16、ハデナ火山 〜ワープワームという魔物
「これくらいなら、魔法袋に入るじゃろ」
女神様がベッドに置いた1,000回復の魔ポーションを、僕は、レンフォードさんからもらった魔法袋に入れた。
「ポーションも入れておくのじゃ。ミッション中に、いちいちリュックから取り出している暇はないからの」
そう言われて、僕はリュックの中に入っていたモヒート風味のポーションも、魔法袋に移した。
(あれ? 全部入らない)
「ふむ、もう、満タンか。10キロの魔法袋は、使えないのじゃ。ライトがチビのうちは、それで良いがの」
確かに、使ってみると容量が少ない。でも、僕には十分かな。魔法袋は、盗まれる危険があるんだもんな。
僕は、猫耳の少女に連れられて、テントの外に出た。外の血の臭いは、ほとんど消えているみたいだ。
(うわっ……)
そこには、ナタリーさんと、ジャックさんがいた。
ジャックさんに関する記憶が少し戻ったことで、ナタリーさんのことも、少しわかるようになってきた。
彼の呪詛の摘出をしたときに、ナタリーさんがサポートをしてくれたんだ。それに、僕が上手く基本魔法が使えなかった時、マナの流れを整えてくれた。
「ライトくん、いつの間に虹色ガス灯広場に戻っていたの〜? お姉さん、びっくりしちゃったわよぉ」
「子供達と、かくれんぼしていたんじゃなかったんすね」
(なんだか、違和感だな)
ジャックさんは、気づかないかもしれないけど、ナタリーさんは、種族的には魔族の悪魔族だ。きっと、僕が店から、さっさと出て行ったことに気づいているはずだ。
事を荒げないように、気づかないフリをしているのかな。だけど、僕は、勝手にみんなの好意にイラついて、食い逃げしたのに……。
(ダメだ、またイライラしてきた)
「ライトは、反抗期じゃな。言っておくが、あの店のオーナーはライトじゃ。だから、食い逃げにはならないのじゃ」
(僕がオーナー?)
猫耳の少女は、僕の頭の中をまた覗いていたんだ。じゃあ、なぜ、僕をとがめないんだよ? 僕は、勝手にイラついて、みんなの好意を無視したのに。
「うふふっ、ライトくんが反抗期だなんて、貴重だわぁ。かわいい〜」
ナタリーさんは、ニコニコしている。彼女にも、見抜かれているのかな。いや、ナタリーさんは、覗き見なんてしない人だったはず。
「待ち合わせの人って、レンさんっすか?」
ジャックさんが、誰かを見つけたみたいだ。視線を追うと、こちらに近寄ってくるレンフォードさんの姿が見えた。
「そうじゃ。レンフォードと、三人で受注したのじゃ。ジャックも、受注してくるか?」
「冒険者ランクは、もういいっす。でも、俺ひとりで、三人の護衛はキツイっすよ〜」
(護衛? ジャックさんも同行するのかな)
「妾には、護衛など要らぬのじゃ! ジャックは、ライトの子守じゃ。ミッションは、妾とレンフォードで、ちょちょいなのじゃ」
レンフォードさんが、ぺこりと頭を下げ、苦笑いしている。女神様は、猫耳の少女の姿をしているときは、めちゃくちゃなんだよな。
空から、赤い何かが降ってきた。
(ハラハラと舞い散る雪?)
「えっ? 天使ちゃんを使うんすか?」
ジャックさんが驚いている。天使ちゃんって、何? あっ、さっきのカフェの名前かな。
「ライトの転移酔いが、パワーアップしておるのじゃ。転移魔法でハデナに行ったら、また、二日も眠ってしまうのじゃ」
赤い雪のようなものは、近くで見ると、赤黒いふわふわした何かの上に、テニスのゴムボールみたいな顔が乗っている生き物だった。
ふわふわと空中を漂っている。ゴムボールみたいな顔が、ヘラヘラと笑ってるんだよな。
(気持ち悪い……生首みたいだ)
僕がそう感じると、その生き物は、一斉に悲しそうな顔をした。僕の考えがわかるのか。めちゃくちゃ不気味じゃないか。
「ライト、足元に集まっておる天使ちゃんに乗るのじゃ」
猫耳の少女にそう言われて足元を見ると、生首が大量に集まってクッションのようになっていた。
(生首が密集してる……気持ち悪い……)
レンフォードさんやジャックさんの足元にも同じものがある。彼らは、生首クッションを踏んでいる!
「はよ、乗るのじゃ! ナタリー、ライトを強制的に乗せるのじゃ」
「うふっ、ライトくん、ちょっと失礼〜」
僕は、ナタリーさんに抱き上げられ、一瞬、キュッと抱きしめられた。ちょ、めちゃくちゃ柔らかなものが当たるんですけど!?
僕は、ナタリーさんに、生首クッションに乗せられた。
(うぎゃ〜……あれ?)
次の瞬間、目に映る景色が変わっていた。
◇◇◇
「えっ? なに?」
僕は、草原に座っている。一瞬、イーシアかと思ったけど違う。かなり暑いな。
「ライトさん、詳しい話はできないっすけど、さっきのは、ワープワームという魔物っす。乗ると、一瞬でワープできるんすよ」
「てんいまほうではないんですか?」
「転移は、長距離移動に使うっす。ワープは、近距離っすけど、さっきのワープワームは、かなりの長距離移動ができるんすよ」
「へぇ、すごいですね。なまくびみたいで、きもちわるいけど」
「あはは、ライトは、やっぱり、生首って言うんだな」
レンフォードさんが笑ってる。ジャックさんも、笑いつつ、少しハラハラしているみたいだ。猫耳の少女のジト目を気にしているのかな。
そういえば、カフェのオバサンが、天使ちゃんのことは、必ず記憶のカケラに封じてあると言っていたっけ。
いまのワープワームが、天使ちゃんか。天使というより、オバケなんだけど。
「ジャックは、ライトの子守じゃ。レンフォードは、妾とミッションじゃぞ」
猫耳の少女は、レンフォードさんを連れて、水辺の方へと走り去った。僕もミッションを受注したのにな。
(足手まといなのか)
「ライトさん、カフェで会ったときより、なんだか髪が伸びました?」
「ええっと?」
僕は、髪を触ってみたけど、よくわからない。
「気のせいかな? 少し顔が変わった気がしたっす」
(イライラしていたから? あっ……)
「ひろばで、ジャックさんのことを、おもいだしたからかもです。てきしゅつしゅじゅつをした……」
「あー、思い出してくれたんっすね。ライトさんは、俺の命の恩人っす。あの呪詛がそのままなら、今頃きっと生きていられないっす」
ジャックさんの表情が、がらりと変わった。それまでは、距離を感じていたけど、とても親しみやすそうな笑顔だ。
そっか、僕との関わり方に戸惑っていたんだろうな。
「あのとき、せいまほうをつかったみたいだけど、そこのきおくは、まだわからないんです」
「闇の反射っすね。ライトさんは、闇属性だから使える、強力な聖魔法っす。精霊魔法に似てるっす」
僕は、ほうほうと頷いておいた。そんなことを説明されても全くわからないんだけど。
「あの、ぼくはミッションをやらなくていいのでしょうか? あしでまといなのかな」
「このハデナ火山の通常ミッションを選んだのは、レンさんっすか?」
「はい、ティアさまが、そこに、らんにゅうしたかんじです」
するとジャックさんは、少し考えるような素振りを見せた。
「この話を今のライトさんにしていいかは、わからないっすけど……今のことだから大丈夫か」
(独り言?)
「いま、ハデナ火山は、マズイんすよ。一般には知らせてないんすけど……他の星からの残党が潜む場所として、ハデナに誘導してるんす。だから、ティア様が乱入したんだと思うっす」
「えっ? せんそうの?」
ジャックさんは、頷いた。
「星に残った奴らが隠れる場所っす。ハデナは、いま、精霊も守護獣も、留守にしてるんす。ふもとにある迷宮は、もともと外から来た奴らの隠れ場所だったから、ハデナ火山全体の守りを手薄にしているんす」
「わざと、ここにあつめているんですね」
「ハデナに集めることで、他の街が安全になるっす。ただ、外来の魔物のエサが多いので、かなりマズイことになってるっす。タイガさんが、毎日、数を減らしに来ているんすけど」
(タイガさんって、脳筋扱いされてた人だ)
「まだ、タイガさんにはあってないです。カフェにいたひとが、むすめさんなんですよね」
「ミサさんは、タイガさんの娘さんっす。彼女の旦那さんが、もう一つの大陸の守護獣なんすよ」
「シャルなんとかですか?」
「シャルロッテは、旦那さんの娘っす。旦那さんは、精霊ルー様に仕えるマーシュさんっす。めちゃくちゃ強い虎なんす」
(カフェで聞いたかも)
「しゅごじゅうって、トラなんですか?」
「こっちの大陸は、狼っす。もう一つの大陸は、虎なんす。虎と狼は、仲が悪いから、大変っす」
ジャックさんは、疲れたような表情を浮かべている。
(うん? ハデナがヤバイなら……)
「あの、ティアさまとレンフォードさんを、ほうっておいていいんですか?」
「大丈夫っす。水辺に出る外来の魔物は、魔法に弱いっす」
突然、焦った表情の猫耳の少女が、目の前に現れた。
「マズイのじゃ! 逃げるのじゃ!」