運命の審議会と第一王女の宿命 ※第一王女→第三者視点
審議会当日――ぼくとニコくん、アンズちゃんの3人は部室で、アダムさんの結果を待っていた。ぼくは少女漫画を読んで待っていたけれど、心配で内容が頭に入って来ない。アンズちゃんもぼくと同じく、そわそわしている。一方のニコくんは、スマホゲームで遊んでいた。
(ニコくんって、全然動揺しない……同い年とは思えないや)
そんなことを考えていたら、アンズちゃんが何やら真剣そうな表情をしていた。その様子が気になって、声をかけると、彼女は心理系の診断テストをしていた。『確かにこういう機会じゃないと、なかなかやらないかも!』と思って、アンズちゃんと診断結果を共有しながら、時間を潰すことにした。それでも、こう言う時って、時間がやけに遅い。
ぼくは、アンズちゃんの診断結果を見て、どのタイプと相性がいいのか気になり、調べてみることにした。『恋のキューピーラビット』ことルルのある発言が、どうしても引っかかって……。
『アンズちゃんはアダムくんのことが好き』
2人は幼馴染で、5歳の時、誘拐事件に巻き込まれ、一緒に連れ去られてしまったらしい。でも、アダムさんはアンズちゃんから教わった魔法と、自身の実験知識を駆使して、2人で逃げ切った。その時、震えるアンズちゃんの手を、アダムさんはしっかりと握りしめてくれたんだって。
――その話を聞いて、好きになるのは当たり前だと思った!
しかも、10歳の頃、アダムさんの家庭の事情で2人は引き離されてしまった。それでも、『また会おう』と約束を交わし、アダムさんはちゃんとその約束を果たした。
まさに、2人の出会いは運命で必然だったんだ。だからこそ、今回の審議会はただの偶然にすぎない。
神様――いや、アダムさんが魔法を唱える時に呼ぶ「女神様」へ、ちょっとお願い事をしてみようかな?
(女神様、アダムさんがこれからもこの学校にいて、アンズちゃんとずっと幸せになりますように……)
そんな考え事とお願い事をしていたぼくはまったく気づいていなかった。 すぐそばで、「何調べてるのー?」とアンズちゃんから聞かれていたことに。普通なら、お茶を濁さないといけないのだろうけど、つい正直に答えてしまった。
「アンズちゃんと相性がいいタイプって誰だろうと思って……あっ! なんかアダムさんみたいなキャラクターが出てきた!」
アンズちゃんは、ぼくの言葉を聞いて、顔を真っ赤にしていた。その表情を見て、アダムさんのことが本当に大好きなんだなと確信した。だからこそ、アダムさんには、絶対に退学なんかしてほしくない。その気持ちを汲み取って、彼女が少しでも前向きになれるよう励ますことにした。
「あっ、ごめんね。ついアダムさんの名前を出しちゃった。でも、アダムさんなら絶対大丈夫だよ! どんな困難も乗り越えてきたのだから!」
そして、今回、アダムさんの退学を防ぐために尽力してくれたニコくんの方を向いて声をかける。
「ねえ、そう思うよね、ニコくん!」
「……まあ、大丈夫だろう。いろいろ準備はしておいたから」
ニコくんは、いつもの調子で答えてくれた。その答えに安堵しながら、ぼくたちはおとなしく結果を待つことにした。
そして――1時間後。
「お待たせ!」
そう言いながら、アダムさんが部室の扉を開けた。
(この表情……もしかして!)
「アダム! お帰りなさい! どうだったの?」
アンズちゃんは、勢いよくアダムさんのもとへ駆け寄った。すると、アダムさんはアンズちゃんの肩にそっと手を置き、いつもの得意げな表情を浮かべながらこう言った。
「俺はまだこの学校にいられる。退学処分は免れたんだ」
(良かった! 集めた証拠が、ちゃんと役に立ったんだ!)
直後、同じ実験部の部員であり、審議会の参加メンバーでもあるケイちゃんがやってきた。彼女が、実際に審議会で何が起きたのか、詳しく教えてくれた。
どうやら、審議会の中盤まではアダムさんにとって不利な状況で、まさに絶体絶命だったらしい。しかし、そこへダン先輩とお父様が登場。彼らの反論が決定打となり、形勢は一気に逆転した。その結果、最終的に退学処分は破棄。アダムさんはこの学校に残れることになったのだ。
つまり、アダムさんはこれからも、この学校にいられる!
(本当に良かった……。ニコくんとダン先輩には、本当に頭が上がらないや……)
そんなことを思いながら、アダムさんたちとこの喜びを噛み締めることにした。
ちなみに、担任の先生である第11王子と特別科在籍の第9王子には、3ヶ月の謹慎処分が下されたそうだ。やはり、人形の持ち主は第11王子だった……。2人とはしばらく会うこともないだろうから、一般科だけでなく、特別科の生徒にとっても、平和な日常が戻ってくる。いや、ぼくにとっては、とても大きな出来事だ。王族――ましてや、王子様に会ってしまえば、ぼくが第一王女だとバレる危険性があるのだから。
(この期間中に、少しでも改心してくれたらいいな。特に、ホルム先生……)
さて、ぼくは王女だとバレないように気を引き締めながら、これからの学校生活を楽しもう――そう思っていた。
だけど、王族の宿命からは逃れられないらしい。なぜなら、これから先、ニコくんやダン先輩だけでなく、他の王子様とも出会う運命を辿ることになってしまったのだから。
(まるで見えない誰かが、ぼくを誘惑するように囁いているみたい……)
『第一王女という秘密を隠すな。王子と結婚し、王妃となれ――それが、貴女の使命だろ』って。
その日の夜、ある王族の所有地にて――。
側近が、いつもと同じように報告をしに来た。
「失礼いたします。やはり、王子たちは、いまだ第一王女様の行方を掴めておりません」
「そうか……。教えてくれてありがとう」
「はい。それでは……」
ゆっくり扉が閉まり、豪華な部屋に彼ひとりだけが残された。
薄暗い灯りの中、机の片隅に未開封の赤ワインのボトルが置かれている。そのボトルは年季が入っていた――亡き王妃が最後に贈ったものだからだ。彼はふーっと息を吐き、ワインのラベルを見つめる。
「レンゲ……君が逝って、もう15年になるのか……」
そっと写真立てに手を伸ばす。そこには、微笑む亡き王妃の姿。純白のウェディングドレスに包まれた彼女は、とても美しい。
「それでも、私はまだ諦めていない。彼女は、きっと生きている。私たちの最後の奇跡――そして、希望そのものなのだから」
指先で写真をなぞりながら、囁く。
「……私が探し出せずとも、娘は必ず王子の手によって迎えられるだろう。彼らが、あの子の運命を呼び覚ますはずだ」
静寂の中、彼はそっと目を伏せる。しかし、やがて決意を固めたように、ゆっくりと顔を上げた。
瞳に鋭い光を宿し、亡き王妃の写真を見つめたまま、低く、固い声で心中を吐露する。
「行方知れずの我が娘よ……。第一王女であることは、宿命なのだ。もはや、隠れ続けることは許されぬ。正体が明かされた時、レンゲと同じ道を辿ることになる。王妃として――な。王子の寵愛を受け、結ばれ、やがて子を成す。それこそが、王家の血を引く者の、真に在るべき姿なのだ。ゆえに……我らの前に姿を現せ――」
彼は――この国の王。すなわち、第一王女の父である。
王として、そして父として、娘がいつの日か王宮へ帰還することを、ただ静かに待ち続けていた。
娘はいずれ花嫁となり、そして王妃となる運命なのだ。
第一王女であること――それは、抗うことのできぬ宿命なのだから。
<余談:違う世界で>
???「あら……。『女神様、アダムさんがこれからもこの学校にいて、アンズちゃんとずっと幸せになりますように……』だなんて。優しい子がいるのね。それに、アダムくんったら、素敵なガールフレンドがいるのかしら? ふふっ、なんて素敵な恋話なの……。あの世界に行けないのが、本当に名残惜しいわ。アダムくんの恋愛事情も気になるし――ううん、それだけじゃない。私は娘に会いたい。どんな生活を送っているんだろう……?」
そう呟きながら、彼女はガーデニングを終え、白ワインのグラスを静かに傾けた。
<予告>
次回はある王子様視点のお話になります。お楽しみに。