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自分から蒔いた種とは言え、忙しい。でも目の前で無駄、非効率なことが起きてるのにそれを見過ごせるほどの胆力は俺にはない。流せば良いのにイラつくんだ。イラつくから口出しちゃうんだ。口出すから巻き込まれるんだ。分かってはいる。でもイラつきは抑えられない。
数独を5冊ほど仕上げた段階で、あとは道中数字を書き入れるから、先に体裁を整えるだけにしよう、と杉先生が自分から申し出てくれた。思いついてはいたけど、また長崎に行かなきゃいけない人に負担掛けるのもな、と思っていただけにありがたく乗っからせてもらう。
自ら残ると言ってくれた人には、入出金の管理と台帳の書き方を教える。とは言え、人が少なくなればなるほど記載することも減っていくので、そんなに心配はいらないはず。蝋燭屋改め泡屋のおっちゃんにも、江戸を離れるからと説明し、一旦入金ストップ。その代わりいろんな油使って色々実験する費用に充てて、って依頼したら、泣いて喜ばれた。
あとは、今やってる研究に目処が立った段階で、行くか残るかを各々で判断するってことで決着。蔵書をまとめて読みたいって人も一定数いた。かなり増えたからね。
江戸から下田まで、早ければ舟で3日程度。造船班の人たち、頑張ってこの行程を縮める船を作って下さい。実に良い目標だね。より多く、より早く。輸送手段の基本。あとは耐火煉瓦が出来れば、下田に反射炉作っちゃえば良い。精錬、製鉄技術と輸送手段が出来れば、技術革新はさらに進められるよ。頑張って。
史実通りなら下田を開港させるはず、という単純な思いつきからの発案だったけど、幕府の直轄地にあたるから、対外的な根回しが必要なかったのも勝様的にゴーサイン出しやすかったみたい。確かに金山あるもんね。
ってとこで思い出した。金だ。来年結ぶのは不平等条約だ。金の流出が原因で、余計に財政悪化するんだった。
みすみす不平等な条約を結ばせるわけにはいかんな。非合理だ。思い出したら立ち回り方を考えねば。でも俺に出来ることあんのかな?
寺の一角をお借りしながら、環境整備。よほど皆さん気に入ったらしく、調所と同じ形の詰所にした。籠るよりも話し合う効率を知ってもらえたみたいだ。持ってきた蘭書も多くはないので、空いてる時間は手分けして数学書の量産。ああいうお祭り、みんな忘れられないのか余韻なのか。誰も何も言わず黙々とやってくれてる。正直、これ世界で当たると思うんだけどな。根拠は無いけど。
下田に越して、いろんな建物の形が整い始めた頃、港のあたりがざわついて来た。望遠鏡で覗く。うん、覗いたとて、アレが目的のオランダ船なのかどうかの判断材料がなかった。分かったのは、望遠鏡の性能の高さだけだ。
じわじわ近づいてきて、だんだんと騒ぎが暴動みたいになってくる。事前通告してあったのに。なんだろうな、この感情だけで騒ぐ人たち。心境が全く理解できない。そりゃ思ってたよりもデカくてビビるのは分かる。情報を理解してない子供が、慌てて騒ぐのも分かる。でも、良い大人が事前の情報を知っていたにも関わらず、初めて知ったみたいな感じで慌てふためき狂乱するの、全く理解出来ない。既視感あると思ったらアレだ。明日から増税です、って分かりきってることを前日に大仰に騒ぎ立てるマスコミと、それに踊る人たちだ。騒いでる大人、全員引っ叩きたい。どっかにハリセンないのかな?ツッコまれたいの?それとも「ドッキリ大成功」って看板出せば喜ぶ?ほんと理解出来ない。バ◯ども騒ぐな!って叫びたくなるのをグッと堪える。それを言えるほど、俺は賢くない。そして、それが出来そうなあの人がこの時ばかりは羨ましく思った。
「静かにせい。事前に通知があったはずじゃ。御公儀じゃ。静かにせい」。
俺が顔を浮かべたせいなのか、見たくはない顔が急に現れた。わざわざ陸路で来たらしい。なんてタイミング。とても実利的な詐欺行為。偉いのは誰か、ではない。偉そうにしてるヤツが偉いんだ。誰も知らない土地なんだから。
「佐久間様、なぜわざわざここに?まさか私を切りにこちらまで来られたんですか?」
「藤二、なぜワシがお前を切るんだ?むしろそんなことするヤツがおるなら、ワシが守ってやるぞ。安心せい」
くそ、白々しい。嫌味まで利用しやがった。きっと調所に来て、まだそんなに時間が経っていない橋本さんか大村さんあたりを脅して聞き出したんだろう。
「勝様から了承得るまでは、絶対にあなたを中には入れません。私のような子供でも理解出来ること、お偉い佐久間様なら理解されますよね?」
「分かった分かった。そうカリカリするな」
絶対この人やらかす。
急いで江戸に向かう舟に手紙を一緒に渡してもらう。江戸に残ってて信頼出来る内田様と友さんと勝様宛に。
「カピタン到着、佐久間襲来」