四十八服目 怪氣学園S(24)
一人の少女がいた。
まだ世界の全てを知らない頃の……馬鹿みたいに、世界は希望と可能性に満ちていると信じて疑わなかった少女が。
誰かが困っている時は。
誰かが必ず手を差し伸べる。
この世に悪は存在すれど。
必ずや正義の味方によって倒される。
それが常識であると思っていた……一人の少女が。
だが、ハイスクールに入る前。
彼女は煙術師の才能を見いだされ……煙術師の後方支援の役目を負っていた両親とは違い、祖父と同じ煙術師である師と、兄弟子と共に、この世の穢れや、不完全なる煙草を根絶する役目を負う事になり、世界を回る旅に出た彼女は思い知る。
この世には、確かに正義はある。
だがだからと言って、それに相反する存在は悪ではなく、別の観点から見た正義であると。
吐き気を催す邪悪――倒す事に躊躇いが要らない存在も、確かに存在するが、別の観点の正義の方が圧倒的に多く、それ故に彼女は、どちらかを切り捨てなければ穢れを浄化できない、もしくは、不完全なる煙草を根絶できない場面に、師弟共々遭遇した時、大いなる決断を迫られ……その度に苦悩も、後悔もした。
しかし、旅は続けねばならなかった。
この世界に存在する穢れや、不完全なる煙草、そして、それらが引き起こす悲劇を止められるのは、それを認識できる霊媒師である自分達だけだから。
だから彼女は、己の中に芽生えた悲しみをひた隠し、ただただ師匠達のやり方を模倣した。
しかしだからと言って、そんな彼女に救いがまったくないワケではなかった。
穢れや、その原因の一つである不完全なる煙草を根絶した後にあった……その地域の、普通の生活ができるようになった者達の笑顔。
それが、ほんの一時でも見れた瞬間、彼女は、自分達がやっている事は正しいのだと実感し。そしてその笑顔を守るために、これから先、どれだけ辛い戦いが待ち受けていようとも、ひたすらに前に進もうと……決意する事ができた。
そして……数年後。
ついに彼女は、一人前の煙術師となるためには避けて通れない最終試練『幻視の儀』を受ける日を迎えた。
だがどういうワケだか……彼女の記憶は、そこで一度途切れた。
※
『幻視の儀』を経た後。
彼女は一人前の煙術師として、世界中を一人で回っていた。
時には、世界中の霊媒師仲間の自宅などを拠点にしながらも。
時には、現地の人間に協力してもらいながらも……かつて、師匠と兄弟子の二人と旅をして回った時のように。
――この世全ての穢れを浄化する。
――この世全ての不完全なる煙草を根絶する。
煙術師としての、それらの使命のため。
そして、彼女自身が新たに掲げた使命――。
――世界から笑顔を奪う原因を、一つでも多く根絶する。
それを、成し遂げるためだけに。
しかし、いくら大いなる使命を持っていようとも……彼女にできる事は限られていた。
事件を起こすのはヒトで。そしてヒトの心はどこまでも難解で。そして時には、彼女の予想を遥かに超える事象を引き起こす。そして、それを読み解けるのは……その原因に最も近い位置にいるヒトだけだった。
だから彼女は。できる事ならば、被害を最低限に抑えるため、一人で事件を解決したかった彼女は……決断するしかなかった。
先祖の霊や、自分の勘によって選んだ人材を……事情を話し、自分達の協力者として事件に関わらせ……危険に巻き込む事を。
そしてその代わりに彼女は、自分にできる範囲で、全力で協力者を守っていた。
けれどその協力者達は、一人の例外もなく……彼女自身の力不足のために大きな被害を被った。時には見殺しにしてしまう事もあった。
そして、その度に、彼女はさらに苦悩を、後悔をする。
だが、その彼女が選んだ協力者は、巻き込んだ彼女に対し……一切恨み言を言わなかった。
彼女が選んだ人が、それなりに人格者だったというのもある。
けれどそれ以上に……彼らは、危険を承知で彼女に協力したのだ。
相応の覚悟を持って、自分が選んだ道を進んだ末の結果なのだ。
だから彼らに、後悔はなかった。寧ろ、自分達が生まれ育った場所を守るための一助になれた事に、誇りを持ってさえ――。