関東大会決勝戦 桜見VS石立2
『桜見は開始から、まさかのアクシデント! 左サイド2年の室岡が石立の米沢と交錯した事で負傷したようです』
『これは桜見にとって苦しい立ち上がりとなりましたね。左利きのサイドプレーヤーは貴重ですし、再交代で回復してプレーが可能なら良いのですが……』
審判から選手交代が認められ、室岡が担架で運ばれる姿に会場がざわめいてる所へ、若葉が代わって決勝のフィールドに立つ。
「今のファールでしょ!? 何かラフプレーっぽかったし!」
「ちょ、高見先生! 駄目ですって!」
教え子が傷ついて向こうにカードも何も無し、というのが遊子は納得出来なくて主審にカードを出せと要求。
それを見た神奈や海東達は、審判へ詰め寄る遊子を止めていた。
「落ち着いてください先生、審判が判断したから判定は変わらないと思います。向こうもわざとやった訳じゃないかと」
「でもぉ〜!」
納得いかなそうな遊子を1年の神奈が落ち着かせるのを見ると、どっちが顧問でマネージャーなのか分からなかった。
「ん?」
「あ、な、何でもないっす! どうぞお気になさらず〜!」
主審が気づいて桜見のベンチを見ると、海東は遊子の事が無かったかのように笑って誤魔化す。
『桜見は同じ2年同士の交代となります、室岡に代わって倉本が登場!』
『彼は桜見のスーパーサブですね。まさかこんな早く出番が来るとは彼も想定外かもしれません』
「此処、どう行こうかなぁ? 若葉にボールを回して慣れさせるか、一気にロングスローで狙うか……」
プレーが止まってる合間を利用して、桜見はスローインからの再開でどうやって攻めようか、話し合っている。
楽斗が考え込んで方法を言っていくと──
「ロングスローなら僕、やります!」
「ワカバがー?」
小柄な若葉がロングスローをやると言い出し、与一は彼の心を覗き込めば本当に自信があると分かった。
見た目では腕力で豪快に飛ばす感じは無い。
「……とりあえずうちってロングスローやってないから、奇襲には良いと思うよ……」
「あいつらの寄せの速さを考えると、そっちの方が効果的っぽいな。行くか」
影二はロングスローで行く事に賛成らしく、竜斗のゴーサインも出て作戦は確定。
『交代したばかりの倉本がスローインを投げるようです。おっと? かなり助走を取って、これはロングスローでしょうか?』
『倉本君がロングスローを投げたというデータはありませんが、どういうボールを投げてくるんでしょうかね?』
「(桜見がロングスロー?)」
「(そう見せかけてのフェイントで何時も通りの近くか?)」
石立も桜見のデータは無論、調べて試合に臨んでいるがロングスローに関してのデータは一切無い。
ゴール前には長身の竜斗、大橋が上がって可能性を漂わせている。
次の瞬間、皆が若葉の動きに注目した。
両手で持ったままダッシュかと思えば、地面を叩くようにボールを置いて下にした状態から倒立。
勢いで前方へ回転して勢いをつけると、若葉はボールを思いっきり放り投げる。
『うぉっと!? これは、ハンドスプリングスローだ!』
珍しいアクロバティックな投げ方に、会場から歓声が上がるだけでなく石立も一瞬動きが止まった。
ボールは石立ゴール前まで伸びていき、竜斗がタイミングよくジャンプして額で合わせる。
『赤羽ヘディングー! GK登山弾く!』
下に叩きつけられ、跳ね上がる球に登山は両掌へ当てて弾き返す。
転がった球を桜見の選手が取る前に、石立DF川村がクリア。
「攻めろぉ! 左空いてるぞ!」
登山の目には桜見の霧林と西村が上がったままで、片方のサイドはガラ空きとなっている光景が見えた。
それはボールを受けた海斗も理解しており、当然の如く左サイドの新二へ出す。
「(進ませない……!)」
「うわぁ!?」
新二からすれば急に人影が出現したと驚いてしまい、影二が空いているサイドをカバーして独走を許さなかった。
「新二! 戻せ!」
今のは海斗も影二の姿を見つけられず、1度パスを出した相手へ戻すように要求する。
「はい、もらいっとー♪」
「っ!」
海斗の前に与一がパスコースへ飛び込み、カットに成功。
『この折り返しを読んでいたのか、神明寺与一がインターセプト!』
『良い読みしてますね。やはり血は争えないといった所でしょうか』
「(出させるか!)」
素早く守備へ意識を切り替えると、海斗は与一へ迫って彼のパスを防ぎに向かう。
此処までの試合、与一がボールを持てば特に大事な局面でゴールやアシストを決めている。
彼へ接近した時。
ヒュンッ
「(消えた!?)」
突然、与一が目の前から姿を消してしまうと海斗は驚愕する。
消えた訳ではなく、与一はターンによって海斗の背後へ回っただけで、それが死角となって消えたように思わせていた。
『与一、華麗なターンを見せてから大きく左サイドへ!』
他の選手達が寄せる間を与えず、それを上回るプレースピードで与一は右足のパスを左の若葉へ送る。
「(まだ向こうの守備陣が戸惑ったままだから!)」
今の石立DFがバタついていると判断し、若葉は与一からのボールを受けると自らドリブルで左サイドを駆け上がる。
『倉本、羽川を突破して突き進む!』
目の前に立ち塞がる羽川を右から抜くと見せかけ、向いていた向きから逆方向へ体を向けて、一気に突き進む。
ボディフェイントで相手を騙し、左ライン際を若葉は上がっていた。
「(赤羽先輩に!)」
竜斗のゴール前へ走り込んでいる姿が見えて、若葉は左足でボールを送る。
シュート並の強めなパスだ。
『ゴール前へクロス!米沢弾く!』
若葉のパスが届く前に米沢が立ち塞がり、低めの球を右足で蹴り返していた。
「くっ!?」
楽斗が跳躍して頭で落とそうとするが、それよりも海斗が高くジャンプする事で先に届く。
『社から笹田、右の村木新一へ大きく出す!』
「宮村そのまま中央! 無理に飛び込むな新田!」
輝羅のコーチングがDFを纒め、大きな崩れは起こさせない。
「出せ! 左!」
石立キャプテンの海斗も声を出して指示を送り、新一は逆サイドを走る弟の新二へ、サイドチェンジとなるボールを出した。
「キリー! 行ったよー!」
「任せろって!」
新二より前に出ると身長で勝る霧林がヘディングで弾き、タッチラインに出して流れを一度切る。
「立て直しだ! もう1回!」
海斗は通らなかった事を気にするなと、チームメイト達へ声を掛けていた。
そこへ忍び寄る小さな影。
「君ってスルーパス自慢なんだよねー?」
「……?」
突然、与一が海斗の前に現れて彼の顔を見上げると、笑顔を見せている。
「出させてあげてもいいよ?」
「!?」
すると与一の口から、まるで手抜きして自分にスルーパスをわざとさせるような事を言い出した。
手抜きで見せ場を故意に作られるのは、海斗のプライドを傷つけられているも同然。
与一を見る目が厳しい物へと変わっていく。
「そうじゃなきゃ活躍出来ないもんねぇ、天才クン?」
ニヤッと不敵に笑った後に与一は海斗から離れていった。
「(こんな煽りまで得意なのか、神明寺っていうのは……)」
海斗の口元は笑っている。
しかし、次第に握られた右拳は震えだす。
「(だとしたら……やる相手間違えたよなぁ、クソガキお兄さん!?)」
額に血管が浮き上がって与一に明確な怒りを抱くと、絶対思い知らせて泣かす事を決めた。
それが容赦の無い与一の策略で、心を揺さぶって自滅の道を歩かせると気づかないまま……。
竜斗「何かあいつ、滅茶苦茶怒ってるみたいだけど何かあったのか?」
与一「さぁ〜、プレーが上手くいかなくてイライラしてるんじゃないー? 嫌だねー、短気な男っていうのはー」
楽斗「ま、粘り強く守ってて良い感じだよなー」
輝羅「(誰も気づいてないなー。ま、そう計算してやってるけどね)」
与一「さあさあ、今回は僕が言っちゃうよー! 次回も桜見と石立の試合で、向こうのキャプテンが崩れそうだねー♪」
竜斗「確認だけど俺達って主役側だよな?」
楽斗「与一がめっちゃ悪役な感じするよー!?」