4.ダンジョンの顔なじみ
ここ「試練のダンジョン」の五階層にゃ知り合いがいる。……いや、正確に言うと、五階層に住み着いてるやつと知り合いになったんだが。
『ほぉ……久々に顔を見せたのは、そういうわけじゃったか』
「あぁ。爺さんは何か気付かなかったか?」
『気付かなんだのぉ……来ておらんのではないか?』
「この階層に下りて来て、爺さんの目を逃れられるほどの連中じゃねぇしな。……しかし、別れてから結構時間が経ってるんだが?」
あの小僧どもが行っちまってから、結構時間が経っている。本当なら、とっくにこの階層に辿り着いてなきゃおかしいんだが。
『上の階層で迷うておるのではないか? 道案内も斥候スキルも無い駆け出しなら、そこまで不思議でもあるまいよ』
「……それもそうか。んじゃ、折角来たんだし、取引といくか」
『おぉ、その言葉を待っておったぞ。こんな場所に引き籠もっておると、娑婆の品は手に入りにくいでのぉ……』
「ま、爺さんの事情なら仕方ねぇだろう。何しろ……」
『ふむ、何しろこの身はリッチじゃでのぉ』
――そう。さっきから言ってる知り合いってなぁ、このダンジョンに住み着いたリッチの爺さんの事だ。俺にゃあケイツって名告ってるけどな。
爺さんの台詞にもあったとおり、ダンジョン内では手に入りにくい品物なんかを、俺が手配して持ち込んでるわけだな。例を挙げると、塩・海産物・新鮮な農作物・酒や煙草などの嗜好品・刃物や実験器具・素材や薬品なんかだな。結構な大荷物になるんで、運搬用にマジックバッグを借りて使ってる。勿論、こんな取引を表沙汰にするわけにゃいかねぇから、俺がマジックバッグを持ってるって事ぁ秘密にしてる。品物もあちこちで少しずつ買うようにして、人目に付かないようにしてるわけだ。これでも結構気を遣ってんだぜ?
……あ、大荷物って言葉で思い出した。
あの小僧ども……最初は自分たちの荷物を、俺に運ばせようとしてやがった。こちとら身軽が身上の斥候なんだ。荷物運び代わりにされて堪るかよ。〝下賤なコソ泥風情が、皆様方の大事なお荷物をお預かりしていいんですかぃ?〟――って言ってやったら、嫌そうな顔で引き下がりやがったけどな。
まぁ、その件はもぅいいやな。どうせあいつらとはこれっきりなんだ。
「……そらよ、頼まれてた酒と煙草、干し魚に……鉛と砂だ。鉛は品質までは責任持てねぇぜ? あと、砂は近場の川砂を浚ってきたんだが……これでいいか?」
『ふむ……鉛の品質は気にせずともよい。砂は……思ったより珪砂が少ないが、代わりに長石が多いようじゃな。これはこれで使えるから構わん。じゃが、次には別の砂を持って来てくれんか』
「そう言われてもなぁ……遠出が必要になるから、いつまでとは請け合えねぇぜ?」
『構わんとも。この哀れな年寄りには、お主がただ一つの伝手なんじゃからな。文句なぞ言ったら罰が当たるわ』
「けっ、哀れな年寄りが聞いて呆れらぁ。歴戦のリッチのくせしてよ」
『ふふふ……支払いじゃが、いつものポーションでよいかの?』
「あぁ。俺の方こそ、爺さんが唯一の手蔓なわけだからな。文句を言ったら罰が当たらぁ」
対価として俺がケイツの爺さんから頂戴するなぁ、所謂〝聖魔法ポーション〟ってやつだ。本来なら教会の神官とかから手に入れるんだが、俺はそいつをケイツ爺さんから手に入れている。一種の裏技みてぇなもんなんだが……
「……ったくよ、聖魔法の攻撃を態と喰らってから、闇魔法で神聖成分を取り出してポーションに仕立てるなんざ、後にも先にも聞いた事が無ぇぜ」
『ふふふ……ちょっと姿を見せてやるだけで、青二才ども、泡を喰って光魔法……お主の言う聖魔法とやらを連発しおる。儂にとっては美味しい話じゃて』
適当にあしらった後で見逃してやってるらしい。〝貴重な資金源は大事にせねばな〟――と、爺さん嘯いてたっけな。
『その「勇者パーティ」とやらが五階層に下りて来れば、さぞや「聖女」とやらが良い仕事をしてくれたじゃろうにのぅ……世の中上手くいかんもんじゃ。万事が交喙の嘴と食い違ぅておる』
……それは俺も見てみたかった……
『おぉそうじゃ、忘れておった。先だって上の階を見廻った時、侵入者の遺品らしきものがあったので拾っておいた』
「ん? 冒険者の遺品か? 爺さんにしちゃ珍しいな」
リッチのケイツ爺さんにとっちゃ、チンケな冒険者のシケた装備品なんざ、ゴミみてぇなもんだろうがよ。
『お主と同じ盗賊職の者のようじゃったからな。使えるのではないかと思っての』
「そいつぁどうも……おぃ、爺さん……こいつぁ……」
ケイツの爺さんが取り出した帯留め鞄――「賢者」のやつに言わせると「ウェストポーチ」っていうらしい――の中には、結構大きな魔石が入っていた。それも……
「……爺さん……これって、ここのフロアボスの魔石だよな?」
『うむ、紛う方無き双面獣の魔石じゃな』
フロアボスってなぁダンジョンが召喚する魔物だから、今は新しい双面獣がボス部屋にいるんだろうが……
あ、双面獣って知らねぇか? 二足歩行するでっけぇ化物でよ、でっけぇ口を前後に二つ持ってやがんのよ。棍棒とか斧とかの武器を扱えるだけの器用さがあるし、前にも後ろにも自在に動ける、おまけに魔法耐性が滅法高いっていう、厄介な化物なのよ。
……「賢者」のやつは、自分がデザインしたんだとか何とか言ってたが……さすがに冗談だよな? ……二口女がどうとかとも言ってたが……まぁ、それはいいか。
「……爺さん、これって四階層で拾ったのか?」
『うむ、その短剣やら何やらと一緒にな。見たところ、屍体が吸収された直後という感じじゃった』
「装備品は一人分だけか?」
『他にはおらなんだようじゃな。何らかの理由で、それを携えた一人だけが四階層まで逃れて、そこで力尽きたという感じじゃった』
……盗んだものを抱えて逃げ損なったって事も考えられなかぁ無ぇが……パーティが全滅して、生き残った一人だけが魔石を届けようとして力尽きた……そういう風にも取れるんだよな。
……何しろ、この「双面獣の魔石」ってなぁ、今回あの小僧どもが引き受けた依頼品なんだが……先に依頼したパーティがしくじったらしいとも聞いてたし……
「爺さん、これは俺が預かって構わねぇのか?」
『あぁ。儂が持っておっても仕方がないしの』
「すまねぇな。今度来る時に対価を上乗せして持ってくるわ」
『おぉ、そうしてもらえると有り難いの』