「ホテル・ルワンダ」観覧記3(パネルディスカッション編) [映画レビュー※ネタバレ注意]
(「映画編」、「ルセサバギナ氏講演編」より続いて1月6日に行われましたホテルルワンダ試写会ならびに映画のモデルとなったポール・ルセサバギナ氏を招いたシンポジウムの模様についてルポします。)
パネルディスカッションに参加されるのはこのお二方。
松本仁一氏。朝日新聞編集委員。主として中東アフリカ取材に携わる。94年ボーン上田国際記者賞を受賞。04年連載「カラシニコフ」では、世界の非合法の銃の半数を占めるカラシニコフ(AK47)を扱い、開発者カラシニコフ自身や、シエラレオネの11歳の少女兵などへの取材を通し、アフリカの崩壊国家の現状を描いた。1942年生まれ。
武内進一氏。1962年生まれ。アジア経済研究所アフリカ研究グループ長。紛争問題を研究。最近は農村コミュニティ単位で大虐殺の加害者を裁く民衆法廷「ガチャチャ」について調べている。
司会はピースビルダーズ・カンパニー代表の篠田英朗氏。時間がかなりおしているようで、かなり焦り気味の司会であった。
参加メンバーはそうそうたる顔ぶれだ。(略歴は当日配布のパンフレットより引用)
今回行われたシンポジウムは「今、アフリカでなにがおこっているか?『ホテル・ルワンダ』のメッセージ」と題されている。そのためパネルディスカッションも「ホテル・ルワンダ」に関する質疑応答というよりも、アフリカの抱える包括的な諸問題についてなるべく触れたいという意志があるようだ。それゆえか本題に入る前に、松本、竹内両氏よりアフリカの抱える問題点について簡単な解説が入る。ルセサバギナ氏のような当事者的側面とはまた違った視点からの意見だ。以下内容を簡略にまとめる。
■松本仁一氏
・部族/民族問題は今後アフリカにおいて100年、問題になるであろう。
・統治者が自らの問題(執政あるいは経済)を民族問題へとすり替えて、民衆の目をごまかしている。(=そのため民族紛争/内戦が起こる)
・このアフリカの問題には冷戦構造の崩壊も深く関わっている。
・上記のような構造があるが故に過激派を押さえ込んでも、経済が失敗したら、民族/部族問題は必ずでてくる。統治者が仮想敵を配置し民衆の目を自分へむけないようにしている。
・問題解決にむけた希望もある。マクロ単位でお互いを認識できる、または経済がよくなればアフリカにおける諸問題終結の蓋然性も高まる。これ以外に方法はないだろう。
ここで代表が「(独裁者云々のくだりを踏まえて)日本にも独裁者と呼ばれる人がいますね…首相だかなんだかわかりませんけれども。状況は日本も同じではないでしょうか」などとトンデモない発言をする。個人的には壇上の識者が左翼的な思想を保持しようが右翼的だろうがプロ市民的だろうがなんでもいいけれども、全く関係のない話を強引に自らの政治思想と結びつけるのはどうかと思った。それは招かれているルセサバギナ氏にしてみれば、そんなことを持ち出されても迷惑なだけではないだろうか。礼を逸してる。だが問われた松本仁一氏はふと微笑んで
「日本は一応単一民族国家といわれている。なにより国家統一されてからかなり長い年月を経ている。そういう背景からしてもナショナリズムの形成が全く違う。全然違う問題だ」
とあっさり斬り捨てる。さすが名著「カラシニコフ」を記しただけある。この現状認識に対する冷静さ、朝日といってもひと味もふた味も違う。おっさんかっこいいです(失礼)。
■武内進一氏
・現在のルワンダは外国人にとっては安全でよい国。活況も呈しているし、経済も比較的安定してきている。
・ただ暗雲材料もある。前回の選挙で得票率が95%となっているなど、現政権が強権化している側面もある。
・ルワンダ虐殺の傷跡は深く、国民和解をどのようにすすめるかが今後の課題。地域レベルで犯罪者を裁いているのが実情(法廷ではなくガチャチャとよばれる民衆裁判)。しかし虐殺後もフツ/ツチ族が混在で居住しており、解決は長引くだろう。だがガチャチャという法制度については非常に注目している。
・現政権(RPF)の戦争犯罪に触れることはタブーとなっており、それも今後問題化するおそれがある。
・総括としては、よくなった、悪くなったとは単純に言い切れないのが現状である。
■ポール・ルセサバギナ氏
・遠くから見ている人(※筆者註 おそらくは外国人のことを指していると思われる)にとってはルワンダの現状はよくなったといえるでしょうね。
・ジェノサイドが起きたことを逆手にとって被害者であることで脅したり、またおこすぞと脅したりといった『ジェノサイドそのものが武器に』なっている。
・虐殺の実行者、戦争犯罪人を裁く司法がきちんと機能してない。判決は一年に数例しかでず、とうてい全部を裁ききれるものではない。ガチャチャは草の根法制度というべきものであって、そこではまともに教育もうけてない人が裁判官となったりしている。法廷ではない。被害者に対して保証ができてない状況をみても、誤った制度だと考えている。
・裁判も行われない、ガチャチャといった法廷と呼べないもので犯罪者が裁かれている以上、現実問題として“犯罪者が存在しない”といえる。犯罪者がいない段階ではどうやって和解するのか。対話が必要だと私は思う。
ルセサバギナ氏の講演において触れられたダルフール問題やアフリカにおける民族問題について松本仁一氏が解説する。
・ダルフール問題はアラブとアフリカの対立である。スーダン政府そのものがすでにアラブ原理主義と化している。ルワンダではフツ族が「コックローチ、ゴキブリ」とツチ族を称し、民族虐殺を煽ったが、ダルフールでもアラブ原理主義者が「ネズミ」と称し、同じように民族虐殺を煽っている。つまり彼らは「ゴキブリ、ネズミ」つまり「人間ではない」から虐殺しても問題ないと正当化している。これは先ほど言ったように経済や執政に問題があればどこでも起こりうる問題である。国連も及び腰となっていて紛争解決手段がみえない状態が続いている。コンゴ(ザイール)はルワンダと連動して、関連して悪くなっていく。難民が周辺国へ流れ、そこで紛争となる。非常に悲惨な状況である。
ここで司会者が「ではこういう映画、あるいはアフリカの現状を知った際、自分になにができるのかあるいはどうしたらいいのかと思う人も多いののではないでしょうか。そういったご意見にたいして皆様ひとことお願いします」とふった。(発言はうろ覚えなので多少錯誤があるかもしれない)お三方よりそれぞれどちらかといえば会場に来ている人たちへむけたお話があった。
■松本仁一氏
・ODAといった政府系援助に任せておくのはダメ。その資金が政府にのみ流れ、住民へは届かない可能性が高い。草の根レベル、NGO、国連ユニセフといったところから住民へ還元していくようにすべきだ。ただこういった問題を放置しておくと昨年のフランス暴動ではないけれども、必ず先進国へ跳ね返ってくる。
■武内進一氏
・こういった映画、あるいは話し、本などを読むと「私になにができるか」といった部分で考えがちだが、まずはそういう考えや行動を起こす前に『アフリカを知って欲しい』。なにをしてあげようかよりはアフリカをまずは知る。自分もアフリカに行って教えられることが非常に多い。こういった虐殺、民族問題のようなアフリカの負の側面よりも、アフリカの魅力、まずはこれに触れて欲しい。
■ポール・ルセサバギナ氏
・現在多くの援助は政府へいってしまっている。住民には届いていない。援助する場合はNGOといった組織を通して行って欲しい。アフリカは90%、独裁者が支配している。南アフリカのアパルトヘイトも反対運動で崩壊した。この映画を見たひとりひとりが映画を契機に意識を変えて、ひとりひとりがメッセンジャーになって欲しい。そうなればルワンダ、アフリカの現状は変わると私は思っている。
【個人的な感想】
安直な思考、直情に基づいた行動はそれ自体が思考停止の証左に他ならないと私は思う。つまり映画を見て「アフリカをなんとかしたい」、あるいは「アフリカのためになにができるのか」と妙な使命感にとらわれることだ。そう考えることは立派であるとも思うが、同時に暇なんだなと実直な感想が浮かんでしまう。その自己満足さ加減はこんなところにも象徴されている気がした。それは、パネルディスカッション中、ふと周りを見渡せば、爆睡している人が続出。(映画編で気になった、出たり入ったりしていた若い女性方も含め)私がいたところは壇上にかなり近い前のほうだったにもかかわらず。ノートにペンをはしらせていた人も見れば熟睡されている。そんなノートをとるよりも前にちゃんと話を聞けといいたくはなったが。畢竟、これも映画を見に来た自分、話を聞きにきた自分に自己満足しているだけではないのだろうか。そんな意地悪な感想をもちたくなってしまった。
そんな自己満足な思考停止よりも、まずはアフリカの絶望の根幹を成す部分についてもっと知るべきだし、竹内氏の言うとおり、まずは「アフリカについて知ること」が重要であると私は思う。たとえば援助物資を個人で送ると郵送費が万単位になることをどれだけの人が知っているのか、あるいは送られた衣服をそのまま現地人がまとうことによって絵柄も色合いもめちゃくちゃな人々が街中にあふれたりその結果として現地の伝統衣服が廃れてしまったりということが問題になっていることを踏まえている人がどれだけいるのか。一方通行な自己満足で終わる場合もままありがちなこういった発展途上国への個人レベルの援助だが、だからこそ冷静な視線を保持して個々人が問題にかかわらなければならないのではないか。
現在アフリカは過渡期であり、西欧によって植民地化されていた分、問題は複雑化し、あざなわれた縄の如く、利害憎悪思惑が煩雑に入り組んでいる。それを打開するには松本氏のいうように「マクロ的な視点」をアフリカが獲得する必要があるだろうし、ルセサバギナ氏の指摘する「対話の必要性」が重要になってくることだろう。
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