ボケの間違いを、すでにこう答えるだろうと、先読みしている人を裏切る」という言い方ができると思う。

 最初の漫才の例で言えば、
「先日、うちの近所に猫がいましてね」
「ほうほう」
「鳴き声がうるさいんですよ」
「なるほど」
「たぶん、発情期ですね」
「そういえば、うちもうるさいんですよ」
「ほう、君のとこもか」
と、ここまでは一緒である。だが、ここですでに先ほどのネタを知っている人は、違う動物の鳴き声で来ると予測してしまう。それは、「パオォーンってうるさくて」「そりゃ象だろ!」のような答えだ。だが、それに対して、松本は、
「エーン、エーン、ひどいよー、そりゃないよーって、鳴くんですわ」
「いや、おまえ、そりゃ人間だろ!」
「いや、それが猫なんですよ」
「えっ!」
「だから猫の鳴き声が、ひどいよー、なんです」
「ちょっと待ておまえ…」
となる。他の動物という間違えを予測している人に対して、「普通に人間の言葉を話す」というボケで、さらに裏切っているのである。

 こういう形の笑いが生まれた結果、かつては、一般常識の知識があれば笑えたものが、今度は、一般的なボケの間違った答えの知識がなければ、笑えなくなってしまったのである。そして、これが、一時期、松本の面白さが分からない、という人と面白いと言った人の違いにつながっている。また、松本がかつて再三「笑いはベタ(基本)が大事」と言っているのも、基本を知らないと松本の笑いは存在しないことに起因するのである。

 さて、そうして松本を理解した人は、自然と同じ思考で笑いを考えるようになる。つまり、一般的なボケを予測し、さらにその上で答えがどこに行くのかを予測するという、思考回路だ。

 そうなると芸人を見る目が「あっ、そっちに持っていったか」「そうきたか」という感想となる。見る側と見せる側のせめぎ合い。これが私の考える、現時点での日本の笑いを理解している人の思考回路である。ただ相手のボケを待っているのではなく、自らも答えを用意し、相手のボケに備えることが必要なのだ。

■タモリのフリージャズ的笑い

 そして、いよいよタモさんである。前述の用意をして、タモさんを見ると、実は松本人志と同じくらい、いや、それ以上に予測できないことが分かると思う。

 松本が「HEY!HEY!HEY!」などで意外とベタな思考の飛躍をしているのに対し、タモさんは「どうして、今その発言?」ということが多い。

 これが、先に書いた「タモリにはかなわない」という、私の周りの面白い人の発言に繋がるところである。つまり、こちらとしては答えを用意し、さらにそれが松本のように、飛躍されてもついていける用意をしていても、さらにとんでもないところに飛んでいくのが、タモリなのである。

 私は、この秘密を探るべく最近はそればかりを気にしてタモリを見ていた。すると一つのことが分かった。それはタモリのルーツとなるジャズがキーワードだった。

 これは私事であるが最近、ジャズを聴くようになった。すると、そこであることを知った。いわゆるフリージャズと言われるアドリブを重視したジャズでは、各楽器が様々な音を奏でていく。その音は各自が得意とする音をベースにそれに連なる音を次々と紡いでいく。

 そんな中、私も聞いたことある有名なフレーズがたまに流れる。しかし、それは不完全なのだ。実は、私の知っている有名なフレーズはたまたま生まれたものだと、その時に知る。そしてそのまま消えてしまいそうなアドリブに対し、演奏者自身もその音が気に入ったのか、何度か繰り返す場面がある。その結果、有名なフレーズが生まれるのであろう。

 これと同じことがタモリにも言える。通常の会話では、フリージャズと同じで好き勝手にしゃべっている。しかし、ふと何か自分が気に入った発言(ジャズでいうとフレーズ)に対して、急にスイッチが入ったようにボケる。

 そのタイミングが、全く常人には理解できないのだ。そのうえ、なぜその発言がでてきたのかも理解できない。私の予想では、これはタモリの引き出しと呼応した場合のみスイッチが発動しているせいだと思われる。

 つまりこれによって、タモさんが急に始める物まねの理由も理解できる。そう、実はタモさんはトークにおいて一人でフリージャズを行っていたのだ。

 その際のキーワードとなるのが、タモリの哲学である「適当」だ。ようするにタモリは普段の会話を思いっきり流しているのだ。これは芸能界では普通ありえないことである。しかし、このあり得ないことをやっているからこそ、ふと気に入った発言があるとそれに呼応した引き出しの中の発言や芸を始めるのである。これは普段の会話を流す、という行為があってこそ成り立つことなのである。

■タモリを楽しむということ

 以上のように、タモリを面白いと思うためには笑いを予測するという行為が、日常的にできるようになって初めて可能になることがご理解いただけただろうか。

 こちらの予測を脱力感たっぷりに裏切る、これがタモリの魅力であり面白さなのである。

 ただテレビに笑わせてもらうのを待っているだけの人には、理解できないタモリの面白さ。正直、これを読んでもすぐに理解することは難しいだろうと思われる。

 だがトレーニングを積んで意識してタモリを見た時、そこにブラウン管の中でフリージャズトークをするタモリが忽然と表れてくるはずである。

 以上、長々と書いてしまったが一人でも多くの人にタモリの面白さを知って欲しい。私の願いはただそれだけである。

(了)


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