八服目 葬霊教室
――…………ワたシを、喚ンだノハ誰だ?
昨日の夜。
非公式集団『民俗学同好会』は二年A組へと忍び込んだ。
ちなみにドアなどに細工をして入ったのではない。民俗学同好会の先輩達が数年前に見つけた、古い換気口を経由して入ったのだ。
そこは、民俗学同好会が定期的に、こっそりと綺麗にしていた事もあり、初めてその通路を知り、いざ入る時になっても、聖麗奈は抵抗を覚えなかった。未知なる世界を探検しているかのような気分に浸れていた事も、その要因だった。
そして今年最初の同好会の活動――今年の新入会員の歓迎会も兼ねた通過儀礼として、新入会員の一人である聖麗奈が所属する教室で、オカルトな儀式が執り行われた時……その声は聞こえた。
今まで霊的存在を認識する事はできても、その声が聞こえた事は一度もなかった聖麗奈は、これまで抱いた事のない気持ちをその時抱いた。
自分は今、限られた存在しか踏み込んだ事のない、未知なる領域へと踏み込んでいる……そんな優越感が、本来なら恐怖を感じなければおかしい彼女を支配する。脳内で脳内麻薬がドバドバと、大量に分泌され多幸感が溢れる。自然と動悸が早くなり、身体が火照る。儀式の前に飲んだ謎の液体――同好会の会長によれば、人をトランス状態に導く、歴代の会長のみがその製法を教わるという魔法の薬や、室内に充満する、同じくトランス状態に導く作用があるというお香のせいもあるだろうか。彼女は今まで感じた事がないほど気持ちが高ぶっていた。思えば、この霊感のせいで友達はできなかった。むしろイジメの対象にされて、霊的存在を感じる以上にそれが苦痛となり、この同好会に出会うまで、さらに暗い性格に――。
――…………ォまエ、ぁタしに……。
しかしそんな多幸感は、長く続かなかった。
――…………ぁらダ、よコせェ……!!
「…………え?」
気づいた時には、その存在に目をつけられていた。
そしてその事に、聖麗奈よりも早く気づいた先輩達は……霊的存在が干渉する前に儀式を中断し――。
※
――しかし、その霊的存在は諦めていなかった。
早朝はわざと、できる限りおとなしくして機を待ち聖麗奈を油断させ……そして憑依は成功した。
その霊的存在は、思った通りだ、と歓喜した。聖麗奈の肉体、そして精神が己と徐々に、確実に同期しつつあるのを感じていた。まるで入るべき場所に、入るべきモノが入ったかのようにすんなりと彼女の魂と同化し……その存在は己の能力を、最大出力で炸裂させた。机と椅子のみならず、生徒達や先生までもが吹き飛ばされ……気絶した。
「ふは、ははは……アハハハハハハハハハハハハハハッッッッ!!!!!!!!」
二年A組に、聖麗奈に取り憑いた存在の狂ったような嗤い声が響く。
「学校なんて、壊して壊して壊して壊して壊して……とにかく、ぶち壊して――」
「なるほどのォ。学校に怨みを持つ存在じゃったか」
だがその存在の言葉は、その場で聞くハズのない声が聞こえた事で中断された。
反射的に、聖麗奈に取り憑いた存在は声のした方へと振り向いた。するとそこにいたのは……ようやく駆けつけたカノアだった。
「じゃが、取り憑いて早々悪いが――」
慌てて、聖麗奈に取り憑いた存在は臨戦態勢をとった。
しかし遅い。カノアは移動の最中にすでに〝仕事道具〟を手にしていた。
「――我がシンエンに、委ねよ」
※
競歩の要領で移動していた霧彦は、隣の教室の異変を見て目を疑った。
教室内の惨状のせいもあるだろう。しかしそれ以上に、その教室に……白い煙が充満していたからだ。
そして、それを見た霧彦は…………煙の正体を一瞬で看破した。
「な、なんで教室内でッ!?」
慌てて二年A組の中へと入る。
途端に室内で圧縮されていた煙が廊下へと流れ出す。そしてそのニオイを嗅いだ瞬間、彼は確信した。
「んん? …………むっ!? ふ、風紀委員!?」
煙を放つモノの正体を。そしてこのような状況の中で、唯一まともに動けているカノアこそ……最有力な容疑者だと。
「……クロードくん、ちょっとポケットの中のモノを出しなさい」
教室内に充満している煙を浴びながら、霧彦はカノアに右手を差し出した。
カノアは目を泳がせた。しかし最終的に、彼が発する圧力に負け、彼女はおとなしく中のモノを差し出した。
――小型のパイプ煙草だった。
二代前の会長「フフフフ。この魔法の薬、ヤ○サーに売れば高く買ってくれそうね♪」