17 思わぬ強敵
シクロは順調にダンジョンを進んでいた。
ダンジョンの上層を目指している以上、人面の怪物以上の強さを持つ魔物とは全く遭遇しなかった。
中には同等かと思える程度の強さを持つ魔物も存在したが、それでも同等止まり。
今のシクロが苦戦するはずもなく、足が止まることは無かった。
そうしてダンジョンに存在する階段を何度か登ったところで――妙に開けた空間に出る。
「――ん? ここは……」
『ほう、下から人間が来るとは、珍しい』
不意に声が響き、シクロは慌ててオリハルコンの剣を生成し、構える。
「っ!? 感知に反応しないッ!? どこだ!?」
『ふふふ、まあそう慌てるな。姿を見せてやろう』
常時発動しているはずの時計感知には何も引っかからない。
なのに声は聞こえる以上、何かが存在するのは間違いない。
自分の感知に引っかからない相手に、シクロは緊張する。
やがて――その声の主は、ゆっくりと姿を現した。
『我こそは――断罪の迷宮中層の守護者! エルダーレイスであるッ!!』
そう名乗りを上げたのは――半透明の透き通った肉体を持つ魔物であった。
「レイス……って、聞いたことがある。スピリット系の魔物か!」
そして魔物の名乗りで、ようやくシクロは相手の正体を掴む。
スピリット系の魔物とは、言わばゴースト、おばけのような存在である。
光は透過するので陰は無いし、血も流れておらず、食料を必要ともしない。無論、砂のような構造をしている部分など持っていない。
つまり、シクロの時計感知の対象に含まれない魔物なのだ。
「ってか、中層ってマジかよ」
シクロはぼやく。エルダーレイスの言葉を信用するなら――その名が『断罪の迷宮』と判明したこのダンジョンは、ここで中層だと言うのだ。
つまりシクロが落下した場所は深層どころか、中層を少し過ぎた辺りに過ぎないということになる。
つまりこのダンジョンには、さらに凶悪な魔物が無数に存在することも意味しており、シクロはそれに気づき身震いする。
「いや、それどころじゃない」
『そうだ。我と出会ってしまった以上、貴様はもう終わりだ。その生命、貰い受けるぞ』
エルダーレイスが宣言し、その腕をシクロの方へとかざす。
何らかの攻撃が来ると悟ったシクロは、慌てて時計生成を発動。
「くそっ!!」
『燃えつきろ!』
エルダーレイスは魔法を放った。紫色の不気味な炎が溢れ、シクロの方へと襲いかかる。
シクロは時計生成で生み出したオリハルコンの盾に身を隠す。
「ぐぅ……!!」
オリハルコンの盾越しにでも、熱さがシクロに伝わる。
だが直撃はしなかった。お陰で、盾を持っていた手が若干ヒリヒリする以外にはダメージもなく乗り切ることが出来た。
『ほう、これを耐えるとは』
「――次はこっちから行くぞ!」
シクロはオリハルコンの盾を消す。そして代わりとばかりに――巨大な光の球体を生成。
「くらえッ!!」
そして光球をエルダーレイスへと放つ。
『ぐあああっ!? なんだこれは!?』
エルダーレイスも咄嗟に回避はしたものの、回避しきれずに腕が光に飲み込まれる。
そして光によってダメージを受けたのか、腕の部分がぼやけて、今にも消滅しそうなほど煙のように揺らいでいた。
『まさか人間ごときが、我が肉体を傷つけうる魔法を扱うとは!!』
「うるせえ! そのまま滅びろッ! ――『時計生成』ッ!!」
さらにシクロは追撃する。今度は小さな光球を無数に生み出し、広範囲を一斉に攻撃するように射出。
『ぐああぁぁああッ!! 貴様ァあああッ!!』
当然、エルダーレイスは回避することなど出来なかった。次々と光球を浴びて、身体のあちこちが煙のように揺らめく。
そして光球の一斉射撃が終了すると、エルダーレイスはすっかり満身創痍の状態だった。
『ま、まさか……こんなことが……ッ』
エルダーレイスはよろよろをふらつき、そのまま倒れてしまう。
「……倒した、のか?」
シクロは倒れたエルダーレイスにむかって、剣を構えたままゆっくりと近づく。
そうして足で触れられるほどの距離に近づいた時だった。
『――掛かったな馬鹿めッ!!』
「なにっ!?」
エルダーレイスは突如起き上がり――シクロの身体にまとわり付いた。
「くそ、やめろッ!!」
『ここまでやるとは予想外だったが……貴様はこのまま呪い殺し、我が新たな肉体の依代にしてやろうッ!!』
エルダーレイスはそう言って、最後の手段に出た。
その言葉を聞いて、シクロは思い出した。レイスと呼ばれる魔物は、時に人の死体に入り込み、それを操作して暴れることもあるという話を。