第16撃: ―空を駆ける拳―
夜風が、緊張の気配をまといながら村に吹き込む。
その空を裂くように、翼を持った魔王軍の兵たちが迫っていた。
異形の騎兵、黒い甲冑を纏った悪魔、空中に浮遊する魔族の兵団。
その気配に、ビルたち冒険者は剣と杖を構え、表情を引き締める。
「……そろそろ来るぞ。皆、構えろ!」
緊張が張り詰めたその瞬間、不意に響いた声が場の空気を裂く。
「――気合を入れてるところ悪いが、あいつらはどうやら俺達のお客さんみたいだ」
ビルたちの背後から歩いてきたのは、一真と晶だった。
「……逃げてなかったのか」
ザックが驚き混じりに言う。
「それはお互い様ってやつだろ?」
一真はにやりと笑うと、すぐに表情を引き締め、真剣な眼差しを浮かべた。
「あいつらは俺がやる。あんたらには、俺の討ち漏らしと地上から来る敵、それと逃げ遅れた人たちの保護を頼みたい。それと――この子を、頼む」
そう言って、そっと晶の頭を撫でる。
「一真さん……」
晶は不安と信頼の入り混じった視線で彼を見つめた。
リューネが眉をひそめる。
「やるって……あなた魔法でも使えるの?杖も弓も持ってないじゃない」
一真は静かに右拳を掲げ、笑った。
「弓も魔法も、俺には無理だ。俺が使えるのは、こいつだけさ」
「拳……?」
サラがぽつりと呟く。
ザックが首を傾げる。
「こいつだけって……いやいや、空飛んでる奴ら相手に素手ってどういうつもりだよ。あんた正気か?」
「説明してる暇はない。今は信じてもらうしかないな」
そう言って一真は天を仰ぎ、空を舞う魔王軍を睨みつけた。
次の瞬間――一真の呼吸が変わった。
空気が、一瞬にして重くなる。
「……この技は、あまり使いたくなかったんだが……」
低く呟くと同時に、一真の体から、淡く光る蒼い気が立ち昇る。
仙気――常人の知覚の外側にある、神域に近い気配。
「――封神拳・天駆空歩」
重力を無視するように、一真の身体がふわりと浮かび――次の瞬間、空を踏み、空を駆け、宙を登った。
彼の足元には一瞬ごとに蒼い光の足場が生まれ、消える。
気を凝縮させ、形にし、それを踏んで歩くという神業。
「なっ……!? 歩いて……る!?」
リューネが絶句した。
「なんだ……ありゃ……」
ザックも思わず呟く。
ビルは目を見開いたまま、呟いた。
「サラ……あんな魔法、聞いたことあるか……?」
サラはかすかに首を振る。
「空を飛ぶ魔法なら……ある。だが、詠唱が長く、熟練の術者でも制御が難しい。
それに……あれは魔法じゃない。根本的に……違う」
ハンクが拳を握りしめ、ぼそりと呟く。
「たしかにどう見ても……魔法って感じじゃねぇ。
……なんなんだ、あの男……」
「スキルが無くて、追放された……って話じゃなかったの?」
リューネが戸惑い混じりに呟く。
晶は空を見上げたまま、声も出せず、ただ目を見張っていた。
一真の滅茶苦茶さには慣れたつもりだったが――
それは所詮、“つもり”でしかなかった。
一真は空中を駆けながら、ぼやいた。
「さて、と……サクッと終わらせますかね。
この技、燃費悪くてすぐ腹が減るんだよな……。悪目立ちもするし、封神拳ってのは、ホントに便利なのか不便なのか」
一真は苦笑する。
足場を刻むたびに、仙気が削れ、体力が削られていく。
しかしそれでも、彼の歩みは迷いなく、上空の敵を真っ直ぐに捉えていた。
「ま――やってみっか。相手は空飛ぶ悪魔共。
だが……俺の拳に、天も地も関係ない」
拳を握る。
気が収束し、爆ぜる音が空に響く。
……一真、戦闘態勢。
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