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それは雄名なる騎士団の - (ふっ)掛け売り【大勝負】⑤
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(ふっ)掛け売り【大勝負】⑤


 壁際に設えられた灯火台につぎつぎに火が灯っていく。

 それは、裏を返せばこの天井裏が日常的に使われていることを意味しており、自体がおぞましい予測を裏付けるものであったが、いまはこれに構っている暇はない。

 順不同で火が灯るたび、火影に男たちの奇面が浮かびあがった。例外なく手には物騒なものを携えている。


「! くそ······ッ、こないだの傭兵たちかッ!」


 一気に押し寄せんとする手前側通路の者らに睨みを利かすため、ユオルも剣を抜く。

 ジャノは舌打ちをするともう後には構わず、目の前にひらけた無人の回廊をつき抜け、尖塔への階段を駆け昇らんとした。


「がッ!?」


 入口にとび込んで幾段か足をかけたまでは良かった。が、途上強烈に弾かれ、たまらずゴロゴロと転げ落ちる。

 さいわい勢いは弱く傷は負わなかった筈が、胸のあたりを押さえて顔を顰めている。



「驚いたぜ。たいした馬鹿だなテメェは。ジャノぉ」



 ノシノシと段を踏みしめながら姿を現したのは、あの意地の悪そうな傭兵頭の大男だ。


「念の為、なんてモンデラッセも肝が小せぇと思ったが。ありがてぇぜ。思ったよりもはやく夜通しの見張りから解放される······」


舌なめずりをしながらスラリと剣を抜く。



「おまけにジャノ! テメェをブチ殺せるんだからなあッ!!」


「······ッ」


「手え出すなお前ら! コイツは俺が直に殺る。テメェらはその小僧をやれ!!」


 傭兵頭は宣言して、構えをとるジャノに傲慢な笑みを向けた。



「······モンデラッセめ。──いけッ!!」


ジャノは腹を括った。背後を固めていたユオルへ叫びかける。



「恨みっこなしだろう! 行けッ!!」


「──ウォォォオオオッッ!!」



 ユオルも意を決し目前に迫っていた男と剣を交える。


 くっそ、固い! ボヤボヤしてられないんだぞッ、囲まれる!!










 これは──死んだな······


 とてつもなく詰まった永い一瞬の間、彼女は逃れ得ない死を意識した。

 二度目の死。怖くないと言えば嘘になるが。なによりロプサーヌやユオルらを残して逝くとなれば、あの世で──実存するかはさすがに知らないが──どれだけ悔いることか。

 今生にも執着すべき理由はいくらでもあるし、なにより面白そうな連中と面白そうな目的(こと)に、特異な才をもって関わっているというのに、このまま独り抜けは(わび)しすぎる。

 けれど、それももう後の祭り。

 相手は躊躇いなくこちらの腰へ刃をぶち込んでくるだろう。それでお終い······



「──おっと、動かないで下さいよ。お嬢さん」



 いやに場にそぐわぬ軽妙な声が聞こえた。

 いつまで待っても体に痛みはこない。

 正面の女をみる。と、驚きに目を見張っているのが知れた。


 ふ、とマイシャは息をつく。

 振り向かすとも伝わっている。背後にある気配ががっちりと動きを固められていることを。そして何より、この気配(ニオイ)


「捜したよ、坊様」


 ニコラは背後からもうひとりの女の腕をがっちりと固めつつ、痩せ我慢の笑みを漏らした。


「いらぬ手間を掛けさせてしまいました。──これ、無謀はよくないですよ? いま貴女の首筋に当たっている刃は、身の内にいれば劇毒と化しますから」


不可思議な術で、両腕の塞がっているにも関わらず宙に浮いて首筋に留まった刃が、チクリと肌を刺す。もうひとりの女刺客は苦々しげに美しい眉をうねらせる。


「──」


 だがそれも一時のことだった。彼女らはその必要を待つことはしかった。奥歯を噛み締めた、と思った直後、呻いて倒れこむ。と同時、ニコラが抑えていた女の身体からも力が抜け、床へ崩れ落ちる。

 念の為確認してみると、確かにふたりとも事切れていた。


「しくじったら自死······か。ここまでお約束(テンプレ)とはね」


 さすがに間近(ナマ)でみては寝覚めも悪い。

 マイシャは軽口で(うそぶ)きながらも青ざめた表情でこの様を見下ろした。捕らえればロプスとカーラの居所を洗いざらい吐いてくれぬかと思ったが······やはり甘かったか。


「仕方ありません。ただの悪趣味な貴族の(ボン)かと思っていたが、予想以上に厄介な手合いを飼っているようです」


 悔いるように呟き、亡き者のために祈りを捧げたニコラが腰をあげた。覚束ない足取りに慌てて支えてやると、



「ッ、アンタ。額っ、切れてるじゃんっ」


「······ええ。ちょっと無茶しました。けれど、今は······」



 どう言っても留まる気はないらしい。これは無駄かと、マイシャはニコラを支えつつ、本邸側へととって返すことにした。



 それにしても、妙だ。


「何がです」


「気配がね。消えないんだよね」


 あのふたり以外の気配は依然としてあり、あれほどの騒ぎを我知らずと、相も変わらず上下の別なく漂っている。ふむ、とニコラはすこし間を置いて応えた。


「ならば触ってみたらどうです?」

「は?」


訝しい思いが声に出てしまった。

 まあ良い。マイシャは脇にあった気配へぞんざいに手を伸ばす。気配は抗う様子もみせず、するりと突っ込んだ手は気配をすり抜けたうえ、おまけにヒンヤリとする。


「ちょッ!」


夜気とは別種の寒気に、ギョッとして手を引っ込めた。


「······これって······まさか?」


「······かもしれません。古城には()き物、と言いますしね」


「······私を使って確かめるの止めてくんない? こいういのはニコラ君の領分っしょ」


「まあまあ。転生者(われわれ)とは同胞のようなものでしょう? それに生臭坊主にはちと荷が重すぎます」


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