65〜静寂の狂騒曲〜
問うは易し問われるは難し
「ちょっとさあ、話があるんだけど……ああ、今度は大丈夫だ。よろしく」
――PIPU――
藤真の真剣な声は誰にかけたか電話を切ると、目の前を見覚えのある顔が車の助手席に揺られ過ぎて行く。
一瞬考え、振り返ると高級車が信号待ちの車に阻まれ止まっていた。
思い返す記憶に何をすべきかと考え、とりあえずはと近付き写真を撮り車のナンバーをスマホにメモした所で信号が青に変わり走り去ってしまった。
あと六歩程で顔を拝めたかもしれないが、藤真自身も相手に見られたら顔バレする可能性もあった事に気付き、追い付けなかった事に安堵していた。
が、今更アイツが何故ここに……
不安が過ぎる藤真はスマホの写真を確認していたが、ぱっと見では何か映っているかも判らない。
とりあえずメモした車のナンバーを誰かに送っていた。
――BATA――
「ようこそ先生方、わざわざ遠い所ご苦労さまです」
車から降り立つ丘元を久美が出迎えると、丘元が田中を軽く紹介し建物の中へと急いだ。
運転していたのは高足だった。
薄ら笑いを浮かべる小佐田が見つめる中、喪積が下手を装い二人に頭を下げ家の中へと入って行ったが目は嘲笑っている。
その後も胡唆や福山等が次々に入って行く。
鈴木の家からも透子の家からも少し離れた住宅街の一角にあるソコはシンナーの匂いが漂う何かの会社だが、時折普段とは違う様相を呈し講演会と称して怪しい集団が出入りしていた。
一部の近隣住民からもその様子は異様と捉えられていたが、いつからなのか気付けば近隣の家の住人は粗方集団の人達の知り合いへと入れ替わっている。
――KATAKATAKATA――
同時刻、事務所で議員歳費のチェック作業を続けていた遠藤の手が止まり、スマホで何かの通知に反応し立ち上がるとトイレへと向かっていた。
それを見ていた事務所のスタッフがヒソヒソと目で会話をしている。
普段愛想も無く幸せとは無縁で女がいるとも思えない男のソワソワとした行動に訝しげに嘲笑っている。
それを知る遠藤は敢えてソワソワを演じていた。
しかし、トイレの中でスマホを確認する遠藤もまた訝しげな顔になっていた。
スマホの画面には塗装屋の看板が掲げられている地図アブリの写真だ。
ソレをスマホの小さな画面でズームしていくと知った顔のポスターが貼られているのが見えて混乱する。
「何で? まさか……」
慌てて戻ると丘元都議の資料を睨みつけ、高足と田中の電話のやり取りを思い返していた。
スタッフが細かに頭を傾け何があったのかと目を上に向け馬鹿にしたと同時に遠藤が何かに気付き大声を上げた。
「あっ!?」
その声に遠藤自身も驚いたのか周りを見渡し怪しまれている見方が変わっている事に気付くと一瞬考えるが敢えて口にせず、チェック作業に戻り先ずは気付いた点を辿り再度整理し直していると、心底驚かされたスタッフもまた遠藤の訳の分からない行動かと片頬を上げ歯を見せ合っていたが。
「誕生日って何かした方が良いんですかね?」
突然遠藤に尋ねられたスタッフが固まっていた。
――KATAKATAKATA――
「茶尾、天扉岩はどうだった?」
バスで帰ってそのまま営業を回って帰社した茶尾に、資材持ちに送り出した上司が軽口に尋ねると他の営業部の連中も土産の豆腐は無いのかと冗談めかしていた。
そこで茶尾がおからドーナツを出した。
「まあコレも美味いからな」
「え? 何か皆さんの言う豆腐屋さんて天扉岩のココですよね?」
「いや、途中の春る菜市に目立つ豆腐屋あったろ」
おからドーナツを指して尋ねる茶尾に、営業部の連中は営業らしく手土産に利用出来る商品が多数ある春る菜市の豆腐屋を頭に浮かべていたが、一人の男が茶尾に見せようと調べたのかホームページが閉鎖されているのに気付いて声をあげ、皆がそのパソコンの前に来ていた。
「え、閉店か?」
「ああ、アレか」
その一声に皆感染症の影響を浮かべていた。
「でもアソコ結構出店してなかったか?」
「そういや、アレ入ってたテナント別のに替わってたなぁ、アソコだけだと思ってたわ」
「うわあ、あの婆さん所の手土産どうしよう」
営業に使っていた手土産が消えると新たな手土産か無くなった話を土産にする他無い。
話が面倒な相手に黙って食べさせて仕事を取る為の手土産効果を齎していた店があったと知ったが既に閉店。
「茶尾これいくらだった?」
営業での強みは切り替えの早さと教えてくれたのはこの先輩だ。
値段と共にふと帰りのバスで会った滝親子の会話が頭に過ぎる。
菅原の母親が蔵の漬物を取りに出て来た所に滝の娘が幼馴染の婚約者の話を聞こうと挨拶がてら息子が帰ってきてるのか? と尋ねると否定され、客人か? と尋ねても否定され昨夜の声は誰の声だったのかと
幽霊や宇宙人やモノノケでも居るのかと怪し気な話に滝が、そんなもん居るか馬鹿! と一喝して笑うもバスの中で駅まで娘の話に付き合わされていた茶尾は、例の穴の事を思い浮かべて気をもんでいた。
「いや、んんん……」
「え、そんな高いのか?」
「あ、いえ箱付きの六個で六百円位です」
「安っ」
応えは答えと限らず……