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ヴィクトリア・ウィナー・オーストウェン王妃は世界で一番偉そうである - 世界一偉そうな王妃は雪の魔国に春を呼ぶ (四)
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世界一偉そうな王妃は雪の魔国に春を呼ぶ (四)

その頃、サンティア王国錬金塔は魔国とは別の意味で火の車になっていた。

錬金塔、サンティア王国の魔科学の中枢である。そこに朝早くに踏み込んできた王妃様に、「豪雪地帯でも走れる、魔法の装甲付きの馬車を用意してほしい」と頼まれたのである。


しかも大至急、なるべく早くに。

超ブラック任務である。しかし王を助けにいくためだと言われたら断ることなど思いつこうはずもない。


というわけで、錬金塔の人間皆がほぼ不眠不休、徹夜でことに当たっていた。

魔術装甲はノウハウがあるので楽勝だが、ろくに大雪が降らないサンティア王国の錬金塔で豪雪地帯を走る馬車を用意できるかと言われると非常に難しかったのである。


「車輪にくっつける火の術式の構築終わりましたか!?」

「もうちょいです!でも魔力が尽きそうです!あとこれだけで雪溶ける気がしません!」

「王妃様の親衛隊も含めた術士を呼んで魔力の供給を……」

「もうやってますし呼んでます……!」

「日の術の方はどうです?溶けた水が一瞬で凍って、後続の馬車が続けない問題をなんとか……できれば蒸発させるぐらい強い術式を車輪に……」

「やってるっつうの!そんな急ピッチで組み上がるかこんなの!」

「おい暴言禁止だっつってんだろうがこのクソハゲタコ、減給!」


ブーメラン理不尽。


しかし、段々と錬金塔の研究者たちの魔力は尽きつつあった。限界が近いのだ。いくら魔法使いであっても、いくら魔力が高い国随一の人間が揃っていたって、辛いものは辛い。眠い時は眠い。王族からの勅命を物理的に無視できない悲しき民の性。


「塔長……俺眠いです……」

「寝るな、死ぬぞ!!」

「傷が深いんでしっかりできません……」


自己申告。

別の研究員も、ふらふらと床に座り込んだ。


「塔長、魔力使いすぎたんで……寝ていいすか……?」

「だめだ、こうしている間にも王がどうなっているか分からんのだぞ!」

「陛下が……」


研究者たちの間にざわっとざわめきが広がる。


そうだよな。


あの陛下が。あのお馬鹿でちょっと人間的に弱いけど結構民のことを見てくれる陛下が。

俺たちが頑張らないと死ぬかもしれないんだよな。

俺たちが頑張ることで救われるかもしれないんだよな。


「王妃様も頭を下げて我々に頼んでいらっしゃったのだぞ!我々の努力で、陛下が救い出せるかもしれんのだぞ!?そうしたら給料もあがるかもしれん」


物欲。

いやでも、五千兆ゴルドほしい。

そういった気持ちが、塔の中をじわりと包んだ。

連帯感。


「……そうですよね、塔長。やりましょう、まだ俺、やれます!」

「日の術式と炎の術式だけじゃ溶けた水で一瞬で地面が凍るって欠陥も、気合いでなんとかしてみせます!」

「もう三日ぐらい物食ってないけど行けます!」

「給料十倍になるならいけます!」

「陛下と、頭を下げてくださった王妃様のためなら俺たち、頑張れます!」


十倍にはならないかもしれない。


「錬金塔、ファイトー!」

「おお!!!!」


おお、と声が塔を揺さぶった。


その彼らの努力の結果、一時間後には馬車は完成ーーしなかった。


一時間後。

錬金塔の床に、魔力を搾り尽くした上に腹が減りすぎて気絶した研究員の死体もどきが転がりまくっただけであった。

やっぱ根性論だけじゃ無理だよね。





ああ、やっぱりだめなんだ……という薄らとした倦怠と、絶望が塔を包んだ。

頑張っても無理だ。

どれだけ頑張ったって、間に合いっこない。コストも足りないし、時間も足りないし、締め切りはなるべく短くって依頼人が言うし、何の支援もしてくれないし………


まさしく、絶望。


その二文字が静かに錬金塔に降り注いで、皆の士気をじわじわと下げつつあった。

というか、もう士気とか残っていないし、魔力も搾り尽くして、お腹も減って、なんというか、もうだめだった。

いろいろと、無理………




ーーその時だった。




死屍累々の錬金塔の扉を、誰かが蹴り開けた。


ふわり、と甘い匂いが鼻をつく。

葡萄の香りだ。


「なんだ……?」


魔力をしぼり尽くして死体になりかけていた一人がかすれた声を上げた。


「間に合ったかしら!ほら飲んで、みんな飲んで!」


それぞれの手に小瓶が渡される。ラベルには『カタリア地方産・特濃マギア・プルーン・ドリンク〜これ、マリア・カタリアが一つ一つ手作業で作りました〜』の文字。

飲んだ瞬間、塔長は体に力が漲るのを感じた。

力というか、……魔力だ。

魔力を直に流し込まれるようだ。高濃度の魔法にちょっとくらくらするぐらい、そのドリンクは力があった。具体的に言うと、翼生えそう。空も飛べそう。


「お、お嬢さん……これは……?」


錬金塔の開かれた扉、背後には太陽の光、逆光を背負った御令嬢ーーマリア・カタリア嬢はぱっと笑った。


「お姉さまからの緊急要請で飛んできましたの!」


彼女はドリンクが入っていた箱を机に置く。そこに入っていたカタリア家の家紋は、最近王都でよく出回っているワインのものと同一だ。

貧乏で没落しかけていたカタリアの家を助けた王妃が、ある程度優先的にカタリア家のワインを贔屓にした結果、その美味しさが知られて王都に出回るようになったもの。


「お姉さまのおかげで没落を回避できて、新しい商品も開発できたんですもの!ここで使わない手があって?魔力を込めた葡萄のジュースよ、うちの新製品!十倍濃縮して持ってきたのよ!さあ、無料でいいわ、どんどん飲んでくださいな」

「金の見返りを求めないなんてマリアらしくないよな〜」


後ろからついてきたミカエルが笑って、直後にマリアに足を踏まれた。


「いっって!!!」

「恩義を感じたら普通に動くわよ普通に!まあ、ほら、その、お姉さまに恩を売っておいたら後々のカタリア家のためでしょ?」

「照れ隠し下手くそじゃない?」

「うるさいわよ!」


血縁同士の言い合いを尻目に、ドリンクを飲んだ研究員から、少しずつ力が戻っていく。

だがまだ、体は不調を訴えてくる。栄養素を何も摂っていないのだから、当たり前だ。


その直後に、カタリア嬢を押し除けてどやどやと沢山の男たちが木箱を運び込んできた。

ふわり、となんか匂いがした。


「おい、錬金塔の兄ちゃんたち、これ食いな!」


木箱の中身は、サンドイッチの詰まったバスケットであった。こんがりときつね色に焼けているパン。いい匂いだ。

復活した研究員の一人がバスケットの中身を取り出して、かじる。

やわらかいパン部分。小麦の味が生きている。ぱりっとしたレタスに挟まれた瑞々しいトマト、なんだかよくわからないけどすごい新鮮な野菜類の数々。


素材の味が生きている、素材の味が爆発している。


いっそ口の中でちょっと動いてるような気もする。


「な、なんだこれは……!?美味い……!!美味すぎる……!!!!口が中から野菜のシャキシャキに支配されていく……!!!!!」


塔長、思わずグルメ系の登場人物みたいなリアクションをしてしまった。


「さるお方からの差し入れよ!具体的には農家出身の……おっとこれ以上はいけねえ、あのお方に農地送りにされちまう」


のうかの ちからって すげー!

公式愛妾デル……いや、さる高貴な農家からの差し入れで、研究員たちは一気に元気になった。魔力も戻った、食事もした。疲労はあるけれど、まだいけるかもしれない、まだ戦えるかもしれない。


そこへ、一匹の悪魔猫が走り込んできた。口にくわえた羊皮紙。

それをぽとりと落として、ぶにゃああああと鳴く。相変わらず声でっかいな。


訝しげにした研究員がそれを取って、くるくると開く。そこにはーー……掃除のための術式を応用した、車輪につけるための術の構築方法が書かれていた。


「……これって……」

「ブランダン様じゃないか……!?」

「えっ、ブランダン様!?今は獄中掃除作家の!?」


そういう認識かあ。


「車輪に清掃系の魔法は思いつかなかったな!?」

「車輪に、炎と日と掃除系の魔術を組み合わせでかけたらいけそうじゃないか……!?」

「この組み合わせ正直変態だけどいけるんじゃないか」

「揚げ物の上からくそ甘ジュースをかけるゲロみたいな取り合わせだけど行けそう」

「俺の術式信念にはちょっと反する組み合わせだけど多分いける!いけるぞ!!!!」


悪口がすごい。

まあ普通車輪で掃除しようとか思わんしな。




その時、ーー光が人の形を取る。




研究員が、その場にいた農夫たちが、カタリア家の二人が、みんなしてそちらを見た。


黄金色の王妃が。恐らく、不眠不休の錬金塔の人々のためにあちこちの人脈に声をかけたであろう、未だ若い王妃が。そこに立っていた。


「ーーお、王妃様……!」

「錬金塔に集う誉高き研究者たちよ」


彼女の声はよく通った。王がいないというのに、凛として、真っ直ぐで、強くて。

乱れを一切伺わせぬ声であった。


「そして、我の声かけで動いてくれた、愛しき隣人たちよ。心より感謝を示そう、誠意を示そう」


王妃は深々と礼をした。略式ではない、正式な貴族の礼だった。

舞踏会でするようなちょっとしたものではなく。自分の尊敬する者へ向けた、正式な礼の形。


「ーー…我は。魔力がない。なので、そなたらのように術式を自ら編むことはできぬ。我は、酒の醸造ができぬ。魔力を凝縮した葡萄を生産する術に長けているわけではない。我は農家ではなく、滋養のある食べ物を直に用意できるわけでもない。ーー我は王妃だ。我にできることは限りがある。だが!!!!」


声は塔の中に響いた。全員が水を打ったような静寂を保った。

黄金の調べが、塔の中に響き渡る、輝く。先ほどまで絶望が薄らと支配し、停滞していた世界を押し流していく。


「ーー助けを借り、それを必要とする者の所へ適切に届けることは、できる。魔力は編めずとも、知識があるものへ連絡を取り、心よりの誠意と褒賞を用意して人を動かすことはできる。

そしてーー……作られた、完成した馬車で、王を迎えにいく時。兵を、民を守るための盾となり剣となり、駆け抜けることもできよう!!!!」


王妃は唇の端を微かにあげた。


「我は我にできる精一杯でそなたたちに報いたい。王を取り戻した暁には、もっとよき治世を、平和を捧げると約束しよう」


そして彼女はふわりと黄金の、蜂蜜色の髪を翻す。外から入ってきた日差しが彼女を金色に縁取り、輝かせる。


「そして給料も上げよう!!!!!後の褒美を期待して待つがよい!!!!!」


きゃーっと歓声が上がった。錬金塔、結構おじさんばっかだったのに。

この王妃、カリスマだけで押し切らずちゃんと物理的にご褒美を用意してくれるので推せる、と塔長は思った。


五千兆円はちょっと無理らしいけど。

でも、頑張ったら給料がアップするよと事前に言われたら、もっともっと頑張るしかないじゃないか。物理的に向けられた、彼女のその期待に報いるために。




数日後、王妃を乗せた黄金の馬車と、それに続く馬車たちが魔国へ向けて出発した。それぞれの馬車には強力な呪文が載せられており、攻撃されたら即座に反撃できる仕組みである。

そして一番の難所の豪雪対策もばっちりだ。全ての車輪に掃除と太陽と炎の魔術を搭載し、雪を溶かし蒸発させて進む。


王妃を乗せた黄金の馬車の一軍は、白み始めた朝日の中、魔国の国境線を蹄の音と共に超えていく。

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― 新着の感想 ―
[良い点] お給料上げるの大事ー!! ちゃんと昇給させないと意欲続かないもんね…! 掃除する馬車、需要あるのでは。 [一言] 農家のあの人最高。 そしてまさかの再登場すごい…確かにワイン機能性飲料の可…
[一言] まさか王様がのんびり接待?されてるとは知らんもんねー。(笑) 続きが楽しみでなりませんな!
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