遺骨問題 [2005年3月]
遺骨問題
北朝鮮より横田めぐみさんのものとして提出された遺骨の真偽について、mumurさんが記事にされています。
また、pontakaさんの「あるコリア系日本人の徒然草」では技術的側面から詳しく解説されています。
問題になったのは、Natureという雑誌の記事です。科学系の研究に何らかの関係がある方ならば、この雑誌がどういうものかお分かりでしょうが、所謂、科学分野では最高権威の雑誌であると言えます。
つまり、この記事が政治的なイデオロギーなどの介入によるものという可能性は低いと考えていいでしょう。
専門家ではないので詳しくはありませんが、
記事をざーっと読むと、帝京大学の検証で用いられている方法は、非常に感度が高い方法であるようです。
非常に感度が高い分析手法の場合、コンタミネーション(きょう雑物≒不純物≒非対象物)の影響をどう排除するのかがその成否を握ると言われます。
この方法では、より強いレスポンスを持つDNAの存在が優位に検出されるものと推察されます。pontakaさんが指摘されているように、遺骨を採取する際に手で触ったりして脂質由来のDNAが遺骨に付着しておれば、そのDNAが検出されることになります。
ただ、そうでなければ、横田めぐみさんのものと言いながらそれ以外の人骨が含まれているということになり、北朝鮮の対応が誠意あるものとは言えません。身内から提出され第三者は介入していないというならば、なおのことです。
ところで、私はプラント系のエンジニア(の端くれ)ですので、専門外のことはここまでとして、この話題を記事にされている方の記述について検証してみたいと思います。
i-demoさんのインターネット民主主義実験室の1/27日の記事です。その中の、高温での焼却についてくだりについて少し触れてみたいと思います。
-----引用開始-----
「北朝鮮はわざわざ鑑定できないように念入りに1200℃で焼いたことを自ら告白したようなものだ」という論調も見られます。1200℃というのは、ふつうの炎よりも低いくらいの温度ですから、念入りに焼いた(ダイオキシンおよび窒素酸化物との関係から2000℃弱というのが念入りと思われる温度)という温度ではないように思いますが、根拠は何かあるのでしょうか。
-----引用終了-----
まず、炎の温度として1200℃というのはそう高いものではないというのは事実です。しかし、燃焼雰囲気の温度と火炎の温度は異なります。ここで1200℃で焼いたというのは、そういう雰囲気で焼いたということで、何度の炎で焼いたということとは異なります。
燃焼という現象は、簡単に言えば、燃焼対象物に炎などが有する熱量を付与した結果、その成分中の可燃成分の発火点(沸点)を越えたときに起きる現象です。それに至らなければ単に加熱しているのと同様です。
つまり、炎の温度が仮に2000℃あってもそれを付与される対象によって雰囲気温度は変ります。
ろうそく1本の炎だけで部屋が暖かくならないことで理解できると思います。
次にダイオキシンや窒素酸化物(NOx)のことを引き合いに出されておりますが、ダイオキシン特別措置法によって、ダイオキシンの発生を抑制する火炉温度は850℃以上とされています(それに滞留時間などの因子が加わりますが)。
当該法施行前の施設において焼却温度を満たせない場合は、再合成(300℃ぐらいでダイオキシンは再合成する)を防止するために急冷施設+バグフィルタで対応が可能です。
一般に火葬場での焼却温度は、骨あげをするために800℃程度といわれています。
NOxは不完全燃焼の産物ですので、ダイオキシンを適正に処理する雰囲気である程度低減できます。排出基準を満たせない場合は、排ガスサイドで脱硝触媒などで処理するのが一般的です。
さらに、現在は焼却ではなく溶融方式を導入している自治体が増えていますが、これは雰囲気温度が1500~1600℃と高温になります。しかし、この場合、文字通り灰まで溶融するのですから、骨など残るはずがありません。
因みに溶融炉の炉壁には耐火煉瓦が使用されていますが、2000℃の雰囲気で連続使用に耐えるようなものは実用されていないと思います。
北朝鮮の今までの対応を見れば、遺骨が捏造されたというのはむべなるかなとも思いますが、今回の帝京大学の検証結果をもって捏造と断じるのは難しくなったのかもしれません。
ですから、もし、この件だけをもって政府が経済制裁を断行するというは拙速の誹りを免れるものではありません。
ただ、経済制裁強行論にしても、止む無し論にしても、慎重論にしても、経済制裁を何らかの形で是認するまで世論が高まったのは、何もこの遺骨の問題だけではないはずです。
改竄したカルテ、死亡時期の証言の矛盾、加えて核兵器の保有宣言など、北朝鮮が日朝平壌宣言以降してきた行為はとても誠意のあるものとは言えません。
そもそも拉致は国家による犯罪です。それを国家として北朝鮮が責任持って解決しなければ、国交樹立など有り得ません。
疑念を払拭すべきは北朝鮮であり、経済制裁を回避したければ、誠意のある行動と納得の行く証拠を提出すべきはないでしょうか?
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このブログで、1200℃で燃やした遺骨の鑑定が出来るのだろうか、という疑問を提示してきましたが、どうも鑑定と呼べるレベルの結果は帝京大学でも出てなかったみたいですね。帝京大学の吉井講師は、「自分は偽物と断定していない」とネイチャーのインタビューに答えたそうです。 ところが、官房長...[続く]
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