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二度目はタの付く自由業 - 2話 お嬢の言い分
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2話 お嬢の言い分

三月に拙作の3巻が発売となります

よろしくお願いします

--西川視点--


あれは、前回の探索が終わってから数日後のことやった。


「お嬢、そろそろあのとき貸した指輪返して欲しいんやけど」


俺はお嬢にそう告げたんや。


なにせ、あのとき貸してもらった指輪は、装備しとるだけでレベルアップの際に成長するステータスの値が一・五倍になるっちゅー超レアなアイテムやからな。


レベルアップが見込めないような浅いところでの探索のときはいらんけど、四〇階層に挑むとなれば話は別。

今の俺なら絶対にレベルアップすることになる。

そんときに、この指輪を装備しとるかそうじゃないかの差はでかい。


但馬ちゃんや筧のヤツも必ず装備してくるはずや。

ほんなら俺も装備しとかんと、差をつけられてまうやろ?

だからあの指輪は、但馬ちゃんらと一緒にダンジョン探索に赴くにあたって絶対必要なモノなんや。


だからお嬢に返してくれって言ったんよ。


そもそもの話、今お嬢があの指輪を装備しとるんは、前回の探索では俺が装備するよりもお嬢が装備してる方が有意義やと思ったから、お嬢に貸したモンやしな。


そう、俺の中ではあくまで『向こうが俺に貸してくれてたモンをお嬢に貸してただけ』って気持ちやったんや。

だから、俺が必要になった際には普通に返してもらえるもんやと思っとった。


けど、お嬢の返答は俺が思いもしないモンやった。


「え? 普通に嫌だけど」


「へ?」


「だから、嫌だって言ったの!」


それは冗談でもなんでもなく、明確な拒絶やった。

基本的に大らかなお嬢があそこまで明確に拒絶の姿勢を見せたんは、中学に入った頃くらいに「お洗濯のとき、お父さんの服と一緒にしないで!」って感じの、思春期の少女らしいモンくらいやろか。


それくらい普段のお嬢は聞き分けが良かった。


少なくとも『他人から借りたモノを返さない』なんてことは絶対になかった。


そんなお嬢が、俺から借りたモノを返さないと断言したんやで?

それも「絶対に嫌だ」と、口だけでなく態度で表しよる。


「な、なんで……」


あまりの剣幕に驚いて固まった俺を見て、お嬢はこう言ったんや。


「これは私がもらったの! 絶対にあげないから!」


「いや。そもそもソレは俺のモンで……」


「そりゃ確かに最初は西川さんのだったかもしれないけどさ。一度もらったら私のでしょ!」


「いやいや、その理屈はおかしいって」


「おかしくないよ? そもそも一度女性にあげた指輪を『返せ』とかありえないから」


「いやいやいや、貸しただけやん。あげてないやん」


「女性に指輪を貸すって時点でおかしいじゃん。だからこれは私がもらったの」


「そら、普通の指輪ならそうかも知らんけど……」


「普通でもそうじゃなくても指輪は指輪。これはもう私のだから、諦めて」


「諦めろって……お嬢。それはあんまりやで」


これやで?

もう呆然とするしかなかったわ。


「ごめんね。でもこの指輪は返してあげられないの……」


救いがあるとしたら、この言葉からお嬢の人格がひん曲がったとか、そういう類の話ではないってのを感じ取れたことくらいやろか。


せやけど、それとこれとは話が違う。

多少強引にでも返して貰おうとしたとき、お嬢はこう言ったんや。


「それにね、これは私の我儘ってだけじゃないから!」


「……なんかお嬢なりの理由があるんか?」


そう水を向けてみれば、お嬢は「待ってました!」と言わんばかりに語りだした。


「まずね、この指輪って、ふじもっちゃんのところの人が西川さんを強くするためにくれたんでしょ?」


ふじもっちゃんってのは、アレや。

但馬ちゃんのところの親会社である藤本興業のことや。


お嬢は藤本のオジキのお嬢さんと付き合いがあったからな。

だから探索者クランの龍星会よりも、藤本興業の方が前にくるんやろ。

それはいいとして。


「せやな」


向こうの狙いは俺らと手を組むことや。

それもただの業務提携ではなく、対ギルドを見据えた同盟に近いモンを想定しとる。

河内連合と不戦の約定を交わしたことも、その一端になる。


「だったら向こうは西川さんに、というか、ウチに強くなって欲しいって思ってる。同業他社、つまりは競争相手なのに」


「せやな」


「それはどうして? 恩を売るため? 違うよね? 単純に、そうしないといけない相手がいるからでしょ?」


「せやな」


同盟相手とはいえ余所の勢力を強化するっちゅーのは、そういうことや。


「盾としてなのか、剣としてなのかはわからない。だけど、少なくとも今以上に強くならないと役に立たない。そう思われたからこそ、力をつけるための道具をくれた」


「せやな」


正確には、貸してもらっているだけやけどな。


「だったら、私が強くならなきゃダメでしょ?」


「なんでやねん」


いや、ほんま。

なんでそうなるねん。


「えぇ? だってさ、私たちが探索に出たら、こないだみたいなことがあるかもしれないじゃん?」


「こないだみたいなこと? あぁ襲撃、か。まぁ、ないとは言い切れんわな」


確かに、河内連合が大人しくなったとしても、他が同じように大人しくなるとは限らん。

なんなら河内連合が手を引いたところに入ってこようとする連中がいてもおかしくはない。


「でしょ? そのときに狙われるのは誰? 西川さん? それとも私?」


「……普通に考えたらお嬢やろな」


痛いところを突いてきよる。

あのとき瀬戸垣は、俺らの動きを止めるためにお嬢を人質にしようとしてたからな。


「でしょ? それでさ、私が人質に取られたらどうする? 私を見捨てる?」


「それはありえん」


お嬢を見捨てるくらいなら俺らが死ぬわ。


「だよねぇ。でもさ、すぐに自分の身を捨てるような人たちが、他人から信用されると思う?」


「……まぁ、思わんな」


俺が但馬ちゃんの立場やったら、そんな連中は間違いなく信用せんわ。


「でしょ? それなら、まずは私が強くならなきゃダメじゃん。せめて簡単に人質に取られないくらいには強くならなきゃダメじゃん」


「……なるほどなぁ」


お嬢が言いたいことはわかった。

確かに、現時点で俺らにとってお嬢は弱点でしかないもんな。


で、俺らを敵に回そうって連中が、目に見えた弱点を放置してくれるほど甘いはずもない。


その対処法として、お嬢を強化することで、弱点をなくそうってのはわかりやすい話や。

正攻法ともいえるやろな。


反対する理由は、ない。

実際に襲撃があったしな。


お嬢が現状に危機感を抱いて、レベル上げをしようとしてくれるなら万々歳や。

積極的に協力して、自衛できるレベルまで上げておいた方が安心できるやも知れん。


「わかった。お嬢の言い分にも一定の理があることは認めたる」


「でしょでしょ!」


うれしそうな顔しよってからに。


確かにお嬢の言い分は認めたけどな。

それと、今回の探索に指輪が必要ってこととは話がちゃうねん。


あと、もっとあるんやろ? 

俺に指輪を返したくない理由が。


「で、本音は?」


「シータちゃんだけズルい! 私も強くなりたい! ……ハッ!」


「はぁ……そんなこったろうと思ったわ」


まぁな。

実のところ、お嬢がここまでかたくなになる理由もわかっとった。


探索者の素質があるヤツってのはな、多かれ少なかれ、力に惹かれるモンや。

さらに、可視化できるレベルやステータスは、同じ探索者同士の競争心を煽る火種になりがちや。


それはアイドルかて変わらん。


いや、むしろステータスの差がそのままダンスの切れや声量に直結する分、目の前に出てきた魔物を倒すだけの俺らよりもよっぽどシビアなんかも知れん。


実際、映える画を撮るためにダンジョンの二〇階層まで潜るような業界やしな。


そこにいる全員が『少しでもステータスを高くしたい』と願い、行動に移すような連中に揉まれる中、突如として出てきたのが、レベルアップした際に上昇するステータスの値を伸ばす指輪や。


その効果の程は、同じようにレベルアップした同級生らと比べることでしっかりと立証された。

立証されてしもた。


探索者なら誰もが持つ”力”への憧れと、アイドルが持つ”向上心”という名の渇望。

その両方を満たす魔法のアイテムが目の前にある。

そら、外したくなくなるわな。


その上、後輩のシータはんにも同じモンが渡されたのを知っとったら、尚更や。


しかも、お嬢がこの指輪の存在を知ったのは一五レベルのときで、向こうはレベル一〇のときや。

当然、同じレベルになったときのステータスは、向こうの方が上になる。


この分の差はもう諦めるしかない。

そのくらいはお嬢かて理解しとる。


理解しとるからこそ、これ以上の差はつけられたくないんやろな。


シータはんは、次回俺らが行く四〇階層までの探索に同伴することも決まっとるし。

順当にいけば、帰ってきたときには取り返しがつかないほどの差が付いとるやろ。


指輪がなくなれば、尚更その差が大きくなるもんな。


後輩云々を別としても、近くにいる人間と差が付くのは耐え難いモンや。


せやから、指輪を返したくないっていうお嬢の気持ちもわかる。

わかるけど、だからといってお嬢の我儘に付き合える余裕はない。


差をつけられたくないのは、お嬢だけちゃうねん。

むしろ、レベル三〇を超えた時点で指輪の存在を知った俺の方が、よっぽど切実なんや。


現時点でさえ但馬ちゃんと明確な差があるっちゅーのにな。

あの指輪をつけてレベルを上げないと、もっと差がついてまうやないか。

戦力不足って判断されて切り捨てられたら、俺らは終わりなんやぞ。


この業界は力が全て。

力を持つ者が奪い、力を持たない者は奪われる。


「えぇか? お嬢が強くなっても、俺らが弱けりゃ奪われるねん。そら、今更但馬ちゃんらと同格になるんは無理かも知れん。けどな、影も踏めんくらい離されるわけにはいかんねや。だから……」


大人しく指輪を返して欲しい。


そう頼もうとした俺に、お嬢は思いもしない一言をぶつけてきよった。


「ならさ、もう一個もらえばいいんじゃない?」


「……なんて?」


「いや、だからさ。もう一個同じ指輪をもらえばいいじゃん。多分頼めばくれると思うよ?」


「……なんでそう思うん? 値段をつけるとしたら一〇〇億円は下らん貴重品やで? 貰うのは絶対に不可能やし、貸与だって難しい代物やぞ?」


少なくとも、俺なら絶対に貸さん。


「えーだって。こうやって私が持ってても『返して』って言ってこないし」


「いや、そら、俺が使うって考えとるからやろ」


「んー。それだけじゃないでしょ。だって向こうは私たちの力が欲しいわけじゃん? さっきも言ったけど、盾にするにしろ矛にするにしろ、弱くて脆かったら意味ないじゃん? だから”強くなりたい”って思うことと、”弱点をなくしたい”って思うことに文句はつけないと思うんだよね」


「……なる、ほど?」


言われてみれば、そうかも知れん。

但馬ちゃんかて藤本のお嬢さんを強化するために使うやろうし、理解はしてもらえるかもしれんね。


「それにね。シータちゃんはまだしも、あの、筧さんって人にも貸してたでしょ? 初対面で、それも敵だった人に貸すくらいだからさ、結構な数を持っているんじゃないかな?」


「……ふむ」


何かしらの繋がりはありそうやったが、それでも初対面の敵に貸し出す程度には余裕があったのもまた事実。


そんなら、先の理由を告げてから『俺らに二つ貸してくれ』って頼んでみるのもアリ、か?

交渉してみて、駄目ならそれで諦めがつくし、貸してもらえたらラッキーって感じで。


もちろん、貸してもらえた場合は有償になるやろうけど、秤に乗せるのがお嬢の身の安全と俺らの未来ってんなら、多少の出費は必要経費と割り切るべきやろ。


諸々考えた結果としては。


「……まぁ、聞くだけ聞いてみるか。聞くだけならタダやしな」


そういうことになった。


「ヨシッ!」


「なんやもう『勝った!』みたいなテンションになっとるけどな。喜ぶのはまだ早いで! もう一個貸してもらえんかったら、ちゃんと返して貰うからな!」


「えー? なんもきこえませーん」


「聞けや!」


このときの俺はまだ知らなかった。

この時点で、お嬢が俺らの探索についてこようとしていたなんて。

そんなこと、まるっきり考えもしとらんかったんや。


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