18 その頃職人ギルドでは
「ぬがああああっ!! 何故だ! 何故契約解除がこんなにも相次ぐんだッ!!」
職人ギルドマスター、ロウの苛立ちの声が響く。
彼は執務室で、今日も貴族から届けられた無数の契約解除を申し出る手紙に頭を悩ませていた。
だが、それも当然のこと。
王家を相手に粗相をやらかしたことは、瞬く間に貴族の間に噂として広まっていった。
また、ここ最近の職人ギルドの仕事自体の評判も良くなかった。
それらの相乗効果で、加速度的に信用を失い、契約解除まで至ったのだ。
そして……そんな状況に陥ったロウに、さらなる追い打ちとなる出来事が訪れる。
「――おい! ギルドマスターは居るか!!」
「……む?」
ロウの執務室の外から、大声で呼ぶ声が聞こえてくる。
が、ロウは取るに足らないことだろうと決めつけて無視する。
「――失礼するぞ!」
すると、ダァン! と扉を力強く開けて、声の主である男が入室する。
さらには、男の後ろにもぞろぞろと人が並んで入ってくる。
「な、何だ貴様らは!」
ロウは入ってきた者たちの顔ぶれを見て、それが職業スキル持ちの専門職人であることに気づく。
「もう我慢ならねえから、直接文句を言いに来てやったんだよッ!」
「そうだそうだ! 俺たちの待遇を改善しろ!!」
男たちは、口々に不満をロウに向けてぶちまける。
「ええい、うるさいッ!! 何が不満だというのだ! お前達には十分な賃金を払っているだろう!!」
ロウの言い分は、火に油を注ぐようなものだった。
途端に職人たちは口々に反論をする。
「どこが十分な賃金だ! 新人に毛が生えたぐれえの賃金にしかならねぇ! 俺らベテランの専門家に払う給料じゃねぇだろあんなもんッ!!」
「それに仕事の割り振りもめちゃくちゃだ!! 素人同然の新人にあれもこれもと仕事を任せて、俺らはそのフォロー役だ! 二度手間な上に新人教育もままならねぇ!!」
そうして職人たちの不満を次々とぶつけられていく内に、ロウの方にも怒りが溜まっていく。
そして爆発、逆ギレした。
「うるさああああいッ! 貴様らがやっている仕事など、所詮他の誰かが出来る程度の仕事ばかりだろうが! 新人より給料が高いだけ有り難く思えッ! そしてお前らの代わりに仕事を任せている新人は複数の技術資格を持っている有能な新人だッ! 一種類の仕事しか出来ない無能のお前らとは違うんだよッ! 有能な新人が安い賃金で働いてくれているんだから、先輩で無能のお前らは休日返上してでもその恩を返せェッ!!」
ロウの言い分は、あまりにもめちゃくちゃだった。
到底理解し難い理屈で逆ギレされてしまい、職人たちは呆気に取られてしまう。
だが、すぐに先頭に立つ男が気を取り直す。
「……そうか。テメェの考えはよーく分かった」
「そうかそうか。だったら仕事場に戻ってキリキリと働けッ!」
ロウは命令するが、男はそれに従わない。
ロウの方へと歩みより――拳を振り上げ、思いっきり憎きロウの顔面を殴り飛ばしたのだ。
「ふべッ!?」
「誰が働くかよッ!! こんなクソギルド辞めてやるッ!!」
最後にそれだけ言い残すと、男は部屋を出ていく。
それに倣い、他の職人たちも次々と辞職を宣言して部屋を後にする。
「そんなに無能が嫌いなら、辞めてやるよ! 精々有能な新人と仲良くやってなッ!!」
「俺も辞めてやらぁ! ギルドの仲介なんざ無くても、独立して仕事を取ってくりゃあどうとでもなるからな!!」
「二度と顔も見たくねぇ!! 野垂れ死んじまえクソ野郎がッ!」
中にはただの暴言を吐いて退出する者もいた。
そうして執務室に来ていた職人たちが全員退職の意志を示して出ていった。
後に残ったのは、殴られ顔面が真っ赤に腫れ上がったロウだけであった。
「……くそがッ! ムカつく奴らだ!! くそっ! くそッ!!」
ロウは怒りに任せて、自分の机をガシガシと何度も蹴りつける。
「だが――これはむしろ都合がいいかもしれんな! 低賃金で働く新人共に、今まで以上に仕事を割り振れる。予定していたよりもかなり早くコストカットの計画が進行しているな」
この期に及んで、おめでたいことに、ロウはまだ自分が間違っていると思っていなかった。
ロウは、本気で職人たちのやっている仕事を新人たちに任せるつもりだった。
最初だけいくらか失敗したとしても、どうせそのうち仕事を覚えて出来るようになる。だったら安い賃金で働く専門家ではない新人の方が都合がいい。
これが、ロウが考えている職人ギルドの改革案の一つであった。
そうすることで専門職人が――つまり職業スキルを持った人間が結果的に立場を失い路頭に迷うことになる。
それこそが、ロウがずっと望んでやまなかったことだった。
よって現状は、実際にそう上手く行くかはともかく、計画上では順調と言えた。
「……しかし、契約解除が続いているのはマズイな。どうにかして元凶を――王宮との関係を改善せねば」
ロウは頭を抱え考え込む。
「全く、どうしてこんなことを考えねばならんのだ。たかが一度失敗しただけでごちゃごちゃと文句を言われる筋合いなど無いというのに。……それもこれも、王宮の時計修理の依頼を粗雑に行っていた無能のシクロが悪いッ!!」
考えるうちに責任転嫁が始まり、最終的にはシクロへと標的が移った。
「となれば、シクロを無理やりにでも連れ戻して、息子の代わりに謝罪に向かわせるのが筋というものか。……あの無能の無能っぷりをしっかり知ってもらえれば、王宮も我がギルドへの対応を見直さねばならなくなるはずだ」
あまりにも都合の良い考えばかりで、もしこのロウの独り言を誰かが聞いていたら、呆れてものも言えなくなるだろう。
しかも――自らが追放したシクロを呼び戻そうなどと考えだす始末。
今さら戻れと言ったところで、もう遅い。シクロは既にSSSランク冒険者として、新たな人生を歩み始めたのだから。
ロウがどのような手段を駆使したとしても、シクロが戻ってくることも、代わりに謝罪に向かうことも無いだろう。