57.魔道具の盾
トールが神業で日本刀を完成させた翌日。
わたし達は、量産された数本の日本刀――トールが徹夜で仕上げたそれらを、ガラたち幹部に配給していた。
「すげぇ……触れただけで指が切れそうだ」
「こいつがあれば、あたいらでも廃棄族の連中をブッた斬れるね!」
ガラたち餓狼団のみんなは、新しい武器に興奮し、さっそく広場で素振りを始めている。
切れ味は抜群だ。
そこらの鉄骨くらいなら、素人の腕でも薪割りのように両断できるだろう。
だが。
「――止まれ。見苦しいぞ、お前たち」
水を差すような冷ややかな声が響いた。
キリカだ。
彼女は腕を組み、鋭い眼光でガラたちを睨みつけている。
「あ? なんだよキリカ。せっかく盛り上がってんのに」
ガラが不満げに言うと、キリカがふんっと鼻を鳴らす。
「盛り上がる? 笑わせるな。そのへっぴり腰はなんだ」
キリカは一歩踏み出すと、ガラの目の前でピタリと止まった。
「武器の性能に頼り切り、足捌きも太刀筋もデタラメだ。そんな構えでは、刃が敵に届く前に、貴様の首が飛んでいるぞ」
「うぐっ……」
「いいか。我々の相手は、あの『廃棄族』だ。ただのチンピラではない。殺し合いに慣れた連中だ。今の貴様らは、切れ味のいい鉄板を持っただけの案山子に過ぎん」
厳しい言葉だが、正論だった。
攻撃力(ATK)は上がっても、ガラたちの防御力(DEF)や素早さ(AGI)は低いままだ。ゲーム風にいうとね。
日本刀は「殺傷力」は高いが、盾のような防御機能はない。
一発殴られれば終わりの「ガラスの大砲」状態だ。
「確かに、キリカの言う通りだね」
わたしは二人の間に割って入った。
「攻撃力は確保できた。次に必要なのは、ガラたちが安心して戦える『防御力』だ」
「防御って言ってもねぇ……。重い鎧なんか着たら、動けなくなっちまうよ」
ガラが困ったように言う。
それに、普通の鉄の鎧じゃ、廃棄族の魔術や改造武器は防ぎきれないだろう。
「だから、鎧じゃない防御を用意するよ。スキルも魔力も使わず、勝手に守ってくれる『自動盾』をね」
わたしはそう言って、貯蔵していたものを取り出す。
手のひら大の小さなバッジだ。中心には窪みがある。
「大将、そりゃあ『魔道具』ってやつかい?」
「そう。トールは魔道具職人でもあるからね。設計図を作ってもらって、わたしのスキルで量産したんだ」
これは量産型の結界発生魔道具である。
トールの完璧な設計図があれば、技術力はいらない。わたしのスキルでコピーすれば、いくらでも量産できるのだ。
「でも、これを動かすには燃料(魔力)が要るんだろ? あたいらにそんな魔力はないよ」
魔道具には動力源が要る。
強い効果を持つ魔道具ほど、大量の魔力が必要となるのが常識だ。
「燃料なら、あるよ。……とびきり上等なやつがね」
わたしはニヤリと笑う。
昨日の戦いを思い出してほしい。
わたしはキエリュウが垂れ流していた膨大な「魔力」を、【買取】スキルで根こそぎ吸収したはずだ。
あれはポイント変換せずに、そのままストックしてある。
「これをこのまま使うと暴発するから……圧縮して、電池にする」
わたしは両手でエネルギーを押し固めるイメージを持つ。
「スキル発動――【仕様変更】!」
バチバチバチッ!!
黒い雷のような火花が散る。
直径一メートルほどあった魔力の塊が、みるみるうちに収縮していく。
不純物を削ぎ落とし、純粋なエネルギーのみを結晶化させる。
数秒後。
わたしの手には、宝石のように硬質に輝く、漆黒の結晶石が握られていた。
「よし、完成。『高濃度魔力結晶』だ」
これ一個で、一般家庭の電力なら数年は賄えるほどのエネルギーが詰まっている。作った時に頭に情報が流れてきたから間違いない。
究極のリサイクル燃料だ。
「で、この結晶が魔道具にハマるように、【仕様変更】!」
ガシャガシャとパーツが組み替わる。
完成したのは、無骨だが近未来的なデザインの「銀色のリストバンド」だった。
中央には、黒い結晶石が埋め込まれている。
「名付けて『自動展開式・魔導障壁発生装置』。ガラ、これを着けてみて」
「こ、こうかい?」
ガラはおっかなびっくり、リストバンドを左手首に巻いた。
「よし、実験だ。キリカ、ガラに攻撃してみて」
「……本気で言っているのか? 死ぬぞ」
「大丈夫。信じて」
キリカはため息をつくと、手にした日本刀を構えた。
「手加減はせんぞ。……死んでも恨むな」
殺気。
空気が凍りつくような鋭い気配と共に、キリカが踏み込んだ。
「ひっ!?」
ガラが反応すらできずに硬直する。
キリカの刃が、ガラの首を刎ねようと迫った、その瞬間。
カッ!!
リストバンドの結晶石が赤く輝いた。
刹那、ガラの周囲に、半透明の黒い六角形の光――「蜂の巣状の壁」が展開された。
ガギィィィンッ!!
凄まじい金属音が響く。
キリカの斬撃は、ガラの肌に触れる寸前で、その光の壁に完全に阻まれていた。
「な……ッ!?」
キリカが目を見開いて飛び退く。
ガラは無傷だ。
展開された光の壁には、ヒビ一つ入っていない。
「す、すげぇ……! あたい、生きてる……?」
「竜の魔力を圧縮して作ったバリアだ。強度は折り紙付きだよ。装着者が『危険』を感じたり、物理的な衝撃が迫ると、センサーが反応して自動で展開される」
これなら、反射神経のない素人でも、不意打ちを防げる。
いわば「着る戦車」だ。
「攻撃の『日本刀』。防御の『竜魔力バリア』。……これで、攻守ともに揃ったね」
わたしはガラたちを見渡す。
手には最強の矛。腕には最強の盾。
これなら、あの廃棄族とも対等以上に渡り合えるはずだ。
「フン……。道具に頼るとは嘆かわしいが、まあいい。これなら足手まといにはならんだろう」
キリカも刀を納め、少しだけ口元を緩めた。
どうやら合格点はもらえたらしい。
「よし、準備万端だ」
わたしは拠点の方角――廃棄都市の中心部を見据える。
「始めようか。交渉を」
反撃の狼煙は上がった。
わたしたちのリサイクル革命が、いよいよ始まる。
【おしらせ】
※2/2(月)
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