初の公式戦でサイキッカー兄弟の狙い
初の公式戦の会場へ、桜見サッカー部が到着。
地区予選のせいか、あまり大きな会場ではなく観客達の数も少ない。
「──お客さんあんまり入ってないねー」
「地区予選は大体こんなもんよ? 有名どころみたいに沢山の観客が入って来る所ってのはもっと先の方だし」
周囲を見てみれば何人かのギャラリーは見えるが寂しいなと、与一は辺りを見回す。
去年地区予選を戦ってる楽斗からすれば当たり前の光景だ。
初の公式戦としては華々しい舞台、とまでは行かない。
「ま、勝ち進み続ければ大きなステージへ行けるはずだからさ。初戦ちゃっちゃと勝っちゃおうよ♪」
「おい輝羅、油断すんなよ? 思わぬ所で足元すくわれるとか充分あり得るしさ」
「大丈夫だってー」
相手を甘く見ていて油断してそうな輝羅に竜斗は注意するが本人は陽気に笑い、大丈夫だと言い切る。
「(相手の方が、それ以上に浮かれてる感じするし)」
竜斗が視線を向ける先には、アップで動き回る対戦中学、深山田中学の姿が見えていた。
「(初の公式戦! マネージャー格好良い所撮ってくれてるかなぁ〜?)
「(目立ったら皆が俺の事を見てくれそう? そこから運命の相手とか出来たりして!)」
アップの動きが全然なってない事に加えて心でも出場した記念とか、そういう事を考え本気で勝利を目指す者がいない。
ハッキリ言って負ける要素が無かった。
「この試合、景気良く勝とうよ! ねっ!?」
「わっ!? か、勝つよ……勿論……」
輝羅は影二へと後ろから両肩に手を置いて声を掛ける。
それにビックリしながらも影二は返事を返す。
『(与一、今回はちょっと試してみない?)」』
『(試すって何をするのさー?)』
輝羅は与一とテレパシーで会話を行う。
『(何時もより積極に、サイドの彼らを使ってく)』
『(サイドっていうとー……)』
視線を向けると、そこには桜見の両サイドハーフを務める左の室岡、右の霧林の走っている姿が見えた。
長髪の黒髪をアップにして纒める2年の室岡康介。
緑髪の短髪が3年の霧林聡。
彼らを積極的に活躍させて自信を持たせた方が良いだろうと、輝羅は考えている。
長丁場の大会、鋭い動きをするサイドプレーヤーが1人、2人は欲しい。
『(桜見って中央は結構強いんだ。でもサイドにちょっと物足りない所があるから、此処は彼らも強くなってほしいんだよ)』
『(確かにまぁ〜、強いサイド攻撃が出来る、出来ないじゃ天と地ぐらい違いあるだろうからねー)』
やがて与一の方は輝羅の言葉で、納得したように頷いていた。
現代サッカーにおいてサイドプレーヤーの存在は非常に重要であり、控えも含めて数名いれば理想的。
公式戦という場で彼らを動かして経験と自信を付けさせたい。
双子は密かに打ち合わせを進めていく。
「初戦、しっかり勝ってくぞ!」
桜見が円陣を組むと、竜斗は皆へ声を掛けて意気込む。
「桜見ファイ!」
「「オー!!」」
最後に竜斗の掛け声から皆が揃え、ポジションに散って行った。
ピィ────
桜見の先攻で主審の笛が試合開始の合図を告げる。
センターサークルに立つ竜斗から軽く球に触れると、側に立つ楽斗が後ろへ戻す。
「(遅いなぁ)」
与一から見て、相手の選手が寄せに来る速さは、王坂と比べて明らかに遅い。
あまり動きも連係が感じられず、パスを出す時間は充分にあった。
「左ハーフGO!」
「!」
ゴールマウスを守る輝羅から左の室岡へ走るようにと、大きく声を出して伝える。
それと同時にボールを持つ与一が左の室岡を走らせようと右足でパスを送った。
輝羅の声を聞いて走っていた室岡は与一の左スペースに出されたボールへ追いつき、そのままドリブルで左サイドを突き進む。
左足で高くボールを相手ゴール前へ蹴り出すと、それに合わせて竜斗が芝生を蹴って跳躍。
あまり高さの無い相手DFより頭1つ高い位置からヘディングで合わせる。
叩きつけられたボールは地面をバウンドしながらゴールへ向かい、相手GKは触れる事が出来ずゴールマウスへ吸い込まれた。
「ナイスクロスー!」
与一は得点して楽斗とハイタッチを交わす竜斗よりも、クロスを上げた室岡の方を褒める。
「先輩もナイスボールー!」
室岡はこれに右手親指を立てて応え、先輩からのパスに感謝を忘れない。
「1点じゃ足りないよー! どんどん行こうー!」
「たりめーだ! 2点、3点を取ってくぞ!」
1点取って満足しないようにと輝羅からの言葉に続き、竜斗は手を叩いて得点直後のチームメイトを引き締めさせていく。
相手の攻撃は、それなりに上手さはあるが同好会レベルの中で上手いというくらい。
深山田の反撃も影二がこっそり忍び寄って難なくボールを奪う。
「右ハーフGO!」
「っと!?」
すかさず輝羅の口から今度は右の霧林を走らせる指示が飛び出していた。
霧林の方は聞いてから反転して前へ走る。
「ヤミー右!」
与一からのコーチングも飛び出し、影二は左足で霧林のサイドにパス。
これが通れば室岡と同じく前を向いていた。
自分の前には深山田の選手2人、立ち塞がるのを見て無理せずにパスを出すかと頭が過ぎる。
「(いや、これくらいの相手なら自力で!)」
だが、霧林は自分で行く事を決めて減速せずにスピードが乗ったドリブルで、鮮やかに2人抜きを達成。
ゴール前の竜斗へ目を向けると、深山田のDFが彼へのマークに集中している。
霧林は彼を見たまま右足でパスを出す。
ボールはゴール前の竜斗ではなく、それより中央の外を走る楽斗へ出されていた。
右からの球を胸で受けて楽斗は、やや遠い位置から左足でボールを蹴り放つ。
思い切ったミドルシュートが深山田のゴールマウスへ迫り、ゴール右に飛ぶ球にGKが両手を伸ばすも届かない。
今日2度目のゴールネットが揺れた時、楽斗は右拳を握り締めてのガッツポーズ。
「キリー!良いドリブルー!輝いてたよー♪」
「お、おう。そんな輝いてたか俺?」
与一はアシストした霧林のプレーを褒めると、本人は満更でもないような顔を見せる。
得点の陰に隠れて双子は両サイドを積極的に使い、上手く機能させれば自信を持たせていく。
「おい室岡、どうやら今日は俺達の日っぽいぞ。どんどん行くか!」
「はい!」
霧林が室岡の肩を組んで今回は自分達で暴れてやろうと、すっかりその気になっていた。
桜見は益々勢いに乗り、次々と得点を重ねていく。
「うーん、皆調子良さそうね!」
遊子は好調なチームを見て満足そうに頷いていた。
その横でタブレットを持つ神奈は、じぃっと試合を無言で見続ける。
「(せめて……1点でも返したい……!)」
相当な差を付けられ、逆転は無理だと思いながらも1点を返す為に深山田の選手達は攻勢に出た。
「やらないよ、1点も」
「!?」
次の瞬間、肌が風を受けたのを感じたと共に足元の球が無くなっている事に気づく。
与一が目にも止まらぬ速さで相手が動作を行う前に奪い取って、その横を通り過ぎていたのだ。
そこから与一がボールを高く蹴り出すと主審の笛が鳴り響く。
試合終了の笛、桜見が10ー0の完勝で2回戦進出を決める。
「今日は結構、両サイドが張り切ってたな」
「張り切り過ぎて次の試合ガス欠、なんていうのは勘弁してくれよー?」
「大丈夫だって! 次も行ける行ける!」
「そうですよ、疲れてませんから!」
快勝で良い雰囲気となっているチーム、その中で与一と輝羅の元に神奈が駆け寄る。
「攻撃のほとんどがキャプテンと副キャプテンによるもので攻撃パターンがちょっと単調だった」
「あー、まぁ確かにパターンはもう少し欲しいかなぁ」
「このレベルには充分通じるけど全国クラスだと封じて来ると思うよー」
神奈は今日の試合の得点パターンを記録し、竜斗と楽斗によるゴールが多いと攻撃のバリエーションが不足してる事を指摘。
それは双子の兄達も気づき、上のレベルには効かないだろうなと思っている。
「もう少しパターン増やしたい所だけど……」
「それなら一つ行けそうじゃないかなー?」
「うん、彼なら多分──」
与一と輝羅にはその心当たりがあるようで、彼らの目は1人ドリンクを飲む影二へと向けられていた。
神明寺兄妹が桜見を最強クラスのチームにする為、暗躍していく。
桜見10ー0深山田
赤羽6
鈴本2
霧林1
オウンゴール
マン・オブ・ザ・マッチ
赤羽竜斗
与一「とりあえず初戦は大勝だねー♪」
輝羅「まー、ぶっちゃけ相手は弱小だったから当たり前の結果になったけどー」
与一「地区予選は楽勝かなー?」
輝羅「次回は僕達の戦いを見る、ライバルチーム現る!?」