八十二服目 Play Back(28)
まさかの予想外の状況になったため、私は驚き……メイサにかけていた固め技を思わず緩めていた。もしかすると、その隙を突いてメイサが反撃してくるかもしれなかったが……その彼女も何が起こったのか理解できず、唖然としていた。
突然会場の壁に穴が空き、この国の警官と、会場内の警備をしていたと思われる大柄な男が複数人、会場内に雪崩れ込む。
いったい何が起きたのか。
そして私達はどうするべきなのか……分からない。
「カノアちゃーん!! 逃げるぞぉー!!」
するとその時だった。
なんと、会場の関係者以外立ち入り禁止のドアの中から爺ちゃんが飛び出し……って爺ちゃん!? 本名言っちゃ覆面つけてる意味がないよね!?
「まったく、この国の警察の中にもいるんじゃのぉ。己の出世欲のためだけに計画を前倒しにする馬鹿がッ」
爺ちゃんは本気で怒りながら、私とメイサがいる球形金網リングへと近付くと、すぐに出入り口を開けてくれた。
「この大会の主催者スコーピオとその幹部クラスを無力化したはいいが、突入するのは大会が終わってからにしろとあれほど口を酸っぱくして言ったじゃろうにッ。お年寄りだからとナメくさりおってッ。確かに会場内には、違法薬物の売買をしておる輩も大勢いて、この段階で突入して一網打尽にできれば大手柄だとは思うが、余計な被害者が出る可能性もあるじゃろうがッ」
「…………え、な、何言ってるの爺ちゃん!?」
何だか分からないけど、不穏な感じをにおわせる単語がいくつか出たような!?
「とにかく一度逃げて、態勢を立て直してからワシはワシの弟子と共に突入する! カノアちゃんはワシと一緒にとにかく逃げるッ。反論は認めんッ」
そして爺ちゃんは、私をリング内から引きずり出すと、そのまま脇に抱えて……この場から撤退した!!
※
「な、に……今の、おじいさん……?」
スコーピオ? た、確か私が現在所属している麻薬組織のボスの友人で、この大会の主催者。なんであのおじいさんの口から出て……? それに、無力化? どういう事? まさか捕まったの? 捕まえられたの、あのおじいさんに? じゃあ、この事態は……あのおじいさんによって引き起こされたの?
私の……私の、記念すべきデビュー戦で……。
「メイサ!! しっかりしろメイサ!!」
するとその時、師が私に呼びかけてきた。
「くそっ!! よりにもよって警察が会場の周りを包囲してやがる上にスコーピオの部下共と乱戦状態だ!! しかもスコーピオの部下共、妙な薬使って異様に強くなってやがるぞ!! ワケが分からん!! とにかく予定変更!! このまま警察の所まで逃げて匿ってもらうぞ!!」
「……は、はいっ!」
そう言われて、私はすぐにリングから出た。
会場内は警察と警備の連中の戦闘によって混乱状態だ。マトモに進めるような状況じゃない。逃げ場なんて……どこにもない。
「チッ! こうなったらリング内の方が安全……いや、同じような事を考える観客もいたもんだ。もうギュウギュウ詰めかよクソッタレ!」
金網リングへ戻ろうとして視線を向ければ、そこは既に満員。絶望的な状況だ。
「こうなったら人が少ない所を見つけてジッとして――」
しかし、師は言葉を最後まで紡げなかった。
その師の胸元に、一発の弾丸が命中したからだ。