七十九服目 Play Back(25)
「師匠、どういう事ですか!? 自首するだなんて!」
なんとか相手の少年が一命を取り留め、専属医師が試合会場へと戻った後。
ケガ人用のベッドが備えられた小部屋の中で眠る、相手の少年を横目に、私は師に改めて訊ねた。
「自首するとは言ってない。自首を考えると言ったんだ」
「ほとんど同じじゃないですか!」
師の屁理屈に、私は反論した。
「ボスのボディガードになるんじゃないんですか!? その後継に、私を指名してくれるんじゃないんですか!? 一緒に裏社会を生きてくれるんじゃ――」
「メイサ、お前……このまま道を進んでいいのか悩んでるだろ」
私の口は、師のその指摘を前に閉じた。
ま、まさか師は……私の悩みに気付いていたとでも言うんですか!?
「図星だろ。どれだけ一緒にいると思ってやがるんだ。さすがに今じゃお前の悩みくらい察する事はできるぞ」
「…………師匠、私は……」
まさか、バレていたとは……下手をすれば、私に道を示してくれた師を怒らせる事が。でも、師が怒っている様子はなかった。それどころか悩んでいるような顔のままこう続けた。
「分かってる。何も言うな。お前は、格闘技自体を好きになって、これからもその道を進みたいと思い始めているんだろ? 確かに、ボディガードという道も魅力的ではあるが……だからと言って弟子の道を歪める気はない。弟子の背を押すのも、師の役目だしな」
「で、ですが……それだと組織を裏切る事になるんじゃ!?」
「その辺も気にするな」
私の事を理解していた師は、動じた様子もなく話を続けた。
「アメリカには便利な制度があってな。それさえ弁護士を通じて受けられれば組織から逃げる事は容易い。まぁ俺の場合は、司法取引などをしても、ある程度の期間はブタ箱入りかもしれないがな」
「べ、弁護士の話はそこで繋がって……? って、というか師匠も組織を抜ける気ですか……? な、なんでそこまで!?」
「俺はな、確かにこのガキの言う通り犯罪者だが」
そう言いつつ、師は少年を見た。
「それ以前に、男なんだよ。そして同じ男であるこのクソガキと約束し……あんな感じでその覚悟を実証されたんだ。ここで約束を破っちゃ男じゃない。それにな」
少し間を置いて、師は言った。
「俺も格闘技は好きだが、麻薬にそこまで興味はない。だから抜けたところで問題はない。たとえ組織を抜けても、整形なりなんなりして組織から逃げおおせて、俺の事を知らない連中がいる場所で成功してやるまでだ。だからお前も遠慮せずに夢を追いかけろ」
「………………師匠……」
なんというか。
師が私の背中を押してくれるとは思わなかった。
言っている事の中には無茶苦茶なところもあるけれど……それでも、私は、師に味方してもらえて、とても嬉しくなった。
この人の弟子で、良かったと……心の奥底から思った。
そして、師の本音を引き出すキッカケになった【ミスター・メシカ】。
現在、私達のそばにあるベッドで横になっている少年には感謝しかない。
ありがとう。
君のおかげで、私は……。