第27撃:《魔石と回復の真実》
ロイは慎重に天秤へと載せた魔石の重さを確認すると、引き出しからルーペのような道具を取り出し、片目に当てて覗き込む。
「……ほう……」
小さく唸るロイ。その表情が、目利きの職人特有の色を帯びる。
「おぬしら、よくこんな魔石を手に入れたもんだねぇ。……これは、グランスライムの魔石じゃないか」
「グランスライム?」一真と晶は、顔を見合わせて揃って声を上げた。
ロイはにやりと笑って、カウンターに肘をつく。
「ああ。さっき言っただろう? この世界では、ポーションが貴重だと。その理由の一端が、これさ。この魔石、ポーションの精製に使えるんだよ。とくにこの大きさと純度なら――腕の良い錬金術師か魔法使いが扱えば、ミドルポーションをそれなりの数、抽出できるだろうねぇ」
「ミドルポーションって、そんなにすごいのか?」
「おうさ。凄いとも。多くの冒険者や兵士が日常的に使うのは、ローポーションだからね。それでも十分に高価だし、そもそもねぇ……同じ種の魔物でも、まったく同じ魔石を持ってるわけじゃないんだよ」
「同じ魔物でも違う魔石……?」
「うむ。どれ、せっかくだし、少し詳しく説明してやろうかねぇ」
ロイはそう言うと、椅子に深く腰を下ろし、懐から古びた巻物を取り出すと、カウンターに広げて見せた。そこには、色分けされたポーションの瓶や魔石の図が描かれていた。
「先ほど話したとおり、この世界では治癒魔法も回復スキルも存在しない。千年前に失われちまった。だからこそ、即効性のある回復手段としてのポーションの需要が非常に高いんだ」
「緊急の回復手段がそれしかない世界。……そりゃあ価値も上がるな」一真が頷く。
晶も静かに手を挙げて口を開く。「その……同じポーションでも、効き目が違うって、本当ですか?」
ロイはにっこり笑った。
「そのとおり。作り手の腕と、魔石や素材の質で、効果はまるで変わる。名人の作ったローポーションなら、骨のヒビまで治すこともあるが、素人が作ったら捻挫すら治らん代物にもなる」
「なるほど……」
「でもな、いくら腕が良くても、ローポーションの素材からミドルポーションは作れん。素材の格が違うんだ。これは重要なポイントだよ」
一真と晶は神妙に頷いた。
ロイは巻物の図を指差しながら、言葉を続けた。
「ポーションの種類は、基本的に四つ。ローポーション、ミドルポーション、ハイポーション、そしてマスターポーション。こうして名前を並べると単純に見えるが、素材や生成過程には深い技術がいる」
「その……グランスライムの魔石からは、うまくいけばミドルポーションが作れるってわけか」
「そうだよ。希少な素材で、そもそもグランスライム自体が滅多に見られん魔物だしねぇ……ようまあ、そんなもんを倒せたもんだ」
晶がそっと一真の顔を見上げる。「あの森で、最初に倒したスライムが、そんなに凄かったなんて」
「ああ。俺達の認識のスライムより、かなり強いと思ったが、あれがグランスライムだったとはな」
「ふたりとも無事で何よりだよ。あんなモノに出くわして、命を落とす者も珍しくない」
ロイは感慨深げに頷くと、もうひとつの魔石を手に取った。
「さて……次はこっちだね。これは……おお、これも悪くない」
ルーペを覗き込む彼の目が細くなる。
「これはロックスネークの魔石だね。グランスライムほどじゃないが、これも普通の魔石よりは上物だ」
「そいつも、ポーションの材料になるのか?」
「いや、それは違う。ポーションの素材に使える魔石は、かなり限定的なんだよ。グランスライムのように“命の反応”が強く出る魔物じゃないと、回復薬には向かないんだ」
「へぇ……ってことは、これは他の用途?」
「ああ。例えば、錬金術の触媒にしたり、属性武具の強化素材に使われたりする。大地属性の武器に魔力を通すのには適しとるな。市場価格もなかなか安定してる」
晶は静かに感心したように「魔石って……本当にいろんな使い道があるんですね」と呟いた。
「ふふ。ああ、おぬしらの世界――地球だったね。そっちの言葉で言えば、この魔石……**“レアドロップ”**ってやつだね?」
そう言って、ロイは片目でウィンクを決める。
一真は思わず吹き出しながら、「さて、どこまでいい値がつくかね」そう呟き、にやりと笑った。
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