第81撃:湖の主と、残る想い
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「キュ? キュー……」
腕の中から小さな鳴き声が聞こえ、一真の意識はふっと浮上した。湖の主が目を覚ましたのだ。どうやら一真が過去に思いを巡らせている間に、すでに目を覚ましていたらしい。
「お? 起きたか。すまんな、少し考え事をしていた」
声をかけると、主は元気よく「キュッ!」と鳴いた。脅威が去ったことで、すっかり安心したようだった。拠点で眠る三人にも異常はない。過去の記憶に沈みながらも、一真は彼女たちの安否確認を怠ってはいなかった。
(今戦った黒い霞……あの時の青年と同じだったな。久しぶりで思い出すのに時間がかかったが……。攻撃力は先程のゴブリンを呑み込んだ霞の方が上だった。だが、そこから感じる異質な気配は――間違いなく、悪神の眷属と同質のもの……)
(青年に巣食っていた瘴気よりも、今のゴブリンの瘴気の方が濃く、禍々しい……。どういうことだ? 地球の悪神の瘴気と同じものを、このエルフェリアで感じるとは……。いや、逆か? この世界の瘴気を、地球の悪神やその眷属が纏っていたのか……?)
再び思考の渦に引き込まれそうになったところで、主が鳴いた。
「キュ、キュ!」
その声に意識を現実へと引き戻され、一真は小さく息を吐く。
「っと……いかんな。今ここで考えても埒が明かん。地球から勇者を召喚してる以上、何らかの繋がりはあるんだろう」
そう結論づけると、腕の中の主へ視線を落とした。
「とりあえず、もう大丈夫そうだ。さぁ、湖に帰れ」
一真は主を湖の近くへと降ろした。しかし主はその場から動こうとせず、一真の顔を見上げる。
「キュウ……キュウゥゥ……」
その鳴き声は、どこか寂しげだった。
「どうした? 嫌な気配はもうないぞ。陸にいたら、他のモンスターに襲われる危険がある。帰ったほうが安全だ」
そう言っても、主はしょんぼりした様子で湖へ戻ろうとしない。
一真は再びしゃがみ込み、問いかけた。
「……寂しいのか?」
その言葉に主は悲しそうに鳴き、小さく頷いた。
「キュウ……」
「……そう言えば、お前。家族はいないのか?」
「……キュウ……」
「一人なのか」
「……キュ……」
消え入りそうに鳴き、頷く主の姿は、今にも泣き出しそうに見えた。その様子に、一真の胸に罪悪感のようなものが芽生える。
「むぅ……参ったな。そろそろ、あいつらのところに戻ってやりたいんだが……」
主は潤んだ瞳で、一真を見上げて鳴いた。
「キュ……キュウゥゥ……」
一真は深く息を吐き、優しく撫でてやりながら言った。
「ふぅ……分かった。明日、人を三人連れてまた来る。それまで湖で休んでいろ。いいな?」
だが主は、不安げに首をかしげて鳴いた。
「キュ? キュウ……」
「……ああ、その三人が怖いのか?」
「……キュ……」
苦笑しながら、一真は宥めるように撫でる。
「ははっ、心配するな。大丈夫だ。あの三人はお前を傷つけたりしない」
ふと湖に来た目的を思い出し、尋ねる。
「そうだ、その三人にこの湖で水浴びをさせたいんだが……大丈夫か?」
すると主は、得意げに胸を張るようにして鳴いた。
「キュ!」
その仕草に一真は思わず吹き出した。
「っぷ……ははっ、そうか。じゃあ明日またみんなで来る。それまで大人しく待ってるんだぞ」
最後に頭を優しく撫でてやると、一真は踵を返し、拠点へと歩き出した。背後から寂しげな気配が向けられたが、やがてそれは湖へと潜っていった。
(不思議なやつだな。だが……どこか放っておけない。晶と同じように、守らねばと思わせる……)
そう胸に刻み、一真は封神拳で身体を強化し、眠る三人がいる拠点へと素早く戻った。大木の洞を覗くと、三人は安らかに眠っている。異常は見当たらない。
「よし、大丈夫だな。夜明けまでは時間も少ないし……俺も少し寝るか」
そう呟きながら、拠点へと置きっぱなしだった私物のボンサックを枕に地面へ横たわる。
(……さっきは随分懐かしい記憶を思い出したな。……姫咲さん、元気にしてるか……)
一真が中国へ武者修行へ旅立った時、姫咲はヨーロッパへ悪神の処理に向かった。悪神は倒しても新たに生まれる。だから姫咲は常に世界を駆け巡らねばならない存在だった。十数年の修行の間も、度々家を空けていた。
(最後に別れたとき……姫咲さん、寂しそうだったな。もう一度会いたいもんだが……)
そこで思考を止め、封神拳で意識を調整し、自らを眠りへと誘った。
(おやすみ、三人とも。……おやすみ、姫咲さん。……にしても、腹減ったな……)
周囲への警戒を続けながら、一真は浅い眠りへと落ちていった。
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