10、ロバタージュ 〜モヒート風味のポーション
猫耳の少女は、何か言いたげに、僕の手元をジッと見ている。ちょっとソワソワしているようだ。
僕は、リュックの中を覗いてみた。あれ? さっき、リュックくんと話す前には、いろいろな色の小瓶がたくさん入っていたのに、いまは、ほんの数本だけだ。
チラッと少女の方を見ると、やはり中身が気になっているみたいだ。ポーションが欲しいのだろうか。
(無言だ……図星かな?)
僕は、中に入っているポーションを取り出した。
『 P ー I 』というラベルの物ばかりだ。ポーションに触れていると古い記憶がよみがえってくる。あぁ、これは、僕が初めて作ったポーションだ。
ラベルに触れると、説明書きが表示される。
【ポーション、体力を10%または100回復する。(注)回復は、いずれか量の多い方が適用される】
なんだか、懐かしい。これは、モヒートというカクテル風味なんだよな。炭酸もアルコールも入ってないけど、ミントの香りが爽やかなんだ。
「あっ、定番のモヒート味だ」
「レンフォードさん、しってるんだね」
「うん、これは、常に持っているよ。俺、魔族の血が濃いから、10%回復って、すごく助かるんだ」
(えっ……魔族?)
普通の人間じゃないとは思ってたけど、魔族かぁ。血が濃いってことは、人間とのハーフなのだろうか? 100年前から生きているのに40代に見えるってことは、寿命が長いんだな。
猫耳の少女は、彼が僕と親しいと言っていた。早く彼のことを思い出したい。
「他のラベルの物は、ないのか?」
猫耳の少女が、リュックの中を覗いている。だけど、空っぽなんだよね。リュックくんが隠してしまったのかな。
「まぁ、まだ、順番が来ておらぬか」
少女は、めちゃくちゃしょんぼりしている。欲しい種類があるらしい。うーん、なんだろう? 思い出せない。
「冒険者ギルドに登録して、さっさと次に行くのじゃ!」
(僕が、冒険者ギルドに登録?)
某ゲームでは、全部のミッションを受けて、ランク上げを頑張ったっけ。それが、この世界には、普通に存在するらしい。だけど、それは大人の話だよな。
「この国でも、誰でも登録できるようになったのじゃ」
(この国、でも?)
国によって、ルールが異なるのかな。
「それなら、俺が付き添いをしますよ。ここでは、ティアちゃんは知られていないから、獣人の子供と幼児だと、いろいろと大変ですから」
(赤ん坊から幼児に格上げされた!)
「ふむ、それは助かるのじゃ。妾も一緒に行くのじゃ」
「えっ? 城に戻らなくて大丈夫ですか? あんな大規模な魔法を撃ったばかりだから、消耗が半端ないですよね」
(星の再生回復魔法だっけ)
「大丈夫じゃ。魔力は、1%くらいは残しておる」
「俺なら、その状況は、魔力切れで動けませんよ」
「妾も、のんびりと回復するつもりじゃったのに……チビすぎるライトのせいじゃ!」
(これは、反論できない)
レンフォードさんは、私服に着替え、僕の登録に付き添ってくれることになった。はちゃめちゃな猫耳の少女では不安なんだろうな。獣人は差別されているみたいだし。
でも女神様は、なぜ獣人のふりをしているのだろう? それにティアちゃんと、ちゃん呼びされているのも不思議だ。
「ギルドに着きましたよ。ライトの登録は、残っているはずですけど」
「アレはアレじゃ。おそらく、かなりステイタスが異なるのじゃ」
(アレはアレって意味不明だよね)
レンフォードさんは、頷いている。僕だけがわかっていないのか。
「同じ人が、複数のカードを持つのは珍しくないですからね。低ランクじゃなきゃ、受注できないミッションもありますし」
(複数のカードを持てるってことか)
「ライトの場合は、別人に見えるじゃろな」
「こんなに小さな子ですからね」
「いや、まぁ、ステイタスを測ればわかるのじゃ。人族の街で測ると、実際とは少し違う数値が出るだろうがの」
(うん? なぜ違う数値?)
少女は、知らんぷりをしている。まだ、僕が知ってはいけないことなのか。でも、レンフォードさんも、そんなに神経質にならなくても大丈夫って言ってたのにな。
こんなに、はちゃめちゃだけど、実は女神様って、真面目すぎるんじゃないだろうか。
(あっ、ジト目だ……)
「次の方、どうぞ。あら、レン様」
(レン様?)
いつの間にか僕達は、列に並んでいたらしい。カウンターの気だるそうな雰囲気の女性は、レンフォードさんに気づくと、目を輝かせた。
「こんにちは。今日は、彼の登録に来ました」
「えっ? まさか、レン様の息子さん?」
「いえ、彼は、俺の友達ですよ」
レンフォードさんがそう言うと、カウンターの女性は、笑みを浮かべた。安心したのかな。
「そうですか、可愛らしいお友達ですね。書類への記入は、代筆されますか?」
「そのための付き添いですからね」
レンフォードさんが書類を書いている間、カウンターの女性は、猫耳の少女と僕をジロジロと見比べていた。なんだか、嫌な視線だ。
「えーっと、じゃあ、ライトくん。これを持って、あちらへ行けるかなー?」
「はい」
僕は、書類を受け取り、指示された方へと移動した。もう、普通に歩ける。だけど猫耳の少女は、僕の手を引いてくれるんだよね。
(やはり、世話好きだな)
「次の方〜。うん? 小さな子だな。まぁ、いいか。坊や、荷物を床におろして、その円の中心に立っていられるかい?」
「はい」
指定された場所に立つと、ピカピカと光を当てられた。ステイタスを測定したんだよな。
「坊やのカードが出来上がるまで、外出してもらってもいいですよ。レン様が戻られるまで、私が責任を持って預かっておきますわ」
「新規の手続きは、混んでませんよね?」
「ええ、最近は新規の手続きは、ほとんどがハロイ島に行きますからね」
カウンターに戻ると、女性がレンフォードさんに熱い視線を向けて、そんな話をしていた。でも、彼は適当に流しているみたいだな。
「じゃあ、上の階でミッションを見てくるよ。カードができた頃に、取りに来ますね」
レンフォードさんは、僕達を連れて、二階への階段を上がっていった。僕は、階段はまだイマイチだな。足が短いんだ。猫耳の少女は、そんな僕の手を引いてくれる。
「ティアちゃんは、いつも、小さな子には優しいですよね」
(へぇ、そうなんだ)
「うむ、チビの世話をするのが、妾の仕事じゃからな」
「ええっ? あはは、よく、本業をサボっていると言われてますけど」
「妾の本業は、子供達を笑顔にすることじゃ」
「そうですか。素晴らしいお仕事です。ただ……」
「レンフォードが誰に何を吹き込まれたか、だいたい想像はつくが、脳筋と付き合ってると脳筋になるのじゃ」
(意味不明な理屈だよな)
だけど、こうやって話を横で聞いていると面白い。変わった女神様だよな。威厳がないというか……上から目線だけど、なんだか道化を演じているようにも見える。
(あっ、また、ジト目だ……)
二階には、広い壁一面にびっしりと、紙が貼ってあった。これすべてが依頼書なんだろうか?
目立つ場所には、『女神様の落とし物』というコーナーもある。人気が高いらしい。次々と、紙が壁からはがされていく。
ギルドに出されている『女神様の落とし物』は、僕がおぎゃーと泣いていた頃に、空に映し出されていた件だろうか。冒険者ギルドに、女神様の名前で依頼を出すと言っていたよな。
チラッと猫耳の少女の顔を見ると、しらじらしく知らんぷりだ。否定しないということは、正解なのかな。
「レンフォード、何を探しておるのじゃ?」
彼は、壁に貼ってある紙を熱心に見ている。
「この後は、ハデナに行くんですよね? 俺も、何か受注して行こうかなと思いまして。人気の落とし物ミッション以外で探しているんですけど」
「その前に、城に行くのじゃ。ハデナは、その後じゃ」
「じゃあ、明日以降になりますね。よかった。それなら、ありそうです」
「ふむ、ライトとはハデナで初めて会ったと言っておったから、それを再現してくれるのじゃな。レンフォードは、良いやつなのじゃ」
(褒めた!?)
「あはは、思い出してもらいたいですからね〜。まぁ、カースさんの術なら、大丈夫だと思いますけど」
(カースさんって、信頼がすごい)
リュックくんも、信頼しているみたいだったもんな。こんな記憶のカケラを作り出すなんて、すっごい魔法使いなんだろうな。
「カースは、魔法使いではないのじゃ。リュックと、何を話したのじゃ?」
(あっ、しまった)
「えっと、きおくのカケラのこと」
そう答えたのに、猫耳の少女はジト目だ。でも、嘘はついていない。頭の中を常に覗かれているのを忘れてた。
「隠し事をしておるな? チッ、まぁよい」
(全然、良さそうじゃないけど)
「ライト、そろそろ、冒険者カードができる頃だ。一階へ移動するよ」
レンフォードさんは、数枚の紙を手に持ち、少年のような笑みを浮かべた。目当てのミッションが見つかったのかな。