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第81回アカデミー賞 授賞式 3/3 [映画賞・映画祭]
The 81st Annual Academy Awards
1回、2回に続き、81回を迎えたアカデミー賞の3回目レポートです。いよいよ主要賞の発表です。受賞作だけにフォーカスすることなく、アカデミー賞の本当の面白さ、素晴らしさが伝わると嬉しいです。
ヒュー・ジャックマンの登場です。ここからは映画音楽に関わる賞の発表となります。指揮者マイケル・ジアッキーノを紹介すると音楽が始まりました。
この音楽は、実際にオーケストラによって舞台上で演奏されました。印象的なメロディーの『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』。静かな“Defiance”。心に訴えかける 『ミルク』は、Danny Elfmanによる作曲です。『ウォーリー』は、ピクサー映画らしい音楽でした。『スラムドッグ$ミリオネア』はインドっぽい音楽です。
<作曲賞:Original Score>
アリシア・キーズとザック・エフロンの登場です。音楽賞はこの二人がプレゼンターです。ノミネートは、『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』のアレクサンドル・デプラ、“Defiance”のジェームス・ニュートン・ハワード、 『ミルク』のダニー・エルフマン、『スラムドッグ$ミリオネア』のA.R. ラーマン、『ウォーリー』のトーマス・ニューマンです。
受賞は、『スラムドッグ$ミリオネア』のA.R. ラーマンでした。これも、作品に対する賞です。音楽的には他のノミネート者のほうがクオリティは上です。
●●●歌曲賞メドレー●●●
歌曲賞にノミネートされている音楽が舞台上で披露されました。今年は3曲で、そのうち2曲が『スラムドッグ$ミリオネア』からのものだったのでインド色が強い華やかなショーとなりました。
<歌曲賞:Original Song>
引き続きアリシア・キーズとザック・エフロンが発表を続けます。
ノミネートは、“Down to Earth”(『ウォーリー』)、“Jai Ho”(『スラムドッグ$ミリオネア』) 、“O Saya”(『スラムドッグ$ミリオネア』) です。
受賞は、“Jai Ho”でした。マサラ・ムービーっぽい音楽がアカデミー賞を受賞するとは、面白い時代になりました。
<外国語映画賞:Foreign Language Film of the year>
プレゼンターは、リーアム・ニーソンと『スラムドッグ$ミリオネア』のフリーダ・ピントです。イギリス人とインド人が登場し、第一声は「ボン・ソワー」(笑)。そう、外国語映画賞にふさわしい二人なのです。
今年は、ドイツ語、フランス語、ヘブライ語、日本語、オーストリア語の映画がノミネートされました。どれもアメリカではなかなか作られないタイプの映画です。“The Baader Meinhof Complex”(ドイツ)は、テロリストがどうしてできあがっていくのかを描く作品です。日本では「テロリスト」という"悪"というくくりで話される彼らも、実は人間であることを知らされる素晴らしい映画です。日本での公開を強く望みます。“The Class”(フランス)は、学校の教師が様々な文化からやってきた生徒の多様性に苦しめられる映画です。排他的な日本では、このような多様性のある学校がなかなか存在しません。これらからの時代を見事に描いた作品です。下馬評ではこの作品が受賞するという話題でした。『おくりびと』は、日本の葬儀を取り上げました。この作品の英語タイトルが素晴らしいです" Departures"。タイトルだけで投票した人もいるのではないでしょうか。“Revanche”(オーストリア)は、強盗事件がきっかけで起こる報復事件を描いた作品です。『バシールとワルツを』(イスラエル)は、イスラエルがパレスチナで行った軍事作戦の酷さをイスラエル人が描いた作品です。授賞式までは、この作品が受賞すると思われていました。
受賞は『おくりびと』でした。外国語映画賞は、非常に限られた人々により投票されます。今年は“The Class”と『バシールとワルツを』の票が割れ、結果3番手に付けていた『おくりびと』が受賞したわけです。日本人としては嬉しい誤算でした。
●●●追悼●●●
クイーン・ラティファの登場です。彼女は「I'll Be Seeing You」を唄います。今年亡くなられた映画人の映像がスクリーンに映し出されました。Cyd Charisse、Bernie Mac、Bud Stone(スタジオ・エクゼクティブ)、Ollie Johnston(アニメーター)、Van Johnson、J. Paul Huntsman(音響)、Michael Crichton(プロデューサー、脚本、原作、監督、「ジュラシック・パーク」の原作者としても有名)、Nina Foch、Pat Hingle、Harold Pinter(作家)、Charles H. Joffe(「アニー・ホール」などのプロデューサー)、市川昆(写真が違っていたのが残念です)、Charles H. Schneer(SF名作映画のプロデューサー)、Abby Mann(脚本家)、Roy Schider(名優がまたひとり亡くなりました)、David Watkin(撮影監督)、Robert Mulligan(監督)、Evelyn Keyes、Richard Widmark、Claude Berri(監督)、Maila Nurmi(ヴァンパイラ、あー!)、Isaac Hayes、Leonard Rosenman(作曲家)、Ricardo Montalban、Manny Farber(評論家)、Robert Doqui、Jules Dassin(監督)、Paul Scofield、John Michael Hayes(「裏窓」などの脚本家)、Warren Cowan(パブリシスト)、Joseph M. Caracciolo(プロデューサー)、Stan Winston(特殊効果、彼がいなかったら今のハリウッド映画はなかったでしょう「エイリアン」「ターミネーター」どれも彼がいたからできたのです)、Ned Tanen(プロデューサー)、James Whitmore、Charlton Heston(「ベン・ハー」「猿の惑星」最後は全米ライフル協会会長と常に話題の人でした)、Anthony Minghella(監督)、Sydney Pollack(監督、プロデューサー、俳優、ハリウッド映画を築いた功労者)、Paul Newman(アメリカン・ニューシネマの牽引者、素晴らしい俳優、そして父親でした)。
司会のヒュー・ジャックマンの登場です。「アメリカでは、4年間務めた大統領が任期を終えました。そしてアカデミーでも4年間会長を務めたシド・ガニスが任期を満了します。」シド・ガニスが客席で立ち上がり挨拶をしました。
<監督賞:Best Director>
プレゼンターはリース・ウィザー・スプーンです。「監督は、映画のCEOでもあり、現場ではセラピストにもなります。時にはトレーラーに閉じこもった俳優を説得する交渉人にもなります。私のことではありません。ベン・スティラーのことです(笑)。監督は映画を制作する上であるベクトルを示します。大きい意味で言うと作品のテイストを決めるのです。しかし目の前には解決しなければならない問題が山積しています。これらをひとつひとつこなしながら遠い先にある完成作品を目指すのです。とても大変な作業です。脚本に書かれていることを具現化し、カメラマンにはどんな映像がほしいか適切に説明します。全ての俳優が役の内面に入れるように尽力します。きちんと物語が伝えられるよう、全てのシーンをつなぎ合わせます。」
ノミネートは、ダニー・ボイル(『スラムドッグ$ミリオネア』)、デヴィッド・フィンチャー(『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』)、ガス・ヴァン・サント(『ミルク』)、ロン・ハワード(『フロスト×ニクソン』)、スティーヴン・ダルドリー(『愛を読むひと』)。誰が受賞しても納得のいくノミネートです。
受賞は、『スラムドッグ$ミリオネア』のダニー・ボイルでした。アメリカでは公開されない可能性が高かったこの企画を見事に映画化した彼の手腕は受賞に十分匹敵します。ボイルのスピーチは長く、沢山の関係者に感謝の意を述べていました。
<主演女優賞:An Actress in a Leading Role>
過去の主演女優賞の受賞場面が一気に上映されました。どの年も印象的でその時を思い出させられました。
今年の恒例、スクリーンが5つに別れ、過去に主演女優賞を受賞した5人の女優が受賞したときの発表シーンがスチルで上映されました。「受賞は、ソフィア・ローレン、シャーリー・マクレーン、ハリー・ベリー、ニコール・コッドマン、マリオン・コティアール!」スクリーンが上がると、それぞれの写真から5人のアカデミー女優が登場です!会場は当然スタンディング・オベーションとなりました。なんと豪華なんでしょう。凄すぎます。目の前にハリウッド映画の歴史が佇んでいるのです。スタンディング・オベーションは鳴りやみませんでした。
この5人が5人のノミネートを発表していきます:
シャーリー・マクレーンがアン・ハサウェイについて語り始めます。は差ウェイは目に涙を溜め、手を胸に当て聞き入っていました。「あなたは若い女優さんのお手本だと思います。明るさだけでなく自分の闇の部分を表に出す勇気がありますね。候補になったのは初めてですが、これから何度も名前があがるでしょう。貴方はとても素敵な声を持っているんですね。歌い続けてください。」ハサウェイは投げキッスで返しました。
マリオン・コティアールは、ケイト・ウィンスレットを紹介しました。「貴方は新しい作品で役の幅を広げました。『愛を読むひと』では情熱、愛情、奥深さを演じ分け、愛を経験すると変化する感情を見事に演じていました。貴方は、インスピレーションを与え素晴らしい女優です。」
ハリー・ベリーは、メリッサ・レオを紹介しました。「私は幸運にもインディー映画に出演して女優としての成功の道を歩むことが出来ました。今年、私と同じ事がまた起こりました。メリッサ・レオです。」
ソフィア・ローレンが、メリル・ストリープについて語り始めます。「この人についてはどこから話し始めればいいのか分かりません。名前を聞くだけで素晴らしい女優であることは誰もが分かります。ですからここでお伝えしましょう・メリル・ストリープ。今回は15回目のノミネーションです。」
ニコール・コッドマンは、アンジェリーナ・ジョリーです。「『チェンジリング』で、ジョリーは我々に母親の愛の深さを教えてくれました。」
豪華です。この部分だけで十分視聴率がとれるでしょう。こういう長い年月をかけて築いてきた映画文化があるのが羨ましいです。
受賞は、ケイト・ウィンスレット(『愛を読むひと』)でした。スタンディング・オベーションです。ウィンスレットは舞台で5人の受賞者と抱き合いました。「スピーチを用意していないというとウソになります。家でシャンプーボトルを持ち練習しました。今、それが本物になりました。」とオスカー像を握りしめるウィンスレットは、とても美しかったです。
<主演男優賞:An Actor in a Leading Role>
過去の主演男優賞の受賞場面が一気に上映されました。この映像も贅沢なものです。出てくる俳優は誰もが知っているわけで、彼らの笑顔が次々に出てくるのです。そして5人の受賞者の登場です。「プリーズ・ウェルカム!ロバート・デ・ニーロ、ベン・キングスレー、アンソニー・ホプキンス、エイドリアン・ブロディ、マイケル・ダグラス」よくぞ、ここまで名俳優を集めたものです。アカデミーは凄いですね。会場は勿論スタンディング・オベーションです。
マイケル・ダグラスはフランク・ランジェラ(『フロスト×ニクソン』)を紹介しました。「ランジェラは、新しいアプローチでニクソンを演じました。映画が始まると実際のニクソンとの比較をすることを忘れてしまいます。落ちぶれた指導者がなんとか自分を歴史に残そうともがく姿に引き込まれていくのです。貴方の演技は他に類のないものです。敬意を表したいと思います。」
ロバート・デ・ニーロが続きます。「ショーン・ペンの成功の鍵は何でしょう?貴方は真の演技派です。そしてプライベートでも彼は献身的です。人権問題、パパラッチ問題でも活躍しています(笑)。これが私の友、ション・ペンです。」
エイドリアン・ブロディは、リチャード・ジェンキンスを紹介します。「私はグーグルで自分の名前を検索するのは好きではないのですが、リチャード・ジェンキンスを検索すると過去20年間に60本の映画に出演していたことがわかります。“The Visitor”では、経験に裏打ちされた見事な演技で作品に魅力を与えています。」
アンソニー・ホプキンスは語り出します。「みんなの好きなブラッド・ピット。彼は『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』で2/3が過ぎた頃登場します。そこまでいつもと違う演技で観客を魅了してくれます。ノミネートおめでとう!」
ベン・キングスレーは、ミッキー・ロークを紹介しました。「『ザ・レスラー』で、主人公は、人生における第2回目のチャンスが与えられます。人はこの話に魅了されます。それはミッキー・ロークのおかげです。帰ってきたチャンピオンです。」
受賞は、ショーン・ペンでした。スタンディング・オベーションです。誰も着席せずペンに拍手を送りました。「共産主義の同性愛者です(笑)。」勿論違いますが、こういうユーモアで応えるのがペン流なのでしょう。「私を支えてくれた人、サト・マツザワ、ブライアン・ベリー・・・」授賞式後、アメリカのネット上ではマツザワとは誰なのか話題騒然となりました。どのサイトでのこの話題持ちきりでした。結果マツザワさんは、ショーン・ペンのマネージャーであることがわかりました。
最後に「同性愛者結婚に反対した人たちは反省すべきです。全ての人が平等な権利を持っているはずです。」と堂々と言ったショーン・ペンに拍手です。
もうひとつ「アメリカで、エレガントな男を大統領に選んだことを誇りに思っています。」という歴史に残る名スピーチをしました。
<作品賞・Best Motion Picture of the year>
プレゼンターはスティーブン・スピルバーグです。「今年のノミネート作品を振り返りながら過去の作品賞作品を見ていきましょう。」と始まった映像は、今年の映像集の中で最も秀逸でした。普通だったら使用するための許諾すら降りない名作品から名シーンを切り出し、今年のノミネート作品に重ね合わせていく編集は、非常に巧みでセンスがありました。この映像集は2度と公に出てこない貴重なものです。この映像を見ることができてとても幸せでした。
ノミネートは:
『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』 『フロスト×ニクソン』 『ミルク』 『愛を読むひと』 『スラムドッグ$ミリオネア』
受賞は、『スラムドッグ$ミリオネア』でした。
いかがでしたか?終わってみると『スラムドッグ$ミリオネア』の圧勝でしたが、実はノミネート作品どれもが第一級作品であること、必ずしも一番優れた作品やスタッフが受賞するものではないことを理解できたと思います。是非、受賞作だけでなく、ノミネートされた作品を見てください。自分の映画を見る目が肥えるだけでなく、様々なことを感じるはずです。
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The 81st Annual Academy Awards
前回に続き、81回を迎えたアカデミー賞のレポートです。受賞作だけにフォーカスすることなく、アカデミー賞の本当の面白さ、素晴らしさが伝わると嬉しいです。
●●●特集:ロマンス 2008●●●
「トワイライト」のロバート・パティンソンとアマンダ・セイフライドの登場です。この二人はアメリカでとても人気のある若手俳優です。二人は「愛」について話し始めました。といっても映画の中で描かれるロマンスについてです。そして2008年度に公開されたロマンス映画のダイジェストが上映されました。『レボリューショナリー・ロード/燃え尽きるまで』、『ウォーリー』、『スラムドッグ$ミリオネア』、『レスラー』、『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』、『オーストラリア』、『アイアンマン』、『トワイライト』、『セックス・アンド・ザ・シティ』・・・。それぞれの映画のロマンスに関するシーンが抜き出されU2の音楽に乗って表現されました。そして、最後は各映画のキスシーンを繋いだ見事な映像です。「ニュー・シネマ・パラダイス」のエンディングのような素晴らしい編集に感動でした。
一見、ロマンス映画には見えなくても、実はどんな映画にもロマンスという要素が入っているんだということがよく分かる映像でした。
<撮影賞:Best Cinematography>
アメリカでは、撮影するスタッフを「ディレクター・オブ・フォトグラフィー (通称DP)」と呼びます。彼らは、レンズ、カメラ、照明を司り、素晴らしい映像を作り出すのです。日本では、撮影と照明はわかれていることがおおいですが、この違いは映像におおきく影響していると思います。そんなDP、機材を選ぶ力も必要ですが一番の要は自身の「目」です。DPは、脚本やロケ場所を熟知し映画らしい映像、ストーリーを伝える映像を目だけで構築していきます。
プレゼンターは、ベン・スティラーとナタリー・ポートマンです。ベン・スティラーは、サングラスをかけ、付け髭をつけての登場です。
ナタリー「撮影監督は、映像を司り、光と影を操ります・・・ちょっと、ガム咬んでいない?」
ベン「ごめん」とガムを口からだし、テーブルにおきました。
ナタリー「素晴らしい映像を作る映画の素晴らしい裏方達、彼らは巨大なアイマックス・カメラや小さなデジタルカメラを駆使して映像を撮影しています。貴方の番ですよ。」
ベン「えー、スラムドッグは携帯のカメラで撮影されたと聞いています・・・」
ナタリー「貴方、何をしたいの?どうしたの?」
ベン「別に・・・、DPにでもなろうかな・・・」
このシークエンスは、日本の視聴者にどう映ったのでしょう?ベンは日本であまり人気がないので、こういう変人だと思ってしまう人もいると思いますが、実は、ベンはホワキン・フェニックスの物まねをしていたんですね。会場の観客やアメリカの視聴者は大爆笑でした。
ノミネートは、『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』のクライディオ・ミランダ。この映画では全編ヴァイパーというデジタルカメラで撮影されました。このカメラは、撮影時にフィルムと同等のデータをハードディスクに取り込み、後でデジタル現像処理を施します。これによりフィルムに迫る高解像度の映像を狙い通りに現像することが可能です。今回は、そこに複雑な合成処理が施され、フィルムのインプットによる映像劣化なしにとても美しい絵を作っています。『スラムドッグ$ミリオネア』のアンソニー・ドッド・マントルは、インドでフィルム撮影を行い、この映画らしい映像を作り出しています。『ダークナイト』のウォーリー・フィスターは、監督の希望通り殆どのショットをIMAXで撮影しています。アイマックスのフィルムは巨大で、カメラも大きく、映画撮影には不向きでしたが、これを長編映画で初めて成し遂げたのです。この功績は映画史に残る偉業です。『チェンジリング』のトム・スターンは、小さな光と大きな影を操ります。基本ノーライトでの撮影は、太陽光におおきく影響されます。その気ままな太陽光をコントロールしての敏速な撮影技法は評価されるべきものです。『愛を読むひと』のクリス・メンゲスとロジャー・ディーキンスは、ハリウッド映画らしいビビッドな撮影が素晴らしかったです。
受賞は、『スラムドッグ$ミリオネア』のアンソニー・ドッド・マントルでした。この受賞は作品に対する評価でしょう。実際は、『ダークナイト』のウォーリー・フィスターや『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』のクライディオ・ミランダのほうが、評価に値する仕事をしていたのです。
<ゴードン・E・ソーヤ賞>
ジェシカ・ビールがプレゼンターです。この賞は、映画技術賞で映画の撮影技術や上映技術など、映画をとりまく技術に貢献した人に与えられる賞です。こういう裏方さんがきちんと表彰されるのもアカデミー賞の特徴です。しかし、技術賞はあまりに地味なためテレビ放送には向きません。よって、毎回アカデミー賞よりも前に別会場で表彰式が行われます。今年は、ジェシカ・ビールがその会場で授賞式に参加し、アカデミー賞では、簡単に報告をしました。
今年の受賞者は、エド・キャットムルです。ジェシカ・ビールも「エド・キャットムルって誰?と思っている方がおおいのではないでしょうか」とスピーチしていましたが、彼はCG界ではとても有名な人物です。今までアカデミー賞を受賞していなかったことが不思議なくらいです。彼はCGアニメやCGIを使った実写のCG合成を開発した人です。みなさんにわかりやすく説明すると、現在彼はピクサーの社長です。「トイ・ストーリー」「ウォーリー」などピクサーのアニメは彼の開発した技術により作られているんです。彼は、現在ディズニーの社長も兼務しています。今後のピクサーとディズニーの新作CGアニメにも彼の技術が使われていきます。
●●●特集:コメディ 2008●●●
スクリーンが降りてきて、コメディに関する映像が上映されました。
セス・ローゲンとジェームス・フランコがどこにでもありそうなアメリカの家のリビングでビデオを見ています。
2人が見ているテレビ画面には「スラムドッグ$ミリオネア」「アイ・ラブ・グル」「トロピック・サンダー」など08年度に公開されたコメディ映画が次々に映し出されます。それを茶化す二人。勿論コメディ映画だけでなく真面目な映画までを取り上げ笑うハリウッドの懐の深さには感心させられました。沢山の映画を見ているとオスカー像を持ったカメラマンが登場します。フランコが「こっちにきなよ」と呼びかけるとそのカメラマンがリビングにやってきて2人と一緒に映像を見るのです。オスカーを持ってリビングにやってきたカメラマンはヤヌス・カミンスキーです!
<短編実写映画賞:Live Action Short Film>
上映が終わり、スクリーンがあがると、プレゼンターが登場しました。映像に出演していたセス・ローゲン、ジェームス・フランコ、そしてヤヌス・カミンスキーの3人です。3人が登場すると客席にいるスピルバーグが映し出されました。スピルバーグ映画のDPは、カミンスキーです。こういう映画ファンが喜ぶ放送、気が利いていますね。
ノミネートは、“Auf der Strecke (On the Line)”、“Manon on the Asphalt" 、『新入生』 、“The Pig”、“Spielzeugland (Toyland)” でした。
受賞は、“Spielzeugland (Toyland)” のヨハン・アレクサンダー・フライダンクでした。フライダンクは、東ドイツ出身だそうで、そこから西ドイツを経由してハリウッドまで来るのはとても遠かったとスピーチしました。これは、実際に遠いということだけでなく、彼が地味に4年をかけて14分の短編を作り上げ、この晴れ舞台に上がることが出来た時間が長かったということでもあります。
●●●パフォーマンス: Musical is BACK ! ●●●
ジャックマンが登場。「皆さん、ミュージカルの復活です!イギリスでは『マンマ・ミア!』のチケットセールスが『タイタニック』を抜きました。そして、ジャックマンは唄い出しました。まるでブロードウェイ、いやウエストエンドのミュージカルを見ているような歌い出しです。『雨に唄えば』のメロディを歌い出したところで「何か足りないなあ」とつぶやきます。すると、舞台の奥に女性のシルエットが映し出されます。スポットライトが当たると赤い衣装を着たビヨンセでした。ここからは、見事なパフォーマンスでした。今まで作られてきたミュージカル映画の音楽のオンパレードでした。文字で感動がお伝えできないのが残念です。
後で、このパフォーマンスが口パクだったと報道されましたが、これはあたりまえです。あれほど動き回り踊る場合、2つの要因から実際は歌を唄えません。まず、大きな舞台を動き回るのですから、演奏がちゃんと聞き取れないのです。コンサートなどでは「かえし」と呼ばれるスピーカーが歌手の側に置かれているので、演奏を聴きながら音楽に合わせ唄うことが出来ます。しかし、アカデミーの舞台に「かえし」を置くスペースはありませんでした。次にビヨンセほど激しく踊る場合は、息継ぎができずうまく唄うことが出来ないのです。ミュージカル舞台の場合、オーケストラピットに指揮者がいて、舞台役者は唄う場合、指揮者の指揮棒を見てタイミングを合わせています。コンサートの場合は、必ず「かえし」が置かれています。アカデミー賞のように沢山の賞を発表するように設計されている舞台では、派手なパフォーマンスを行うことが想定されていないので、必然的に口パクになるのです。
ですから、今後、「かえし」がない、あるいは指揮者がいない派手なパフォーマンスの場合は、口パクと考えてほぼ間違いないです。日本の某人気グループやパフォーマンス集団もコンサートや音楽番組では口パクなんです。
<助演男優賞:An Actor in a Supporting Role>
スクリーンに過去の受賞シーンが映し出されました。味のある役者が受賞していたんだなあと改めて感じました。スクリーンが5分割され1つに1人つづ受賞シーンが映し出されます。クリストファー・ウォーケン、ケビン・クライン、キューバ・グッディング・Jr.、アラン・アーキン、ジョエル・グレイです。5つのスクリーンが上がると、そこから本人が登場しました。なんと豪華な顔ぶれでしょう。
5人がノミネートの5人を紹介していきます。ケビン・クラインは、寡黙だが緻密な芝居をすることにより映画に力を与えているフィリップ・シーモア・ホフマンを紹介しました。アラン・アーキンは、『ミルク』で難しい芝居をこなしたジョシュ・ブローリンを紹介しました。キューバ・グッディング・Jr.は、『トロピック・サンダー』のロバート・ダウニーJr.を紹介しました。この受賞は、アカデミー史上かなり奇妙な選出です。ダウニー・Jr.は、『アイアンマン』『トロピック・サンダー』で最も大胆な役者に返り咲きました。白人なのに黒人を演じるオーストラリア人という変人を演じきった彼に「黒人の仕事を奪ったと怒るグッディング・Jr.に会場は大爆笑となりました。クリストファー・ウォーケンは、マイケル・シャノンを紹介、地味な芝居ですがシャノンのような役者はとても重要です。ジョエル・グレイは、『ダークナイト』のヒース・レジャーを紹介しました。ご存じのように彼は『ダークナイト』の撮影後急死してしまったので、会場には家族が代理で参加していました。
受賞は、予想通りヒース・レジャーでした。両親と姉の3人が舞台に上がると、観客席は総立ちで拍手を送りました。ヒース・レジャーの父親がスピーチを始めると、多くの役者が目に涙を溜めているのが映し出されました。今回のアカデミー賞で一番印象に残る受賞シーンでした。
●●●特集:ドキュメンタリー 2008●●●
08年に公開されたドキュメンタリー映画についての映像が上映されました。ドキュメンタリー映画がただ上映されるのではなく、この映像自体がドキュメンタリーとなっており、ドキュメンタリー作家に「ドキュメンタリー」についてインタビューしていくというものでした。作家の話は一言一言に重みがあり、考えさせられる映像となりました。
<長編ドキュメンタリー賞:Best Documentary>
プレゼンターは、ビル・マーです。ノミネートは、“The Betrayal (Nerakhoon)”、『世界の果ての出会い』、“The Garden”、“Man on Wire” 、“Trouble the Water”でした。
受賞は、“Man on Wire” のジェームス・マーシュとサイモン・チンでした。
<短編ドキュメンタリー賞: Documentary Short Subject>
引き続きビル・マーがプレゼンターです。ノミネートは、“The Conscience of Nhem En”、“The Final Inch”、“Smile Pinki”、“The Witness - From the Balcony of Room 306”でした。
受賞は、“Smile Pinki”のミーガン・マイランでした。 “The Conscience of Nhem En”のスティーブン・オカザキは受賞を逃しました。
ヒュー・ジャックマンが話します。「映画製作というのは旅行のようなものです。始めた楽しいのだけれど、最後は目的地に着くことだけで一杯一杯になるのです。映画は撮影が終わり編集段階にはいると、なんとか良い映画にしないといけないという恐怖観念から必死に音響効果を付けたり加工を施して閑静に向かいます」これは映画制作の過程をよく表している比喩です。映画は、脚本が素晴らしくても撮影して編集するととても酷い映画になっていたりします。それを挽回するのがポストプロダクションなのです。ここからは暫くポストプロダクションの授賞式となります。
●●●特集:アクション 2008●●●
08年に公開された映画の中からアクションシーンを集めた特別映像が上映されました。『007 慰めの報酬』『ダークナイト』『アイアンマン』『インクレディブル・ハルク』『ハンコック』『インディ・ジョーンズ』・・・今回の特別映像は、Appleの映像を作っているチームによるものです。なんだか、Appe TVのデモ映像を見ているような心地よさを感じました。
<視覚効果賞:Visual Effects>
ウィル・スミスの登場です。アクション映画が大好きなのでプレゼンターに立候補したそうです。「アクション映画は過小評価されがちです。でもアクション映画は面白く、完成までには特殊効果の技術が必要です。今年の視覚効果賞のノミネート作品でスタッフは素晴らしい作業をしてくれました。」
ノミネートは、『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』 のE.バーバ、S.プリーグ、B.ダルトン、C.バロン。このチームは、ブラッド・ピットの顔をCGIで合成しています。ブルーバックの撮影はほとんどなかったはずで、実際にヴァイパーで撮影された映像をマスキングし、まるで人間が演じているような表情を作り出しています。この技術は今まで不可能とされてきました。
『ダークナイト』のN.デービス、C.コーボールド、T.ウェバー、P.フランクリンは、IMAXという巨大なフィルムで撮影した映像に合成を施しました。35mmフィルムの7倍近くある大きな映像に合成作業を行うには、コンピュータのパワーが7倍以上必要になります。この膨大な作業をコツコツ行った努力には感心させられます。
『アイアンマン』のJ.ネルソン、B.スノー、D.サディック、S.マハンは、アイアンマンという主人公を3Dモデル化し、まるでそこにいるかのような映像を作り上げました。アイアンマンは金属でできているという設定なので、周囲の景色を映しこんでしまいます。このリフレクションをきちんと完成させるのはとても面倒だったでしょう。
受賞は、『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』 のE.バーバ、S.プリーグ、B.ダルトン、C.バロンでした。納得の受賞です。代表してスピーチしたのはE.バーバです。デジタル・ドメインがこの複雑な処理を行ったそうで、同社に対して感謝の意を述べていました。
<音響効果賞: Sound Editing>
続いてウィル・スミスがプレゼンターです。日本では録音技師が、音響効果、音響編集まで行います。これは、トーキー映画の頃の名残です。要はとても古いシステムなのです。欧米の映画制作では、音響は録音、編集、ミックスと作業が細分化され、それぞれにプロが存在します。アカデミー賞では、音に関する賞はSound Editing とMixingの2つのパートにわけて賞を授与します。
音響効果賞のノミネートは、『ダークナイト』のリチャード・キング、『アイアンマン』のフランク・ユルナー、『スラムドッグ$ミリオネア』のトム・セイヤーズ、『ウォーリー』のベン・バートとマシュー・ウッド、『ウォンテッド』のウェリー・ステートマンです。
受賞は、『ダークナイト』のリチャード・キングでした。キングは、低音を効かせた素晴らしい音響を作り上げました。音響効果部門を作るきっかけになったベン・バートが受賞できなかったのは残念でした。
<録音賞: Sound Mixing >
引き続きウィル・スミスがプレゼンターです。ノミネートは、『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』のD.パーカー、M.セマニック、R.グライス、M.ウェインガーデン、『ダークナイト』のL.ハーシュバーグ、G.リゾ、E.ノビック、『スラムドッグ$ミリオネア』のI.タップ、R.プライク、R.プークテイ、『ウォーリー』のT.マイヤーズ、M.シマニック、B.バート、『ウォンテッド』のC.ジェンキンス、P.フォレ、F.A.モンダーニョでした。
受賞は、『スラムドッグ$ミリオネア』のI.タップ、R.プライク、R.プークテイでした。この受賞も作品に対するものです。純粋な仕事に対する評価と異なってしまい残念です。「スラムドッグ」以外の作品ならどの作品が受賞してもおかしくないノミネートでした。
<編集賞: Film Editing >
スミス「まだまだ僕の番です。ポストプロダクションには、もうひとつ重要な仕事があります。それが編集です。編集マンはこんな技を使います。」スクリーンでは、編集によく使われる編集効果を実際の映像を使って説明しました。
ノミネートは、『フロスト×ニクソン』のマイク・ヒルとダン・ハンレー、『ダークナイト』のリー・スミス、『ミルク』のエリオット・グレハム、『スラムドッグ$ミリオネア』のクリス・ディケンズ、『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』のカーク・バクスターとアンガス・ウォールでした。
受賞は、『スラムドッグ$ミリオネア』のクリス・ディケンズでした。巧みな編集が光った作品だったので受賞の理由は十分に理解できます。この映画が成功した要素のひとつは、編集なのです。
<ジェーン・ハーシェルト友愛賞>
プレゼンターは『ナッティ・プロフェッサー』のエディ・マーフィーです。今年の受賞はオリジナル『ナッティ・プロフェッサー』のジュリー・ルイスです。彼は、長年ハリウッド映画で人気を博したコメディアンです。ルイスは、コメディアンとしてトップを走ってきましたが、実は難病の患者を支援するためにおおくのお金を寄付していました。そして基金を設立しこれまで20億ドルものお金を集め、患者や病院を支えていたのです。
久しぶりに姿を見せたジェリー・ルイスは、全く変わらない姿でした。会場はスタンディング・オベーションで彼を迎え入れました。拍手が鳴りやみません。ジェリーは、スピーチをはじめました。「私は人のために何かをしても、それが評価されるとは思っていませんでした。なので、今回の受賞は私を感動させました。アカデミーに感謝します。」
第2回、どうでしたか?今年は全体的に質素ですが、見応えは十分です。次回はいよいよ主要賞の発表となります。お楽しみに!
<関連リンク>
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第81回アカデミー賞 授賞式 1/3 [映画賞・映画祭]
The 81st Annual Academy Awards
今年もロサンゼルスのコダックシアターで映画の祭典アカデミー賞が行われました。アカデミー賞の素晴らしさは舞台の演出にあります。報道ではどうしても受賞作品にフォーカスしてしまいますが、実は授賞式自体が素晴らしいエンターテイメントとなっています。昨年の第80回アカデミー賞授賞式に続き、今年も授賞式の模様を時間軸通りにレポートしアカデミー賞の面白さを再発見します。
<オープニング>
今回の司会は、なんと俳優のヒュー・ジャックマンです。勿論彼にとって、アカデミーの司会は初めてです。ここ数年は、ずっとコメディアンが司会だったので、今年はかなり真面目な授賞式になるような感じがしました。
いつもは、オープニングと共に派手なショーが行われるか派手な映像が上映されるのですが、今年は予算削減と言うことでジャックマンが舞台で歌を唄いました。ブロードウェイの舞台にも立つジャックマンらしく、今回のノミネート作品を楽しく紹介していきました。
このオープニングパートは、確かに費用はかかっていませんがとても見事でした。いきなり客席からアン・ハサウェイを引っ張り上げ二人でデュエット(勿論仕込み)したのは、今までにない演出です。
ジャックマンが歌い終わると、客席はスタンディング・オベーション!
地味ながら印象に残るオープニングでした。
いよいよ第81回アカデミー賞授賞式のはじまりです!
<助演女優賞:Best Supporting Actress>
15回ノミネートされているメリル・ストリープを引き合いに出し、過去の助演女優賞のスピーチが映像で紹介されました。どの年も心に残る女優さん達が受賞してきたんだなとわかる見事な編集でした。そして映像が終わると、画面が5つに分割され、過去に受賞した女優の顔が映し出されました。エヴァ・マリー・セイント、アンジェリカ・ヒューストン、ウーピー・ゴールドバーグ、ゴールディ・ホーン、チルダ・スウィントンです。するとスクリーンがスルスルと上がり、スクリーンの裏から本人が登場しました。この演出にはかなり驚かされました。まさか歴代の有名女優が揃って舞台に並ぶとは!当然客席はスタンディング・オベーションとなりました。実はこの5人が今年の助演女優賞のプレゼンターです。
出演時間が少ない中で見事に役を演じきる、そして作品に厚みを持たせる。この難しい役回りをこなしたノミニーは、エイミー・アダムス(『ダウト -あるカトリック学校で-』)、マリサ・トメイ(『ザ・レスラー(原題)』)、ペネロペ・クルス(『それでも恋するバルセロナ』)、タラジ・P・ヘンソン(『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』)、ヴァイオラ・デイヴィス(『ダウト -あるカトリック学校で-』)の5名です。
エヴァ・マリー・セイントがヴァイオラ・デイヴィスを紹介、アンジェリカ・ヒューストンがペネロペ・クルスを紹介、ウーピー・ゴールドバーグは、コメディアンらしく修道女を演じることの難しさを面白くそして真面目にエイミー・アダムスを紹介しました。ゴールディ・ホーンは、タラジ・P・ヘンソンを紹介、チルダ・スウィントンは、マリサ・トメイを紹介しました。
個人的には、デビュー以来応援しているマリサ・トメイが数年ぶりにアカデミー賞に戻ってきたことに感銘を受けました。とても難しい役をこの年で見事に演じきったトメイは、デビューの頃のブルックリンなまりのヤンキーではなくしっとりとした大人の女優に変貌していました。
受賞は、ペネロペ・クルスでした。彼女は、舞台の上で45秒では足りないといいつつ、感謝したい人の名を一気に読み上げていました。そして最後にはスペイン語で挨拶をしていました。
<オリジナル脚本賞:Original screenplay>
ジャックマンが、映画を作るときの一番始めについて話し始めます。「そこにはセットもなければ役者さんもいません。画面に向かって文字を打つところから映画が始まるのです。」
プレゼンターはスティーブ・マーチンとティナ・フェイ。二人は脚本について掛け合い漫才を始めました。
ノミネートは、“Frozen River”のコートニー・ハント、 “Happy-Go-Lucky”のマイク・リー、“In Bruges”のマーティン・マクドナー、『ミルク』のダスティン・ランス・ブラック、『ウォーリー』のアンドリュー・スタントンとジム・リードンです。
ここで、各作品ごとに、映像を一部上映し実際の脚本をその映像にあてました。こういう行為は普段見ることができないので新鮮でした。映画は、セリフのない部分でもきちんと脚本に書かれていることが分かりました。そうです、脚本家というのは、ストーリーを構築して、かなり細かな部分まで脚本にト書きとして書き込んでいるのです。監督が勝手に決めていると思われる部分まできちんと脚本家が決めていることがよくわかる紹介の仕方でした。
受賞は、『ミルク』のダスティン・ランス・ブラックでした。見事な脚本を作り上げたブラックは納得の受賞です。
スピーチでは、同姓愛者のことを率直に語り、観客から盛大な拍手を受けました。これが中西部や南部アメリカで行われていたらこうはいかなかったでしょう。進歩的なハリウッドらしい気持ちの良い時間でした。
<脚色賞:Adapted screenplay>
引き続きプレゼンターはスティーブ・マーチンとティナ・フェイです。脚色賞とは、原作のある脚本賞です。原作があるかないかで、その労力はおおきく異なります。よって、アカデミーではこれら2つを分けて評価しています。
ノミネートは、『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』のエリック・ロス、『ダウト –あるカトリック学校で-』のジョン・パトリック・シャンレイ、『フロスト×ニクソン』のピーター・モーガン、『愛を読むひと』のデイヴィッド・ヘアー、『スラムドッグ$ミリオネア』のサイモン・ボフォイです。オリジナル脚本賞と同じく、実際の映像に脚本を読み上げる方式でノミネート作品が紹介されました。どれも見事な脚本です。
受賞は、『スラムドッグ$ミリオネア』のサイモン・ボフォイでした。ボフォイは、まず原作者に感謝し、その後家族やエージェント、スタッフ、キャストに感謝しました。
<長編アニメ映画賞:Best animated feature film of the year>
プレゼンターはジェニファー・アニストンとジャック・ブラックです。08年のアニメに関する映像が上映されました。
ウォーリーがビデオテープをテレビにセットすると映像が流れました。「カンフー・パンダ」「スターウォーズ:クローン・ウォーズ」「ホートン」「マダガスカル2」"Space Chimps" "Tales of Despereaux" 「ボルト」のダイジェストがテレビに映り、それをウォーリーが楽しげに見ています。最後に、ウォーリーが振り返ると、そこには、見ていたアニメのキャラが結集していました。
この映像、結構凄いです。ウォーリーを新たに動かしているのに驚きですが、最後にはクオリティの異なるキャラがきちんと1つのフレームに収まっているのです。アカデミー賞で1回だけ上映されるために作られた映像なのですが、制作会社もスタジオも異なる作品を1つに融合させるスタッフの努力に拍手です。いったいどこの制作会社が作ったのでしょう?
ノミネートは、『ボルト』、『カンフー・パンダ』、『ウォーリー』の3本です。
受賞は『ウォーリー』のアンドリュー・スタントン。納得の受賞です。圧倒的なクオリティ、素晴らしいストーリーライン、音楽、キャラクター、どれをとっても歴史に残る映画です。ピクサーは、常に保守的にならず名作を新しい技術と共に提供してくれる素晴らしい制作会社です。スタントンは、スティーブ・ジョブスに感謝の意を伝えていました。ジョブスは、ご存じの通りAppleを立ち上げ、同時にピクサーを作り上げた人です。現在闘病中のジョブスはきっとテレビでこの受賞を喜んだことでしょう。
<短編アニメ映画賞:Best animated short film>
引き続きプレゼンターはジェニファー・アニストンとジャック・ブラックです。「短編は短いから作るのが簡単だと思ったら大間違いです。短いながらきちんと情報を視聴者に伝えないと行けないのだから・・・」というわかりやすい説明がありました。
ノミネートされているのは、日本から『つみきのいえ』、“Lavatory – Lovestory”、 “Oktapodi”、 “Presto” 、 “This Way Up”。
受賞は、唯一CG作品ではない『つみきのいえ』の加藤久仁生でした。加藤さんはROBOTの社員で、ひとりでコツコツとこのアニメを作ってきました。一枚一枚手で絵を描いて15分の映像にしたのです。とても素晴らしく暖かみのある作品です。受賞の瞬間、加藤さんを見守ってきたROBOT阿部社長の嬉しそうな表情が印象的でした。儲からないのに、才能を見いだし給料を払い続けるという行為を最近の日本人の経営者は出来なくなってしまいました。会社の収入が減ると、悪くない社員をカットする無能経営者がおおいなか、阿部さんは、長い期間加藤さんを支えてここまできました。実は「おくりびと」よりも「つみきのいえ」の受賞のほうが、素晴らしいことだと私は思います。
加藤さんは、とても緊張していました。日本人訛りのスピーチの最後は「どうもありがと、MR. ROBOT」でした。
<美術賞:Art Direction>
他の映画賞ではあまり見かけない美術賞です。プレゼンターは、サラ・ジェシカ・パーカーとダニエル・グレイグです。「Sex and the City」と「007」の共演とはなんとも豪華です。
ハリウッド映画では、美術はプロダクション・デザインという部門が統括します。かつてはセットをデザインしていたのですが、近年は、ロケ場所を飾り付けたり、実際にあるものとCGを合成したり多岐にわたる作業を行います。これらは全て映画のイメージに基づき計算され生み出されます。ゴッザム・シティは、シカゴの町にCGを足して表現しています。この大規模な部門を司るスタッフに与えられるのが美術賞なのです。
ノミネートは、『チェンジリング』の美術監督ジェームス・J・ムラカミと装置ゲイリー・フェティス、『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』の美術監督ドナルド・グレアム・バートと装置のビクター・J・ゾルフォ、『ダークナイト』の美術監督ネイサン・クローリーと装置ピーター・ランドー、『ある公爵夫人の生涯』の美術監督マイケル・カーリンと装置レベッカ・アルウェイ、『レボリューショナリー・ロード/燃え尽きるまで』の美術監督クリスティー・ズィーと装置デブラ・シャット。
受賞は『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』でした。このプロデューサーはフランク・マーシャルとキャサリン・ケネディという名プロデューサーです。そして世界一細かいデビッド・フィンチャー監督と一緒に美術の仕事をするのはとても大変なはずです。厳しく監理された予算の中、妥協を許さない監督の要望に応え、さらに気の遠くなるような合成を頭に描きながらセットをデザインしたチームは、本当に素晴らしいと思います。
<衣装デザイン賞:Costume Design>
サラ・ジェシカ・パーカーとダニエル・グレイグが引き続きプレゼンターです。ハリウッド映画では、既製服を使うことはあまりありません。ほとんどの衣装は映画のイメージに合わせオリジナルで制作されるのです。毎年この部門ではコスチュームものと呼ばれる歴史映画がおおくノミネートされてきました。今年のノミネートは、『オーストラリア』のキャサリン・マーチン、『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』のジャクリーン・ウエスト、『ある公爵夫人の生涯』のマイケル・オコナー、『ミルク』のダニ・グリッカー、『レボリューショナリー・ロード/燃え尽きるまで』のアルバート・ウォルスキーです。
受賞は『ある公爵夫人の生涯』のマイケル・オコナー。やはり今年も歴史物が受賞です。
<メイクアップ賞: Make Up>
サラ・ジェシカ・パーカーとダニエル・グレイグが、まだプレゼンターを続けます。メイクアップは、かつては化粧を意味していましたが、現在ではかなり加工を施すメイクになってしまいました。よってノミネート作品も奇妙なキャラクターが登場する作品に偏ってしまいました。ノミネートは、『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』のグレッグ・キャノン、ブラッド・ピットの老けメイクはメイクとCGで見事に表現されていました。今までの映画技術ではできなかった領域まで研究開発したキャノンは歴史に名を残す偉業を成し遂げています。『ダークナイト』のジョン・ギャグリオーネとコナー・オサリバンは、漫画っぽくなるバットマンの世界をリアリティあるイメージに変更し、見事に成功しています。『ヘルボーイ/ゴールデン・アーミー』のマイク・エリザルトとトム・フロウツは、漫画の世界をうまくデフォルメして監督の意向を具現化しています。
受賞は、『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』のグレッグ・キャノンでした。
今年のアカデミー賞は、特に華やかなショーもなく淡々と進んでいきました。こういう授賞式も好感が持てます。序盤が終了し、ほぼ予想通りの受賞となっています。さて、この後どうなっていくのでしょうか。
次回も引き続き受賞作にフォーカスするのではなく、授賞式の中身に注目してレポートしようと思います。
<関連リンク>
第80回アカデミー賞授賞式 3/3
第80回アカデミー賞授賞式 2/3
第80回アカデミー賞授賞式 1/3
第79回アカデミー賞授賞式 2/2
第79回アカデミー賞授賞式 1/2
第81回アカデミー賞ノミネート発表 [映画賞・映画祭]
アカデミー賞のノミネートが発表されました。
とりあえず速報です。
◆◆作品賞・Best motion picture of the year◆◆
『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』
『フロスト×ニクソン』
『ミルク』
『愛を読むひと』
『スラムドッグ$ミリオネア』
ゴールデン・グローブ賞と同じラインナップです。「スラムドッグ$ミリオネア」が今年の賞を制するのでしょうか?
◆◆監督賞・Achievement in directing◆◆
ダニー・ボイル(『スラムドッグ$ミリオネア』)
デヴィッド・フィンチャー(『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』)
ガス・ヴァン・サント(『ミルク』)
ロン・ハワード(『フロスト×ニクソン』)
スティーヴン・ダルドリー(『愛を読むひと』)
なかなかのエントリーです。予想通りダニー・ボイルとなるのか?拘り派のフィンチャーに頑張って欲しいです。
◆◆主演男優賞・Performance by an actor in a leading role◆◆
ブラッド・ピット(『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』)
フランク・ランジェラ(『フロスト×ニクソン』)
ミッキー・ローク(『ザ・レスラー(原題)』)
リチャード・ジェンキンス(“The Visitor”)
ショーン・ペン(『ミルク』)
復活のミッキー・ロークのノミネートは嬉しいですが、ショーン・ペンが賞に一番近いようです。
◆◆主演女優賞・Performance by an actress in a leading role◆◆
アンジェリーナ・ジョリー(『チェンジリング』)
アン・ハサウェイ(『レイチェルの結婚』)
ケイト・ウィンスレット(『愛を読むひと』)
メリッサ・レオ(“Frozen River”)
メリル・ストリープ(『ダウト -あるカトリック学校で-』)
今回は、有名人が揃いました。アン・ハサウェイも賞に絡む女優さんになったのですね。
◆◆助演男優賞・Performance by an actor in a supporting role◆◆
ヒース・レジャー(『ダークナイト』)
ジョシュ・ブローリン(『ミルク』)
マイケル・シャノン(『レボリューショナリー・ロード/燃え尽きるまで』)
フィリップ・シーモア・ホフマン(『ダウト -あるカトリック学校で-』)
ロバート・ダウニーJr.(『トロピック・サンダー/史上最低の作戦』)
故人ヒース・レジャーが強そうです。ロバート・ダウニーが、「アイアンマン」ではなく「トロピック・サンダー」でノミネートというのが笑いました。確かに名演技でした。
◆◆助演女優賞・Performance by an actress in a supporting role◆◆
エイミー・アダムス(『ダウト -あるカトリック学校で-』)
マリサ・トメイ(『ザ・レスラー(原題)』)
ペネロペ・クルス(『それでも恋するバルセロナ』)
タラジ・P・ヘンソン(『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』)
ヴァイオラ・デイヴィス(『ダウト -あるカトリック学校で-』)
デビュー当時から応援してきたマリサ・トメイがエントリー。今回の演技はファンにとって複雑でしたが、受賞して欲しいものです。
◆◆優秀アニメ作品・Best animated feature film of the year◆◆
『ボルト』
『カンフー・パンダ』
『ウォーリー』
ピクサーVSディズニー。今は同じ会社ですが・・
◆◆最優秀外国語映画賞・Best foreign language film of the year◆◆
『おくりびと』(監督:滝田洋二郎/日本)
“The Baader Meinhof Complex”(監督:ウリ・エデル/ドイツ)
“The Class”(監督:ローラン・カンテ/フランス)
“Revanche”(監督:Gotz Spielmann/オーストリア)
『バシールとワルツを』(監督:アリ・フォルマン/イスラエル)
この賞は、選者の数が少ないので、もしかしたら邦画の可能性もあります。
◆◆長編ドキュメンタリー賞◆◆
“The Betrayal (Nerakhoon)”
“Encounters at the End of the World”
“The Garden”
“Man on Wire”
“Trouble the Water”
◆◆オリジナル脚本賞・Original screenplay◆◆
“Frozen River”(コートニー・ハント)
“Happy-Go-Lucky”(マイク・リー)
“In Bruges”(マーティン・マクドナー)
『ミルク』(ダスティン・ランス・ブラック)
『ウォーリー』(アンドリュー・スタントン、ジム・リードン)
◆◆脚本賞(原作あり)・Adapted screenplay◆◆
『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』(エリック・ロス)
『ダウト –あるカトリック学校で-』(ジョン・パトリック・シャンレイ)
『フロスト×ニクソン』(ピーター・モーガン)
『愛を読むひと』(デイヴィッド・ヘアー)
『スラムドッグ$ミリオネア』(サイモン・ボフォイ)
どれも名作ですね。「スラムドッグ$ミリオネア」に原作があったとは知りませんでした。
◆◆美術賞◆◆
『チェンジリング』
『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』
『ダークナイト』
“The Duchess”
『レボリューショナリー・ロード/燃え尽きるまで』
ダークナイトの美術はとても美しかったです。実写と合成に会わせた美術監督の力量が光っていました。
◆◆撮影賞◆◆
『チェンジリング』
『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』
『ダークナイト』
『愛を読むひと』
『スラムドッグ$ミリオネア』
「ベンジャミン・バトン」の合成を考えた撮影は、バイパーでのデジタル撮影です。一方「ダークナイト」は、なんとIMAXでのフィルム撮影でした。両方とんでもない後処理をしています。個人的にはこのどちらかに賞をあげたいです。
◆◆衣装デザイン賞◆◆
『オーストラリア』
『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』
“The Duchess”
『ミルク』
『レボリューショナリー・ロード/燃え尽きるまで』
◆◆編集賞◆◆
『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』
『ダークナイト』
『フロスト×ニクソン』
『ミルク』
『スラムドッグ$ミリオネア』
◆◆メイクアップ賞◆◆
『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』
『ダークナイト』
『ヘルボーイ/ゴールデン・アーミー』
「ベンジャミン・バトン」のメイクアップは見事でしたが、CGとの融合です。「ヘルボーイ」も見事なメイクでしたね。
◆◆音楽賞◆◆
『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』(Alexandre Desplat)
“Defiance”(James Newton Howard)
『ミルク』(Danny Elfman)
『スラムドッグ$ミリオネア』(A.R. Rahman)
『ウォーリー』(Thomas Newman)
◆◆歌曲賞◆◆
“Down to Earth”(『ウォーリー』)
“Jai Ho”(『スラムドッグ$ミリオネア』)
“O Saya”(『スラムドッグ$ミリオネア』)
◆◆視覚効果賞◆◆
『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』
『ダークナイト』
『アイアンマン』
3作品共に新しい映像を我々に見せてくれました。ソフトからの開発、そして撮影、合成まで素晴らしい視覚効果でした。
◆◆音響効果賞◆◆
『ダークナイト』
『アイアンマン』
『スラムドッグ$ミリオネア』
『ウォーリー』
『ウォンテッド』
個人的には、尊敬するベン・バート氏に賞を渡したいです。ベンは、「スターウォーズ」の音響を作り上げ、この部門を作った方です。
◆◆録音賞◆◆
『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』
『ダークナイト』
『スラムドッグ$ミリオネア』
『ウォーリー』
『ウォンテッド』
◆◆短編実写賞◆◆
“Auf der Strecke (On the Line)”
“Manon on the Asphalt"
“New Boy”
“The Pig”
“Spielzeugland (Toyland)”
◆◆短編ドキュメンタリー賞◆◆
“The Conscience of Nhem En”
“The Final Inch”
“Smile Pinki”
“The Witness - From the Balcony of Room 306”
スティーブン・オカザキの“The Conscience of Nhem En”が受賞できるでしょうか?
◆◆短編アニメーション賞◆◆
『つみきのいえ』
“Lavatory – Lovestory”
“Oktapodi”
“Presto”
“This Way Up”
日本員監督の『つみきのいえ』が受賞できるといいですね。
ノミネート作品の殆どの予告編とiPODダウンロードが以下のサイトで可能です。
http://www.apple.com/trailers/awards/
第66回 ゴールデングローブ賞 発表 [映画賞・映画祭]
The 66th Annual Golden Globe Awards
ゴールデン・グローブ賞が発表になりました。
とりあえず、速報をお伝えします。
★が受賞です。
◆最優秀作品賞(ドラマ)
★ 「スラムドッグ$ミリオネア」
「ベンジャミン・バトン 数奇な人生」
「フロスト×ニクソン」
「愛を読むひと」
「レボリューショナリー・ロード 燃え尽きるまで」
ダニー・ボイルが作ったインド映画が受賞です。素晴らしいストーリー・テリング。誰もが納得です。
◆最優秀作品賞(ミュージカル/コメディ)
★ 「それでも恋するバルセロナ」
「バーン・アフター・リーディング」
「Happy-Go-Lucky 」
「In Bruges 」
「マンマ・ミーア!」
◆最優秀主演男優賞(ドラマ)
★ ミッキー・ローク for 「レスラー」
レオナルド・ディカプリオ for 「レボリューショナリー・ロード 燃え尽きるまで」
フランク・ランジェラ for 「Frost/Nixon」
ショーン・ペン for 「ミルク」
ブラット・ピット for 「ベンジャミン・バトン」
ミッキー・ロークが甦りました。彼の素晴らしい演技は賞を貰えるに十分値します。
◆最優秀主演女優賞(ドラマ)
★ ケイト・ウィンスレット for「レボリューショナリー・ロード 燃え尽きるまで」
アン・ハサウェイ for 「Rachel Getting Married」
アンジェリーナ・ジョリー for 「Changeling」
メリル・ストリープ for 「ダウト-あるカトリック学校で-」
クリスティン・スコット・トーマス for 「Il y a longtemps que je t'aime」
受賞は「タイタニック」以来のディカプリオとの競演で話題になった作品です。
◆最優秀主演男優賞(ミュージカル/コメディ)
★ コリン・ファレル for 「In Bruges」
ハビエル・バルデム for 「それでも恋するバルセロナ」
ジェームス・フランコ for 「Pineapple Express」
ブレンダン・グリーソン for 「In Bruges」
ダスティン・ホフマン for 「Last Chance Harvey」
◆最優秀主演女優賞(ミュージカル/コメディ)
★ サリー・ホーキンス for 「Happy-Go-Lucky」
レベッカ・ホール for 「それでも恋するバルセロナ」
フランシス・マクドーマンド for 「バーン・アフター・リーディング」
メリル・ストリープ for 「マンマ・ミア」
エマ・トンプソン for 「Last Chance Harvey」
◆最優秀助演男優賞
★ ヒース・レジャー for 「ダークナイト」
トム・クルーズ for 「トロピック・サンダー/史上最低の作戦」
ロバート・ダウニー Jr. for 「トロピック・サンダー/史上最低の作戦」
レイフ・ファインズ for 「The Duchess」
フィリップ・シーモア・ホフマン for 「ダウト-あるカトリック学校で-」
予想通りの受賞です。素晴らしい役者を若くして亡くしてしまい残念です。
◆最優秀助演女優賞
★ ケイト・ウィンスレット for 「愛を読むひと」
エイミー・アダムス for 「ダウト-あるカトリック学校で-」
ペネロペ・クルス for 「それでも恋するバルセロナ」
バイオラ・デイビス for 「ダウト-あるカトリック学校で-」
マリッサ・トメイ for 「レスラー」
マリッサ・トメイが受賞できず、残念!
◆最優秀監督賞
★ ダニー・ボイル for 「スラムドッグ$ミリオネア」
ステェファン・ダドリー for 「愛を読むひと」
デビッド・フィンチャーr for 「ベンジャミン・バトン 数奇な人生」
ロン・ハワード for 「フロスト×ニクソン 」
サム・メンデス for 「レボリューショナリー・ロード 燃え尽きるまで」
リスキーな企画を素晴らしい作品に仕上げたボイル監督に拍手!フィンチャー残念。
◆最優秀脚本賞
★ 「スラムドッグ$ミリオネア」 : Simon Beaufoy
「ベンジャミン・バトン 数奇な人生」 : Eric Roth, Robin Swicord
「Doubt」 : John Patrick Shanley
「フロスト×ニクソン 」 : Peter Morgan
「愛を読むひと」 : David Hare
当然の受賞でしょう。こういうノンキャストの作品がきちんと評価されることは素晴らしいことですね。日本ではこんな受賞はないでしょう。
◆最優秀オリジナル・ソング
★ 「ザ・レスラー」("The Wrestler")
「ボルト」 ("I Thought I Lost You")
「Cadillac Records」 ("Once in a Lifetime")
「Gran Torino」 ("Gran Torino")
「ウォーリー」 ("Down to Earth")
◆最優秀オリジナル・スコア
★ 「スラムドッグ$ミリオネア」 : A.R. ラーマン
「Changeling」 : クリント・イーストウッド
「ベンジャミン・バトン 数奇な人生」 : アレキサンドレ・デスプラット
「Defiance」 : ジェームス・ニュートン・ハワード
「フロスト×ニクソン」 : ハンス・ジマー
◆最優秀アニメ賞
★ 「ウォーリー」
「ボルト」
「カン・フー・パンダ」
ピクサーとディズニー、似たメンバーの戦いは、はやりピクサーでした。
◆最優秀外国語映画賞
★ Vals Im Bashir
Der Baader Meinhof Komplex
Maria Larssons eviga ögonblick
Gomorra
Il y a longtemps que je t'aime
◆最優秀テレビ・シリーズ(ドラマ)
★ "Mad Men"
"Dexter"
"House M.D."
"In Treatment"
"True Blood"
◆最優秀テレビ・シリーズ(ミュージカル/コメディ)
★ "30 Rock"
"Californication"
"Entourage"
"The Office"
"Weeds"
ボーン・アルティメイタム [アメリカ映画(00s)]
The Bourne Ultimatum(2007)
紆余曲折がありながらスマッシュ・ヒットとなった「ボーン・アイデンティティー」に続き、映画的な続編となった「ボーン・スプレマシー」までもが世界的にヒットした、ボーン・シリーズの第3作を紹介します。
「ボーン・アイデンティティ」ですら、ロバート・ラドラムの原作とはストーリーが変化してしまっていたので、第2作の「ボーン・スプレマシー」は、題名こそ同じですが、映画独自の進化を遂げてしまいました。その第3作ともなると、さらにストーリーは原作から離れてしまいます。この「ボーン・アルティメイタム」は、一応の原作であるラドラムの「最後の暗殺者(原題:The Bourne Ultimatum)」と同じ題名ですが、内容はかなり異なります。
原作を無視して映画的に新たなストーリーを構築し、失敗するケースがおおいのですが、この映画「ボーン・アルティメイタム」は非常に珍しく、映画もとても良くできています。もしかしたら原作を超えるかもしれません。何故、これほどまでに優れたストーリーを作ることが出来たのでしょう。それは、第1作から続く同じチームが再び集まって映画を作っていることに要因があります。
「ボーン・アイデンティティ」を作り上げたダグ・リーマンは、今回もエクゼクティブ・プロデューサーとして、作品全体を統括しています。映画ボーン・シリーズは、リーマンのイメージが映像化されたものです。よって、彼が旗を振る限りボーン・シリーズは安泰と言えるでしょう。監督は2作目からメガホンをとるポール・グリーングラスです。独特の演出が今回も素晴らしい効果をあげています。音楽は全作担当しているジョン・ポールです。そして制作は、長年スティーブン・スピルバーグを陰で支えてきたフランク・マーシャルの会社が行っています。マーシャルは、「ボーン・アイデンティティ」の時から、リーマンとユニバーサル・スタジオの間に入り潤滑油として作品の制作を支えてきました。出演者も変わることなくシリーズを通して同じメンバーです。
同じスタッフとキャストが続編を作るのは、当たり前のように思えますが、こういう例は稀です。ほとんどの映画では何かしらの問題が起こり、誰かがプロジェクトを去ったり呼ばれなかったりするのです。しかし、ボーン・シリーズは結束が固いようで、同じメンバーが三度集結しています。
映画は、ロンドンのパインウッド・スタジオを中心に撮影されました。ロケでは、世界各地を巡り、撮影は予定通り順調に進みました。今回の撮影では、2つのエンディングが撮影されました。そして試写によって1つのエンディングを採用し、別のエンディングはお蔵入りとなりました。
映画は、当然の大ヒットです。よく錬られた脚本に、素晴らしいアクション・シーンが融合し、世界的に高い評価を得ました。欧米では、おおくの賞を受賞し、沢山の映画賞にノミネートされ、そのうちいくつかは受賞しました。
こうなると、ユニバーサル・スタジオだけでなく、ファンも続編を望むようになります。しかし、ラドラムによる一応の原作はこの作品で尽きてしまいました。
主人公ジェイソン・ボーンを演じたマット・デイモンは、2007年のカンヌ映画祭でこの第3作がシリーズの最後と発言しました。デイモンが、The Daily Showという番組に出演した際、グリーングラス監督が次回作は「The Bourne Redundancy」(余分なボーン・シリーズ)だと発言したと語りました。それほど第4作が作られる可能性が低いということを表したエピソードです。
しかし、ユニバーサルは続編を制作することを決定しており、そのことを2007年後半に発表しました。この発表に関し、2008年3月、マット・デイモンとポール・グリーングラス監督は、いろいろな問題があってまだ契約をしていないと発言し、ファンは続編がどうなってしまうのか不安になりました。きっと、またユニバーサル・スタジオとリーマンの間に何らかの衝突があったのでしょう。リーマンは面白いストーリーをまず作り、それから第4作に取りかかりたかったのではないでしょうか。あるいは、正当な原作を書いたラドラムに敬意を払うため、勝手に4作目を作りたくなかったのでしょうか。
2008年6月には、ボーン・シリーズ第4作は、フランク・マーシャルがプロデューサーを務めジョージ・ノルフィが脚本を書くとユニバーサルから発表されました。このニュースは何を意味しているのでしょう。おそらくリーマンとユニバーサルの対立は深刻化しているのではないでしょうか。そして、キャストと監督は様々なオプション契約の解釈で揉めているのではないでしょうか。
結果、ダグ・リーマンは、このシリーズから外れ、マット・デイモンやグリーングラスも続編に携わりたくないのではないでしょうか。しかし弁護士の影響でデイモンとグリーングラスは、この新作に関わらなければならないようです。
最新情報によると、デイモンとグリーングラスは、続編にクレジットされています。
ロバート・ラドラムは、ボーン・シリーズを3作書いて亡くなっています。しかし、その後エリック・ヴァン・ラストベーダーという作家によってThe Bourne Legacy "The Bourne Betrayal"と"The Bourne Sanction"The Bourne Deception という続編が4作書かれています。
第4作が、「The Bourne Betrayal」となるのか、全くのオリジナルとなるのかは現時点では不明ですが、あの素晴らしいシリーズと同じクオリティの続編が作られるのか、「ターミネーター3」のような、他人が作った愛のない駄作になってしまうのか、ファンならずともとても気になるところです。
第4作は2010年公開予定です。
<「ジェイソン・ボーン」3部作を購入>
ボーン・アイデンティティー (ユニバーサル・ザ・ベスト第8弾)
ボーン・スプレマシー
ボーン・アルティメイタム
ボーン・スプレマシー [アメリカ映画(00s)]
The Bourne Supremacy
作家ロバート・ラドラムが書いた「ジェイソン・ボーン」3部作の第2作である「殺戮のオデッセイ(The Bourne Supremacy)」(1986)をマット・デイモン主演で映像化したヒット作の裏側を紹介します。
前作「ボーン・アイデンティティー」は、紆余曲折がありながら映画は世界的にヒットし、ユニバーサル・スタジオは、続編の制作を期待しました。
監督のダグ・リーマンと脚本家のトニー・ギルロイは、この提案を受け続編のプロット作りを始めます。リーマンは、前作のプロット作りの時、ギルロイに原作を読ませませんでした。リーマンが読んで面白かった部分を口頭で伝え、その部分を膨らませて映画「ボーン・アイデンティティー」の脚本は完成していたのです。よって、ストーリーは原作から離れてしまっていました。こうなると、ラドラムが書いた続編「殺戮のオデッセイ(The Bourne Supremacy)」のストーリーは、映画の続編として成立しません。そこで、リーマンとギルロイは、題名こそ原作と同じ「ボーン・スプレマシー」としながら、映画にあわせた続編としてほぼオリジナルでストーリーを作り上げることになってしまいました。
よって、この「ボーン・スプレマシー」の原作ファンが映画を見ると、かなりストーリーが違って驚くでしょう。しかし、映画の脚本は映像としてはとても面白い完成度でした。
さて、前回のお話しの続きです。
「ボーン・アイデンティティー」の監督だったリーマンは、スタジオとのつきあいが嫌になり、今回は監督を引き受けませんでした。このあたりの裏事情は関係者が口を開かないので真意がわからないのですが、本人が自ら退いたのか、プロデューサーが監督を退けたのかはわかりません。結局、リーマンはエクゼクティブ・プロデューサーという都合の良いポジションを得ます。直接撮影現場を指揮しませんが、作品には口を出せ、映画がヒットすれば成功報酬が得られるのです。
結局監督は、ポール・グリーングラスというあまり知られていないイギリス人に決まりました。実はグリーングラスは、ドキュメンタリー・タッチの映画を撮らせると、とても素晴らしい才能を発揮する監督で、本人はこのチャンスをうまく活かそうと監督を快諾します。
そして、いよいよプロジェクトが動きだしました。キャストは、前作同様ジェイソン・ボーンにマット・デイモン、彼女のマリー役にフランカ・ポテンテ、CIAのジェイソンのトップアボットにブライアン・コックスが演じています。スタッフは、前作同様、制作会社はマーシャル・ケネディ・プロダクションです。フランク・マーシャルは、プロデューサーも務めています。撮影監督も同じくオリバー・ウッド、音楽もジョン・パウエルです。
要は、監督以外はほぼ同じメンバーで続編が作られることになったのでした。
このようなことは、時々起こります。一番わかりやすい例は「スターウォーズ」です。監督のジョージ・ルーカスは、初めの「スターウォーズ」(「スターウォーズ エピソード4」)で、監督をしました。当時SF映画というと陳腐な子供映画だと思われていたため、20世紀フォックスから呆れられ、資金援助打ち切りの危機に遭いながら苦労して完成させたのが「スターウォーズ」です。しかし業界の予想に反し映画は大ヒットします。そこですぐにフォックスは続編の製作をルーカスに依頼しました。しかし精神的に参っていたルーカスは監督を引き受けることなくエクゼクティブ・プロデューサーという肩書きを作りそこに収まったのでした。結局続編「スターウォーズ 帝国の逆襲」(「スターウォーズ エピソード5」)の監督はアーヴィン・カーシュナーが引き受けました。
ダグ・リーマンは現場の軋轢から解放され、プロデューサーという俯瞰の目で作品をとらえることが出来ました。現場は優秀なライン・プロデューサーが動き素晴らしい映像が撮影されていきました。
映画は、順調に撮影が終了し2004年7月23日に全米で公開されました。公開されるとたちまちボックスオフィスのトップに躍り出て、以後7週間もトップ10入りします。そして世界で2億7000万ドル以上の売り上げを記録してしまいました。これは前作の2倍以上の売り上げです。
スタジオは、早速さらなる続編である第3作「ボーン・アルティメイタム」の制作を要望するのでした。
<「ジェイソン・ボーン」3部作を購入>
ボーン・アイデンティティー (ユニバーサル・ザ・ベスト第8弾)
ボーン・スプレマシー
ボーン・アルティメイタム
ボーン・アイデンティティー [アメリカ映画(00s)]
The Bourne Identity
作家ロバート・ラドラムが書いた「ジェイソン・ボーン」3部作の第1作である「暗殺者(原題:The Bourne Identity)」(1980)をマット・デイモン主演で映像化したヒット作の裏側を紹介します。
劇場を運営していたロバート・ラドラムは、作家に転身する決意をし、1970年に「スカーラッチ家の遺産(原題:The Scaelatti Inheritance)」でデビューを果たします。それまで順風満帆だった人生を捨て去り作家になろうとしたラドラムは、どのような心境だったのでしょう。家族は路頭に迷うのではないかと不安になりましたが、もともと俳優をしたり劇場を営んだりしてお客さんを楽しませることが得意だった彼は、次々とヒット作を書き上げていきました。彼の書いた小説は現在までに世界で2億冊以上が売れています。
ラドラムの作品の中に「ジェイソン・ボーン」3部作というものがあります。記憶を失った男「ジェイソン・ボーン」の戦いを描くスパイアクションです。1作目は「暗殺者(原題:The Bourne Identity)」(1980)、2作目は「殺戮のオデッセイ(The Bourne Supremacy)」(1986)、3作目は「最後の暗殺者(The Bourne Ultimatum)」(1989)。このシリーズは、世界中でおおくのファンに愛されています。ラドラム死後は、別の作家によりさらに2作のシリーズ続編が書かれています。
映画監督のダグ・リーマンは、「スウィンガーズ」(1996)監督後、高校生の頃から好きだったジェイソン・ボーン・シリーズの映画化に着手しました。映像化権を持っていたワーナーブラザースと交渉し、権利を確保した後、脚本家のトニー・ギルロイと一緒に2年を費やし脚本を完成させます。リーマンは、ギルロイに原作を読まないよう頼み、リーマンがストーリーを口頭で伝え、脚本を膨らませていきました。そしてユニバーサル・スタジオが資金を拠出し撮影が開始されることになりました。公開予定は2001年9月から2002年6月の間に設定されました。
しかし、リーマンとユニバーサルの間にはおおくの問題が発生し始めました。まず、スタジオの介入を好まないリーマンは、スタジオの要求を拒否し続けました。これによりスタジオと監督の間に溝ができてしまいました。映画の内容はオリジナリティに富んでおり野心的なものでしたが、スタジオ側は小規模なアクションシーンばかりで大作には見えなかったこと、撮影が世界中に展開し制作費がかかることについても不満で、互いの理解が一致しませんでした。そんなことが続き撮影が延期されたため、制作費は当初の5200万ドルから800万ドルも増え600万ドル(約60億円)になってしまいました。公開時期も延期され悪夢がさらに長引きました。撮影終了後のポストプロダクション中に原作者のラドラムが死去してしまうという不幸もありました。
キャスティングに関して、リーマンは、ラッセル・クロウやシルベスタ・スタローンなどを考えました。この映画はアクション・シーンが重要なので、アクション経験のある俳優を捜していたのです。特にブラット・ピットに関しては具体的な交渉に入りましたが「スパイ・ゲーム」の撮影と重なり、この話はなくなりました。結果は、アクション経験のないマット・デイモンで決着します。デイモンは、主人公ジェイソン・ボーンを演じるためアクションの訓練を続け、殆どの撮影は自身で演じています。
結局映画はなんとか完成し、2002年6月にユニバーサルピクチャーズにより全米公開されます。映画の困難な制作過程とは異なり、評判は大変良く興業は成功となりました。2億ドル以上の興業収入をあげ、世界中に「ジェイソン・ボーン」が知れ渡ったのです。
この「ボーン・アイデンティティー」の制作における出来事はハリウッドでも日本の映画界でもよく起こる現象です。資金を拠出している会社の担当者が作品の中身を理解せず口を出すことはよくあります。そして、作品を実際に作る監督とクリエイティブ面に関しぶつかり、問題が勃発するのです。おおくの作品は、ここで制作が中止されるか、完成してもつまらない映画になってしまうのです。
リーマンは、この困難に妥協することなく突き進みました。そして自分の作りたかった作品を作り出しています。
スタジオが思いこんでいた「派手なアクション」がなくても十分に面白い映画ができることを本作は証明しています。そして制作費が超過しても、それ以上の利益を上げることもできたのです。
評価も良くて、利益も上がった作品が世に出ると、スタジオは急に態度を変えます。「手のひら返し」を堂々とやってのけるのです。ユニバーサルは、直ぐに続編の映画化について検討をはじめます。
そして、続編にあたる「ボーン・スプレマシー」の制作が決定、脚本開発が始まりました。
スタジオと揉めたリーマンは、この次回作を引き続き監督するのでしょうか?この続きは、次回「ボーン・スプレマシー」の回でお伝えします。
<「ジェイソン・ボーン」3部作を購入>
ボーン・アイデンティティー (ユニバーサル・ザ・ベスト第8弾)
ボーン・スプレマシー
ボーン・アルティメイタム
アイアン・マン [アメリカ映画(00s)]
Iron Man (2008)
「アイアン・マン」とは、2008年5月に全米で公開され興行収入が1億ドルを突破、大ヒットとなったアメリカン・コミックの実写映画化作品です。
この映画を語る前に、原作であるコミック版「アイアン・マン」について記しておきます。原作は、スタン・リーが中心となり1963年に漫画がマーベル・コミック社から発売されました。主人公は「アビエイター」で映画化もされた実在の人物ハワード・ヒューズです。以降、人気を博し現在も連作が続いている人気作品です。スタン・リーは、沢山のヒーロー物を創作してきましたが、「アイアン・マン」は、「ファンタスティック・フォー」「超人ハルク」と並び、彼の初期の名キャラクターです。この3つの漫画が発売された当時は、冷戦時代まっただ中で、スタン・リーはコミックに時代の問題点や不満点をうまく取り入れ、人々の共感を呼びました。
他のヒーローものとは異なり、アイアン・マンは、特殊能力を持ったり体の突然変異で不思議な力を身につけることはありません。主人公のトニー・スタークは、科学者であり自分の知識と才能でアイアン・マンのスーツを開発します。これは、アメリカン・ヒーローもののなかでは「バットマン」と並び、珍しい位置づけです。
このコミック版「アイアン・マン」は発売以来、現在に至るまで人気があり、何度もアニメ化されたりゲーム化されていきました。そして、「アベンジャーズ」という新しいコミックに中心的存在で登場します。「アベンジャーズ」とは、マーベル・コミック社の発売するそれぞれの主役たちが集まって結成した組織です。キャプテン・アメリカ、ソー、アイアン・マンの3人が中心となり悪と戦います。
「アイアン・マン」は、このように様々なメディアで人気があり、さらにヒーローの混成チームを描くコミックでも中心となって平和を守るのです。
マーベル・コミック社は、自社がケイン利を保有する「X-メン」「ハルク」「ファンタスティック・フォー」「スパイダーマン」の実写映画化を許諾し、映画はアメリカで次々とヒットしてきました。
そこで、マーベル社は自ら映画制作に乗り出すのです。第一作目は、大切なキャラクターのひとつである「アイアン・マン」。自分たちで愛すべき作品の映画化に望むことにしたのです。
時間を1990年代に戻します。
当時、まだCG技術もそれほど発達していなかった頃、そしてマーベル・コミック社のヒーローものが映画化されていなかった頃のお話です。まず1990年にユニバーサル・スタジオがステュワード・ゴードン監督で低予算映画を作ろうと映画化権を取得します。
しかしうまくいかず、1996年に20世紀フォックスが権利を買い取ります。主人公はニコラス・ケイジです。コミック好きの彼が主演をやりたいと言ったのであわてて権利を押さえました。しかし映画化まではたどり着きませんでした。するとトム・クルーズが自らプロデューサーも兼務する形で「アイアン・マン」の映画化に手を挙げてきたのです。脚本家のジェヴ・ビンターと原作者のスタン・リーは脚本開発をはじめ1999年にはクエンティン・タランティーノが監督をすしたいとアプローチしてきました。しかし契約がうまくまとまらず、混迷を極めたフォックスは、企画全体をニューライン・シネマに売ってしまいました。
2000年、「アイアン・マン」の実写映画化企画はニューラインにより別の脚本家をたて制作され、ストーリーが完成します。
さらに、2004年からはニック・カサベテス監督によりさらに新たな脚本開発が始まります。そして2006年度公開に向け新しいプロジェクトがスタートしました。しかし、またうまくいかず企画は消えてしまいました。
様々な脚本家が投入され、映像化が検討されましたが結局どの脚本もうまくいかず、スタジオは映像化の権利を保有しながら、うまく実現化できずにいたのです。こういうケースはハリウッドではよくあります。スタジオ、監督、脚本家の間には必ずエンターテイメント専門の弁護士が介在します。弁護士は企画が揉めるほど活躍し高額な給料を手にするのです。よってうまくいく話も弁護士が入ることでこじれてしまい時間がかかりうまくいかないのです。弁護士は意図的にもめ事を起こしているとは思いたくないですが、クリエイティブな考えをしない人間が介在することで話がまとまらないことはとてもおおいのです。
こんな騒動が水面下で行われている最中、DCコミックの「バットマン」がティム・バートン監督の手で映画化され大ヒットします。それを皮切りに次々とアメリカン・コミックのヒーローたちが映画化されていきました。マーベル・コミック社は、「ハルク」など映画化権を売り、コミック販売以外に映画から莫大な収入を得るようになっていきました。そして「スパイダーマン」の登場です。この映画は、スパイダーマンが大好きなサム・ライミ監督により3作品作られ、どれも大ヒットとなります。
2006年、マーベル・コミック社は自社で映画制作会社を興します。映画化の版権を売るだけではなく自分たちで映画の制作を行うことにしたのです。その会社の第一回作品を模索し、人気のある「アイアン・マン」を映画化する方向で意思統一をしました。そして、15年も揉めていた企画に決着をつけ、映画化権をスタジオから買い戻したのです。
そして、自社の力で企画開発を行います。マーベル社は、脚本段階でストーリーとアクションに注力してストーリーを作り上げました。ベトナム戦争時に捕虜となる主人公を、時代に合わせアフガニスタンで武装集団に拘束されるというように設定を変更しています。そして冷戦時代がテーマだった原作をポスト9.11の悩めるアメリカと重ね合わせることに成功しています。
俳優人は、自分が言いやすい台詞を言える権利が与えられました。俳優が一番キャラクターに近いからという理由です。そしてスタッフは映画の根幹となるストーリーとアクションに注力しており、台詞に関しては役者に任せるおおらかさがありました。
映像面では、ILM、スカイウォーカーサウンド、スタン・ウィンストン・スタジオをはじめとする素晴らしい映像クリエイターに任せました。
この結果、彼らが結束してストーリーをリアルなものにすることに成功しています。
映画は、世界的に大ヒットとなりました。そして映画の評判も総じて高く、ただのアクション映画という枠から飛び出し芸術作品としてもある評価を得ることができました。
皆さんは映画を最後まで見ましたか?エンドクレジットの後に、この作品の続編に関する情報があります。サミュエル・L・ジャクソンが、「アベンジャーズ」について話しているのです。ということは、「アイアン・マン」の続編は「アベンジャーズ」になるのでしょうか?
契約だと、メイン・キャストは3部作に出演するオプション契約を結んでいます。よって、「アイアン・マン2」「アイアン・マン3」となるのか、「アベンジャーズ」に移行するのか、両方が制作されるのか現在のところはっきりとしたことはわかりません。
発表だと、「アイアン・マン2」が2010年4月30日に、「アベンジャーズ」が2011年に全米公開予定です。このマーベル・ユニバースは、今後さらに広がっていくようです。
今宵、フィッツジェラルド劇場で [アメリカ映画(00s)]
A Prairie Home Companion (2006)
今回は、「ザ・プレイヤー」「ショート・カッツ」などで知られるロバート・アルトマン監督の遺作であり、数々の映画賞を受賞した隠れた名作を紹介します。
「プレーリー・ホーム・コンパニオン」というラジオ番組を知っていますか?
1971年に始まったバラエティ番組で、アメリカ全土で毎週土曜日の夕方5時から7時まで放送されています。司会はギャリソン・キーラーが務めていて、ミネソタ州のフィッツジェラルド劇場で収録されています。この番組の特徴は音楽で、毎回カントリーやロック歌手が登場し笑い話を含めながら歌を披露していきます。日本でもAFNで日曜日の夕方聞くことができます。日本に住むアメリカ人にとってもどこか懐かしく母国を思い出す番組となっているようです。
30年以上も同じフォーマットで続いていて、今でもアメリカ中で聞かれているこの番組。日本でいうと、タモリ司会、新宿アルタで収録されている長寿番組「笑っていいとも!」に似たラジオ・バラエティ・ショーだと思います。
この人気長寿番組「プレーリー・ホーム・コンパニオン」が映画になったのです。番組のホストであるギャリソン・キーラーが書いた脚本は、実際にある自分の番組がモチーフで、そこで繰り広げられる映画の話です。
映画では、30年以上続いた番組が終了してしまう最後の1日を描いています。長く続いてきた番組のファンにいつも通りのショーを提供しようとがんばる出演者とスタッフの姿を追いかけていきますが、番組同様、歌あり笑いありの楽しくも切ないストーリーです。
映画の出演者も豪華です。メリル・ストリープやリンジー・ローハン、ウディ・ハレルソン、トミー・リー・ジョーンズが脇を固めながら、番組ホストギャリソン・キーラー役やおおくの歌手は、本人自身が出演し演じています。
映画はもともと「Savage Love」というタイトルでした。80才になるロバート・アルトマンがこの映画を完成することができるのか不安視されたので、結局撮影には「マグノリア」「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」のポール・トーマス・アンダーソン監督が「バックアップ」監督として全ての撮影においてアルトマンを助ける役目で参加しました。
映画は2005年の夏に完成し、11月1日にニューヨークでこっそり上映されました。するとお客さんの反応がとても良かったので、ピクチャーハウスという配給会社が映画を買い取り全米での上映が決まりました。
このとき、ピクチャーハウスの社長であるボブ・バーニーは、タイトルを30年以上全米で親しまれている「A Prairie Home Companion」に変更しました。このタイトル変更に関しては、いろいろと戦いがあったのですが、結果、おおくの人に映画を認知して貰うことができ、ヒットすることになります。
日本では、番組自体の認知度が低いのでタイトルは「今宵、フィッツジェラルド劇場で」と変更され、小さな公開で終了してしまいました。
監督ロバート・アルトマンは、2005年無冠の名監督でしたがアカデミー賞から栄誉賞を受賞しました。受賞直後に本作を監督し、映画がヒットした後2006年11月20日に亡くなりました。
<今宵、フィッツジェラルド劇場で を購入>
今宵、フィッツジェラルド劇場で
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