2004-06-23
■最近話題の「批評家」ネタについて
見ているところだけで3箇所も話題にしていたから、ブログ全体ではいまきっといちばんホットなネタのひとつといって過言でないに違いあるまい。そのネタとはこれだ。
「何もしない人ほど批評家になる」@『ビジネス心理学』 by 心理カウンセラー・衛藤信之(こちらに移動した模様→http://www.blwisdom.com/psy/09/)
ぼくが目にした言及しているブログは次のみっつ。
正直、あんまり読む気がしなかったのだけれど、そこまでホットな話題とあっちゃ仕方ない。と思ったものの、それでもやっぱり読む気が起こらず、とりあえず斜めに視線を走らせてみたら、次のような文言が目にとまったのだった(あとでよく見たら、前回分の記事に対する読者からのお便りにある言葉だった)。
「マズロー」「5段階欲求説」「インディアンのお話」「変化は自分から!」
ん? おれのなかの香ばしいセンサーが激しく反応しているぞ。これ、トランスパーソナル心理学(以下トラパ)じゃないか?
センサーのお告げにしたがって、心理カウンセラー・衛藤信之氏のプロフィールに飛ぶとこう書かれていた。
南カルフォルニアで学んだ人間性中心心理学(人間を データ化せず多彩なこころの反応をそのまま捉える心理学)を基に、日常に役立つ人間関係スキルのオリジナルプログラムを開発。約15年間、日本国内でその啓蒙・普及に努める。日本で従来行なわれている理論中心の心理学に変わり、新しい切り口として実践的に学べるプログラムは、心理学をビジネス面に応用した日本初のプログラムとして評価され、現在までに数多くの企業に取り入れられており、年間約200本の企業講演・社員研修を担当、日本一企業顧問数の多い心理カウンセラーとして日本中を日夜奔走している。
ビンゴ。っちゅーか、マズローの名が出た時点でそうに決まっているのだが。「人間性(中心)心理学」と「トランスパーソナル心理学」はほとんど同義だ。マズロー含めたトランスパーソナル心理学については、この「おまえに〜(略)」でも一度触れたことがある。昨年の大晦日になんと放送大学で放映されていた講座「トランスパーソナル心理療法」についての見聞記。
トラパはニューエイジ運動から派生していて、じつはビジネスとの相性は悪くない、というかいい。それは船井幸雄の珍重のされ方を見ても想像がつくだろうし、そもそも、ニューエイジ運動のバイブルのひとつ、マリリン・ファーガソン『アクエリアン革命』(1981年)が当初はビジネス書として我が国に紹介されたという歴史的事実があったりもする(監訳は堺屋太一だ!)。『くまのプーさん』に便乗した『クマのプーさんと学ぶマネジメント』とかいったビジネス書を、アメリカの経営コンサルであるロジャー・E・アレンが何冊か出しているけれど、これも読めばわかるがバキバキのニューエイジ的な書物である。このへんについては、『ユリイカ』の「くまのプーさん特集」(2004年1月号)で取り扱ったので興味のある人はどうぞ。
「批評」がどうのにしても、トラパというのは、ものすげー大雑把にいってしまえば、
「アッチの世界で彼我の消滅するのがサイコー! エブリシング超オッケー!!」
みたいな思想なので、他者さんの作品や行為、あるいは事象への価値判断を含んだ言及であることをその定義からして逃れられない「批評」的行為は頭から否定されるであろうことは容易に想像できてしまって、意外性なんぞはビタイチこれっぱかしもないといわざるをえない。
つまり、ああ新手のこの手がまた登場したのか、という感想以上のものは持たなかった(よくまあいまだに商売として成り立つものだという感慨はあるにしても)ということで、ぶっちゃけ、この手合い全般、もはや興味を失いつつあるのだけれど、内田樹が最近、大学の講座でトラパを取り上げるとか取り上げたとかいっていたことはちょっと気になっていたりする。
どういう意味で「面白い話だ」といっているのかわからないので何ともいえないところではある。が、内田樹の見識は基本的に信頼しているとはいえ、ここんとこ田口ランディと懇意だったりして予断を許さないところがないとも言い切れない懸念が少し。
■リンク追加
- 「よーく考えよー、この辺地雷だよー」地雷犬氏(我がリンクを受けての追記。上の記事で面倒くさいもんだから大雑把に「同じだ」といってしまった「人間性心理学」と「トラパ心理学」をキチンと腑分けしている)
- 「トラパ」id:hizzz氏(via id:hotsuma氏。人間性心理学とニューエイジのバームクーヘンとしてのトラパ)
- http://d.hatena.ne.jp/http?//www.sw.nec.co.jp/biz_psy/09.html(衛藤信之「何もしない人ほど批評家になる」に言及しているはてなダイアリー。おおすげー数だ。ホットなネタだと判断したおれの眼力に狂いはなかった(笑))
yskszk
2004/06/23 20:51
http://d.hatena.ne.jp/http?//www.sw.nec.co.jp/biz_psy/09.html を調べると、世の中にはアレを読んで素直に感動しているひとが多いのに気づかされます。あと内田氏の言動は、たまーにビミョーなことがありますよね、たしかに。
ykurihara
2004/06/24 06:07
まあ素直に感動したり我が身を振り返ったりする人が多いことはべつに不思議じゃないんですけどね。そういう人がつねに一定のマスいるからこそ、精神世界や自己啓発本の類はいまもむかしも売れまくっており、衛藤某氏のようなカウンセラー商売もなりたつわけですから。ただ、最近になればなるほど、そういうものに対するチェックの敷居がどんどん下がってきている気がしてそれがちょっと不気味。取り立ててやり口が巧妙になったということもないようなんだけど(むしろシンプルになっているような)。■内田氏はねえ、どうなんでしょう。「ランディさんはレヴィナスを知らないのにレヴィナスの本質を理解している!」とかどっかで書いてましたっけ。まあサービス・トークだとは思いますが、それにしても……。
bmp
2004/06/25 13:42
自己啓発ならいいんですけどねぇ。最近流行なのは、システム的な反射・反動を利用して他者を動かすための他我啓発って感じがして。なんかまるで、パブロフの犬のようで、悲しくなる。
ykurihara
2004/06/28 01:38
『奇跡の詩人』騒動っていうのがあったでしょう。あのときに、何かが大きくシフトした感じを受けたんですよね。受け手はもちろん、メディアとかも。パブロフ反射というより、積極的に騙されに行ってねーか、みたいな。