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「すまん、急ぎ全員集合してくれ!」
夕方前、普段なら紅茶でも飲むような時間。
アゼル兄が戻ってきて緊急招集を掛けた。
かなり疲れているように見える。
やはり、衛兵の皆を納得させるのは難しかったのか?
「まず、衛兵の面々には説明と謝罪をしてきた。
父上に話しても対処してもらえなかったと言われたよ。
でも俺たちで見つけて確認したことを評価してくれた。
そして、今衛兵の中でも偵察が得意な者たちにアルクたちを探らせている。
そこからの連絡あり次第あいつらを捕まえる」
おぉ、衛兵の皆さんを味方にできたんですね!
最悪領主側からの指示を無視する可能性があったことを考えると一歩前進だね。
「で、マーニ、ニフェール、アムル。
突撃する際に一緒に来てくれ。
当然俺も参加するが、ジーピン家がこの領地を守ることを印象付けときたい」
あー、下がりまくった信用をここで取り戻すってことですね。
確かに指揮官が後ろにいるより前に出た方が部下の士気が手っ取り早く上がる。
そう授業で習った記憶がある。
ちゃんと勉強しておいてよかった。
「おぅ、構わんよ」
軽いノリでマーニ兄が答え、
「了解です」
あっさり僕が返事する。
「え、僕も行っていいんですか?」
アムルはこういう時前に出さなかったからなぁ。
そりゃ不安になるだろう。
アゼル兄がアムルに近づき、頭を撫で視線を合わせ一言。
「ちょっとアムルの力が借りたいんだ。
どうか、手を貸してもらえないか?」
「……っ、はい!」
……あれ?
アムルがアゼル兄にフラッときてる?
( チ ラ ッ )
……カールラ姉様、ロッティ姉様。
兄弟のそういう雰囲気も好きなんですね。
あ、いや、回答は不要です。
聞きたくないし、知りたくないんで。
さて、一つ確認しとかないとな。
「アゼル兄、確認。
うちら四人で突撃することで衛兵の皆さんの信頼を取り戻るのは分かった。
アルクたちを叩きのめした後、どうするつもり?」
「それはどういう罰を与えるかという意味であってるかな?」
僕がコクッと頷くと、にっこりと笑顔(個人の感想です)で答えてくれた。
ん、こりゃベル兄様が怯えるわ。
「現時点での罪から取り合えず牢屋にぶち込むことはできる。
大した期間じゃないかもしれんがね。
ただ、今日ニフェールが教えてくれた雑貨屋の娘の件。
こちらはまだ精査できていないからその内容によっては鉱山行きかな」
まぁ、そんなとこかな。
コクッと頷くとアゼル兄は父上、母上に指示をだす。
「父上、母上はカールラ達を守ってやって欲しい」
「あぁ、任せろ、こっちは気にしないで暴れてきな」
母上の男前な発言と同時に、父上が空気を読まない発言をぶちかます。
「なぁ、儂行っちゃダメなのか?」
兄弟四人が一斉に黙り父上に目を向ける。
父上も四兄弟から一斉に冷たい視線を浴びるとは想像もしてなかったのだろう。
数呼吸睨んだ後、アゼル兄が懇切丁寧に追い詰め始めた。
「父上、今衛兵の中では父上はろくでもない評価を受けております。
『仕事放棄』、『犯罪者の味方』、『国家への裏切り』。
そんな単語が飛び交う状態で父上を連れて行ったらどうなると思います?
衛兵たちが一斉に離反する可能性がありますよ?」
父上は驚いているようですが、なぜ驚くのでしょう?
それだけアルクたちを野放しにしたことを衛兵さんたちが怒っているんですよ?
「今もこの領地を守ってくれる衛兵たちが離反することは避けたいのです。
なので、今回父上は家を守ってください」
落ち込んでますけど、自業自得ですからね?
とりあえず父上を放置し戦闘準備を行う。
皆好みの武装をした結果、何とも統一性のない恰好になってしまった。
あ、武装内容は後ほど。
準備をしていると衛兵の一人が報告にやって来た。
あぁ、父上を見て舌打ちしないの!
「アゼル様、雑貨屋の親父がお話したいことがある――」
「アゼル様!
ニフェールのぼっちゃんから聞いてるかもしれませんが、アルクの件です!」
「――とやって来たのですが、って、ちょっと待てっつっただろ!
落ち着け!」
おっちゃん、暴走すんな!
衛兵も落ち着け!
……仕方ない、割り込むか。
「おっちゃん、落ち着けよ。
アゼル兄には説明したからちゃんと伝わってるよ」
「おぉ、ニフェールのぼっちゃん!
アルクたちが実家に戻っていないようなんです!」
「え?」
「アルクたちの実家に文句言いに行ったんですよ!
そしたら、あいつらは最近帰ってきていない。
何してるのかも分からないと言われて。
アイツらの親御さんも混乱しているようなので嘘ではなさそうですが……。
とりあえず報告に参りました!」
兄さんたちと顔を見合わせ各自思考の海に入る。
アイツら、完全に犯罪者にクラスチェンジしようと考えてないか?
そんなことを考えていると、マーニ兄が衛兵さんに指示を出す。
「今の領地で人の住んで無い家はどれくらいある?」
衛兵さんはアゼル兄に視線を送り、頷いたのを見て答える。
「街中で三件、後は小屋というレベルが数ヶ所ですね。
小屋の方は畑仕事をしている者たちが使ってますね」
マーニ兄が頷き、アゼル兄に合図すると、
「偵察の面々に今の情報を渡してきてくれ。
空き家のどれかに隠れている可能性がある」
衛兵さんは急ぎ通達しに走っていった。
僕は残った雑貨屋のおっちゃんに少し質問する。
「最近おっちゃんの娘さん以外にアイツらからコナかけられている娘っている?
それと、最近見知らぬ輩を見たこと無い?」
おっちゃんが記憶を探る間、アゼル兄が質問の意図を聞いてくる。
「ニフェール、何を知りたがっている?」
「アイツらが犯罪を犯すとしてどんな犯罪かなって。
完全に犯罪者に堕ちてたら、この領地からいなくなるんじゃない?
そしてその前に金を奪っていくのかなって思ったんだ」
アゼル兄が頷くのを見て続きを話す。
「まずありそうなのが強盗、誘拐、強姦、殺人、詐欺あたり?
詐欺はそこまで都合のいい情報を持っているとは思えない。
それに、この領地でアイツらを信じてくれる人はほぼいないと思う」
「まぁ、そうだな」
「殺人、強盗、強姦は実行しやすいけど一生国から追われる。
となると誘拐かなって」
「誘拐も同じく国から追われるだろう?」
「うん、ただ一つ条件が付くと追われることは無くなるかなって」
皆がよく分かってない顔をしていた……と思ったら三人ほど気づいた人がいた。
カールラ姉様、ロッティ姉様、そしてラーミルさん。
母上の名が挙がらなかったのはソッチ方面の考えが及ばない?
いや、当人には言えませんけどね。
「ねぇ、ニフェールちゃん?
まさか、駆け落ち?」
「カールラ姉様、大正解!
アイツらは既に雑貨屋の娘さんと結婚すると嘘をバラまいている。
その話を現実っぽくする方法が『駆け落ち』」
唖然とする男性陣、やっぱりと頷く女性陣。
「別に親御さんと話し合う必要は無い。
夜中にこっそり家に侵入し娘さんを攫って二度とこの街に近づかない。
事前に結婚しようと思っている情報は流している。
なら周りはどう思うか?」
皆が顔を青くしている所に情報を追加する。
「多分『親に反対されたから駆け落ちした』あたりかな。
駆け落ちを犯罪とは扱わないだろうから、国から追われることも無い」
「待て、誘拐して何をする?
ハッキリ言って逃げるには女性は邪魔だろ?」
マーニ兄、忘れてるよ。
僕はもう一つ聞いたよね?
「さっきの見知らぬ輩が問題。
そいつらが商人のふりして誘拐された女性を他の場所に持っていくとか?
そして娼館なりゲスい金持ちに売るとかやりようはあると思う」
アッと気づく男性陣。
皆が唖然とするアゼル兄が一番早く動き始めた。
「雑貨屋、街の噂でお前の娘のようにアルクたちと結婚話を噂された者は?」
「は、はい、後は鍛冶屋の娘が言われてます。
ちなみに、年はニフェールぼっちゃんの一つ上ですね」
うっわぁ、嫌な予想が当たっちゃったよ。
できれば外れて欲しかった……。
「衛兵、見知らぬ輩は?」
「食糧を得るために商人二組が数日来てました。
とはいえ、どちらもこの地で商売をしていないはずです。
多分ここで小休止して次の領地に向かうのかと思ってました」
「そいつらは既に出て行ったか?
それともまだ?」
「昨日出て行きましたね。
一方は王都方面へ、もう一方はジャーヴィン領方面でした」
こっちも当たっちゃうの?
それも二組いたの?
勘弁してくれよ!
どうやって対処しようか頭を捻っていると、マーニ兄から提案が。
「なぁ、分からないなら聞けばいいんじゃね?」
「は?
聞くって誰にだ?」
アゼル兄の苛立った問い。
それに対していやらしい(当人は優しいつもり?)笑顔でマーニ兄が答える。
「今回やらかしてる奴――アルクだったか?
アイツらさっさと捕まえて、聞きだしゃいい。
誘拐が追加されるかはともかく、犯罪自体は犯しているんだろ?
なら一番知ってそうなアイツらに吐かせるのが簡単じゃね?」
あっ! そっか、そりゃそうだ。
「ニフェール、いいところまでいってると思うけどちょっと考えすぎたな」
ええ、本当にそうですね、マーニ兄。
オッシャルトオリデス。
「ちなみに、偵察に行った者たちからの連絡は?」
「まだだ、もう少し待っ――」
「失礼します!」
おや、衛兵? どうした?
「容疑者たちの居場所が判明しました!
畑近くの小屋の一つをアジトとして使っていたようです!」
「何をしていたかとかは分かったか?」
「宴会してました。
ただし話を聞く限り、今日でこの街からいなくなるらしいです。
思い出話に花を咲かせていたのと、酒はほとんど飲んでいないようです」
うっわぁ、誘拐ルート確定かな?
アゼル兄に視線を送ると、頷き外に向かう。
「マーニ、ニフェール、アムル、いくぞ!
初めての四兄弟の戦いだ!」
……あ、そういえば、今までアムルは参加させてなかった。
確かに初めてだわ。
チ ラ ッ
ああ、アムル。
スキップしそうな位に喜んでいるのが分かる。
幻覚かもしれないけど尻尾振っているワンコにしか見えない。
まぁ、楽しそうならいっか。
衛兵に連れられて該当の小屋に向かう。
荷物置き場として使っているはずなのに明かりが灯っている。
アゼル兄から手招きされて作戦タイム。
「あの小屋に裏口は?」
「ありません」
「窓から出るとかは?」
「かなり大変ですけど小さな体格――アムル様くらい――なら何とか」
「では向かう――」
アゼル兄に割り込んで僕は発言する。
「ちょっと待って、攻撃時に顔を殴るのは止めておいて」
「なぜ?」
「先ほど話した見知らぬ者とアルクたちが組んでいる場合の話。
一方だけ確保してもダメじゃない?」
「……アルクたちを顔だけでも無傷で確保して餌にするってか?
そして、そこから裏にいる者たちもまとめてひっ捕らえる?」
「そうそう」
ちょっと考えて溜息を付くアゼル兄。
「久しぶりに大剣振り回せると思ったのに……」
「え、アゼル兄の大剣ダメなら俺の鎌なんてアウトじゃん!」
マーニ兄、個人の趣味より仕事を優先してください。
僕も自分の武器である双剣を外す。
「アムルはそのままでいいからな?
あ、一応手加減はしとけよ?」
アゼル兄の説明に嬉しそうに頷くアムル。
まぁ、君は格闘メインなので籠手くらいしか着けませんしね。
「さて、衛兵たちは小屋を取り囲んでくれ。
合図があり次第突撃する」
少し待つと合図があったので、まずはこっそり小屋の入口まで移動する。
盗み聞きすると、アルクたちの声が聞こえる。
「おい、そろそろ行くか?」
「ん~、まだ早くね?
月の位置からしてもう少し待たないと。
親父さんたちが起きてたらすべて水の泡だぞ?」
あ~、やっぱり。
「全く、そんな慌てなくていいんだぞ?
引渡し前に皆で二人を犯すんだろ?
今から先走ってどうするよ」
「アルクったら既に先走り液出まくってんじゃね?」
大笑いするアルクたち。
強姦と誘拐が確定した瞬間だった。
まぁ、未遂にさせるがね。
視線とボディランゲージで兄たちと会話する。
(アゼル:俺が扉開けて直進するから)
(マーニ:んじゃ、次俺入って左側行くわ)
(ニフェール:僕右側ね。アムルは僕の後に)
(アムル:開けたら即突撃ですね!)
……後日皆でこの件の失敗した点を考えた。
よほど慣れてない限り言葉なしでの意思疎通はやるべきでは無いと思う。
ただ、この時は誰も認識のずれに気づいていなかった。
最後にアゼル兄が頷き――
――意思統一されたと皆が勘違いし――
――そしてアゼル兄が扉を開いた。