67 PVPの話
残酷描写さんがちょっとだけ仕事します。
俺が振り向くと武器を抜いたまま駆け寄ってきたプレイヤーが4人。こちらに敵意をむき出しにして愉悦した笑みを向けてくる。
あー、4人で袋叩きにする気だな、こいつら。アレキサンダーたちに離れるように言うと、俺の体からは降りるが横に並んで一緒に戦う気だ。グリース1レベルなんだけど大丈夫か? 一応4vs4形式にはなるが……。
敵プレイヤーは両手剣持ちが1人、片手剣と盾持ちが1人、槍持ちが1人とメイスと大盾持ちが1人か。大盾は盾職って奴なのかね。魔法職が居ないだけマシか。全員が金属鎧だから、急所攻撃で捗りそうだな。
「やっと追い詰めたぜビギナーさんよお」
槍持ちが代表して前に出てくる。
チンピラのリーダー格ってことでいいのかね。あと追い詰められた覚えはないから、めんどくさいから殲滅する気になっただけだ。こっちだと遠慮しないでいいから楽だ。
「せめてPVPってことで処理してやんぜ。お前の所持金とアイテムは全部俺たちが有効活用してやるから感謝しな」
後ろの3人がギャハハハハと揃って笑う。ああいう笑い方って疲れないのかねえ。
俺の方にPVPの承諾ウィンドウが開く。
条件は負けた方がアイテムと所持金を全部譲渡、装備品は含まれないようだ。あとは細かい規則やらがちょろちょろっと。4vs4と表示されているが、アイツらは4vs1だと思ってるんじゃねえかな。アレキサンダーたちに指示はしないでおく。何時もやらなくても上手く戦えてるしな。
「ナナシ、手を貸すぜ」
何時の間に来たのか、アサギリが並んで声を掛けてきた。もし負けるとアサギリのアイテムが無惨なことになりそうだ。バイザー接続なら頼んでも良かったが、今の全身接続であれば殺れるだろう。
「有り難いが、その気持ちだけ頂いておく。危ないから離れててくれ。あとハイローにPVPするからって伝えておいてくれ」
「おいおい大丈夫か?」
「戦場より悲惨な結果にはならないだろう」
「……は?」
PVPのウィンドウの承諾を押せば戦闘スタートだ。ちょっと見回したところ、それなりの野次馬がいた。アサギリの言っていた掲示板を見て、こっちに移動してきたプレイヤーも多いんだろう。
「よそ見してんじゃねえっ!」
槍持ちが2段突きを放って来たので、1度目を籠手で弾き2度目を爪の間に引っ掛けて上へ跳ね上げる。槍が簡単に手から離れたので、呆けてる顔面へ目を狙って爪を叩き込む。ドバッと血が迸って「ぐぎゃあああっ!?」という悲鳴が轟いた。顔面を押さえて呻きながら倒れるが痛覚10%程度でそんなに痛がるものか?
ついでにギャラリーからも「うわあああっ!?」とか「きゃあああっ!!」と悲鳴やら真っ青になって視線を逸らす人や嫌悪の表情を向けてくる者がいる。大半が顔を背けたり、突然にログアウトした者もいるようだ。
あれ、この場にいる者にも残酷描写が適用されている?
驚愕の表情で固まる大盾持ちと片手剣持ちと大剣持ち。そのうち大盾持ちはシラヒメの糸に絡みつけられていて、アレキサンダーの飛び跳ね攻撃を顎にくらいあっけなく沈んだ。
連携もないんかい!
まごまごしている片手剣持ちの懐にするりと潜り込み、確認のために籠手の爪を両腿に突き刺して捻る。即座に上がる「イギャアアアアッ!?」という悲鳴。剣と盾を取り落として両足を抱えて転げ回っていた。やっぱり痛覚最大が適用されてんな。PVPの時はどっちかが優先されんのか?
確認は取れたので、倒れて呻いてる奴の喉をかっ捌いて息の根を止める。痛みにかまけて相手を見ないってずいぶんと生ぬるい環境にいたんだな。戦場じゃすぐ死ぬぞ。
大剣持ちの方を見れば、完全に腰が引けていた。俺の視線に分かりやすく怯えて後ろに下がる。
震える腕で構えた大剣が先端から中程まで錆た色に染まっていく。ボロボロと細かい砂のようなものが零れ落ちるのを見るに一瞬で錆びてしまったようだ。目を丸くしたそいつは俺と大剣を見比べ、がたがた震えてる。いや、俺がやったんじゃねえから!
俺に並ぶシラヒメの上に乗っていたグリースが「ぴぃ!」と嬉しそうに鳴く。あれが【腐蝕の視線】の効果か。まだレベルが低いから錆びる程度に収まったようだな。
「ま、まて、俺たちの負けだ。こうさっ!?」
まだ対人テストが終わってないからそれは受け付けてやらねえ。
PVPを中断させようとした素振りで足に闘気を纏って高速で接近する。籠手に闘気を込めて高速移動の勢いも足して腹部に破撃を叩き込んだ。案の定上半身と下半身が分断されて、今までで1番大きな悲鳴がギャラリーから響く。プロテクター着てる人間ならこうなるかは怪しいところだ。
今のはなんかガガーンの必殺技みたいだったな。
あれは剣に光を纏ってブースターで敵に接近して真っ二つにする技だし、似たようなもんか。
「よし、これをブレイブバーストと名付けよう」
「周りの惨状に目を向けてからモノを言え馬鹿野郎!」
スパーンとハイローに頭を叩かれた。
4人中3人が死亡、1人気絶でPVPは終了である。実に手ごたえの無い。死んだプレイヤーはある程度の時間が経つと登録した場所に戻るため、3人はすでに消えている。
俺のインベントリには奴らが持っていたアイテムや所持金がごっそりと。アイテムはほとんどポーションやら毒消しやらである。大したもの持ってなかったんだな、アイツら。所持金も元々俺が持っていた金額が倍になったくらいだ。4人分足してそれだけだからショボいというか、なんというか。
周囲を見渡せばギャラリーが最初の半分以下になっている。
ほぼ全員が距離を取って顔面蒼白の上に怯えた表情でこちらを窺っていた。
「これはヒドイ」
「いや、お前の自業自得だからな」
呆れた表情のハイローは、額を押さえて首を振る。そこへアサギリが「おーい、さっきの惨状の原因が判ったぜ」とやってきた。
「たしかに惨状だったな」
「お前、これよく読んでないだろう」
アサギリの示したのはPVPのウィンドウだ。
そこには勝者が相手から奪うアイテムや金額の条件の他に注意事項が書いてあった。
「何々? 「なお、PVP中の残酷描写や痛覚設定については、どちらかのプレイヤーの大きい方に固定される」と……」
アサギリとハイローのジト目が俺に突き刺さる。
なるほど俺のせいか。それであんなんになったんだな。
「正直すいませんしたっ!!」
ギャラリーの方々に頭を下げておく。
でもアイツらがPVP吹っ掛けて来なければこんなことにはならないと思うんだが……。
はい、ご免なさい。私も悪うございました。
やはり戦闘シーンは苦手です。
あっさりですみません。