偽りを捨てた第2王子と秘密だらけの第一王女たち ※第三者→第一王女視点
最初は第三者視点です。
途中から、第一王女視点になります。
「木曜日の打ち合わせ、体調崩してごめんなぁ……。頭が痛くなって、横になって……目ぇ覚ましたら金曜やったわ! 今日は日曜やけど、土曜からずっと残業しとるんよ〜。んじゃ、オーガー家の皆様にもよろしくっ!」
誰かとの電話を終えた彼は、研究所の裏口からひょいと外へ出た。
白衣のポケットから煙草を取り出し、火をつける。
「いや〜……俺、王族子女会議のあと、一人になって……その後、何したんやろな……。いつの間にか、金曜日が来て、そして、今日に至るってわけやけど……」
煙草をくわえたまま、ふらりと歩く第5王子。
「ほんま、なんで数日の記憶が抜けとんのやろな……。確か、あのとき、何かを考えとったはずなんや……」
彼は、自分の中に得体の知れない“何か”がいるのではと思い、胸騒ぎを感じているようだ。
「はぁ〜。頑張ってはいるけど、誰も褒めてくれないんよねー。悲しい運命やな……。第一王女様に、励ましてもらいたい気分……」
そうつぶやいたところ、急に息遣いが荒くなり、目が泳ぐ。
手が滑って、煙草が地面に落ちる。
それを足で無造作に踏み消すと、彼はスマホを取り出し、画面をじっと見つめた。
その顔には、いつもの余裕が一切なく、代わりに……殺気をみなぎらせていた。
「いやぁ……俺が最年長なのに、なんで年下の王子に頭下げてんのかな? ああ、そうだ……ダンの妹って、これから生まれるんだったよな」
シャープな目つきに変わり、口調も冷ややかになっていた。
どうやら、この人格の彼は――第2王子に対して、強烈な嫉妬と対抗心を燃やしているらしい。
「特別科と一般科を掛け持ちしながら、あんな過酷な環境でも楽しそうにして……。若い芽は、摘まないとね」
口元を歪ませながら、彼は笑っていた。まるで、何かを企んでいるかのように。
「第一王女は、渡さないよ……」
そう呟くと、彼は青い車に乗り込み、どこかへと走り去っていった。
≡≡≡≡≡
おじさんに車で送ってもらったぼくは、自主練を終えて、部室で荷物の整理をしていた。
(プレゼントを渡すために、今日は“うさぎの紙袋”ごと、ちゃんと持ってきた。打ち上げの時に、絶対渡すんだ!)
そう意気込んでいたところ、誰かが、部室のドアを開けて入ってきた。
「あ……!」
(あの時、ウェディングドレスを着ていた時に会った――あの姿と同じ……!)
いつもみんなで会う時は、一般科の制服に髪を下ろした姿だったのに……。
そこに立っていたのは、特別科の制服を着て、髪をきっちりと上げたダン先輩だった。
自然と、背筋が伸びる。
いつものぼくなら、すぐに挨拶してるのに。今日は緊張して、言葉が出てこなかった。
でも、そんなぼくのことを察したのか、先輩の方から声をかけてくれた。
「サラ、今日はよろしく」
(良かった。いつものダン先輩だ……)
「ダン先輩! 今日はよろしくお願いします。すみません。先輩の服装が、特別科の制服だったから、ビックリしちゃいました……」
「あぁ、そうか! 実はその件だが、偽るのをやめることにしたんだ」
「えっ……?」
(偽るのをやめる……?)
先輩の言葉を咀嚼できずにいたら、事情を教えてくれた。
「どうやら審議会の影響で、わたしが第2王子であり、特別科と一般科の両方に在籍していることが公になったようだ。それもあって……」
「あっ……」
原因は、ぼくにある。
ぼくの力では、アダムさんの退学処分を防ぐことはできなくて、ダン先輩に助けてと言って、頼ってしまった。
「ごめんなさい。ぼくが甘えて、相談してしまったから……」
「違う、サラのせいじゃない。だから、謝らないでくれ。それに、双子も同じ王子だ。そろそろ、皆に知ってもらってもいいし、偽る必要はないんじゃないかと思ってね」
「そうだったんですね……」
先輩の言葉は優しくて、とても勇気を与えてくれる。
(なのに、どうして苦しいんだろう?)
『偽る』――その言葉が引っかかる。
ダン先輩は、覚悟を持って、偽ることをやめた。
(一方のぼくは……?)
この学校では「一般科の男子生徒」として過ごし、そして「人間」という種族だと偽っている。
(本当は、魔王様と亡き王妃様との間で生まれた娘……。そして、ぼくの種族は人間ではなく、女性しかいない天使族。従魔だって持っている……ぼくは、偽ってばかりだ)
自分の中にある、たくさんの秘密が、重くのしかかる。
そんな思いに囚われていたせいで、ダン先輩がずっと話しかけていたことに、まったく気づいていなかった。
「サラ? サラ……どうしたんだろう、ずっと考え込んでるな?」
それでも先輩は、どうしてもぼくに気づいてほしかったのだろう。
突然、いつもと違う調子で、ぼくの名前を呼んだ。
「こっちを向いてくれないか――サラちゃん」
そう言って、ダン先輩は、ぼくの両腕にそっと両手を添える。
前にベールを取られそうになった時とは、全く違う、優しい手つきだった。
安堵しながらも……ぼくの思考は、完全に一時停止した。
(だって……ダン先輩に、“サラちゃん”って呼ばれるなんて……!)
顔が火照り始めたぼくは、すぐに理由を聞くことにした。
「なっ、なんで……!? いきなり……!」
するとダン先輩は、いたずらっぽい表情をしながら、こう言った。
「かわいいな、顔が真っ赤だ! そういえば……さっき、君を車で送っていた人物を見かけた。“おじさん”って呼んでたけど、あの人とは……どういう関係なんだ?」
「え……?」
(ああ……どう答えたらいいんだろう。家族……だけど、血は繋がっていない)
返事に困っていると、タイミングを見計らったかのように、部室のドアが勢いよく開き、二人の声が飛び込んできた。
「サラちゃーん! 部長ー!」
「サラちゃーんっ! 部長ぉ! 打ち上げ行こーっ!」
現れたのは、いつも賑やかでお喋り好きな双子――シロくん&クロくん!
双子が現れるだけで、その場の空気がパッと明るくなる。
どうやら今すぐにでも打ち上げ会場へ行きたかったらしく、二人はぼくの肩に、ぽん、と手を置いてきた。
「わっ、びっくりした!」
思わず、声をあげてしまったけれど、心の中ではホッとしていた。
気まずい雰囲気を吹き飛ばしてくれた二人の存在が、今は何よりもありがたかった。
(助かった……ありがとう、二人とも。ダン先輩には……うん。いつか、ちゃんと“おじさん”のことを話せばいいよね?)
そんなぼくと双子のやりとりを、ダン先輩は大人しく見つめていた。
だけど、その表情は、さっきまでの重たさとは違って――どこか楽しそうで、優しかった。
次回は、打ち上げ回です!
お楽しみに……。