66.種族を超えた雇用契約
【☆★おしらせ★☆】
あとがきに、
とても大切なお知らせが書いてあります。
最後まで読んでくださると嬉しいです。
とんこつラーメンのスープを一滴残らず飲み干し、キエリュウは深く息を吐いた。
その顔からは、先程までの殺気立った険しさが消え、憑き物が落ちたように穏やかになっていた。
「……美味かった。こんな温かい飯を食ったのは、いつぶりだろうな」
彼は丼を丁寧に地面に置くと、居住まいを正し、わたしを真っ直ぐに見据えた。
「満足だ。未練はない。……さあ、殺せ」
「はい?」
わたしはきょとんとして首をかしげる。
和解ムードだと思っていたのに、なぜ急に物騒な話になるのだろう。
「なんで? もう勝負はついたでしょ」
「敗者は死ぬ。弱者は糧となる。それが俺たち『魔族』の掟だ」
キエリュウの口から出た言葉に、周囲の空気が凍りついた。
コノワたちが息を呑む気配がする。
「魔族……? 君たちは『廃棄族』じゃないの?」
廃棄族。
それは、能力不足や犯罪歴などで都市を追放された、ヒューマンの落ちこぼれだと聞いていた。
「フン……。廃棄族なんてのは、人間どもから逃げるための仮初めの名前だ」
キエリュウは自嘲気味に語り始めた。
「俺たちは、かつての大戦で人間に敗れ、国を追われた魔族の末裔だ。迫害を逃れ、この汚染された不毛の大地へ流れ着いたんだよ」
「なるほど……」
「俺たちは人間の敵だ。生かしておけば、いつか寝首を掻くかもしれんぞ?」
彼は挑発するように言った。
だが、その瞳の奥には、怯えのような色が揺らめいているのが見えた。
彼はずっと怖かったのだろう。
正体がバレれば、人間たちに殺される。
だからこそ、恐怖で仲間を縛り、強がることで自分たちを守ってきたのだ。
「煮るなり焼くなり好きにしろ。魔族は負けたら殺されるのが常だ」
彼は覚悟を決めて目を閉じた。
周囲のコノワたちも、固唾を呑んでわたしの決断を待っている。
「殺さないよ」
わたしは即答した。
「……なんだと?」
キエリュウが目を開ける。
「君たちのルールではそうかもしれないけど、わたしは人間だし。ここはわたしの土地で、君はそこに住まう人だ」
わたしは彼の前にしゃがみ込み、視線を合わせる。
「魔族だろうが、廃棄族だろうが、なんでもいいよ。わたしの領地(会社)のルールは一つ。『働かざる者食うべからず』。種族差別なんて非効率なルールはない」
「だ、だが……俺は負けた! 弱い者は罪だ! 許されるはずがないんだ!」
彼は悲痛な叫び声を上げた。
長年染み付いた「弱肉強食」の呪縛。
それが彼自身を苦しめている。
「弱くても、補い合えばいい。それが組織でしょ」
わたしは彼の肩に手を置いた。
ゴツゴツとした肩が、小刻みに震えている。
「君は、一人で強がらなくていいんだよ。……もう、十分頑張ったじゃないか」
その言葉が、引き金になったようだった。
「う、うぅ……っ」
キエリュウの目から、大粒の涙が溢れ出した。
ラーメンの熱気で緩んだ心に、わたしの言葉が染み渡ったのだろう。
「俺は……怖かった……。仲間を守るには、強くあるしかなかった……! 弱いと……また奪われるから……っ!」
嗚咽と共に、彼の本音が吐き出される。
彼は暴君だったかもしれない。
けれど、それは誰よりも仲間を想い、失うことを恐れた結果だったのだ。
「もう奪わせないよ。わたしがいるからね」
わたしは優しく、包み込むように告げた。
彼は子供のように泣きじゃくり、やがて地面に額を擦り付けた。
「……リオン様。どうか、俺を……あなたの下で働かせてくれ。この命、あなたに預ける」
それは、敗北による服従ではない。
心からの忠誠の誓いだった。
「うん、採用だね。よろしく、キエリュウ」
「はっ!!」
わたしが手を差し伸べると、彼は涙でぐしゃぐしゃになった顔を上げ、力強くその手を握り返してきた。
「さて、仲間になったところで……さっそく仕事を頼んでもいいかな?」
「なんなりと! 誰を殺せばいいですか!?」
「いや、殺さないってば」
わたしは苦笑しながら、彼の足元を見た。
「君のその『速さ』を見込んで、頼みたいことがあるんだ。……資材運びなんだけどね」
「は? 資材……ですか?」
「そう。これから大掛かりな建設をするから、君の【縮地】や【超加速】で、あちこちから材料を集めてほしいんだ」
キエリュウは一瞬呆気にとられたが、すぐにニヤリと笑った。
「フッ……この俺をパシリに使うとは。……いいでしょう、最速で運んでみせますよ!」
こうして、かつての暴君は、わたしの頼れる「物流部長」として新たな生を歩み始めることになった。
人員も増え、優秀な運び屋も確保した。
(よし。これで準備は整ったね)
わたしは次なる野望に向けて、大きく一歩を踏み出したのだった。
【おしらせ】
※2/11(水)
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