四十一服目 怪氣学園S(17)
「ッ!?」
美彩が敵によって拉致されたのとほぼ同時刻。
カノア達の戦いの支援のために、警備員の許可を取った上で、特殊なガスマスクを被り、別ルートから清雲高校を探索していた柳瀬一美は違和感を覚えた。
彼女はすぐに、周囲を確認する。
しかし周りは、カノアの敵である売人が放った煙草の煙が、窓が開いているのに未だに充満しているだけで……他に変化はない。
「どうかしましたか、一美先輩?」
おそらく車椅子から伝わる振動で、一美の動揺が伝わったのだろう。
夕月に代わり一美の車椅子を押している、同じガスマスクを被った後輩の女性が訊ねた。
「一瞬だけ……周囲の空気が変わりました。もしかするとカノアちゃんの方で、何かが起きたのかもしれません」
「それは大変だ」
そんな彼女達の背後で、一人の男性が声を上げた。
彼女達に同行しつつ、時々、廊下の壁に特殊な蛍光インクで、あまり目立たない程度の大きさの目印を描いていた……同じくガスマスクを被った中塚教授だ。
不完全ながらも、吸った者に特殊能力を目覚めさせかねない上に、中毒性がある煙が充満した廊下なのだ。ガスマスクを被るだけではなく、煙草の煙の影響で方向感覚が狂わされ、侵入ルートが分からなくなった場合に備え、一応マーキングしているのである。
彼は新たに一つ目印を描き終えると、すぐに彼女達と向かい合いこう言った。
「しかし我々には……どうにもできん。煙草関連の事件は煙術師がカタを付ける、というのが彼らのルールだ。下手に我々が介入すれば、彼らのプライドを踏み躙る事になる。それに、外来の霊媒師関連の事件に、日本の霊媒師が下手に関わると、その地の霊的エネルギーバランスが狂う場合がある。我々にできるのはせいぜい、彼女らが倒した敵の回収と、敵の拠点となっている部屋を探す事だけだ」
※
「美彩ァァァァ――――ッッッッ!!!!」
戦いが始まって、どれだけ時間が経っただろうか。
未だに捜しに行く事ができない、親友の手を取る事ができなかった璃奈の焦りの声が、紫煙が充満する廊下に響き渡る。するとそんな彼女が隙だらけだと判断したのか、残った売人達が一斉に璃奈へと殺到する。
「璃奈!!」
「シロギャル!!」
慌てて霧彦とカノアが、彼女を守るべく駆け付ける。
売人達の首へとカノアがラリアットを叩き付ける。霧彦は売人の手を掴み、売人自身の力を利用して……他の売人達の方へとその売人を投げ付ける。
「美彩!! どこ行ったんだ!!? 美彩!!」
しかし璃奈は、二人の奮闘に気付かない。美彩のその手を取れなかった後悔が、徐々に冷静さを失わせ……さらに奥に進もうとしてしまう。
「璃奈!! 落ち着け!!」
だがすんでのところで、霧彦は璃奈の腕を掴んだ。
おかげで璃奈まで、煙に紛れてどこかへと行ってしまう事は防げた。
「霧彦!! 止めんじゃねぇよ!!」
しかし璃奈は、落ち着いてなどいられなかった。
親友を連れ去られたのだから、冷静になれなくて当然ではある。
だが今は、今だけは冷静でいなければ……助けられる者も助けられない。
「璃奈、お前の気持ちも分かる。でも、一人で行ったら絶対ダメだ」
悔しさのあまり顔を歪ませながら、霧彦は璃奈を説得する。
「璃奈が行った先に、どんな罠が待ち構えているか分からない。だから、行動するならみんな一緒だ。けど、その前に……俺達で美彩くんを助けるためにも、ここにいる敵を無力化しよう。それに、中には美彩くんの居場所を知っているヤツもいるかもしれない。無力化しておいて損はないッ」
「シロギャル!!」
そしてカノアも、敵を次々と撃破しながら叫んだ。
「ワシも命を懸けて、シロギャル二号を救い出す!! だから頼む!! 今はワシらと一緒に戦ってほしいのじゃ!!」
「…………チッ。分かったよ」
二人の熱意を受け、璃奈は渋々承諾した。
「全員ブチのめしたら……こいつらの尋問に協力しろよなッ!!!!」
そして璃奈は、戦闘を再開した。
いつ終わるかも分からない、売人達との戦闘を。
数々の想いが交錯する、果ての見えない……悲しき聖戦を。