夜明けの訪問者
わたしには昔、とても大好きだったおじいちゃんがいました。
山中香澄、それがわたしの名前なのですが、おじいちゃんはよく【すみちゃん】とよんで可愛がってくれました。
夜寝るときにはミキサーにバナナを入れて、毎日バナナジュースを作ってくれるおじいちゃん。
ときたま事故をしながらもどこへでも車で送ってくれたおじいちゃん。
わたしがどこかへ出掛けるときも玄関まで出てきてお見送りして戸締まりしてくれていたおじいちゃん。
どこへいくにも、なにをするにもおじいちゃんがそばにいました。
数年前…だったでしょうか?
ある日を境におじいちゃんが足の痛みを訴え始めました。日に日に膨らんでいく両足。
歩けない、歩けないと言いながらもお見送りしてくれるおじいちゃんに、わたしは甘えていたのです。
数日がたっても、おじいちゃんの痛みはなおりませんでした。
湿布を買ってきても、「剥がすときに痛いから嫌。」
塗り薬を買ってきても、「めんどうだしどうせ効かない。」
お灸を買ってきた時も、「ひぃぃ! 娘に焼き殺される!」
なにを買ってきても使ってくれません。
最終的に、嫌がるおじいちゃんを連れて病院にやってくると、足に水がたまってるとのことで、さっそくひざに注射をして水を抜くことになりました。
するとどうでしょう。
茶色く濁ったトロッとした水が出てくるではありませんか…。
それから2年間、おじいちゃんはがんばったのですが足がなおることはなく、その失意のうちに他界しました。
おじいちゃんが足の痛みを訴え出したのは、大きな地震のあとの大雨で各地が洪水に見回れていた、そんな時期。地震のくる前日、それまで我が家には夜な夜な【テン】とゆう動物が忍び込んできては悪さをしていたのですが、おもいきって罠を仕掛けることにしたのです。よくあらわれる場所は台所。動物の勘というやつなのか食べ物のあるところがよくわかっているようです。翌朝、罠を確認すると1匹の【テン】が捕まっていました。
ものすごく愛らしい瞳をしているのに、爪先からは野生を感じさせるテン。
野で過ごしていたからか、捕まってから一晩中そこにいたからか、テンは異常な臭気を発していました。
なのでとりあえず洗ってあげようと、優しいおじいちゃんは罠ごと川に沈めにいったのです。
そして、7時58分頃。
大きな揺れが、おじいちゃんを襲いました。
おじいちゃんは幸いにも川に落ちなかったのですが、川に沈められていたテンはそのまま息を引き取ってしまったのです。
その次の日、まるで【テン】の死を悼んでいるかのように凄まじい雨が降り注ぎました。
川は反乱し、土砂崩れは起こり、町は大混乱。
その時の水はなんとゆうか、茶色く濁っていてトロッとした水でした。
いま、わたしの家では不思議な現象が起こっています。
【テン】対策に使っていた罠が、よなよな誰もさわっていないのに閉まるのです。
朝と寝る前、罠が開いているのを確認するも、次の日の朝にはパタンっと閉じている。
次の日もパタン。またその次の日も…。
あまりにも気味が悪くなったわたしは、なぜそのようなことが起こっているのか真相を知るために、ビデオカメラを設置することにしました。
夜が明け、仕掛けたビデオカメラをチェックしようと再生を押すも、そこには何も写っていませんでした。
暗い台所を撮影しているためか、文字通りに真っ暗…というよりも真っ黒なのです。
ただ映像は写っているらしく、画面の中央にはなにやら丸い輪っかが写っています。
(これはいったい…?)
考えることしばらくして、ふと画面を見ると、一瞬その輪っかがサッと消え去り、しかしそれがまた次の瞬間には現れていました。
それから数日がたってお仕事が休みの日に、ビデオカメラを修理に持っていってみることにしました。
そこでのやり取りは以下の通りです。
「すいません、このビデオカメラ修理して欲しいんですけど…。」
「はい、少々お待ちくださいねー。どこがおかしいのですかー?」
「画面がなんかすごく暗くて、なんか真ん中に輪のような物が写っているんです…。」
「あー、なるほど。おそらくこれは故障ではないですね。」
「え? でも真っ暗でなにも…。」
「失礼ですが、お客様はお子さま…もしくはなにかペット等をお飼いになられていますか?」
「犬と猫が一匹づつ、子供はいません。」
「そうなんですねー。」
「あの…?」
「あ、すいません。これはですね、恐らく飼っておられるワンちゃん辺りが画面を覗き込んでいるのではないかと…あ、ほら! 今まばたきしましたよね?」
「え…。」
「あ、でもワンちゃんならすぐに目線をそらしちゃうはずですよね…。」
「…。」
「あれ? なんか喋ってるかな? 音量上げますね?」
「は、はい。」
【ミ…カス…。】
「ひっ!」
「ちょ、ちょっとお客様?! 大丈夫ですか? お客様! 香澄さん?!」
あの映像から聞こえた声。
わたしが間違えるはずもありません。
あれはおじいちゃんの声、そしておじいちゃんが言っていた言葉。ミ…カス。
カス…ミ。
その日は怖くて家に帰ることもできず、わたしはカプセルホテルに泊まることにしました。
その日の夜のこと。
カサカサカサ…。
なにかが動く物音、そして身体中がまるで引っかき傷でもできたかのようなヒリヒリとした痛みで目が覚めました。
(物音はまぁこんなホテルだし仕方ないとして、なんでヒリヒリとしてるのかしら…。)
疑問に思ったわたしは周囲と自身の身体をチェックしようと首を動かそうとして、動かないことに気づきました。
(え?! どうゆうこと?! いったい何が起こってるの?!)
それは俗に言う金縛りとゆうやつだったのですが、香澄は「まさか自分が」と思っていたので、すぐには気づきませんでした。
カサカサカサ…。
音はいまだになりやまず、心なしか近づいてきているようさえに感じられます。
すぅーー。
突然耳元で誰かの息を吸うような音が聞こえました。
すると、まるでそれが引き金になったかのように物音が鳴りやみました。気づけば金縛りも解けているようです。
(なんだったんだろ?)
不審に思いながら身体を起こすと…。
まるで何かに荒らされたかのように悲惨な状況になっていました。
仮置きしてあったお気に入りのバックは鋭利な刃物かなにかで切り裂かれ、床には無数の足跡。
着ていた服の上には黒く細長いなにかが散りばめられ、かなりの異臭を放っている。
そう、まるで小動物のフンのような…。
とりあえずわたしはカプセルホテルの従業員を探そうと思ったのですが、外へ着て出れるような無事な服は見当たりません。
フンまみれか、切り裂かれているかのどちらかです。
仕方がないので裂かれた被害の1番少ないものを身にまとい従業員を探すことにしました。
幸い近場におられたようですぐに会うことができ、事情を説明するもなかなか信じてもらえません。
「だから! 寝てるところに誰かの持ち込んだか何かの郷土が入ってきて荒らされているんですってば!」
「そんなこと言われましても、動物の持ち込みは禁止されておりますし、ましてや受付で発覚すると思いますよ?」
「でも実際に荒らされてるんです! もういいから責任者のかたと共に来て下さい!」
「と言われましても…。」
なにやらわたしが嘘でもついている。
とでも言いたげな対応でとても腹立たしかったのですが、とりあえず責任者のかたに説明してから向かうので、しばらく待っていて欲しいとの回答を得られたので、部屋に向けて歩き始めました。
わたしが声を荒げたからでしょうか?
各部屋からこちらをうかがっている人の顔がちらほらと見受けられます。なかには安眠を妨害されたとぶつぶつ言っておられるかたもいて、それらから逃げるように部屋へと向かいます。
そして、自分の所に入ろうとすると、
先客が居ました。
年老いた男性が、驚いたかのようにこちらを振り向いて、わたしの顔を見てから穏やかな表情をなされました。。顔はなぜか影のようになっていて特徴まで分からなかったのですが、なんとなく雰囲気だけは伝わってきます。
一瞬、自分が違う部屋と間違えて覗き込んでいるのかと思って確認をとるも、間違いなくそこはわたしのスペースです。
「あの…おじいさん? ここわたしのところなんですけど…。」
わたしがそう告げると、途端におじいさんは寂しそうな顔をして、すぅっとまるで風に吹かれた砂のように消えてしまいました。
突然のことに、驚きはしましたがなぜか怖いと言う思いはありません。
夢でも見ているか、まだ寝ぼけているのかと思ってしまうほどにあっけなく居なくなったのです。
そして、改めて部屋を確認すると、無数にあった足跡は嘘のように消え去り、服も元通りになっています。
そう、それは入ってきた時とまったく同じ状況…。
するとそこへ、
「あの、お部屋が荒れていると聞いて伺いに来たのですが…。本日は大変申し訳ございませんでした。」
先程の従業員のかたが説得してくれたのか、責任者と思われる方がこられました。
「あ、いえ、ご丁寧にどうも。」
「あの、それで荒らされたお部屋と言うのはどちらでしょうか? 見た限りですとそのような感じは見受けられないのですが…。」
心霊現象、金縛り…。
それらは人間にとって未知のものであるが故、恐ろしい。
幽霊があらわれてそれに驚いていたら、散らかした霊とは別の、また違う幽霊が現れて散らかった部屋を片付けてくれた…。などといった話を一体だれが信じてくれるというのだろう?
実際にわたしが体験していたことを包み隠さずに話しているだけだというのに、まるで《このほら吹き者め。》とでもいいたげな眼で見つめられ続けていた。
この日私は、亡くなった人の霊に関わる怖さとともに、生きている人間というものがいかほど恐ろしいかというものを身をもって学んだのであった。
…結局、あの金縛りにあった時の不思議体験の真相も、その際に聞こえた息遣い。
ましてやあの年老いた男性のことなどは、一切がなぞのままである。
読者の皆様、わたしにはこのなぞは解けそうにありません。
ですのでどうか、どうかこの謎の真相を解き明かしてください。
このお話は、真夜中の訪問者(短編版)の続編というノリで書かせていただきました。
なので、もしよければそちらのほうもお読みいただけるとさらに背景がわかっておもしろくなるかもしれません♪
キーワードとしては【家族】なのでニュアンスてきには、
影×真夜中の訪問者といった感じです。
ブクマ・評価、ご感想等
もしいただけるなら今後の活力にもなりますので、どうぞよろしくおねがいします♪
以上、セリカでした。
ここまで見ていただきありがとうございます。
これからもどうぞ、ごひいきに♪