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転生吸血鬼さんはお昼寝がしたい - 番外編:吸血鬼さんとメリークリスマス
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転生吸血鬼さんはお昼寝がしたい  作者: ちょきんぎょ。
本編

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番外編:吸血鬼さんとメリークリスマス

「……あ」

「どうしたの、アルジェ?」


 朝食中。ふと気づいたことがあって、自然と吐息のような言葉が漏れた。

 テーブルの向かいに座っているフェルノートさんは、僕の言葉にすぐに反応する。茶髪を揺らして首をかしげて、こちらの名前を呼んできた。


「いえ、クリスマスだなー、と」

「くり……?」


 フェルノートさんの表情は、僕の放った単語を聞いたことがないのだということがハッキリとわかる、硬いもの。

 当然のことだ。ここは僕が過去に生きていた世界とは、別の世界。クリスマスなんて行事が存在するはずがない。


「ええと……寒い時期のお祝い事、みたいなものです」

「時期的には、今は涼しい方よ?」


 確かに彼女の言うとおり外に出て感じる潮風は涼しめで、早朝や夜は肌寒さを感じるようなものだ。四季という概念に当てはめると、春先が近い。

 僕がクリスマスと言った理由。それは単純に、僕のいた世界の暦から計算すると、今日がクリスマスの前々日だからだ。

 僕がこの異世界に吸血鬼として転生したのは冬の時期。クリスマスがもうすぐだな、なんて思っていた頃のことだった。

 転生前の僕は、外に出して貰えなくても部屋にカレンダーはあったし、行事ごとの祝いものなどはきちんと頂いていた。クリスマスシーズンには決まって、お菓子やケーキが差し入れられてきていたものだ。


 ……いい待遇でしたね。


 正直なところ、最初は少し意外だった。要らなくなった存在の僕には、何も与えられないものだと思っていたから。

 だけど実際には、外に出られず、連絡を取る手段はなく、死んだことにされる。それだけだった。その程度だった。


 大抵の望みは言えば叶えられたし、生活は充実していたのだ。少なくとも、クリスマスを思い出して懐かしさや寂しさを感じる程度には。


「まあ気分だけでも、感じられるようにはしてみましょうか」


 面倒くさいけど、やらないとどうにも気持ちが悪い感じがする。

 思い出さずに忘れていて過ぎ去ってしまえば、後で「忘れてましたね」で済ませられるけど、今日がその日だと思うとやらないといけないような気持ちになってくるから不思議だ。


 こちらの異世界にそんな行事がなく、時期も外れているならやる必要はないことだけど……折角思い出したのだから、やってみても良いだろう。


「すいません、フェルノートさん。後でキッチン貸していただけます?」

「ええ……構わないけれど。どうかしたの?」

「なんとなく、ですよ」


 ただの気まぐれというか、気がかりの消化だ。

 一度気付いてしまうと落ち着かなくて、やっておかないとその日の眠りが浅くなってしまいそうだから。



◇◆◇



「痛いの痛いのとんでいけっと」


 傷に手をかざして、言葉を紡ぐ。

 僕の中にある魔力が傷を癒す力になり、言葉通りに痛みが飛んでいってしまう。

 何度見ても不思議な光景だと思うけど、この世界では当たり前のものだ。

 僕が前に生きていた世界で、人が当たり前に携帯電話を使うのと同じ。

 この世界では、人は当たり前に魔法を使う。それだけのこと。


 ただ、僕の魔法は当たり前という範疇で収まってはいない。

 回復魔法レベル10。すなわち回復魔法を極めた存在。

 この世界の魔法使いすべてをかき集めても、僕以外にはいないのではないだろうか。

 転生したときに始めからカンスト状態だったので、努力した成果ではないし、回復以上のことはできないのだけど。

 回復魔法では、死んだ人を蘇らせるようなことは不可能だ。例え死亡してそう長い時間が経過していなかったとしても。


 一度蘇生を試したことはあるけれど、ダメだった。海で溺れて心停止したらしい少年に試して、回復しなかったのだ。

 結果として、その子は助かった。フェルノートさんが心臓マッサージをしてその子を蘇生させて、すぐに僕が回復魔法を使うことでなんとかなったからだ。

 その時はちょうどフェルノートさんが僕の服を買い揃えるとかは言い出して町に出ていて、事故と出会でくわすような形になったから処置が早く出来た。その子にとっては幸運だっただろう。


 今治したのはそこまで重いものじゃない。

 千切れた腕を生やしたというだけ。簡単なお仕事だ。この日始めてのお客さんは、どうも魔物と戦闘して腕を切り落とされたらしい。

 生やされた方は自分の腕をまじまじと見つめてから、


「す、すげぇ……噂通りだねヴァンピィちゃん!」

「はあ、それはどうも」


 ヴァンピィちゃん、というのは僕の名前ではない。

 アルジェント・ヴァンピールという名前の後半部分を崩すように、ヴァンピィと呼ばれるときがあるというだけだ。

 他にも「天才魔法少女まじかるヴァンピィちゃん」だとか、「潮風の女神」だとか、「銀髪の天使」だとかいろいろ言われているけど、どれも許可はしていない。

 面倒だから強く訂正していないだけだ。というか、なんでこれだけの人がいて「アルジェ」や「アルジェちゃん」と呼ぶ人がいないのだろう。


 このお客さん以外にも、初対面なのに結構馴れ馴れしくこっちを呼んでくる人が増えた。

 認知されてきたということだろうけど、ちょっと面倒くさいときもある。今みたいに手を握られて、無遠慮に撫でるようにされたりとかすると、あまり良い気分ではない。


 ……なぜか周りの視線も刺々しいですしね。


 僕に対してのものではないと思うけど、こういう人がいるときは大抵、他のお客さんの目がどこか厳しいものになる。

 視線に気づいたらしく、慌てた様子で手を離して苦笑いされた。


「あまり怪我はしないようにしてくださいね。はい、どうぞ」

「え、これは……?」

「今日はクリスマスイブですからね。クッキーです。お口に合うかは解りませんが」

「くりすます、いぶ? なんだいそれ?」

「あー……僕の生まれたところの行事です。クリスマスというお祝い事の日の、前夜祭ですね」


 適当な説明をして、ブラッドボックスに収納してあったクッキーを渡す。

 白い袋に赤いリボンでラッピングした、簡易なものだ。中に入っているのもただのバタークッキー。フェルノートさんに材料をたくさん買ってきてもらって、前日に焼いたものだ。

 大したものではないし、僕が気分を味わうために用意しただけのもの。だというのに、相手は随分と感極まった様子で妙に(うやうや)しく受け取った。


「お、おおお……ありがとうございます! ありがとうございます!」

「大したものではないんですけどね」

「いやいや! 美少女の贈り物だよ! これは大変に価値のあるものだ!!」

「はあ、そうですか」


 よく解らないけど、周りの人までうんうん頷いてるから良いかな。水を差すのもめんど……悪いし。


「まだまだたくさん用意していますし、サービスなのでお金はとりませんから、順番をきちんと守って並んでくださいね?」


 その日のお仕事はとても盛況して、かなり用意してあったクッキーの袋はあっという間に無くなってしまった。

 いつもよりお金をたくさん払う人が多くて、そんなつもりは無かったのにクリスマス商戦に成功したような感じだ。お金には困ってはいないのだけど、貰えるものは貰っておこう。



◇◆◇



「失礼します」

「おや、ロリの嬢ちゃん? 珍しいね、一人でなんて」

「ええ。今日は少し用事がありまして」


 彼の言うとおり、一人でこのお店に来るのは始めてだ。

 仕事を早めに終わりにした僕は、市場の方へとやって来た。

 いつも盛況していて人通りが多いので、普段はフェルノートさんに手を引かれるようにして歩いている。そもそも面倒くさいから、ここまで出てくることも稀なのだけど。

 そしてここは、フェルノートさんが贔屓にしているお肉屋さん。話している店主さんは逞しい体付きをした、笑顔がちょっと暑苦しい人だ。

 クリスマスと言えば、鶏肉。誰が決めたのは知らないけど、昔からそうなのだから、素直に従えばいい。いちいち考察したりするの、面倒くさいし。


「すいません。鶏肉ってありますか ? 出来ればチキンレッグか、丸々一匹で」

「あー……鶏かい?」


 店主さんは露骨というか、明らかに顔を崩した。それもよくない、困った風な崩し方だ。


「無いんですか?」

「ああ。今少し、仕入れが滞っててな……鶏肉を仕入れてくれる商人が、ちょっとトラブルでなぁ。トミアブナってやつなんだが」

「トラブル?」

「そいつの商隊がアルレシャに来る途中で、魔物に襲われたらしくてな。生きてはいたが、荷物は全損さ。アイツはアルレシャで使われてる鶏肉の殆どを仕入れてくる大手でなぁ。今はどこの店でも鶏は品薄だぜ」

「そうですか……」


 困ったな。ここのお店だけでなく、他のところでも手に入らないかもしれない。

 品薄になれば、残り少ない品物は普段から付き合いのある大手の取引先に――具体的には料理店など――優先的に回されるはずだ。今からお店を巡っても、手に入るかどうかは怪しい。


「しかし、あいつも大変だぜ。鶏運んでたら、鳥に襲われたんだからな」

「え? 鳥?」

「ああ。ギガント・メクリスっていってな。メクリスって名前の鳥形の魔物の、バカでけぇやつさ」

「メリクリウス?」

「メクリス、な。普段はもっと西の方に生息してて、アルレシャの近辺には滅多に出てこないんだがなぁ」


 鳥形の魔物。

 うーん、もしかしてそれって……。


「……その魔物って食べられたりします?」

「ん、ああ。味はいいらしいぞ。相当強いから肉の価値は高くて、俺みたいなちいせえ店の店主じゃとても仕入れられねぇから、食ったことはないがな……ま、明日にでも領主のやつが討伐隊編成して、狩りに行くだろうさ」

「そうですか……セメント・メンタルがどの辺りに現れるかって、わかります?」

「ギガント・メクリスな、ロリの嬢ちゃん。まさか狩りにいくつもりか?」

「いえ、観光がてらに見に行こうかなと」

「物好きだな。気配に敏感らしいから気を付けろよ。行くときはフェルさんと一緒にな。あの人がついてりゃ安心だ」


 そう言って、店主さんは快く場所を教えてくれた。フェルさんというのはもちろん、フェルノートさんのことだ。

 ちょっと面倒だけど、ないなら自分で捕りに行くことにしよう。折角のクリスマスなんだし。

 もちろん、フェルノートさんには声をかけなかった。

 僕の感傷に、巻き込みたくはなかったから。



◇◆◇



 店主さんの話では、アルレシャとそう距離が離れていないところに小さな林があり、ギガント・メクリスはそこを根城にしているらしい。

 早速行ってみると林の周辺には破壊された馬車らしきものがたくさんあって、いくつかの血痕もあった。

 嗅覚を刺激するのは、まだ新しい血の匂い。


「トミアブナさん以外の犠牲はあったというところでしょうね」


 トミアブナさんという人以外の商人や旅人も襲われているのだろう。散乱している荷物は、かき集めれば何人分にもなるとすぐに解るくらいの量だ。


「さて……方角はあっち、ですね」


 林の奥から漂ってくる、血の匂いと、ピーナッツやパンのような少し甘い臭い。

 ずしん、ずしんという音がした。それは明らかな歩行音で、段々と正体も明らかになってくる。

 まるまると太った身体をした鳥形の魔物。シルエットはニワトリに近いけど、幅広のクチバシや鶏冠のないつるりとした形の頭はエミューに似ている。

 体毛は土のような色で、これもエミューに近い。

 身の丈は二メートルをゆうに越えていて、瞳は明らかに敵意があるものだ。


「メエエエエリィィィィィ!!」


 インコのような甲高い声で、ギガント・メクリスが鳴いた。そして今の咆哮が戦いのゴングだとでも言わんばかりに、加速して突っ込んでくる。


 ……うわ、すごい迫力。


 奇声を発しながら土煙を巻き上げて迫る、二メートル越えの鳥。ある意味でパニックホラーのような光景だ。

 まるまるとしていて美味しそうな見た目のわりに加速がよく、驚いてる間に目の前までクチバシが迫っていた。


「わととっ」


 相当な大きさがあるクチバシだ。あんなものにつつかれたら、いくら吸血鬼の身体が頑丈でもかなり痛い思いをするだろう。

 相手の身体を迂回するように回避して、軽く距離を取った。

 相手の方はつんのめるような姿勢でクチバシの連打を継続しつつ、僕の方へと回頭してきている。


 ……すっごい勢いで畑耕してるみたいですね。


 ちょっと見てて面白かったからしばらく眺めた。その間にまたこちらにクチバシを向けてきたので、同じように回避。


「すいません、少し急いでるんです」


 時刻はお昼を過ぎている。解体と調理の時間を考えると、あまり時間はかけられない。

 肉屋さんで貰ってきた豚の血。それを入れた小瓶を、懐から取り出す。コルクを引き抜けば、やや獣臭い血の臭いがした。


「ブラッドアームズ、『長刀』」


 血液から武器を造り出す、吸血鬼固有の能力。

 それを使って造り出すのは、大きな刃物だ。鮪を解体するための包丁をイメージして作った、ほんのりと反りのある刃渡りの長い武器。


「鶏を絞めるには、まずは逆さにするんですけどね」


 大きさ的に難しそうだから、そこは飛ばして次の工程に行こう。

 自分で開けた距離を、一瞬で埋める。素早さ極振りの速度任せに一気に肉薄した。

 相手はこちらをクチバシで打撃するために、頭を下げている。狙うのは、そう難しくはない。


「ごめんなさいね」


 土色の首めがけて、刃を疾らせた。



◇◆◇



「アルジェ……これ、どうしたの?」

「昨日言ってたクリスマスってものですよ」


 フェルノートさんが二色の目をまんまるにして見ているのは、食卓の上。

 焼きたてのチキンステーキに、ローストビーフ。スパニッシュオムレツと、ポテトサラダ。汁物にはかぼちゃスープ。

 本当はチキンステーキはチキンレッグにしたかったのだけど、さすがにギガント・メクリスの足は大きすぎたので諦めることにしたのだ。

 血液を含んでいるからお肉はブラッドボックスには収納できないので、持てるだけ持ってアルレシャに帰ってきた。あとは今日に必要な分だけ取って、残りは肉屋の店主さんにあげてしまった。

 店主さんは随分と感謝していたようだから、今度フェルノートさんが買い物に行った時にいろいろとサービスしてくれるだろう。


「ケーキも控えてますから、残してくれて構いませんからね。明日は残りを頂きましょう」


 フェルノートさんの家には保冷庫のような食品保存用の入れ物があるので、一晩くらいなら保存していても問題はない。

 さすがに電子レンジはないけど、必要なら軽く火を通せば温かく食べられる。


「クリスマス……今日調べたけど、どの国にもそんなものないわよ?」

「文献や伝聞には、たぶんないと思いますよ」


 不思議そうな顔をするフェルノートさんを置いて、僕は席につく。

 どこか納得がいかないと言うような顔をしつつも、フェルノートさんも席に。


「では、メリークリスマス」

「……そういう挨拶なの?」

「ええ。僕の知る限りでは」


 クリスマスというのは当日の前の日――つまりは24日の日の出から、クリスマスという扱いだ。

 だからイブの日にメリークリスマスというのは、なんら間違ったことではない。イブにメリークリスマスと言うのは早いと勘違いしている人も多いようだけど。

 もちろんそんな知識は微塵もないフェルノートさんはどこかぎこちなく、それでも僕の意志を汲み取ってくれたようで、


「メリークリスマス、アルジェ」


 そう言って、笑ってくれた。


「…………」

「どうかしたの、アルジェ?」

「いいえ。冷めないうちに、食べましょうか」


 対面に他人がいて、笑いかけてくれるクリスマスは何年ぶりだろうか。

 季節は春先。場所は異世界。誰もクリスマスなんて知らなくて。

 それでも今日は、僕にとって嬉しい日になった。

 サンタが来られないような異世界でも、十分なプレゼントのある日に。


「メリークリスマス」


 笑って迎えるのは、どれくらいぶりだろう。

 そんな無粋な気持ちごと、僕はチキンステーキを一切れ口に運んだ。

 うん。やっぱりクリスマスには鶏肉だよね。



いろんな人に少しずつ与えて、自分も少しの暖かさをもらう。そんな小さなクリスマスでした。我が子の幸せを番外編と言う形で届けることができて満足。


実は今日、数時間でパパパっと書いたものでまったく見直してないので、誤字脱字や意味重複、表現がおかしなところありましたら申し訳ない。

本当はもっと伏線仕込んだり見直したかったんですが、今日は休憩が全然なくて、ぐぬぬ。


ただ、ぶっちゃけてかなりリハビリになりました。本編頑張ります。

なにげにアルジェが昼寝せずに結構頑張った回。根は真面目なんですよね。


ちなみにピーナッツやパンのような匂いと言うのはインコ臭というそうです。


それでは皆様、メリークリスマス。今回がよいサプライズとなりましたら、幸いにございます。

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