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乙女ゲームのヒロインに転生したから何してもいいよね - 乙女ゲームのヒロインに転生しました
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乙女ゲームのヒロインに転生しました

 目の前は黒、黒、黒。果てしなく黒が広がっている。


 暖かい光はどこにあるのだろう。


 そう思って暗闇の中を手探りで歩き続ける。


「……こちらに……」


 男の人の低い声が聞こえてきてハッと顔を真上に向ける。

 暗闇の中に目を凝らす。と、小指ほどの光を見つける。


「こちらに」


 その声に思わずゾクリと体を震わせる。光は優しく安らぎを与えているのに、何故か声の主は冷たく恐ろしい。


 私はその光から目を背けるようにして背を向けようとする。が、「振り向くな」と鋭い声で制される。


「こちらに」


 私はためらいながらも背伸びをして、光に人差し指を伸ばす。

 指が光に触れると光は黒を急速な勢いで飲み込み、私の体すらも白に同化していく。




-------




「――起きて」


 声が聞こえる。愛らしい女の子の声だ。


「起きてってば、クリスティーヌ」


 私は一度きつく目を閉じて、目を開ける。


「よかった。もう、入学早々遅刻なんて嫌だもの」


 目の前にはどこかで見たことのあるシャンデリアや洋服タンス、化粧台。そして可愛らしい女の子。淀みのない澄みきった目、髪はショートで明るい茶色、くるくると巻いてあるのが一層可愛らしい。


 私はこのキャラクターを知っている。私の大好きなファントムが出る乙女ゲーム『歌姫の学園生活~The Phantom of the School~』略して『歌学』に出てくる隠し攻略キャラ、メグ。


 『歌学』はヒロインのクリスティーヌが貴族の学園「ルルー学園」の入学式に出るところから始まる。入学式で歌声を披露したクリスティーヌはその歌声を絶賛され、オペラ部に入部。同じくオペラ部に入部したキャラクターたちと恋愛を育むという乙女ゲームである。

 攻略キャラは四人。一人目は私の大好きな第一王国の王子ファントム。王子であるからこそ周りに妬まれ、両親に愛されなかった寂しい王子。二人目は第二王国の貴族ラウル。ヒロインの幼馴染で甘えん坊キャラ。三人目は第一王国の騎士団長ミフロイド。ファントムの護衛役であり、周りに厳しく自分にも厳しい生真面目キャラ。そして四人目は隠し攻略キャラ、メグ。学園寮のルームメイトであり、ヒロインと同じ第三王国の生まれで話も合うことから親友となる。男性陣攻略の後、誰とも親愛度が高くなく他の選択肢で間違わなければメグルート、つまりは百合ルートに突入するわけである。


「クリスティーヌったら。急いでドレスに着替えないと」


 メグは私の手を引っ張り、ベッドから起こす。


「ほらっ、クリスティーヌ」

「えっと待って……」


 強制的にベッドから起こされ、頭がハッキリしてくる。


 何で『歌学』のメグが私の目の前にいるんだろう。そもそも私のことをクリスティーヌって呼んでいる、よね。


 メグは洋服タンスから白に近い淡いピンクのドレスを取り出す。ウエストには同色の小さめのリボン、変にフリフリしていなくて派手でないのがいい。


 でも、このドレス……。『歌学』の入学式でヒロインのクリスティーヌが着ていたドレスだ。


 メグが私にクリスティーヌが着ていたドレスを押し付ける。


「早くこれ着て」

「え、その嬉しいけれど。でも」

「ほら早く早く」


 メグは有無を言わせず、先程よりも強くドレスを押し付けた。


 正直、大好きな『歌学』の、しかもヒロインのドレスが着られるなんてものすごく嬉しいけれど。私が着ていいものだろうか。


 そうは思うもののメグのキラキラとした目に抗えず、おずおずとドレスに袖を通す。

 さすがは貴族。布の手触りが滑らかで着心地も気持ちいい。


「あの、着替え終わったけど」

「やっぱり! 私の目に狂いはなかったわ。ものすごく似合ってる」


 メグは嬉しそうに両手を合わせて、可愛らしく体を揺らしている。やがて私の背中を押して木製の鏡の前に立たせる。


「ほらっ」


 メグに促されて鏡を見てみる。


「え……」


 鏡にはよく知る人物が映っている。でもそれは私じゃない。私よりはるかに顔が整っていて、外見だけで清楚だと分かるスラっとした綺麗な女性。


 何度憧れたことだろう。この女性に。私の持ち合わせていないものを全て持っていて、何度も何度もこの女性になれたら、と夢見ていた。

 でも、そんなまさか……。


 一抹の不安と期待を抱えながら、頬をつねってみる。鏡の前の女性も私と同じように頬をつねっている。

 そして頬にジワジワと痛みが広がっていった。


「やっぱり……。私、クリスティーヌだ」


 鏡の前には私が憧れに憧れた『歌学』のクリスティーヌがいる。そして私の姿はクリスティーヌその人になっていた。


 まぎれもなく今の私はクリスティーヌ。夢かと思ったけれど、これは夢じゃない。だったら今、何が起こっているの?

 さっきまで私は普通に学校に行こうとして……。そして頭が痛くなった。もしかしたらそれと関係しているの? このまま死ぬのかもしれないと思ったけれど。

 ――私、クリスティーヌに転生したの?――


 そんな私の混乱を全く気にせず、メグは私の白い手を握る。


「さ、入学式に急ぎましょう」


 入学式……。そういえば目を覚ました時もそう言っていたような。


「あの、メグ」と私は声をかける。


「どうしたの」

「入学式ってもしかしなくても、ルルー学園?」


 するとメグは呆れたようにため息を吐く。そしてぺチンと軽い音を立てて、メグは私の両頬を叩く。


「もうっ、まだ寝ぼけているの? 当たり前じゃない。クリスティーヌは式で校歌を歌うんだから、しっかりしてもらわないと」


 やっぱりそうだ。ここは『歌学』と同じ世界観、時間帯。今はクリスティーヌが入学式で歌声を披露する一歩手前の時間帯なんだ。


 メグは私の手を握って部屋の外へと連れ出す。

 長い長い廊下を走っていく。シャンデリラが列をなし、床は大理石。そして廊下には煌びやかなドレスを纏った生徒達。


 私が住んでいた世界とは別次元だ。


 見慣れない景色に目移りしている中、相変わらずメグは私の手をグイグイと引っ張っていく。そのせいか足元がグラグラと揺れる。足元がふらつく。

 目の前から黒いフードを被っている人が歩いて来る。その人はフードを目深に被っているからか、私のことを認識していない。


 ――このままじゃ、ぶつかる――


「メグ!」


 私はメグに声をかけるものの、メグはフードの人とすれ違っただけでこちらには気付いていない。

 そして案の定、フードの人と正面からぶつかり私は尻餅をつく。


「っ! クリスティーヌ!」


 メグはぶつかった衝撃で離れてしまった手を再度差し出す。その手を借りて私は立ち上がる。

 フードの人はというと尻餅をついたまま、私のことを見上げている。


「あ、そのごめんなさい」


 フードの人に手を差し出す。フードの人は私の手をとることはせず、自力で立ち上がった。


 もしかしたら怒らせてしまったのだろうか。


 私は再度「ごめんなさい」と頭を下げるが、フードの人は黙りこくっている。

 私とメグは困った、とお互いに目くばせをする。

 やがてフードの人は小さく口を開く。


「お前は来た」

「……?」


 意味不明な言葉に首を傾げる。

 一つ分かったことは声の低さから、このフードの人は男性ということだけ。


「ついに、連れてきた」


 この人は一体、何を言おうとしているのだろう。やっぱりよく分からない。

 けれど、このどことなく冷たい印象を与える声……。


 ――どこかで聞いたような――


 フードの男性はその二言だけ呟いたかと思うと、私の横を素通りし、足早でどこかへと行ってしまった。


「なんだか、不思議な人」と私が呟くと、メグも「そうね」と返してくる。


「さ、気を取り直して。入学式に急がないと」


 メグは私の手を握って、今度は優しく私を入学式の会場までエスコートした。


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