担任から見た二人
「教育実習に来た先生は、近所の憧れのお姉さんでした。」の別視点です。
平間柊は物静かで控え目な生徒だ。
他者に余り関心がないようにも見える。
正直、級友の名前をどれくらい覚えているか怪しい。
しかし、頼られれば親身・誠実に対応し、解決力もあるので、クラスで最終兵器のような扱いを受けている。
そんな平間が、教育実習生が来て様子がおかしくなった。
実習生の一人である佐藤美咲先生を幸せそうに眺めている。
特に二人で話しているとかではない。
ある意味不気味だ。
ただ、偶に一緒にいるときは、無表情が基本な二人が共に柔らかい空気を出している。
思えば、佐藤美咲も平間と似た生徒だった。
優秀で、面倒見の良い生徒であることは間違いないが、教員向きだとは思ってなかった。
褒め言葉ではない意味で理系な生徒だ。
研究者になるのならわかる。
教育実習に来ると聞いて驚いた。
小中の教員になるというなら止めてたところだ。
しかし、高校、特に進学校なら確かにアリだと思い直した。
本人も、高校の免許しか取らないから自覚があるのだろう。
…佐藤が1年生のとき、実は私が担任だったのだが覚えているだろうか。
訊いても誰も幸せになれなそうなので訊かない。
実習期間が終わる頃、平間に相談された。
クラスで100円ずつ集めて、花束を佐藤先生にあげたいと言う。
正直、平間がクラスを主導して何かするとは思っていなかったので驚いた。
お金を全員出せって圧がかからない形ならいいよ、と言った。
後日、放課後暗くなってから、平間が大きな花束を抱えて職員室に来た。
プロポーズか?と笑って預かった。
平間は、解せぬ、という顔をしてた。
そう言いたいのはむしろこっちだ。
翌日朝、隣の担任に声を掛けた。
「先生、今日うちの平間が佐藤先生に花束渡すんですけど、そちらはどんな予定ですか」
「ああ。帰りに一言もらう予定です」
「話ししてもらって、その後花束渡すんですか?」
「はい」
「では、花束渡して、拍手が起きて、その後平間を行かせます」
平間が花束を渡すところを遠くから見届けた。…何も言わないのかよ。
実習期間が終わってからしばらく経つと、平間は明確に変わった。
勉強にとても力を入れるようになった。
鬼気迫る、と言っても良い。
聞けば、どうしても県内の大学に行きたいと言う。
平間は土木志望だから、県内だとまあ誰でも入れそうな私立の建築系か、かなり難しい国立の土木系かになる。
結構厳しいが、頑張るのは良いことだ。
その後、模試の点数をかなり上げ、十分合格圏内に達して受験した。
二次試験も、それなりに手応えあったらしい。
卒業式の後、教室を覗くと平間が一人でぼーっとしてたので訊いてみた。
「佐藤美咲先生とは会ったりしてるのか?」
「いえ、会ってません」
いつも通りに無表情な平間を見ながら少し考えて言った。
「今後、会うことってあるか?」
「はい。今日会います」
いつの間にか例の幸せそうな笑みを浮かべている。
「そうか。おめでとう、で良いんだよな?」
「はい」
生真面目な二人だから、卒業するまで会わない、とか約束したのかもしれん。
「誠実な二人だから、その誠実さで向かい合えばきっと大丈夫だとは思う。何かあったらお互いちゃんと相談するように。一人で悩んで話さずにいると、誤解ですれ違ったりするから」
「はい。ありがとうございます。美咲先生にも伝えます」
「では、元気でな」
「はい。お世話になりました」
「…すまん。前期の結果が出たら学校に連絡よろしく」
「はい」
卒業式の日ってクラスで打ち上げとかないっけ?と思ったが、余計なお世話だな、と教室を後にした。