61.ゴミ屑のマイホームと、黄金の種もみ
資源回収部隊による人海戦術は、凄まじいものがあった。
コノワを筆頭とする百人あまりの男たちが、蟻のように廃棄都市中を駆け回り、ありとあらゆる「ゴミ」を拠点に運び込んでくるのだ。
「兄貴! 壊れたソファを見つけやした!」
「こっちは足の折れたテーブルっす!」
「謎のカーペットもありやしたぜ!」
運び込まれるのは、どれもボロボロのガラクタばかり。
だが、今のわたしには「お宝」にしか見えない。
「よし、どんどん置いてって。……スキル発動【商品修繕】!」
わたしが手をかざすと、ガラクタたちが瞬く間に光に包まれる。
破れてスポンジが飛び出していたソファは、最高級の革張りのようにフカフカに。
足の折れたテーブルは、傷一つない新品同様の艶を取り戻す。
「うぉおおおお! すげぇ! 新品だぁ!」
「スプリングがケツに刺さらねぇ! 貴族の椅子だコレ!」
修繕された家具を、新しく建てた集合住宅(社宅)へと運び込む男たち。
殺風景だったプレハブ小屋が、みるみるうちに「快適なマイホーム」へと変わっていく。
「ふむ……」
その様子を隣で見ていたキリカが、不思議そうに首をかしげた。
「主には、遠隔買取があるじゃあないか。それで一気にぱぱっと買い取れるのに、なにゆえ人に運ばせるのだ?」
まあ、もっともな疑問ではある。
「遠隔買取には、弱点があるのさ」
「弱点?」
「うん。買取範囲内にあるゴミを、自動で買い取る。でもそれって、あくまでスキルが……システムが『ゴミ』って認識したものだけなんだ」
わたしは作業を続けながら説明する。
「わたしのリサイクルショップに限らないんだけど、スキルって……結構『解釈』が重要だと思ってるの」
「解釈?」
「うん。この力で、これができるだろう、ってね」
イキリ太郎戦でもそうだった。
銃弾なんて、本来ならゴミではない。
しかし銃から放たれた時点で、それはゴミ(廃棄物)だ、とわたしが認識したことで、遠距離攻撃を防ぐことができた。
「システムによる一括買取って、その解釈の幅がないんだ。だから、思わぬ掘り出し物みたいなのを、システムがゴミと認識しなかったら買い取れない」
「なるほど……だから人海戦術をしているのだな。深い考えがあったとは。さすが主だ……好き……♡」
流れるように、キリカがわたしの下着に手を這わせてきたので、ひょいっと避ける。
もー、油断も隙もない。
そんな雑談をしながらも【商品修繕】を続けていると、ソファなどの内装に使う品がどんどん貯まっていく。
使用できないゴミはポイントへ。
再利用できそうなものは【商品修繕】へ。
【仕様変更】の素材になりそうなものは貯蔵へ。
完璧なリサイクル・フローだ。
「信じられねぇ……昨日まで雨ざらしのテントだったのに……」
「こんなふかふかのベッドで寝れるなんて……」
男たちが感動のあまり、ソファに顔を埋めて泣いている。
衣食住の劇的な向上。
これにより、彼らのわたしに対する忠誠心(と労働意欲)は、カンストして限界突破したようだ。
「へへっ、兄貴のためなら、地獄の底からでもゴミを拾ってきやすぜ!」
頼もしい限りだ。
一人でやっていたら何日かかったか分からない作業が、マンパワーのおかげで数時間で片付いてしまった。
そんな時だった。
部下の一人が、申し訳なさそうに泥だらけの袋を引きずってやってきたのは。
「あの……兄貴。食料庫の跡地でこれを見つけたんですが……」
彼が差し出した袋の中には、ドロドロに腐敗した黒いヘドロのようなものが詰まっていた。
強烈な腐敗臭が鼻をつく。
「食い物かと思ったんですが、完全に腐ってて……捨ててきやすね」
「……待って」
わたしは男を止めた。
鼻をつまみながら、そのヘドロを【鑑定】する。
……間違いない。これはただの泥じゃない。
「これは『宝の山』だよ」
「へ? こ、これがっすか?」
わたしは袋に手を当てる。
腐敗していようが、原型がなかろうが関係ない。
わたしのスキルは、その物質が辿った時間を巻き戻すことができるのだから。
「スキル発動――【商品修繕】!」
シュゥゥゥ……ッ。
光と共に、ヘドロから汚れと水分、そして腐敗そのものが抜け落ちていく。
黒い塊が粒子状に分解され、黄金色の輝きを取り戻していく。
数秒後。
袋の中に現れたのは、サラサラとした大量の「粒」だった。
「こ、これは……麦!? 種もみっすか!?」
「そう。乾燥小麦だ」
部下たちがどよめく。
この廃棄都市において、まともな穀物は宝石以上の価値がある。
それが、あのヘドロから再生されたのだ。
「すげぇ……! これならパンが食える!」
「いや、待て」
わたしは浮き足立つ彼らを制した。
確かにこれを粉にすればパンは作れる。だが、それでは一回食べて終わりだ。
「このままじゃダメだ。この土地を見てごらん」
わたしは足元の地面を指差す。
廃棄都市の土壌は、長年の汚染と荒廃で痩せ細り、有害物質まみれだ。
普通の植物なんて育たないし、育ったとしても毒を吸って食べられなくなるだろう。
「じゃ、じゃあどうするんです?」
「育つように『作り変える』んだよ」
わたしは小麦の粒を手に取り、イメージを集中させる。
リサイクルショップの真骨頂は、環境に合わせて商品を改良することだ。
「スキル発動――【仕様変更】!」
頭の中で、小麦の遺伝子情報(設計図)を書き換えていく。
『汚染土壌への耐性』を付与。
『少ない水でも育つ』ように根を強化。
そして何より――『成長速度』を極限まで上げる。
バチッ、バチチッ!
わたしの手の中で、小麦の粒が淡い緑色の光を帯びた。
生命の理すらも捻じ曲げる、禁断の品種改良。
「な、なんか光ってますけど……」
「完成だ。名付けて『リオン小麦1号』」
これなら、この不毛の大地でも力強く育つはずだ。
わたしはその種もみを掲げ、部下たちに高らかに宣言する。
「みんな、聞いてくれ」
全員の視線が集まる。
「ゴミを拾って食うだけの生活は、もう終わりにしよう」
「……え?」
「これからは、自分たちの手で作って、腹一杯食べるんだ」
わたしは拠点の裏手に広がる、広大な荒れ地を指差した。
「あそこを耕すぞ。この街を……黄金の畑に変えてみせる」
一瞬の静寂の後。
うおおおおおッ!! と、地鳴りのような歓声が上がった。
廃棄都市に農地を作る。
それは、ただの延命ではない。「生活」を取り戻すための、最初の一歩だった。
【お知らせ】
※2/5(木)
好評につき、連載版、投稿しました!
『【連載版】加護なしの第八王女は、前世が社畜だったので王宮生活がイージーモードにしか見えない』
https://ncode.syosetu.com/n8005ls/
広告下↓のリンクから飛べます。