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「で、どうする?
ジャーヴィン侯爵家に連なる者としての意見は?」
アゼル兄がカールラ姉様に聞いてくるけど……消す一択じゃね?
ジャーヴィン侯爵領では何もできなかったんだから。
「そうね、とりあえず父へ連絡するだけにしておくわ。
個人的には本拠地も潰したいけど、そこは父に任せるとしましょ」
「なら、こいつら処しておしまいだな。
流石に今日はやりたくないから、明日以降にしようか」
まぁ、今日は領主の結婚報告。
そんな祝祭の日に罪人の処罰というのは避けたいしね。
「お、おい、嘘だろ?
まさか殺さないよな?!」
なぁ、お前らなぜ殺されないと思ったの?
殺す以外の選択肢無いし……。
皆も呆れている。
「なんで殺さないと思ったの?」
「だって、誘拐未遂ごときで……」
「国でトップレベルの重要人物――大公の娘――の誘拐だよ?
許されるわけないじゃない?
王都に運んだらもっと面倒……拷問の上火炙りだろうからなぁ。
それよりは楽じゃないかな?
さっさと殺すだけだし」
現実を教えてあげると発狂せんばかりに騒ぎ出した。
元気だねぇ、そんなに騒げて。
でも、騒いでも結論は変わらないんだよなぁ。
「衛兵たちよ、とりあえずこいつは牢に閉じ込めておいてくれ。
明日以降、時間取ってさっさと殺して埋めるぞ」
「かしこまりました。
今のうちに遺体埋めるとこ準備しときます?」
「それも含めて明日以降で構わん。
今日は祝祭の日だ。
こいつらに祝祭をこれ以上穢されてはかなわん」
「かしこまりました」
アゼル兄の指示により牢屋に戻され二人組。
数日飯抜いて暴れる気力を無くさせるのもアリじゃないかな?
どうせ殺すんだし、胃腸の中空っぽにしといた方が色々漏れださなくて後片付けが助かると思うよ?
取り調べの後、各自宴を楽しむため散っていった。
アゼル兄とカールラ姉様は、また領地の有力者との会談に向かった。
……アゼル兄については引きずられていったの方が正しい?
僕もラーミルさんに部下四人連れてブラブラと街中を歩く。
「こういう形で祭りに参加するのって初めてだったけど、楽しかったね!」
「後はもう少し楽だったらなぁ……結構動き回ったから疲れちまったよ。
結構この街の住人飲兵衛多かったしな」
ナットとカリムはこういう経験無かったのか。
……大道芸人としての参加位なのかな?
「こちらも面倒だったなぁ……」
「え?
以前の仕事よりかなり楽だったけど?
むしろこのくらいでいいのなら報酬によっては続けたいくらいだし」
カルはまぁ荷物運びだったからなぁ。
ルーシーは暗殺者ギルドの裏方と比較したらそりゃ楽だろうよ。
でも、報酬はかなり安いと思うぞ?
「さて、ニフェール様。
別行動していいですか?」
「彼氏と一緒ならOKだよ。
あ、外でスるのは禁止。
シたければ屋敷に戻ってシなさい」
ナット、ルーシー、お前ら何今更照れてんだよ?
どうせカリムやカルに襲い掛かるつもりだったんだろ?
経験はないけど、カールラ姉様やロッティ姉様で大体理解したんだからな?
「それと雰囲気重視の為に街の外に出たいと思うかもしれないが、暗くなってから街の外に行くと冗談抜きで戻れない。
なので、街中でイチャつく程度にとどめておきなさい」
「それでも街の外に出たら?」
やっぱりカルか……。
「餌か遊び道具かの二択じゃね?」
ビクッ!
「いや、なぜ街の外に出るなと言ってるのか分からないの?
危険だから、お前たちに死んでほしくないから言ってるんだよ?
狼や猪や熊が普通に闊歩するところで、まともに戦えないお前らが行ったら……」
「な、何よ、その間は!」
「その一、カリムとナットがいい雰囲気になっているところにやってくる狼の群れ。
甘噛みどころかいろんなところ喰いちぎられて残るは血の跡のみ。
喰い残しの身体は巣に持ち帰って次の日の朝ごはん」
ヒッ!
「なんでアタシとカリムを例にするのよ!」
「二つ目の例にカルとルーシーを例にする予定だから」
ブッフォ!
「さて、そのニ、ルーシーを押し倒して股間のちっちゃいのを突っ込むカル。
その後ろから熊が襲いかかってきてカルの頭にかじりつき、首を折り、カルの尻に熊の股間のごん太が――」
ジュルリ
いやルーシー、期待してんのか?
「――まて、流石にそれは盛り過ぎだろう!
というか、なぜ性行為に繋げる!」
「……まぁ、最後のごん太は見てないから知らんが、どうせ、お前ら外で開放的にとか考えてるんだろ?
スカイストリートみたいに!
# 本章7話参照
そんな状態で外部から襲われたら対処できないのは流石に分かるよな?
前の仕事を思い出せ!」
「……」
暗殺者家業していたんだからその位分かるだろ?
相手の意識の外から狙うのが基本なんだろうし。
「そういう訳で、街の外に出るの禁止!」
「は~い……」
何だよナット、そのやる気なしの返事は?
「というか、商隊がなぜ護衛を雇うか分かってないのか?
盗賊対応もあるけど、道中の野生動物対応もあるんだからな?
だからこそ不寝番を用意して 命を守れるようにしてるんだよ」
「あっ!
あれ、そう言うことなの?!」
何だよナット、やっとわかったのか?
「理解したなら、先ほどの言った事守った上でデートしてきな」
「は~い!」
元気よく返事して散開していく四人組。
王都に戻ったら侍従・侍女の仕事を学ぶことになるんだし、できるだけ楽しんできなさい。
さて、残ったラーミルさんと僕。
これからどうしようかと考えていた所、ラーミルさんが想いを吐き出すように伝えてくる。
「ニフェールさん……助けに来てくださってありがとうございます。
バラバラになった後、アゼル様たちの方に行ければ良かったのですが、人ごみに飲み込まれちゃって……」
「いえ、僕こそ見つけるのが遅くなって……」
僕とラーミルさんは二人で反省会。
互いに「あの時はぐれなければ……」という考えが心に引っ掛かっていたのだろう。
ん~、このまま反省し合うのもなんだしなぁ……。
「ラーミルさん、今回の失敗は失敗として受け入れましょう。
そして、次回に生かしましょう」
キョトンとするラーミルさん。
可愛くて頭撫でたくなるがちょっと我慢。
「多分来年にマーニ兄とロッティ姉様の結婚式をやるでしょう。
となると、今回と同じように王都で式やって領地で宴会やっての流れになるんじゃないかな?
ならそこで同じことを繰り返さないようにしましょ?」
と言って次回の領地デートの約束を取り付ける僕。
多分僕の考えなんてバレバレなんだろうけど、それでも笑顔で頷き抱きしめてくれた。
後は、この発言を現実にするために頑張らなきゃなぁ。
この前のつるペタストーン――名前なんだっけ?――な双子の姉を潰すとか。
# 本章27・28話参照
その妹と連絡取って逃げる気があるなら手を貸すとか。
# 本章28話参照
ベル兄の為の複数人デートの企画もしなきゃな。
# 本章30話参照
というかその前にティアーニ先生の暴走も止めなきゃ……。
# 本章22・23話参照
そうだ、プロブに嘘ばら撒くのやめろと言わないとな。
# 本章27話参照
それに加えて三科の秋季試験勉強もしなくてはいけない。
ちょっと個人的に指導をお願いしている件もちゃんと学びたい。
# 双方とも次章以降に書く予定
あれ、やること結構多くない?
僕って実はかなり忙しい?
そんなことを頭の中で考えつつも、身体は流れるような動きでラーミルさんにキスしようと動いていく。
いかんいかん、ちゃんとキスに集中しなければ!
It's Automaticな行動はラーミルさんに失礼だしな!
そんな感じでぶらついて屋敷に戻るとアムルとフィブリラ嬢が屋敷に入らず、二人で見つめあってモジモジしている。
……モジモジ?
いつもの暴走なら見つめ合うだけなのに……?
……まさか!
そのことを思いつき、すぐにラーミルさんの口を手で塞ぎ、二人にバレないところに移動する。
少しラーミルさんが体をよじるが、僕が次の言葉を耳元で囁くとすぐに大人しくなる。
「もしかすると、アムルとフィブリラ嬢がキスするとこかもしれません。
邪魔したくないので暫しご協力を」
……大人しくなるどころかよく見るために顔を出そうとするのはご愛敬と言っておこう。
決してラーミルさんが上二人の姉様たちみたいになったわけでは無い!
無いったら無い……はずだ!!
そんなことを考えているとアムルが一歩踏み出してフィブリラ嬢にキスをする。
それもマウスツーマウスで。
お~!!
口には出せないが、喜ぶ僕&ラーミルさん。
まだ固さはあるが……うちらの初めて口づけよりうまくね?
確か誘拐未遂事件潰した時にラーミルさんが歯をぶつけて来た記憶があるんだけど……。
# 婚約-12話参照
数秒して唇を離し互いに照れ笑いして手に手を取り合い屋敷に戻っていくアムルとフィブリラ嬢。
二人のキスシーンを最後まで見てほっと溜息を付く僕とラーミルさん。
「うまくいって良かったですね」
「えぇ、でも……アムルは僕がした時より早く彼女とキスしたんだなぁ。
ちょっとだけ羨ましいかも。
まぁ、出会いとタイミングの問題だから無茶は言えませんけどね」
「ん~っと、もしかしてニフェールさんのファーストキスは……」
「頬やおでこや唇も全てラーミルさんとしたのが初めてです……♡(照)」
頬を赤らめ照れるとなぜかラーミルさんの表情が餓狼じみた顔に……。
学園卒業まではダメですからね?
おしゃべりしながら屋敷に入ると、仁王立ちのアムルとフィブリラ嬢が……。
「ニフェール兄様、何か言いたいことは?」
「ファーストキスおめでとう!」
間髪入れずに祝福の言葉をかけると二人して照れだす。
……二人ともチョロすぎるが、揶揄う場面ではないな。
「帰ってきたら屋敷の前でキスしようとしているから、邪魔しないように隠れたんだがバレバレだったか?」
「……実はキス終わってから気づいたんで、あまり偉そうなことは言えないんですけどね」
「まぁ、あの日の夜の僕たちのキスシーン見たから相殺ということで」
「……あの日のはわざと見せたでしょ?」
「二人ともガン見してたからなぁ……」
また照れだす二人に加えて、愕然とするラーミルさん。
「え、あ、え、あの日のシーンって……」
「ジャーヴィン侯爵家の寝る前の話ですね。
眠たフリしてこの二人僕らのキスシーンたっぷり見てましたよ」
ああああぁぁぁぁ……
恥ずか死にそうなラーミルさん。
顔真っ赤で恥じらうのも可愛くてヨシ!
その後ラーミルさんを落ち着かせて各自寝室へ。
ラーミルさんの寝室からは呻き声がする気がしたが、触れないでおいた。
そして次の日。
王都に住んでいる者たちは帰る日。
互いに湿っぽい別れはせず、あっさり出発する……アムルとフィブリラ嬢を除く。
二人は離れたくないとグズっていたが、母上の一喝で諦めてフィブリラ嬢を馬車に乗せ領地を出発。
ちなみに、その時の母上の一言は「冬の休みに来るんじゃなかったのか?」。
二人ともすっかり忘れていたらしく、顔真っ赤にしていたのが印象的だった。
馬車に乗り王都に向かう途中でマーニ兄に一つ聞き忘れたのを聞いておく。
「マーニ兄、今後どこに住むの?」
「実は……空いている屋敷が増えていてな……」
「反逆騎士の関連?」
「そうそれ!
なんで、そのうちの一つにした。
事前に王家から支度金は貰っていたんでね」
ほぅ、事前にそこまで手は回していたと。
「んじゃ、王都に戻ったらロッティ姉様と暮らすの?」
「ロッティはちょっと遅れて屋敷に移るが、基本はそうだな。
とはいえ結婚式の前まではチアゼム侯爵家で侍女を続ける予定だ。
住み込みじゃなく通いになるけどな」
ほぅほぅ、となるとうちの四人の指導にロッティ姉様も入りそうだね。
「最後、結婚式は来年夏であってる?」
「一応その予定だ。
アゼル兄のように関係者だけ集めての式と宴会を分けてやりゃいいかなとは考えている」
「大道芸人雇って人足りないとか起こらないなら構わないけど?」
「それは俺も勘弁してほしい……」
デスヨネ~。
「となると、とりあえずジーピン家のイベントは来年夏までなし、と。
今年前半が忙しすぎたからなぁ。
後半はゆっくり過ごしたいよ」
……ねぇ、なぜ皆哀れそうな目で僕を見るの?
「なぁ、後半も結構忙しいと思うんだが?」
「そこまで忙しいイベントって何かあったっけ?」
「女性陣の逃走の協力とか?」
「戦闘は無いだろうし、逃走だけならそこまで忙しいとは思わないけど?」
なぜか皆黙ってしまう。
「……なぁ、ニフェール。
まさかとは思うが、戦闘の有無が忙しいかどうかの判断材料なのか?」
「まぁ、命の危険が無ければ気楽にできるしね。
精神的な苦労とかはまだそこまで気にならないし。
それと、一斉に来なければいいなとは思うけど」
はぁ……と皆で溜息を付いてくる。
ひどいな、僕だってこう判断した理由はちゃんとあるんだよ?
「いや、だって……。
最近って左頬ナイフで刺されたり、誘拐未遂犯を攻撃したり、薬物製造拠点襲ったり、結婚式に襲ってきた奴ら叩きのめしたり、ギルド潰したりしたじゃない?
あぁいう面倒なことが起こらなければ、個人的には気が楽ってのはあるよ?
例えばベル兄様の複数人デートだって苦労が無いわけじゃないけど、命に影響は無いわけだし?」
マーニ兄があきれ顔で僕を見つめる。
え、なに、その表情?
「……ラーミル嬢、すまんが今後もこいつの事よろしく頼む」
「お任せください!」
なぜかマーニ兄とラーミルさんが通じ合っている。
いかん、嫉妬してしまいそうだ。
――――
王都に帰った後にどれだけ面倒事が待っているのか。
想定通り平穏な生活に戻れるのか。
ニフェールにどんな未来が待っているのか、今は誰にも分からない。
五章「長兄の結婚式」、これにて完了となります。
ニフェールが戦闘時に暴走するわ、ラーミルとディープなキスまで辿り着いてしまうわ、作者としてこの暴れ馬どもを抑えこむ術が枯渇しかけた五章でした。
次の六章の章名はまだ決まっておりません。
ぱっと思いつくのは「学園風景2」なのですが、ちょっと捻りなさすぎというのもあり、別の名称検討中です。
六章は7/22(月)から開始したいと考えております。
# 一月近くお待たせしてしまいます。
# 申し訳ないです。
いつも通り7/21(日)に活動報告で再開可能か報告させていただきます。
最後に、事前に通知してますが女装させます。
どこまでヤるのかは検討中ですが……笑っていただけるような話にできるよう頑張りたいと思っております。
なお、もう少し詳細なお話はこの後投稿する活動報告にて。
では、7/21(日)の活動報告で。