プロの思い出 [男女論]
俺は学生時代に雀荘でバイトをしていたことがある。
その雀荘には、とある有名なプロがよく遊びに来ていた。
俺はテレビとか見ないから全然知らないんだけど、
「えー、本当に知らないの?」と他の店員から呆れられるぐらい有名人らしい。
プロにしてみたら、適当に遊びで打っているのかも知れないが、
周囲とは格段に力の差があった。とにかく負けないのだ。
手作りは結構適当で、傍目から見ても流している感じなんだけど、
要所要所で、しっかりと危険牌を止める。
俺から見たら、「何でこれが止まるの?」という牌も止まるのだ。
今にして思うと、プロとしての勘を常にとぎすましておくために、息抜きも麻雀しかない。
その息抜きの場があの店だったのかも知れない。
俺はお茶を出したりする係だったので、プロが暇なときは良く雑談をした。
ある日、「坊主、麻雀は好きか?」とプロが訊いてきたので、
「ええ、とっても楽しいです。特に勝っているときは」と答えた。
プロは珍しく真剣な顔をして
「麻雀が好きなんだったらなぁ、プロにだけはなるなよ」と言った。
あの店で、プロの真剣な表情を見たのは、このときが最初で最後だった。
プロの言葉の真意はわからないけれど、
「これだけ強い人でも大変な世界なんだな」というのは何となく伝わってきた。
プロである以上、勝たないといけない。
そのためには勘をとぎすます必要があり、麻雀以外はない生活を余儀なくされる。
楽しいとか好きとかそういう次元では、プロで生き抜いていくことは出来ない。
と、いうことだったのかなと今にして思う。
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